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最後の閣僚会合となるはずだった環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で、再び「大筋合意」が見送られた。日米が各国に政治決断を迫ったのに対し、徹底的に争ったのは酪農王国のニュージーランド(NZ)だった。月内に再び会合を開いても着地点が見えているわけではなく、中国をにらんだ日米主導の「太平洋経済圏」づくりは簡単に進みそうにない。
「乳製品に競争力がない国と難しい問題を抱えてしまうのはいつものことだ」
大筋合意できないまま始まった閣僚会合後の共同記者会見。NZのグローサー貿易相は各国の閣僚が並ぶ席で、名指しこそしなかったが、小規模経営の酪農家が多い日本やカナダを念頭に、NZの主張に問題がないことを強調した。
その2時間後。別のホテルで会見した甘利明TPP相は、そんなNZに激しくかみついた。「某国はいろいろ過大な要求をしている。日本だけでなく各国に影響がある。頭を冷やしていただかないと」
2人の確執は閣僚会合初日の7月28日に始まっていた。笑顔で握手して始まった2人の会談は、乳製品の輸入拡大をめぐるグローサー氏の強気な要求で険悪なムードに。甘利氏が「本当にまとめる気があるのか」と声をあららげ、机をたたく場面もあった。グローサー氏は同様の要求を米国やカナダなどにもぶつけ、二国間の交渉はいずれも暗礁に乗り上げた。日本の交渉筋は「うまくいっていたら怒らない」と記者団にぶちまけた。
NZが大詰めになって攻勢に出たのは、関税交渉で出遅れていたカナダと米国の交渉が進み、落としどころが見えてきたためだ。TPPはNZなど4カ国がモノやサービスのやりとりを原則自由にしようと結んだ貿易協定が前身。人口約400万人と国内市場が小さいNZにとって、競争力がある乳製品の輸出拡大は重要な政策課題であり、「安易な妥協」を認めず本来の理念を強調することは、NZの国益とも一致する。
会見で「TPPから離脱する考えは?」と問われたグローサー氏は「NZは交渉を始めた最初の国々の一つで、追い出されることはない」と言い切った。
この問題が、最も難航していた新薬のデータ保護期間にも飛び火した。
新薬の開発には最先端の研究開発や膨大な先行投資が必要だ。そのデータが保護されている期間は、価格の低い後発医薬品(ジェネリック)を発売できない。
新薬企業が強い米国はバイオ医薬品について12年、日本は8年を主張。ジェネリック活用で医療費を安く抑えてきたNZや豪州、マレーシアなどは5年を求めて譲らない。NZは「乳製品の要求を受け入れなければ、新薬で譲歩しない」と強気の姿勢を貫いた。
行き詰まりを打開しようと、議長の米国は会合2日目の夜、閣僚だけの夕食会を開催。話題は新薬問題に集中し、各国の意見を踏まえて、交渉官が作業チームを設けて夜通しの「合意案」づくりが始まった。
だが、乳製品交渉に引きずられる形で、新薬の「合意案」もまとまらず、結局、時間切れとなった。
■米、「月内」がギリギリ
「大筋合意」を逃した日米だが、表向きには強気の発言は変わらない。議長を務めたフロマン米通商代表部(USTR)代表は共同記者会見で、「TPPが手の届くところに来たという確信を、今まで以上に持っている」。傍らの甘利氏も「もう一度、会合が開かれればすべてが決着する」と歩調を合わせた。
といっても、会見直前には次の閣僚会合の日取りを決めるよう迫る甘利氏に対し、フロマン氏は慎重だった。「次の失敗」は許されないためだ。
来年11月に大統領選がある米国は、年明け2月には予備選が始まる。本選挙が近づくほど、与野党の対立が激しくなり、超党派の協力が難しくなる。8月末は年内の米議会での承認にはギリギリのタイミングだ。次も合意に失敗すれば、交渉の求心力が一気に失われるのは避けられない。
仮にNZが乳製品の扱いで矛を収めても、日米と新興国などの新薬をめぐる対立が解消するわけではない。日米間のコメや自動車を巡る交渉も未決着だ。日本の交渉関係者は「各国ともNZを言い訳に、最後のカードを切り合う展開にはならなかった」と明かす。
国内事情を抱えるのは米国だけではない。10月に総選挙があるカナダは近く事実上の選挙戦が始まる見通し。日本でも自民党内には来夏の参院選への悪影響を心配する声が根強い。
全米最大のロビー団体、米国商工会議所の関係者はいう。「閣僚らがこれだけ協議しても合意できなかったのに、数週間で交渉の場に戻れるとは思えない」
■対中戦略、日米暗雲も
今回の合意見送りは、台頭する中国を見すえた日米の戦略にも影を落とす。
成長著しいアジアへの輸出を拡大し、地域での外交的な基盤も強固にする――。オバマ政権は、アジアへのリバランス(再均衡)戦略の主軸にTPPをすえ、「中国のような国ではなく、我々が21世紀のルールを作るということを明確にする機会だ」(オバマ大統領)と訴えてきた。
中国より先に、自国が強みを持つITや製薬などで高い水準のルールを作り、そこに、中国を取り込もうという戦略だ。
一方、安倍政権も国内市場が縮小するなか、価値観が近い米国とルールづくりを主導し、アジアへの輸出や企業進出を広げることを成長戦略の柱にしてきた。
日米主導の経済圏づくりのねらいは、経済面にとどまらない。中国が南シナ海などでの海洋進出を強めるなか、安倍晋三首相は5月18日の参院本会議で「我が国の安全保障にも、この地域の安定にも資する戦略的意義を有する」と、TPPの意義を強調した。
しかし、交渉が「漂流」すれば、こうした日米主導の秩序づくりは「絵に描いた餅」だ。中国もアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立するなど存在感を高めている。TPPが頓挫すれば、こうした動きが活発になる可能性もある。
(マウイ島〈米ハワイ州〉=小林豪、五十嵐大介、鯨岡仁)
8月1日 朝日新聞朝刊より
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