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シルクロードを勢力下に置きつつある中国 アフリカに軍事基地 ウイグル人弾圧 中国軍を「訓練」する甘すぎる米国 
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投稿者 rei 日時 2015 年 7 月 30 日 01:37:52: tW6yLih8JvEfw
 

シルクロードを勢力下に置きつつある中国

NHK特集『絹と十字架』からユーラシアパワーを考える

2015.7.30(木) 前田 弘毅
中国、パキスタンのインフラ開発に5.5兆円 「経済回廊」整備へ

中国はシルクロード外交に余念がない。写真はパキスタンのナワズ・シャリフ首相(右)と握手する中国の習近平国家主席(左、2015年4月20日)〔AFPBB News

 前回はトルコ・グルジア(ジョージア)・アゼルバイジャンをつなぐ鉄道構想について触れた。その際に少し触れたが、コーカサスやイランの鉄道プロジェクトには実は中国が関わる案件が増えている。

 19世紀において、この地域の鉄道路線敷設の目的は、世界の穀倉と化した黒海南岸とカスピ海の資源を、黒海を通じてヨーロッパ、そして世界に運ぶ道の建設であった。

 しかし、鉄道という近代的な乗り物が発明される前から、コーカサス周辺は広くユーラシア物流のハブに位置していた。とりわけいわゆる南ロシア(キプチャク)平原を通る「草原の道」は重要である。

 今回はコーカサスから見たユーラシアの動脈との「接続の歴史」について中国とのつながりを手がかりに少し考えてみたい。

一帯一路に飲み込まれるグルジア/ジョージア?

 今年6月30日、朝日新聞に興味深いグルジア現地リポートが掲載された。「絹の道 巨大マネー流入」の見出し語句とともに中国企業の活動が紹介されている。

 日本でも話題の五輪施設建設がらみでもあり、その意味でも示唆に富む。まさに今週(7月最終週)、首都トビリシで開催中の欧州ユース五輪フェスティバル|(EYOF、14〜18才のオリンピック)の会場建設を中国企業が請け負い、会場だけではなく、集合住宅、商業施設、ホテルなど複合施設を建設中との記事である。

 むろん、これは海と陸の2つのシルクロード経済圏「一帯一路」という中国政府の国策にも沿う動きであろう。

 インフラだけではなく、局所的な動きとはいえ、中国はグルジアの農業に興味を示している。今年に入ってから、中国の要人がグルジアを複数回訪問し、グルジア側も3月に経済大臣が、6月には農業大臣が中国を訪問している。

 実際、筆者自身、ここ10年来の中国のグルジアにおける「浸透」ぶりには様々な局面で驚かされてきた。2年前、風光明媚で知られる西グルジア・ラチャ地方を訪れた際には、途中立ち寄った地方の市場で中国人の若い女性に出くわした。

 そのとき見聞したのは、(純然たる)グルジア人の名前でパスポートを持つ中国人が地方にも多数居住しているとのことだった。未確認であるが、土地など何らかの権利取得に関連することかもしれない。

 こうした中国進出の1つの象徴的事案が、黒海に面するアナクリア港の竣工事業である。詳細は省くが、現在入札中であり、先月2組に絞られたことが発表された。一方は中国資本の支援を受け、一方は米資本とつながるビジネスグループであるという。

 紛争地域であり、グルジアの実効支配が失われて20年となるアブハジアと目と鼻の先となるアナクリアの開発は、実は分離地域に対するタカ派姿勢で知られたミハイル・サーカシビリ前政権時代に打ち出されたものである。

 開発事情予告クリップは、いかにも当時のグルジア政府の志向を象徴している。おりしもギリシア危機で中国マネーのエーゲ海進出が噂される中、中国は国際政治の十字路である黒海にも着々と足場を築こうとしている。

シルクロードの残像

 中国と黒海。意外な組み合わせかもしれない。また、超大国として台頭しようとする現代の中国の世界進出はアフリカをはじめどこでも見られることであろう。

 もっとも、中国と環黒海地域との結びつきは今始まったことではない。そして、実は30年以上前に歴史的シルクロードについて興味深い番組が日本で放映されている。

 NHK特集(ちなみにNHKスペシャルに変わったのは平成に入ってかららしい)として1984年5月7日に放映されたシルクロード第2部『ローマへの道』14集『絹と十字架〜コーカサス山脈を越えて』である。

 1970年代末から80年代初めに物心ついたものとして、石坂浩二のナレーションと喜多郎のテーマ曲のメロディーや楼蘭の美女など西域の歴史は大いに異国情緒をかき立てるものとして強く印象に残っている。

 流行作家としての井上靖については、『わが母の記』(原田眞人監督)でちょうど感銘を受けたところでもある。

 もっとも、たまたまか、あるいは当時の筆者にはさすがに異世界に過ぎたのか、この『絹と十字架』は全く記憶に残っていなかった。灯台もと暗し。

 しかし、本校執筆のために映像を見てみると、北コーカサス・オセチアの死者の街やグルジア軍用道路、グルジアの宗教遺跡ヴァルズィア(ワルジア)、アゼルバイジャンのシェキとバクー、そして最後のアルメニア教会の総本山エチミアジンまで、文字通りコーカサスを無尽に駆け回る見応えのある映像が続く。

 そして、何より番組の中心は北コーカサスの墳墓群で発見された中国の絹なのである。

 コーカサス山脈という(石坂浩二のナレーションに倣えば)「1100キロの巨大な壁」を縫うように走る古のシルクロード。

 6世紀、ササン朝の重税を逃れるための迂回ルートとしてカスピ海北岸が利用され、その痕跡として北西コーカサス・クバン河上流モシチェワヤ・バルカ(「亡骸の谷間」直訳すると聖骸の窪地となるようだ)墓地群の埋葬品から絹織物などが発見された。

 実際には北ルートは番組のように南北コーカサスを抜けるのではなく、北コーカサスからそのまま黒海に出て、トラブゾン、クリミア航路に接続していたという。番組は年代にも飛躍が大きく、学問的には問題を多く含む内容である。

