2. 2015年9月10日 08:46:55
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ソ連時代に戻り始めたロシア、第2の崩壊へほふく前進 モスクワ市内は至る所で大規模公共工事が進むが・・・ 2015.9.10(木) 菅原 信夫 モスクワ市長のセルゲイ・ソビャーニン氏(ウィキペディアより) 8月末、モスクワに帰任して、まずは近所のスーパーに飛び込んだ。ロシア連邦統計庁発表の7月度小売売上高は、前年同月比マイナス9.2%と、4月以降連続してマイナス9%を超えている。その実態はいかに――。 スーパーの売り場ではどのように現れているのか、確認のためのスーパー訪問だった。 この1年間、我が家では6リットルのPET容器入りミネラル水を愛用している。水道に含まれる炭酸カルシウムを心配する家人が料理にもミネラル水を使うことにしたためである。 これが経済的にも大した負担にならないのは、6リットルでも50ルーブルという商品をみつけたからである。50ルーブルというと、1ルーブル=2円というレートで換算しても、100円。 日本で購入するPB商品の3分の1程度となろうか。この製品が値上がりもせずにまだ商品棚に並んでいる。 銘柄を変えれば価格は以前と同じ スーパーの乳製品売場を見ると、商品の種類が増え、金額的にも下から上まで非常にばらけてきたのが分かる。また、生乳に比べ、ケフィールのような発酵乳が増えていて、価格も従来品と変わらない。日本では生産されていない酵母発酵のケフィールが1リットル52ルーブル(100円ほど)とは、日本人には価値あるルーブル安である 事務所のモスクワスタッフからの連絡では、乳製品、特にチーズ、ミルク、ヨーグルト類の価格上昇が目立つということだった。売り場を見ると、確かに以前は1リットル60ルーブル(120円)ほどだったミルクが、80ルーブルと3割程度上がっている。 ただ、よく見ると、売り場のショーケースの外には、常温保存が可能なロングライフミルクが多種類並んでいて、その価格はまさに従来の60ルーブル以内に収まっている。 銘柄を変えれば、従来の予算でミルクを購入することはできる。このあたりは、なかなかうまいマーチャンダイジングを実行している。 輸入ものが多いチーズについては、ちょっと事情が異なる。量り売りとなる生チーズの種類が減り、国内メーカーもののスライスチーズが増えている。 量り売り商品は軒並み価格が上昇しているが、パックされたスライスチーズに大きな価格変化はない。従い、スライスチーズを求める限り、チーズについてもそれほどコストアップという印象はない。 結論として、乳製品については、ほぼ安心して従来のショッピングスタイルを続けられそうだが、ここで問題になるのは生鮮野菜、果実類である。帰国前の7月とは、愕然とするほどの違いがある。 価格を云々する前に、商品の種類そのものが減っている。8月末から9月にかけては、ロシアの国産野菜や果実の端境期で、その分輸入品が活躍する時期である。 その輸入品が入らぬため、高級スーパーにも大きなスイカのカゴが用意され、空いたスペースを埋めている。見慣れたリンゴや柑橘類については、その貧弱な品質にはため息が出る。 まるで、ダーチャ帰りのロシア人からプレゼントされる庭からもぎ立てリンゴのようだからだ。モスクワ大学の構内のリンゴの木の下を歩けば、もう少しまともなリンゴに出会える。 そんなものが、結構な値段で売られている。まともな商品が妥当な価格で売られていないなら、買い物客は購入を遠慮する。このあたりに売り上げ数字が伸びない理由があるのだろうか。 野菜・果物は効果がくっきり 輸入野菜、果実が消えると、野菜コーナーはこんなに貧弱になる。ロシアが異常に輸入野菜に頼っていたのは大きな問題だが、ここまで輸入規制をすると、消費者への影響は甚大。しかし、9月7日、また新たにブルガリアが禁輸リストに載った。原因はロシア軍用機のブルガリア領空通過を禁止されたため。