http://www.asyura2.com/15/kokusai11/msg/424.html
Tweet |
※ 関連投稿
「難民が揺さぶる欧州 問われるドイツの対応:高学歴者・中流家庭・才覚者などの大量流出は中東諸国をも破壊」
http://www.asyura2.com/15/kokusai11/msg/368.html
=======================================================================================================================================
難民クライシス 揺らぐ価値観
(上)ドイツの理想、共鳴少なく
中東やアフリカから大勢の難民が欧州に押し寄せ、危機的な状況を招いている。難民をどこまで受け入れるかをめぐって世論は真っ二つに割れた。人道主義や多様性の尊重といった欧州の根底にあるはずの価値観が揺さぶられている。
「人道的な立場から決めた。(難民受け入れを国民に)謝罪しなければならないような国は、私の祖国とはいえない」。ドイツのメルケル首相は15日の記者会見でいつになくはっきりと語った。
多様性への挑戦
ドイツは今年だけで100万人の難民申請を見込む。手厚い支援策を目当てに大勢が押し寄せ、手に負えなくなっているとの指摘もあるが、首相の覚悟は固い。
欧州でドイツが突出して多くの難民を受け入れるひとつの理由は、国民や政治家が自国の歴史をそこに重ねているからだ。
第2次大戦後は東欧各地のドイツ系住民が追放され、西独地域に1300万人が逃げ込んだ。冷戦時代は鉄のカーテンを決死の思いで越えた東独からの亡命者が相次いだ。
「自分の母親も難民だった」。そんな表現でガブリエル副首相は、中東の難民を温かく出迎えようと国民に呼びかけた。
ナチスの贖罪(しょくざい)という面もある。国際貢献で対外イメージをよくしたいという潜在意識が根付いている。
だが決定打になったのは、この5〜6年で育った自らの政策への自信だろう。強い企業と低い失業率。財政黒字も手に入れた。次に挑戦するのは多様性というわけだ。「我々ならできる」。首相からは自己暗示のような言葉が漏れる。
他人の目線を気にするドイツは自らが「モデル国家」となり、欧州全体をけん引したいとの思いがあるが、それは不発気味だ。理想に共鳴するのは、冷戦時代に中立国だったオーストリアと人道国家スウェーデンだけだ。
この3カ国に今年6月はEUの難民申請の半分が集中した。オーストリアのファイマン首相は15日、「北部3カ国だけで難民問題は解決できない」と記者団に何度も繰り返した。
中・東欧は拒否
豊かで経済が底堅い北部欧州が重い負担を背負うのは、ギリシャの金融支援と同じ構図だ。EUは加盟国で難民引き受けを分担する案を示すが各国の反応は鈍い。グローバル化で後れを取る中・東欧諸国では異文化に対する拒否反応が大きい。経済が低迷するフランスも、それほど多くの難民を受け入れられない。
ドイツ国内とて一枚岩とはいえない。いまは歓迎ムードばかりが表に出ているが、深層は違う。ライプチヒ大学の調査では過半が「雇用情勢が悪くなれば外国人は祖国に帰るべきだ」と考える。
ドイツでも社会の指導層は、難民が経済の担い手になると強調し、国内の不安を打ち消すのに懸命だ。しかし景気がひとたび急降下すれば人種差別が激しい旧東独地域などで不満が爆発する危うさがある。
ギリシャ危機に続き欧州が直面する難民危機は、高い理想を掲げた統合プロセスの難航を象徴する。難民と一緒になって未来を作るつもりがあるのか。気の遠くなる作業がこれから始まる。
(ベルリン=赤川省吾)
[日経新聞9月18日朝刊P.7]
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
(中) 内向き英仏、はびこる偏見 治安に懸念、極右政党躍進
「もっと受け入れろ!」。12日、ロンドン中心部の国会前や大通りはシリアなどの難民の受け入れを拡大するよう求める1万人以上の人々で埋め尽くされた。未曽有の危機を前に大勢の難民受け入れを表明したドイツのメルケル首相と対照的に、慎重な姿勢を崩さないキャメロン英首相の対応に矛先が向けられた。
もともと与党の座にある英保守党は移民の受け入れには慎重な立場だ。ギリシャへの渡航中に死亡したとみられる男児の写真が報じられ世論の批判が高まったのをみて政府はようやく重い腰を上げた。「英国はいつからこんなに冷淡になったのか」。識者たちからは嘆きがもれる。
厳しい雇用環境
背景にはポピュリズム(大衆迎合主義)政党の台頭がある。英国では2017年末までに欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票が行われる。首相はEU残留を守りたい立場だが、現実は「反移民」「EU離脱」を唱える極右政党、英国独立党(UKIP)が躍進。大勢の難民受け入れを打ち出せば、極右政党の党勢拡大の追い風となりかねない。
フランスも及び腰は同じだ。経済回復の足取りは重く、雇用環境は厳しい。1月に週刊紙銃撃テロが発生したパリでは移民への恐怖も広がる。「経済」と「治安」をめぐる2つの不安を背景に支持を増やしているのが極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首だ。