 ただし、1960年代から専門論文を発表してきたエルミタージュ博物館のイエルサリムスカヤ女史の業績をおそらく下敷きとしており、その意味では先駆的映像とも言えるだろう。

 同女史は中国商人の帳簿と思われる文書断片の発見から、中国人商人自身もこの地域を通過していたと推測している。

 ちなみに2007年にはエルミタージュで『モシェヴァヤ・バルカ:北コーカサスの絹の道の遺跡』という展覧会も開かれており、今後中国の進出と絡めて改めて光があてられていく可能性は十分ある。

虚像と実像のダンス

 映像そのものの力に加えて、筆者の印象に残ったのは、映像が伝える様々な「時間」である。

 中国の黒海進出と言っても、我々は2000年前のことを念頭に置くこともできるし、一方で最新の情勢を考える際にもわずか30年ばかり前を念頭に置けば、また様々な違う見方が広がるだろうということである。

 そもそも、中国とヨーロッパをつなぐシルクロードというとらえ方自体が極めて近代的発想ないし時代性に基づいている。

 そして、いわば欧州の学問を積極的に吸収し、文字通り「東洋学」を発展させてきたロシアと日本のクルーによって『絹と十字架』が20世紀後半に撮影された事実もまた極めて興味深い。

 20世紀の冷戦末期に撮影された『シルクロード』というシリーズそのものが、もはや見ることが容易にかなわないユーラシアの各地の映像記録として貴重である。番組中で平和でのどかな光景の広がるコーカサスでも民族紛争が火を噴くにはまもなくのことなのだ。

 ちなみに『シルクロード』の初回は兵馬俑を取り上げているが、まさに日中友好がうたわれ、苦難の歴史を歩んだ当事者の世代がまだまだ健在な時代に実にのびのびと悠久のシルクロードの歴史について語り合っている。

 今年長寿を全うした陳舜臣も若々しい。つくづく歴史とは必ずしも国が作るものではないと感じる。

 こうした日本のソフトパワーの蓄積を念頭に、近い過去としての20世紀を振り返ることも一興であろう。専門家としては番組の内容にいささか荒唐無稽の念も持ったとはいえ、ユーラシア史の多面的な見方を示唆する『絹と十字架』の映像は強く印象に残った。近視眼ではなく、さりとて過大な過去遡及のまた戒めとなろうか。

 さて、最後に昨年に引き続き、宣伝をお許しいただきたい。勤務先の首都大学東京飯田橋キャンパスでユーラシア史に関する公開講座を10月に全4回で企画している(なお申し込みは9月)。

 本連載の杉浦敏広氏にも昨年に引き続き登壇いただく予定である。イランの核開発を巡る協議が妥結し、制裁解除が見込まれるが、この会議でも中国が交渉国として大きな注目を浴びた。講座は現代情勢を扱うものではないが、その背景として、今一度ユーラシアの歴史を広く考えてみたい。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44423

米国が危機感、アフリカの小国に中国が軍事基地設置

軍事的要衝の地「ジブチ」に日本を見習い拠点を確保

2015.7.30(木) 北村 淳
ソマリア沖の海賊を制圧したCF-151(海賊対処専門の第151合同任務部隊)所属のアメリカ海軍駆逐艦(写真:米海軍)

 オバマ米大統領がケニアとエチオピアを訪問した。アメリカのメディアでは初訪問ということで何かと話題が尽きないようである。

 一方、軍事関係者の間では、エチオピアと国境を接するジブチと中国の関係が関心の的となっている。というのは、これまで親米路線を売り物にしてきたジブチのゲレ大統領が、中国に対してジブチ国内に軍事拠点を設置することを認めたからである。

“基地依存国家”のジブチ

 ジブチ(ジブチ共和国)は、マンダブ海峡に面する軍事的要衝の地である。マンダブ海峡はジブチとイエメンを両岸とし、最も狭い地点の幅はおよそ29キロメートルという狭い海峡である。紅海とアデン湾を結ぶこの海峡には、2海里(およそ3.7キロメートル)幅の航路帯が往復それぞれ1本ずつ設定されており、地中海〜スエズ運河〜紅海〜アデン湾〜アラビア海〜インド洋を航行する船舶・艦艇にとってのチョークポイントとなっている。

 このような軍事的要衝のジブチには、フランス軍、アメリカ軍、それに自衛隊の基地が設置されている。ジブチ経済にとって、アメリカ、フランスそれに日本から得ている基地使用料やそれらの基地での雇用が生み出している収入は2014年度には16億ドルであった。そのためジブチは“基地依存国家”と呼ばれている。

 これら3カ国の基地は、いずれもジブチの首都ジブチ市にあるジブチ国際空港に隣接して設置されている。旧宗主国であったフランスは、ジブチとの条約に基づいてジブチ防衛のための兵力およそ2000名と戦闘機やヘリコプターなどを駐留させている。

 キャンプレモニアと呼ばれるアメリカ軍基地は国際空港よりも広大であり、アフリカ大陸にただ1つ設置されているアメリカ軍基地である。アメリカ軍将兵や民間軍事会社関係者などおよそ4500名の米軍関係者がキャンプレモニアに滞在しており、この地域における情報活動や特殊作戦、それに東アフリカ諸国軍に対する軍事訓練の拠点となっている。

 唯一の自衛隊海外基地であるジブチ自衛隊基地には、2機の海上自衛隊P-3哨戒機が派遣されている。そして、それらの哨戒機を運用する海自航空部隊と、司令部の運営や基地の警備などに当たる支援部隊(海自・陸自)とから構成される海賊対処部隊が、2011年以来常駐している。この海賊対処部隊は、2008年以来、国際社会が協力して実施しているソマリア沖海賊鎮圧活動に参加している自衛隊部隊の1つである。

