1. 2015年8月13日 07:37:40
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ロシアで開幕した軍事オリンピック、中国が大健闘 アジア各国の駆け引きに板挟みになりつつあるロシア 2015.8.13(木) 小泉 悠 AMI-2015(写真提供:ロシア国防省) 8月1日、ロシアで「国際アーミー・ゲーム2015(AMI2015)」が開幕した。と言ってもミリタリーマニアのイベントではない。 世界の陸軍部隊がロシアに集結し、その腕を競うという大会である。「軍事オリンピック」と呼ばれるゆえんだ。 「軍事オリンピック」の中身 以前、別の媒体で紹介したことがあるが、ロシア軍は以前から自国兵士のスキルアップを狙ってこうしたイベントを開催していた。 なかでも有名なのが戦車兵による競技会「戦車バイアスロン」で、ロシア軍の4つの軍管区で予選を勝ち抜いた選りすぐりの戦車兵たちがモスクワ郊外のアラビノ演習場で戦車の操縦や射撃の腕を競う。 このほかにもパイロットの技量を競う「アヴィアダーツ」など、いくつかの戦技競技会が存在しており、一部には旧ソ連の友好国が参加してきた経緯がある。 一方、今年から始まったAMI2015ははるかに大規模なものだ。 まず競技が多様化した。既存の競技に加え、歩兵戦闘車部隊、各国の海軍歩兵部隊(海兵隊)、防空部隊、偵察部隊、工兵部隊など様々な分野ごとに独自の技術を競う競技会が設けられた。 変わったところでは「戦場のキッチン」と題された競技会も開かれ、各国の兵站部隊(各7人)が野戦給食の腕を競い合う。 これだけの多様な競技であるため、開催地もモスクワ周辺から黒海、カスピ海、シベリアと多岐にわたり、合計11カ所の演習場が使用されるという。 花形競技「戦車バイアスロン」 軍隊の競技会と言ってもどんなものだかイメージが湧かないという読者も多そうであるから、ここでは花形競技である「戦車バイアスロン」を例にその内容をご紹介しよう。 ロシア国防省の特設サイトに掲載されたレギュレーションによると、各国のチームは20名(指揮官、戦車乗員12人、コーチ2人、補給係3人、技術要員2人)で編成され、T-72戦車3両(+予備1両)を与えられる。 各戦車は傾斜地、沼地、濠などの障害が設けられたコース上を4回周回し、各周回中にそれぞれ異なった目標を異なった火器で射撃。この際の命中精度や周回タイムを記録し、総合点で最優秀チームが選ばれることになる。 今年の最優秀チームはロシア陸軍のミハイル・ジーチン曹長率いる2号車で、これにカザフスタン陸軍、中国陸軍が続いた。 各国の出場戦車(前述のように各国から3両が出場する)の合計成績を足した国別ランキングでも同様の結果となり、やはりロシアやカザフスタンのようにある程度の訓練予算が割り当てられ、T-72戦車自体の扱いにも慣れた国が有利であるようだ。 一方、航空競技会「アヴィアダーツ」では、自前のJH-7A戦闘爆撃機を持ち込んだ中国が健闘し、爆撃競技(団体)ではロシアを凌いで1位となった。 参加国は? それにしてもウクライナ危機以降、孤立の深まるロシアがこのような競技会を開いたとして、参加国はいるのだろうか。 ロシア国防省の発表によると、今回のAMI-2015に参加部隊を送り込んできた国は、ロシア自身を含めて17カ国。参加人員は合計2000人以上になるという。 以下、ロシア国防省資料を基に各国の参加状況をまとめた。 AMI-2015への各国参加状況(出典:ロシア国防相) 写真提供:ロシア国防省 一見して分かるように、いわゆる西側諸国からは参加がない。 アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンは旧ソ連の友好国であり、CSTO(集団安全保障条約機構)加盟国でもあるので以前から「戦車バイアスロン」にも参加していたが、今回はベラルーシを中心として参加範囲がかなり拡大した。 アゼルバイジャンも旧ソ連加盟国ではあるもののCSTOには参加しておらず、アルメニアとはナゴルノ・カラバフ地方の帰属を巡って軍事的対立関係にもあることから、ロシアとの軍事演習もほとんど行ってこなかったが、カスピ海での上陸作戦競技会に初めて参加した。 演習ではなく競技会ならば、ということで参加のハードルが低いのだろう。 また、「戦略的パートナー」関係を宣言している中印の参加も目立つ。インドは「戦車バイアスロン」のみの参加だが、中国はほぼ全種目に参加し、ロシアに次いで第2位の選手団を送り込んだ。 しかも戦車、装甲車、工兵機材などの重装備も鉄道で中国本土から搬入したほか、前述のように戦闘爆撃機まで空路で送り込んでおり、この意味でもAMI-2015における中国の存在感は極めて大きい。 ロシアが西側から孤立するなかで、ロシアのパートナーとしての中国をクローズアップする狙いがあったものと見られる。 ちなみに、以上で挙げた各国は今年5月にモスクワで開催された対独戦勝記念パレードにもパレード部隊を派遣していた。 このほかにはヴェネズエラをはじめとする南米の友好国や、同じスラヴ圏のセルビアなどの参加が目立つ。 写真提供:ロシア国防省 「珍客」パキスタン もう1つ注目されるのは、パキスタンの参加である。インドとの関係が緊密なロシアにとって、パキスタンとの軍事的関係はこれまで疎遠であった。 しかし、昨年以降、ロシアはパキスタンに艦艇を寄港させて合同訓練を行ったほか、武装強襲ヘリコプターの売却を決めるなど、両国関係が急接近している。 パキスタンとアフガニスタンの国境沿いを根城とする中央アジアのイスラム過激派対策などを念頭に置いている可能性もあるが、パキスタンの後ろ盾である中国にロシアが引き寄せられていることの余波、とも見ることができる。 ただ、インドはロシアの対パキスタン武器輸出などについて当然いい顔はしておらず、旧来からの対印関係との兼ね合いをどうしたものか、ロシアとしては悩みどころである。印パ両国は中露が中心となって結成したSCO(上海協力機構)への正式加盟も申請しており、今後、中露は両国を同時加盟させる方針と伝えられる。 こうなると、ロシアの対南アジア政策はますます板挟みの様相を強めることにもなりかねない。 以上のように、AMI-2015参加国の顔ぶれを眺めるだけでもロシアを巡る複雑な構図が読み取れよう。ちなみにAMI-2015は今月15日まで続く予定である。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44521
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