これじゃ、国民はたまらない この生鮮野菜や果実については、7月に強化・延長された輸入規制がしっかりと効果を発揮していると言えるだろう。 国産で代替される食品のうち、その差がほとんど分からない肉類などに比べ、これら農業製品は見てくれの違いで、輸入品と国産品の違いは一目瞭然である。 この季節、生食用ブドウでは、キシュミシュという名の中央アジア産の種なしブドウが大量に供給されるが、今年はなぜか種ありに出会うことが多い。 それらをよく見ると、ロシア産の場合が多い。ブドウの世界では中央アジア産がロシア産の上位に位置することに初めて気づいた。 ロシア政府は、EUが対露制裁の延長を決めた今年7月、返す刀で制裁国からの生鮮食品類の輸入禁止の延長と強化(新たな輸入禁止国の指名)を発表したが、これらの影響が商品のバラエティーや品質低下という形でスーパーの店頭に及んでいることがはっきりとうかがえる。 経済統計を見ていると、8月の消費者物価指数は、前月比プラス0.4%にとどまっており、通年予想はプラス12%とのこと。 ロシアは昔からインフレ率が高く、我々も14、15%などという数字には慣れているが、この特別な時代に物価指数プラス12%というのは、当局としては物価を上手にコントロールしている、ということになるのではないか。 もっとも、品質の劣化がその代償で、最大の犠牲者は消費者自身ということになるのだが。 先週の土曜日、9月5日はモスクワ市生誕868周年の祝日だった。この868周年祭、人々の頭上にかかる暗雲を払いのけるには、とにかく今、トリックが必要だと解釈すべきか、従来の「モスクワの日」とは比べものにならない大規模な祝日であった。 ドミトリー・メトベージェフ首相、ソビャーニン市長のお祝いスピーチのあと、テレビは赤の広場で繰り広げられる、ロシア歴史スペクタクルの模様を中継した。 どのレストランも満席状態 ソビャーニン市長になって、渋滞が軽減したと言われる。確かに市内環状線の片側4車線の道路は、朝夕を除けば軽快に流れるようになった。また、美化にも力を入れる市長のおかげで、夜の建物はライトアップされ、観光都市としても十分な価値が出てきた 夕刻7時頃、赤の広場につながる地下鉄キタイ・ゴーラドで友人を待っていると、興奮さめやらぬ顔つきの人々が延々と広場方面から歩いてくる。 その多くは、道沿いのカフェ・レストランに吸い込まれて行き、どの店も満員御礼状態だ。筆者は、ロシア側との商談を終えたばかりの友人を誘い、馴染みの中華料理店に向かったが、ここも満席状態。 国家の経済運営の努力をこんな休日に見るというと大げさではあるが、政策臭の強い土曜日であった。 このコラムの定期寄稿者である大坪祐介氏が8月17日付「ロシア経済を強靭化させつつある欧米の経済制裁」の中で触れておられるように、現在のモスクワは町中、土木工事だらけである。 これだけの予算をどこから引っ張り出したのかという、大規模工事も多い。 ロシア人の友人と地下鉄に乗って気づいたが、車内広告が消えている。また、地下のプラットホームに降りるための長いエスカレーターの壁にかかる企業の広告。これも目に見えて減っている。 一方、先日、携帯電話での地下鉄乗車サービスの開始が発表されたが、こちらは改札機に携帯の受信機能を組み込むため、かなりの台数を入れ替えるものと思われる。これらは明らかに地下鉄当局への経費増を意味するものだろう。 経費の増加に収入減では、どんな地方自治体であっても、正常な経営はできない。それを意識してか、ソビャーニン市長は土曜日のスピーチの中で、モスクワ市が国家目的を追求するためには連邦の支援が必要だと繰り返し述べていた。 メドベージェフ首相もモスクワ市が国家にとって、いかに特別であるか、そのためには支援を惜しまないと呼応していたのが印象的であった。 ソビャーニン市長は、あまりスピーチを得意としないし、それゆえか彼のスピーチを聞くことは珍しい。しかし、この日の彼の思い入れたっぷりの演説を聞くと、ウラジーミル・プーチン大統領の後任はソビャーニンという説も、あながち的外れとは言えなく思われる。 