ソマリア沖の海賊に対処する多国籍海軍

 2005年頃からソマリア沖では海賊が横行し始め、2006年にはアメリカ海軍駆逐艦まで海賊に襲撃された。2007年には日本関係のタンカーを含む多くの大型船が海賊に乗っ取られ、その猛威は納まるところを知らなかった。

 2008年4月にフランスの豪華ヨットまで海賊に襲われると、国際社会が協力してソマリア沖海賊を鎮圧しようという機運が盛り上がった。そして同年6月、国連安保理で国連加盟国が武力を行使してソマリア沖の海賊を鎮圧するという内容の安保理決議1816号が採択された。

 ヨーロッパ連合(EU)は国連決議を実施するため、2008年12月からアタランタ作戦を開始。ソマリアEU海軍部隊を結成してソマリア沖に各国軍艦を派遣し、海賊鎮圧を実施している。また、中東地域で対テロ戦争を継続中のアメリカが主導する多国籍軍の海上部隊である多国籍軍合同海上部隊(CMF)は、2009年1月に海賊対処専門の第151合同任務部隊(CTF-151)を編成し、ソマリア沖海賊の鎮圧活動を強化した。

 ソマリアEU海軍部隊やCTF-151以外にも、自衛隊、中国海軍、ロシア海軍、韓国海軍などをはじめとする各国の海軍が国連安保理決議1816号に基づくソマリア沖海賊鎮圧活動に艦艇などを送り込んでおり、時として相互に協力し合い、商船や航路帯の保護、海賊の鎮圧や捕縛、それに海難救助活動などを実施している。

ソマリアEU海軍部隊に参加し海賊対処活動中のスウェーデン哨戒機(写真:EUNAVFOR)

高く評価されている海自の海賊対処活動

 ジブチ基地を本拠地にしている海自航空部隊は、2011年7月にジブチ自衛隊基地が開設される以前の2009年5月から、ジブチのアメリカ軍基地に間借りする形で現在と同じジブチ国際空港を拠点に活動を開始していた。また、それに先立つ2009年3月からは、2隻の海上自衛隊護衛艦をアデン湾に派遣し、海賊対処活動を開始していた。

 これらの海上自衛隊による海賊対処活動は、2008年に採択された国連安保理決議1816号に基づく国際協力活動として、また国内法的には海上警備行動の発令を受けて始められた(なお、日本の特異な国内法の制約により、海自艦艇には海上保安官も乗り込んでいる)。

 そして、自衛隊の海上部隊と航空部隊の活動が開始された後の2009年6月には、「海賊対処法」(海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律)が成立し、それ以降はこの法律に基づいて自衛隊部隊が派遣されている。

 こうしてすでに6年以上にもわたって日本が展開させている海自P-3哨戒機による空からの警戒監視活動は、自衛隊艦艇のみならずCTF-151をはじめとする各国艦艇の海賊対処活動にとって極めて重要な監視情報を提供し続けており、日本のプレゼンスを大きく示している。

 2013年12月からは海上自衛隊海賊対処部隊も直接CTF-151の作戦に艦艇を編入させて作戦行動を実施しており、2014年2月からは海自P-3哨戒機もCTF-151の作戦に参加し始めた。これにより、アメリカが主導する多国籍海軍と一体化して情報の相互共有も図られ、日本による国際海賊対処活動は極めて効果的となった。

 そして2015年5月からは、CMFの海賊対処活動を統括するCTF-151司令官を海上自衛隊の伊藤弘海将補が勤めており、ソマリア沖国際海賊鎮圧活動において、日本の影響力がますます高まった。

CTF-151司令官に就任した海上自衛隊の伊藤海将補(写真右:CMF)

海賊対処で存在感を高める中国海軍

 ソマリア沖周辺海域の海上航路帯における海賊の横行に対して、日本同様に関心が高かった中国も、日本に先立つ2009年1月からソマリア沖に軍艦を派遣し、アデン湾での海賊対処活動を開始した。駆逐艦あるいはフリゲート2隻と補給艦1隻から構成される人民解放軍海賊対処派遣隊の活動は現在も続けられている。

 アメリカ海軍関係者たちによると「中国の海賊対処艦隊がアデン湾に派遣され始めた当時には、日本やアメリカなどの海軍に比べて様々な分野において中国海軍の練度は確かに低かった。しかし、数年間にわたる海賊対処活動を経験するにつれて、中国海軍の練度は目に見えて向上し、現在は先進海軍に比べても引けをとらないレベルに達している」という。

 また、2011年3月に発生したリビア内戦に際して、中国政府は3万5000名にものぼる在リビア中国人をリビアから撤収させるために大量のチャーター機を送り込んだ。同時に、アデン湾に展開していた海軍部隊をリビアに急行させて、わずか数日間で3万5000名全員を国外に避難させることに成功した。この事例では、中国海軍の実力向上を国際海軍サークルに見せつけることとなった。

 このように、ソマリア沖国際海賊鎮圧活動において、中国海軍も海上自衛隊と同じく、大きな存在感を示しているのである。

中国軍基地の出現を危惧する米軍

 中国は、海賊対処活動による海軍のプレゼンスを示す努力と平行して、アフリカ諸国に対する膨大な額に上る経済的支援やインフラ整備活動を強力に推進している。そして、これまでアメリカに頼りきってきたジブチのゲレ大統領とアメリカの関係がぐらついているのを奇貨として、ジブチに対して急接近を開始した。

 オバマ大統領によるアメリカ国防費大削減に伴い、ジブチのアメリカ軍基地でも雇用削減が打ち出されたため、ジブチの人々の雇用確保問題に発展してしまった。また、1999年以降大統領の地位を占め続けているゲレ大統領は独裁色を強めているとして、オバマ政権は批判を強めている。そのため、アメリカとジブチとの関係はギクシャクしだしているのだ。

 そこに目をつけたのが中国である。これまでのようにアメリカ軍基地を最大のテナントとしていることに不安を覚えはじめたゲレ大統領に対して、海賊対処活動の継続強化に必要な中国海軍の拠点をジブチに設置する話を持ちかけた。アメリカ軍以上の基地テナント料収入、様々な大規模建設プロジェクト、大型の人民解放軍基地での雇用などが見込めるため、ゲレ大統領は中国による基地設置を承認した。

