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2015年07月31日 (金) 午前0:00〜[NHK総合]
時論公論 「深まる亀裂 欧州はどこへ向かうのか」
二村 伸 解説委員
ユーロ圏からの離脱か、世界の注目を集めていたギリシャの債務危機は、土壇場でギリシャがEUの支援を受けることで合意し、ひとまず危機を脱しました。
現在、アテネで行われている協議は近くまとまる見通しで、来月にも3年間で11兆円規模の支援が始まることになります。しかし、今回のギリシャ危機では交渉の勝者はなく後味の悪さだけが残りました。
ギリシャとEUの対立に加えてヨーロッパ南部と北部との溝の深さが浮き彫りとなり、フランスとドイツの不協和音は、ヨーロッパの将来に暗い影を落としています。
きょうは、ギリシャ危機をめぐって露呈したヨーロッパの亀裂の根はどこにあるのか、また、世界に及ぼす影響について考えます。
今月5日、ギリシャで行われた国民投票では60%以上の人がEUの財政再建策にノーを突き付けました。
国民に痛みを強いてきたEUに対する反発は強く、とりわけ厳しい緊縮策を求めたドイツに批判の矛先が向けられました。
緊縮策に反対して1月の総選挙で政権を握った左派のチプラス首相は、ドイツに対して第2次世界大戦中のナチスによる占領の賠償金を要求する発言を行い、ドイツの強い反発を浴びました。
一方のドイツ・ショイブレ財務相は、ギリシャのユーロ圏からの離脱の可能性も排除できない」と発言、これに対しギリシャのチプラス首相は、「ギリシャへの恐喝だ」と批判するなど両国の対立と相互不信はエスカレートしました。
ドイツの産業界も、ギリシャのユーロ離脱を公然と口にするようになり、ドイツの公共放送・ZDFの世論調査では、5割以上の人がギリシャはユーロ圏から離脱すべきだと答えています。ギリシャの国民投票後はギリシャ支援を拒否すべきだという人が8割を超えたほどです。
なぜ、これほどギリシャに厳しい姿勢をとるのか。それは、構造改革を断行し厳格な財政規律を自ら課してきたドイツが、通貨の安定を何よりも重視していることと、放漫経営ともいえるギリシャにこれ以上国民の税金をつぎ込むことはできないという理由からです。私がドイツに駐在していた2000年前後、ドイツは景気が低迷し、失業率は過去最高の10%をこえ、「ヨーロッパの病人」とまで呼ばれていました。
そこから失業手当の削減や年金支給年齢の67歳への引き上げなど大胆な改革に踏み切り、経済を立て直しました。一方のギリシャは、国民の4人に1人は税金を払ったことがなく、労働人口の20%を占める公務員には様々な手当てが支給されて基本給の3倍にもなると言われ、50代半ばで定年して悠々と暮らす人も少なくありませんでした。ドイツ国民はそんなギリシャに甘い顔をすることなどできないのです。
ギリシャ支援をめぐって、厳しい姿勢を取り続けたのは、ドイツの他に、オランダやフィンランド、バルト諸国などです。オランダやフィンランドも当初からギリシャに公的資金をつぎ込むことに反対でした。
一方、ギリシャ支援に柔軟な姿勢を示したのがフランス、イタリア、それにキプロスでした。財政再建のためには緊縮策よりも景気刺激策が必要だとの立場です。ユーロ圏発足当初から財政基盤が強固なドイツやオランダなど北部と、財政難のイタリア、スペインなど南部の対立が続いてきましたが、ギリシャ危機でその溝がさらに広がりました。
このグラフはユーロ圏の国々のGDPです。リーマンショックが始まる前、2008年の第1四半期を100としたときのGDPの変化をあらわしています。プラス成長を続けるドイツと対照的にギリシャは、2010年からの5年間でGDPが4分の3に縮小しました。2009年の債務危機以来、金融支援と引き換えに付加価値税を引き上げるなど様々な改革を行った結果、GDPは激減し国民の生活はますます苦しくなったのです。スペインやイタリアなどもGDPは縮小しています。
