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建国後、一貫して米国の庇護(ひご)を受けてきたイスラエルが、中国が提唱したアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加した。英国や韓国、オーストラリアなどの同盟国もこぞって参加したことをよしとしなかった米国だが、対立から協調へとAIIBへの姿勢を軌道修正している。
地中海に沈む夕日を眺めるテラスで、中国のセン永新駐イスラエル大使が語りかけた。「中国とイスラエルの関係は最良の時代に入った」。今年5月、イスラエルの商業都市テルアビブでライフサイエンスの見本市が開幕し、レセプションに両国のビジネス関係者ら約100人が集まった。
イスラエルは、1992年に中国と外交関係を結んだ。昨年の貿易額は87億ドル(1兆800億円)超。09年比で2倍近い。欧州連合(EU)の429億ドル、米国の271億ドルに次ぐ。
イスラエル政府は3月31日、AIIBへの参加を表明した。中国研究の重鎮、ヘブライ大のシコール名誉教授は「ネタニヤフ首相は中国の経済成長と巨大な市場に着目し、政治と経済を切り離すことにした」と指摘する。中国にとっては、サイバーセキュリティー分野などでのイスラエルの高い技術力が魅力だ。
ユダヤ人の国家イスラエルが48年に建国された時、最も早く国家承認したのは米国だった。近年は年間約30億ドルの無償の軍事援助を続ける。米国からみて第2次世界大戦後の累計で最大の援助国だ。
だが、ネタニヤフ首相は、7月に米欧など6カ国とイランが核協議で最終合意したことを「歴史的な誤り」と非難。両国間にはすきま風が吹く。
AIIBへの参加表明の内幕を知りうるイスラエルの関係者は「加盟表明の1週間前に米国の友人に伝えた」。別の関係者は「米国は面白くは思わないだろうが、止めはしないと確認した」と打ち明けた。
3月初めに英国が加盟を表明後、米国と同盟関係にある韓国やオーストラリアも続いた。「締め切り間際に一気に動いた」とイスラエル政府関係者は語る。
米国務省広報官は「国際的な基準を支持する限り」と前置きしたうえで、「中国とイスラエルの関係は相互に利益がある」とコメントした。だが、中東への中国の関与の強まりが将来、米国の利益と競合することへの懸念は確実にある。
■中国、大型事業を次々落札
中国企業は、米国と事実上の同盟関係にあるイスラエルの大型インフラ事業を次々と落札している。
地中海に面する国内最大の輸入港アシドッドの第2港建設工事、北部の商業都市ハイファのトンネルと新しい港の建設。スエズ運河を通らずに地中海から紅海へ抜けられる鉄道の建設も中国企業が請け負うことが有力視されている。
米議会への報告書によると、イスラエルは2000年代初めごろまで、ロシアなどに次いで中国への主要な武器供給国だった。同年には、高性能レーダーを搭載した早期警戒管制機の対中輸出が、米国の反発で中止に。05年には無人攻撃機の輸出などをめぐり米政府がイスラエルとの軍事技術の共同開発を一時凍結する制裁措置をとった。
先端技術の流出を警戒する米国は同年、第三国への先端技術の輸出に事前相談を義務づける合意をイスラエルからとりつけ、対中輸出を困難にさせた。
だが、イスラエルが高い技術を誇るハイテク分野は、軍事転用の可能性が否定できない「グレーゾーン」を含む。
在イスラエル中国大使館のホームページには、現地に進出する中国企業13社が紹介されている。華為技術(ファーウェイ)も、そのひとつだ。米国から「スパイ行為への関与が疑われる」として、大手向けの通信設備の販売を事実上阻止されている同社は、現地法人を買収する形でイスラエルにR&D(研究開発)センターを置く。
元イスラエル外務省高官のエラン氏は「イスラエルは、対米関係と中国との関係強化で得られる利益の間で、かじ取りを迫られている」と語る。
■米、投資銀と協調模索
AIIB構想が表面化して以来、米国は否定的な立場をとってきた。だが、日本など一部を除く主要国が雪崩を打って参加してから、軌道修正し、米国が強い影響力を持つ世界銀行を始めとする、既存の国際金融機関を通じて間接的に連携を深めつつある。
「彼はプロの銀行家だ」
世銀ナンバー2、バドレ最高財務責任者(CFO)は、今年初めて会った中国の金立群・元財務次官をこう評した。金氏はAIIBの初代総裁に就く。
「AIIBの参加国の多くは、世銀の加盟国だ。有効な組織になるよう、我々としても真剣に関与していく必要がある」
7月中旬、世銀のキム総裁は北京を訪れ、金立群氏と会談した。これに先立つ7月1日には、パリの経済協力開発機構(OECD)本部を李克強(リーコーチアン)首相が訪れている。「先進国クラブ」ともいわれるOECDの本部を中国の首相が訪れるのは、初めてだ。グリア事務総長は中国語の成句を織り交ぜたスピーチで首相の訪問を歓迎した。
開発援助の世界は、もはや中国抜きでは回らない。予想を超える大所帯で船出するAIIBが、そうした現実を象徴している。
(テルアビブ=渡辺丘、吉岡桂子、北京=斎藤徳彦、ワシントン=五十嵐大介)
7月31日 朝日新聞朝刊より
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