 人民解放軍ジブチ基地は、ジブチ市と海を隔てて近接しているオボックに建設される予定である。オボックには小規模な港と空港があるため、中国が南シナ海での人工島建設で示した海底掘削や埋め立て技術を投入すれば、たちどころにオボックに本格的な港湾施設が誕生してしまい、人民解放軍はインド洋の西端に本格的な拠点を手に入れることになると米軍関係者たちは分析している。

 また、軍港とともに航空施設も整備することは確実であると考えられている。最近になって人民解放軍が開発を進めている海洋哨戒機をジブチ航空基地に持ち込む可能性も視野に入れなければならない。なんといっても、海上自衛隊が2機の哨戒機をジブチに派遣していることが海賊対処活動に大きく役立っていることは各国海軍が認めているのであるから、自衛隊を見習って中国海軍が哨戒機を派遣することに国際社会が異を唱える道理はないのである。

 哨戒機派遣だけでない。人民解放軍ジブチ基地には、中国西部新疆ウイグル自治区南部の航空基地から中国空軍のイリューシン76戦略輸送機がノンストップで到着可能である。人民解放軍が、積載量40トンの大型輸送機で本国との補給を実施できる位置に本格的軍事拠点を開設することは、ジブチのアメリカ軍に対して人民解放軍が優勢な立場を占めかねないと、アメリカ軍関係戦略家たちは大いなる危惧を抱いている。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44406。

米国で怒りが広がる中国政府のウイグル人弾圧

議会・政府委員会で証人が語った過酷な弾圧の現状

2015.7.29(水) 古森 義久
ウイグル自治区にもっと漢民族を、中国戸籍制度改革の裏の意図

中国・新疆ウイグル自治区で、ウイグル人が経営する露店で食事をする武装警察官(2015年4月16日撮影、資料写真)。(c)AFP/Greg BAKER〔AFPBB News

 久しぶりに会ったラビア・カーディルさんに力強く抱擁された。相変わらず強靭な気力と品のある優雅さを同時に感じさせる女性だった。

 カーディルさんは「世界ウイグル会議」の議長である。彼女は私との数年ぶりの再会を大いに喜んでくれ、私にこう語りかけた。

「また近いうちに、ぜひ日本を訪問したいと思います。日本のみなさんの支援を期待しています」

 彼女と話をしたのは、7月23日、米国連邦議事堂の一室で「中国に関する議会・政府委員会」が開いた公聴会の合間だった。委員会は米国の立法府と行政府が合同で設立しており、公聴会の名称は「習近平の中国での弾圧と支配」であった。

 公聴会は主に中国での信仰の弾圧に焦点を当て、その弾圧対象となっている新疆ウイグル地区のイスラム教徒、チベットの仏教徒、中国各地のキリスト教徒、気功集団の法輪功信者の4集団の各代表が証人となった。カーディルさんは最初に登場し、新疆ウイグル地区での中国当局によるウイグル民族への過酷な弾圧の近況を語った。

民族抑圧批判の演説で中国政府が激怒

 私がカーディルさんに初めて会ったのはちょうど10年前の2005年9月だった。ワシントン市内のジョンズホプキンス大学院の講堂で彼女の講演会が催されたときである。

 中国の新彊ウイグル自治区で当局に国家安全危害罪で逮捕された彼女は6年近くも投獄され、ようやく米国政府の中国当局への圧力により米国への移住がその年の春に認められたばかりだった。そして彼女はワシントン郊外に移り住み、米国での活動を始めたのだった。

 新彊ウイグル自治区出身のカーディルさんは、刻苦と商才でビジネスに成功し、中国十大富豪の1人にまで列せられるようになった。だが、1996年の人民大会堂の政治協商会議での演説で、中国政府の逆鱗に触れてしまう。

 彼女の演説の内容は、事前に提出した草稿とは異なっていた。「中国政府はウイグル人の信教の自由や母語を使う権利を奪い、多数の政治犯を不当に処刑している」と述べ、中国政府のウイグル民族抑圧への非難を表明したのである。

 その結果、中国政府による抑圧が始まった。1999年、新彊ウイグル自治区を訪れた米国議会の代表団に、政治犯についての資料を渡そうとして逮捕され、懲役8年の刑で投獄された。米欧諸国や国連関連機関などからは、抗議や釈放の嘆願が沸き起こった。

「日本の人たちに抑圧の悲惨さを知ってほしい」

 2005年、そんな国際的注視を浴びた人物がワシントンで講演をするというので、私も取材に出かけた。講演が終わり、会場を出ようとすると、後ろから小走りに寄ってきた若い男性に呼び止められた。

「ちょっと待ってください。カーディルさんが日本の記者のあなたに、ぜひとも直接お話をしたいと言っています」

 私を呼び止めたのは、カーディルさんの秘書兼通訳を務めるウイグル人男性だった。私が所属や名前を入り口の名簿に記入するのを見たようだった。彼に連れられてカーディルさんに会うと、彼女から熱を込めた言葉をかけられた。

「アジアで最も民主主義の発展した日本の人たちに、私たちウイグル人が受けている非民主的な抑圧の悲惨さをぜひとも知ってもらいたいのです。そのためには、いつか日本に行きたいと思っています」

 正面からこちらを見つめ、手を固く握って語りかけるカーディルさんはカリスマ性さえ感じさせる迫力と魅力に満ちた女性だった。当時の彼女は58歳だった。この会合を機に私は彼女とときどき接触するようになり、日本側の関係者たちにも紹介した。それ以後、彼女は在外ウイグル人の国際組織「世界ウイグル会議」の議長に選ばれ、ノーベル平和賞の候補にもなった。念願の日本訪問を初めて果たしたのは2007年11月だった。