「多くが経済的理由による移民で、政治的理由による難民は少数だ」。ハンガリーからドイツに向かう難民の映像を指し、こう言い切ったFNのルペン党首は17年大統領選の有力候補に浮上している。
進む少子高齢化
難民や移民を「負担」と決めてかかる極右政党の主張は、どこまで真実だろうか。
英国やフランスは旧植民地の中東・アフリカなどから多くの難民・移民を受け入れてきた。振り返れば、それは人道的な義務だけでなく経済合理性にも合致していたことが分かる。
英国全土に190の店舗を構える車部品の販売配達会社、ユーロ・カー・パーツ。創業者は13歳のときにウガンダから難民として英国に逃れてきたスカパル・シング・アルワリア氏だ。
70年代、国民を大量に粛清した独裁者イディ・アミン大統領の弾圧から逃れようと、多くのアジア系ウガンダ人が英国に難民として渡った。アルワリア氏もその一人で、「難民キャンプでの経験が自分のDNAをつくった」と語っている。その後父親からの援助を元手に北ロンドンの経営不振の自動車部品会社を買収。英国有数の自動車部品関連会社に育て上げた。現在8500人もの従業員を抱える。
シリア移民の子供だったアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏、旧ソ連から米国に逃れたグーグル共同創業者のセルゲイ・ブリン氏。困難な状況を耐え抜き、新天地で道を切り開いた人々の不屈の精神は、どの地域でも社会や経済を活性化させてきた。
少子高齢化が進む欧州では今後、若い労働力が一段と不足する。異質な者を取り込んで活力とした過去の知見を再び生かすことができるか。難民危機は欧州首脳らの指導力の真価を問うている。
(ロンドン=小滝麻理子、パリ=竹内康雄)
[日経新聞9月19日朝刊P.7]
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
(下)揺らぐ価値観 扉閉ざすアラブ諸国 政治的主張、体制に脅威
戦火と恐怖に覆われた祖国を逃れた難民たちは一様に欧州へと向かう。今回の危機で浮上したひとつの謎は、シリアやイラク周辺のアラブ諸国が「同胞」をなぜ助けないのかだ。
人権団体が批判
「恥ずべきだ」。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、2014年末時点でサウジアラビアなど湾岸産油国が移住を認めたシリア難民はゼロだったと批判した。サウジなど6カ国で構成する湾岸協力会議(GCC)は、いずれも難民の地位に関する条約に署名していない。サウジは周辺国の難民キャンプ支援で資金を拠出してはいるが、基本的に扉を閉ざしたままだ。
湾岸だけではない。エジプトの首都カイロ郊外のシックス・オクトーバー地区。市場近くで買い物袋を持って歩く中年男女に私服警官が近づいて声をかけた。「滞在ビザが失効しているので連行する」。不法滞在のシリア人が拘束されるこんな光景をカイロで目にすることが多くなった。
携帯電話のメッセージ機能で、親族や友人を通じて行き先の情報収集をする難民たちはサウジやエジプトへいっても受け入れられる可能性が低いと知っている。現状はヨルダンやレバノンに多くの難民が滞留するが、多くは欧州行きを求め、受け入れ国も彼らの永住を望んでいないもようだ。
アラブ諸国が難民の受け入れに消極的なひとつの理由は「政治的意見を表明する(他国の)アラブ人を警戒している」(中東のコラムニストのスルタン・サウド・カセミ氏)ためだ。湾岸諸国は豊富なオイルマネーを元手に高福祉を提供する一方、国民の政治参加を制限してきた。自身の考えをためらうことなく表だって主張する難民の行動が自国民に影響し、統治体制を揺さぶるシナリオを恐れている。
雇用に余裕なく
もうひとつの理由は雇用だ。各国とも若年人口が急増し、若者たちに職場を与えることは深刻な課題となっている。自国民の雇用創出に必死となっている各国に、難民受け入れの余裕はない。
3つ目の理由としてシリア難民の特殊性がある。シリアの内戦ではアサド政権と、過激派組織「イスラム国」(IS)が抗争を繰り広げ、他の反体制派も相互に対立する複雑な構図がある。難民とともに宗教やイデオロギーの対立が持ち込まれる事態を各国は恐れている。
難民がアサド政権の元支持者なのか、過激組織への協力者なのか受け入れ国が判別するのは難しい。アサド派であれば、アサド大統領の退陣を強く求めてきたアラブ諸国政府に敵意を抱き続けている可能性がある。ISなど過激派とつながりを持つ者であればテロの直接的な脅威だ。いずれにせよ周辺国にとって難民たちは「招かれざる客」なのだ。
当面はシリア難民の発生は続きそうだ。米国率いる有志連合が進める軍事作戦の主眼はシリア内戦の終結ではなく、その拡散を防ぐことにある。アサド政権打倒や、ISの「首都」ラッカ制圧まで踏み込むシナリオは今のところ視野にない。
「北へ」。近くの同胞すらあてにできないシリア難民たちは、ひたすらに欧州を目指すほかない。
(ドバイ=久門武史、カイロ=押野真也)
[日経新聞9月20日朝刊P.4]
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。