失業率もドイツとギリシャなどとの違いが際立っています。貧しい南部と富める北部の経済格差は広がる一方です。それだけに一人勝ちを続けながら支援を拒むドイツに厳しい目が向かられています。EU域内への輸出によって財政黒字を積み上げながらギリシャを見捨てるかのような姿勢に反発が強まったのです。
ドイツは2度の大戦を引き起こした反省から、「ヨーロッパの一員」として、強い通貨だったマルクを捨て、統合を進めましたが、今、圧倒的な経済力を背景に、もはや「控えめな国」をやめ、再び「ドイツのヨーロッパ」としてふるまっているという警戒の念が強まっているのです。
ドイツとフランスの温度差も目立ちました。フランスのオランド大統領は当初からギリシャに理解を示していました。EUの再建策を拒否したギリシャに「ユーロ圏からの一時的離脱」を求め。交渉の途中で席を立とうとしたドイツのメルケル首相とは対称的に、オランド大統領は「ギリシャがユーロ圏にとどまるためにあらゆる手を尽くす」と述べ、13日朝合意が成立した際にはチプラス首相のもとに歩み寄り肩を抱き合ったと言われています。
フランスの立ち位置を示す象徴的な光景でした。
ヨーロッパは何度も戦火を交えたドイツとフランスが中心になって経済統合を推し進めてきましたが、ギリシャ支援をはじめ財政再建策めぐって路線の違いが顕著になっています。
統合の両輪であるドイツとフランスが別々の方向を向いたままでは統合は失速しかねません。
EU加盟28か国のうち、共通の通貨、ユーロを導入した国は、ことし1月新たに加わったリトアニアを含め19か国まで増えました。今後も新たな国が加わることが予想され、第2、第3のギリシャが出てくることも十分考えられます。それだけにギリシャ危機の解決を先送りせず、早急に対策を講じる必要があります。
まずはギリシャが財政再建を着実に実行することですが、借金返済のために新たな借金をしているのが今の状態で、債務の大幅削減なしに財政再建は不可能です。厳しい生活を強いられてきたギリシャ国民、そしてヨーロッパの安定のためには、ドイツが債務削減に応じ、フランスとともに構造改革を後押しすることが求められます。
ただ、ヨーロッパではギリシャ危機以外にも統合と深化を脅かす不安定要因が数多くあります。
イギリスではEU離脱の是非を問う国民投票が2017年までに予定されていますし、フランスやスペイン、ドイツなどでもEUに懐疑的な勢力が支持を拡大しています。また、多くの国でナショナリズムの高まりや、移民・難民を排斥する動きが活発化しています。EUの求心力が低下すれば、ロシアや中国につけこまれかねないと懸念する声も聞かれます。EUの結束の乱れは世界の経済だけでなく、安全保障にとっても不安材料です。
結束が弱まれば、今回のギリシャ危機でもみられたように問題への対処がますます難しくなります。
そうなるとロシアや中国につけこまれる可能性も排除できません。ギリシャのユーロ圏離脱の憶測が飛び交ったとき、ロシアや中国のギリシャへの接近を懸念する声が聞かれました。EUの求心力の低下は世界の安全保障にとっても不安材料です。
多様性と寛容さが失われつつあるヨーロッパは、南北に見えない壁が築かれようとしているようです。ユーロ崩壊、EU分裂の危機を乗り越え、国際社会の信頼を取り戻すためには、自国の利益だけでなく、ヨーロッパ全体を見据えた責任ある行動が求められます。アメリカの指導力が低下しているだけに、世界の安定、民主主義と法による支配を確固たるものにするためにも強いヨーロッパが必要であり、それには各国リーダーの自覚と結束が欠かせません。
(二村 伸 解説委員)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/224178.html
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