 1930年代にウイグル人は東トルキスタン共和国を建国し、初めて独立を宣言する。しかしまもなく崩壊し、その際、指導者たちは日本に亡命した。そうした歴史的経緯もあり、ウイグル民族は日本への独特の思いがあるのだという。日本を訪れたカーディルさんは靖国神社に参拝し、尖閣諸島については日本の領有権を明確に支持した。

エスカレートしている人権弾圧

 今回、ウイグル民族の苦境をカーディル議長から改めて聴取することになった「中国に関する議会・政府委員会」は、議会と政府の各代表が中国の社会や人権状況を調べて、米国の対中政策の参考にする活動を続けている常設機関である。

 委員長はクリス・スミス下院議員とマルコ・ルビオ上院議員が共同で務める。ともに共和党だが、スミス議員は中国の人権状況をもう20年も調査してきた実績がある。ルビオ議員は若手だが、2016年の大統領選挙への出馬を表明した勢いのある政治家である。

 この公聴会は、中国当局が、習近平国家主席の下で歴代政権よりも過酷で組織的な人権弾圧を進めているという米側の認識に基づいて開催された。

 つい最近、中国当局は自国内で合計200人もの人権派弁護士を拘束したが、これもエスカレートする人権弾圧のほんの一例だとされている。弾圧の対象は、共産党の独裁を批判する勢力に始まり、個人の言論や集会の自由、宗教や信仰の自由を唱える人たち、具体的にはイスラム教徒のウイグル人や仏教徒のチベット人が最大の標的となる。

 なかでも、ウイグル民族に対する弾圧は最も過酷で峻烈だと言える。言語も文化も慣習も漢民族とは異なり、さらにはイスラム教を信仰する少数民族のウイグル人たちを、漢民族主体の中国社会に強制的に同化させようというのが中国共産党政権の年来の政策である。

 ウイグル民族は他の諸国のイスラム教徒との連帯もあり、中国政府の同化政策に激しく抵抗してきた。武力闘争も熾烈で規模が大きい。例えば2009年7月に新疆ウイグル地区で起きた騒乱では、中国政府の弾圧措置に抗議したウイグル人が、中国側の発表でも150人以上、世界ウイグル会議の発表では3000人も殺された。さらに2014年7月にも抗議デモが弾圧され、米国政府の情報ではウイグル人100人以上が中国当局との衝突で殺されたとされる。

容疑不明で逮捕された政治犯は数千人

 そんな歴史的な経緯を踏まえて、カーディルさんは7月23日の公聴会で次のような骨子の証言をした。

・中国当局はウイグル人が信仰するイスラム教を「テロ、分裂主義、過激宗教の三悪」と断じ、信仰の活動をあらゆる角度から規制し、禁止している。信仰活動は共産党公認の組織の命令に従うことを義務づけられ、男性の髭、女性のスカーフも禁じられた。

・イスラム教の「ラマダン」(断食月)も中国当局は許さず、ある小学校、中学校では、生徒と先生の両方がラマダン中に公衆の面前でスイカを食べさせられた。一部の都市ではラマダン中にあえてビール飲みのコンテストなどが開かれ、参加を拒んだイスラム教徒が逮捕された。

・習近平主席は2014年4月に新疆ウイグル自治区の都市カシュガルを訪問し、同市駐留の人民解放軍と人民武装警察の基地を訪れ、警備強化を奨励した。習主席はカシュガルを「対テロ戦争の第一線だ」として、同地の軍や警察を特別に表彰した。

・米国政府の国務省だけでなく国連人権関連機関や民間人権擁護組織は、中国政府の新疆ウイグル自治区での行動を「完全な宗教抑圧、人権弾圧」と断じ、中国独自の憲法やその他の国内法にも違反していると非難する。

・海外で中国政府を批判するウイグル人は、みな故郷に残った家族や親類を弾圧された。私自身も長男が懲役7年、次男が懲役9年と、ともに不明瞭な罪状で投獄された。

・中国政府の命令に従わないウイグル人は相次いで逮捕され、容疑不明の政治犯は数千人、文化人、知識人、宗教指導者など著名な人物の拘束は100人以上となった。その結果、ウイグルの固有の信仰や文化は急速に抹殺されつつあり、国外に脱出するウイグル人が増えている。

 委員会のスミス、ルビオ両議員も、カーディル議長の証言を受けて、習近平政権を厳しく非難した。そして、オバマ大統領に対して、習近平主席が9月に米国を公式訪問する際は中国の人権弾圧問題を米中首脳会談の主要議題として追及するよう求めた。

 中国のこうした少数民族に対する過酷な弾圧は、「今そこにある深刻な人道問題、倫理問題」である。70年以上も前の日本の慰安婦問題などとは比較にならない現在進行形の国家犯罪なのだ。そんな弾圧国家の中国に、人道主義、平和主義の日本が過去の歴史の一断面だけを理由に今なお糾弾されるというのは、あまりにも不自然で、理不尽な現象だと言わざるをえない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/44414

 なぜ米国は中国軍を「訓練」するのか

William Johnson

[23日 ロイター] - 南シナ海をめぐる米国と中国の緊張が高まっている一方で、両国の軍隊は非常に高レベルな合同演習を行っている。中国軍は2014年、米太平洋軍が主催する世界最大規模の国際海上訓練、環太平洋合同軍事演習(リムパック)に初参加した。

こうした演習に参加することで、中国は米国の戦術や技術などを大いに学ぶことができる。

しかし米国が中国に最高レベルの軍事演習を提供する一方で、米軍トップは絶えず南シナ海で対立の度合いを高めている。直近では、米海軍司令官が乗った偵察機が同海域上空を通過し、中国側が複数回にわたり警告するということがあった。

米国は中国に米国流の戦争の仕方を教える一方で、同国との武力衝突へと急速に近づきつつある。

リムパックは米軍が中国軍を「訓練」する数ある機会のうちの1つだ。中国は2008年から、米国が主導するインド洋での対海賊作戦に参加している。当初は、言葉の壁や米国流の戦術や技術、手順に慣れていないことから、中国は単独での監視を任されていた。だが過去7年間のうちに、米国は中国の艦船との関係強化を目指し、連携は改善された。