軍隊の登場が増加 この季節、輸入野菜の棚の空きスペースを埋めるロシア南部アストラハン産のスイカ。1キロ9ルーブルが今年の価格だから、5キロの大玉でも100円程度で買える 国家目的への協賛、これを物語るように、土曜日の歴史スペクタクルの中身は、14世紀の「タタールの軛」からの離脱から始まり、1941年の世界大戦までと、まさにロシアの経験した対外戦争のオンパレードであった。 また、軍楽隊をはじめとし、モスクワ市の生誕祭と言うには、あまりに軍隊の登場場面が多いのも気になることではあった。 1991年のロシア復活の年、世界では新ロシアがどのような国になるか、我々ビジネス関係者まで巻き込んだ議論が行われたことが思い出される。多くの論者は、ロシア型資本主義の誕生を予言し、そしてそのような動きが感じられることもあった。 しかし、現在のプーチン大統領が登場する2000年からは、やはり国家の基本は、国家資本主義であり、また、対外的には西欧諸国との対峙政策、そして新興国との友愛を正面に据えた、金のかかる第3極圏創設への夢。 こうしてロシアの望む方向を描いてくると、それは筆者が駐在員時代を過ごした社会主義ソ連の国家目標とそれほど変わらないのではないかという思いが湧き出てくる。 ソ連崩壊の理由を簡単に言えば、出費に収入が追いつかないという経済的アンバランスを長年続けた結果の経済的崩壊にあると信じている筆者だが、最近のモスクワ市の自治体運営も、まさにこの轍を踏んでいるように見えて仕方がない。 そして、モスクワ市が経済的に崩壊するようなことがあると、これはロシア中を見回しても健全経営などできる地方自治体はなさそうに見えるがゆえに、ロシアという国は、ソ連に続き、2度目の国家崩壊を経験することになるのではないか、という疑問が頭を横切る。 そして、1990年代前半、あらゆる分野でロシア支援を行った米国をはじめとする欧米諸国は、結局西側の思うとおりのロシアにならないことを悟ると同時に、再び対立の方向に舵を切り、現在の経済制裁という究極的な政策に走った。 こういう西側の紆余曲折の結果、一般のロシア人と話をしていると、意外なほど米国への不信感が蔓延していることに気づく。 西欧諸国の方針を決めるのは、米国であり、諸悪の根源は米国にあるのだと、単純に決めつける。これは40年前、米国留学でロシア語を身につけた筆者がロシア人に自身の経歴を話すと必ず出会う反応であった。 ソ連時代へ逆戻り モスクワ市生誕868周年祭では、市内22カ所の公園を利用し、コンサートが行われた。9月5日、6日ともに降雨予想があったため、ソ連時代から有名な人工天候変更操作が行われたが、結果は晴天とはいかず、モスクワ市の努力は空振りに そんな時代が再びやって来るとは、本当に信じがたいことであるが、時代は繰り返す、と言うしかない。 西側による経済制裁には直接的には効果がない、という観察は多くの識者から示されるところでもある。しかし、これがロシア側からの対抗措置である禁輸措置誘導の結果、一般消費者には質の低い商品が並び、消費生活はレベルダウンする。 また国家による経費負担は青天井となる。これはまさにロシアをソ連に戻すための政策のように感じて仕方がない。 もちろん、経済制裁の原因として、ウクライナ紛争があるわけだが、もういい加減に、ロシアへの敵対視をやめることはできないものだろうか。そして、西側と一緒にウクライナ問題はじめ、シリア問題とその難民問題などロシアの貢献が期待できる問題をともに考えることはできないのか。 繰り返すようだが、このまま行けば、ロシアは2度目の国家崩壊に突き進んでしまう恐れなしとは言えない。 もし、そんなことが起これば、それはウクライナ問題どころではない、とてつもない災いとなって、西側諸国に降りかかってくるだろう。 ロシアも巻き込んで世界秩序を考えるなら、それは今をおいてなさそうに思える。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44753 |