このような相互運用の強化は、中国軍が対海賊戦術を学ぶことを可能とし、とりわけ長期間にわたり遠洋に配備されている艦船の支援方法などを知るのに役立っただろう。また中国軍は、シリアが放棄した化学兵器を破壊する米軍の活動を支援することで、その方法も学ぶことができたはずだ。

中国は、対海賊ミッションに従事する自国艦船の護衛のため、原子力潜水艦を配備している。米国は実戦訓練として、協調的な環境においてさえも中国の潜水艦を敵に見立てて追跡するだろう。一方の中国もこれを分かっており、こうした国際的な取り組みを利用して、インド洋のディエゴガルシア島やアデン湾に駐留する米軍の対潜水艦戦術を探ることも可能だ。

中国の艦船は定期的にアフリカ北東部のジブチに寄港している。同国には、対過激派作戦を遂行する米国の「アフリカの角・共同統合機動部隊」の本拠地がある。当地でも中国軍は、いかに米軍が同作戦を行っているかを目の当たりにしている。

米中軍の協力関係は、リムパックや海賊対策にとどまらない。今年2月には、中国海軍の将校29人が米国に渡り、海軍兵学校や海軍士官学校、水上戦士学校を訪問。そこでは、世界21カ国が合意した「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」に基づく訓練に参加した。予期せぬ遭遇での誤解を防ごうというCUESの目的は称賛されるが、同訓練を通じて中国は、米艦船が突然の外国船との遭遇にどう対応するか正確に学べただろう。外国船に敵意がある場合は極めて貴重な情報だ。両国の海軍当局者はまた、人道支援・災害救助活動でも合同訓練を実施。向こう数週間では、捜索救援活動での合同訓練も計画している。

こうした米軍による中国軍の「訓練」は、軍内部や政界にさまざまな反応を引き起こしている。元米海軍司令官ジェームズ・ライオンズ氏は「われわれは自分たちを危険にさらしながら、救いがたいほど攻撃的な国家の軍発展を手伝っている。オバマ政権と国防総省の中国政策の中心は何かが非常に間違っている」と述べた。

筆者もオバマ政権の中国政策には賛同しないが、軍同士の関係断絶が解決策だとは思わない。むしろ、軍同士の関係親密化を呼びかけるスーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)の意見に賛成する。

南シナ海での中国に対する攻撃的な態度は、米国の国益に反する。米国は、対中強硬論を抑えるべきであり、積極的な軍事行動は慎むべきだ。そうした行動は逆効果であり、近視眼的だ。米国は最重要の戦術や技術などには注意を払いつつ、軍同士の協力を強化すべきだ。一発の砲弾も飛んでいない限り、南シナ海問題は外交に委ねるべきだ。

*筆者は、元米空軍将校で外交にも携わっていた。米空軍士官学校では哲学教授を5年間務め、2009─2011年には米太平洋特殊作戦軍(SOCPAC)の上級政務官だった。軍を退役後は、米海軍大学院で中国政策に関する助言も行っている。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

http://jp.reuters.com/article/2015/07/27/column-us-china-military-idJPKCN0Q10C420150727?sp=true

中国に甘すぎる米国、その源流を徹底検証

変化著しい米国の安全保障戦略

2015.7.30(木) 渡部 悦和
中国とロシアを「安全保障脅かす国」に、米国家軍事戦略

南シナ海で実施された米国とマレーシアの合同演習で、米海軍の空母カール・ビンソンの上空を飛ぶ両軍の戦闘機。米海軍提供(2015年5月10日)〔AFPBB News

 米国統合参謀本部は、7月1日に「国家軍事戦略(NMS: National Military Strategy)」を4年ぶりに発表した。

 今回のNMS自体は、米国の安全保障を研究している者にとっては驚くような内容ではないが、バラク・オバマ政権下における最後のNMSであると同時に10月に交代するマーティン・デンプシー統合参謀本部議長の最後の報告書である点に特色がある。

 本稿においては、最近1年半ばかりに立て続けに発表された「4年ごとの国防計画の見直し(QDR: Quadrennial Defense Review)」(2014年3月発表)、「国家安全保障戦略(NSS: National Security Strategy)」(2015年1月発表)を改めて読み返しつつ、オバマ政権が6年半を経て到達した安全保障に関する政策や戦略について考えてみる。

 そしてこの作業は必然的に過去の政権特にジョージ・W・ブッシュ政権の安全保障戦略に触れることであり、将来の米国の戦略を予測することでもある。

 オバマ大統領は現在2期目の半ばを過ぎ、残り18か月の任期を残すのみとなった。米国の各種メディアでは既に次期大統領選挙に関する報道が盛んになっていて、オバマ政権のレームダック化が心配されたが、なかなかどうしてオバマ大統領は予想に反して健闘している。

 2014年11月の中間選挙で大敗して以降、開き直ったかのように2期にわたる大統領職の総仕上げであるレガシー(遺産)作りに集中し、キューバとの国交回復、イラン核協議における歴史的合意などの成果を達成している。

 野党である共和党の多くの議員はオバマ大統領のレガシーに反対しているが、米国のマスコミは“Obama's Big Summer”という表現を使い6月から7月にかけてのオバマ大統領のレガシー作りの成果に驚いている。

 前任者であるジョージ・W・ブッシュ前大統領は、イラク戦争をはじめとする対テロ戦争におけるあまりにも傲慢で独善的な単独主義(unilateralism)や覇権主義を国内外から批判された。米国は時に過剰な干渉主義により世界の平和に悪影響を及ぼすが、ブッシュ氏の覇権主義はその典型であった。

 米国内での厭戦気分の高まりを受けたオバマ大統領は、ブッシュ氏の過度な対外的干渉を批判し、「紛争は一義的に紛争当事国や関係者が解決すべきである」という立場を採用した。

 IS(イスラム国)への対処において典型的であるが、米国の軍事力、特に地上戦力(陸軍や海兵隊)を紛争解決のために極力使用しないこと、単独主義を排除し「同盟国およびパートナー国とのグローバルなネットワークの強化」を強調する多国間主義(multilateralism)を採用している。

 オバマ大統領は、優柔不断で弱い大統領だ、外交に関して無知だなどと批判されてきたが、彼の多国間主義はブッシュ氏の単独主義(覇権主義)よりはましである。

 しかし、ここに至るまでにオバマ政権の外交は揺れ動き、不手際が目立った。例えば、対中国外交であるが、中国による南シナ海人工島建設、中国による国家ぐるみのサイバー戦、中国主導によるアジアインフラ投資銀行(AIIB)などに有効に対処できていないし、シリア政府が化学兵器を使用した際の米軍の投入を示唆するレッド・ライン発言とその後の軍事行動の撤回などは典型的な不手際である。

 実は、この不安定なオバマ政権を同盟国として強烈に支えたのは安倍晋三首相である。安倍政権に対する深い理解に乏しいオバマ政権に対し、安倍首相はぶれることなく自らの信念を貫き通してきた。

 その成果が4月から5月の「日米防衛協力のための指針」の改定と米国議会における演説の成功であり、安全保障関連法案の衆議院通過である。当時の民主党政権(特に鳩山由紀夫氏と菅直人氏)が無茶苦茶にした日米同盟をここまで修復してきたのは安倍首相のおかげであり、オバマ大統領はもっと安倍首相に感謝すべきであろう。

 米国では来年に迫った大統領選挙に向けた民主党および共和党の候補者争いが本格化してきた。彼らの主張を聞いていると米国の安全保障政策はまた「揺れる」と思わざるを得ない。

 米国の対外政策は、ブッシュ氏の最悪の単独主義(覇権主義)から、オバマ氏の多国間主義に変化した。共和党の各候補は反オバマ色の強い勇ましい対外政策を主張しているが、米国の置かれた安全保障環境を真剣に分析して発言しているとはとても思えない。

 本小論においては、米国の対外政策の変化を、国際政治における対外政策の類型、特に米国の覇権戦略などを切り口にしながら、明らかにしたいと思う。

 なお、使用した主要な参考文献としては、青山学院大学教授の山本吉宣「帝国の国際政治学 冷戦終結後の国際システムとアメリカ」やマイケル・リンド(Michael Lind)*1“AMERICAN WAY OF STRATEGY”などである。

 特にリンドは米国の対外政策を極めて率直に本音で記述しているために米国の対外政策の歴史を理解するのに有益であった。当然ながらオバマ政権下における公式文書である「国家安全保障戦略(NSS)」、「国家軍事戦略(NMS)」、「4年毎の国防戦略見直し(QDR)」を使用した。

*1=New America Foundationのシニア・フェロー、米国務省外交研究センターの所長補佐、National Interestの編集長などを歴任した

米国の対外政策の類型

 ブッシュ氏とオバマ氏の安全保障政策を理解するために、米国の対外政策の5つの型を考えてみた。まず第1段階で孤立主義(isolationism)かそうでないかで分類し、第2段階で多国間主義か単独主義かで分類し、第3段階でリベラリズムかリアリズムかで分類する。この5分類は山本吉宣教授の6分類を参考にし、それをさらに単純化したものである。

●孤立主義:対外的な関与をしない。米国の価値観の強要や軍事的介入をしない

●多国間主義
(リベラリズム):価値観の共有を重視
(リアリズム):力の均衡を重視、同盟とか有志連合を活用

●単独主義
(リベラリズム):米国単独でも価値観を強要
(リアリズム):軍事力の役割を重視、米国単独でも卓越した軍事力で介入(卓越戦略)

○孤立主義:対外的な関与をしない。米国が考える普遍的価値(自由、民主主義、人権など)を他国に強要しない。他国の紛争に巻き込まれることを回避する考え方

○「多国間主義のリベラリズム」:諸問題を多国間で解決する、その際に米国の価値の共有を重視する考え方

○「多国間主義のリアリズム」:諸問題を多国間で解決する、その際に軍事や国家間の勢力均衡を重視する考え方

○「単独主義のリベラリズム」:諸問題を単独でも軍事力を背景に解決する、その際に他国に対し米国の価値を強要するという考え方

○「単独主義のリアリズム」:諸問題を単独でも圧倒的な軍事力を背景として解決する、その際に軍事力の役割を重視する。究極的には米国の卓越したパワーのみが平和を保障するという考え方

 この戦略を本稿では「卓越戦略」(primacy strategy)と呼ぶ。そして、単独主義全体を「覇権戦略」(hegemony strategy)と呼ぶことにする。

 歴史を振り返ると米国の対外政策は、最も消極的な「孤立主義」から最も積極的でアグレッシブな「卓越戦略」までの間で揺れ動いてきた。

 ブッシュ政権の対外政策は明らかに単独主義であるが、リベラリズムとリアリズムの両面性を持ち、「米国は、単に軍事的・経済的に卓越した力を持ち単独でも行動できるだけではなく、その奉ずる価値(自由、民主主義、人権など)を世界に広める責務を有している」と考え、イラク戦争を実施した。典型的な単独主義(覇権戦略)である。

 オバマ政権の対外政策は多国間主義である。そのNNS、NMS、QDRにおいて、米国の価値の重要性を強調するし、同盟国や有志連合を重視することから多国間主義のリベラリズムとリアリズムの両方の要素が混在しているが、「多国間主義リベラリズム」の傾向が強い。

 例えば、2015NSSはそのことを強く示唆していて、NSSではわざわざ第W章として「価値(Values)」の項目を設けて自由、民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値を追求することを強調している。リベラリズムはしばしば自らの価値観を他国に強いる傾向があり、オバマ政権の対外政策でも米国の価値を他国に強要する傾向があり、問題である。

 サムエル・ハンチントンは、その著書「文明の衝突」において、「米国と西欧は、世界を多くの文明からなる存在として認め、決して単一文明(つまり西欧文明)に染め上げようとしてはならない。西欧文明を普遍的な文明と思い込んで世界に押し付けていくと、西欧は世界中を敵に回し、本来ならもっと長続きしたはずの西欧の優位を早期に失うことになる」と警告している。

 ブッシュ氏は単独主義、オバマ氏は多国間主義と違いはあるが、共に米国が信じる価値観を他国に強要している点が問題である。

 米国の価値観は米国の中で実現すればいいのであって、米国式の自由とか民主主義が他の国々に一様に適用されるべきであると信じているところに傲慢さがあり、他国との関係において様々な論争を引き起こす。

 ロシアとか中国が米国を批判するときに「米国による価値観の強要」にしばしば言及するが、その点に関してだけは彼らの言い分は妥当なところがある。

歴代米国政権による世界覇権の追求

 オバマ政権の特徴を明確にするためには、米国の歴代政権特に冷戦終結後の政権が何を目指してきたかを理解することが重要である。

 多くの学者などが指摘するように、冷戦終結後の米国の歴代政権[ブッシュ(シニア)・クリントン・ブッシュ(ジュニア)政権]に共通する外交戦略は、国際社会において、米国が半永久的に世界覇権を握るというものであった。

 世界の覇権、米国の一極構造を実現しようとしたのである。しかし、完全な形の一極構造を実現することはできなかった。過去の世界史を見ても、世界を一極支配しようとした国はすべて失敗してきた。

 米国のエリートたちの見果てぬ夢が「米国による世界覇権」、「米国による一極構造」である。

 なお、ここで言う一極構造は、クリストファー・レイン*2の定義に基づき、「一国のパワーが地政学的に圧倒的であり、そのパワーに対抗し、打ち勝とうとする集合体によるバランシング*3の行為を不可能とするほどの能力を保有する」というものである。

*2=クリストファー・レイン(Christopher Layne)は、米国の政治学者、Texas A&M University教授、ネオリアリストの1人

*3=バランシングとは、力の均衡を保つことを目的とする、相手国への対抗策である。その具体例は、同盟を結ぶこと(external balancing)、自国の軍事力を強化すること(internal balancing)などである

 この定義に従うと、米国はそこまでのパワーを有していなくて、冷戦終結直後から現在に至る間の世界システムは一部の学者が言うような一極構造ではなく、「米国を筆頭とする多極構造」であると筆者は考えている。

 ちなみにサムエル・ハンチントンは、21世紀において明確な多極世界を迎えるまでの世界を「単・多極世界」(uni-multipolar world)」(超大国米国とその他の大国が存在する世界)と呼び、中国では「一超多強」(一超は米国、多強は中国、ロシア、EU、インド)と呼んでいるが、筆者の「米国を筆頭とする多極構造」とほぼ同じ意味である。

 ブッシュ(ジュニア)政権には多くのネオコンが入っていて、その対外政策は明らかにネオコンの影響を受けていた。ネオコンの基本的考えは、「米国の利益と価値に合致するように世界を形作ること」であり、「世界に自由と民主主義を広めよう」と主張した。

 ネオコンの考えは対外政策の類型における「覇権戦略」に分類されるが、ネオコンの中には米国の覇権は「善意ある覇権(benevolent hegemony)」であると傲慢にも表現し、これを追求すべきであるという者(Robert Kagan)さえいた。

 そして多くの国際政治学者やネオコンは、グローバルな覇権を追求する米国を「グローバルな帝国」と呼んでいた。

 ネオコンの考え方の特徴を4点列挙すると以下のようになるが、その考え方がいかに極端なものであるかを理解してもらえると思う。

(1)世界の諸問題を白か黒か善悪二元論で見る。
(2)米国の対外政策の目的は、民主主義、自由、人権などの米国が普遍的と認める価値を世界に広めリベラルな世界秩序を構築することである。

(3)軍事力は米国の対外政策において不可欠な要素であり、強大でなければならない。
(4)軍事力は最後の手段ではなくて、最初の手段であり、先制攻撃も辞さない。

 なお、先制攻撃論については、2002年のブッシュ氏のNSSでブッシュ・ドクトリンの1つの要素として発表されている。

 リアリスト派の国際政治学者たちは、ネオコンが支持するイラク戦争に反対し、「イラク戦争は米国の国益に合わない。米国による一極支配は不可能だ。余計なことはしない方がいい」と主張してきたが、彼らの主張が正しかったことは歴史が示している。

 イラク戦争やアフガニスタン戦争で米国が苦戦を強いられる以前は、米国を「唯一のスーパーパワー」と表現する者が多かった。

 しかし、米国が推し進めた「テロとの戦い」が示した現実は、米国は大国ではあるが、すべてを単独で解決できるスーパーパワーではなかったという事実である。イラク戦争などの愚かな行為により逆に多極化への流れを加速させたというのが現実である。

 米国の相対的な国力は、特にイラク戦争の失敗や中国の台頭などにより着実に低下し、今や誰の目にも、現在の世界システムが米国の一極構造ではなく、多極構造であることが明らかになってきたのである。

イラク戦争以降における米国の影響力の低下

 今まで記述してきたように米国の影響力の低下の大きな要因はイラク戦争である。ズビグネフ・ブレジンスキー*4はその著書“Second Chance”で手厳しくブッシュ氏を批判し、次のように記述している。

 「イラク戦争の最も重大な影響は、アメリカのグローバル・リーダーシップが信用を失った点だ。もうアメリカの大義では世界の力を結集できなくなり、アメリカの軍事力では決定的な勝利を収められなくなった。アメリカの行動は同盟を分裂させ、対立相手を結束させ、敵と悪党に塩を送った。混乱に陥れられたイスラム世界は、アメリカに激しい憎悪で応えた。アメリカの政治手腕に対する敬意は先細りとなり、アメリカの指導力は低下の一途をたどっていった」

 イラク戦争はパンドラの箱を開ける行為であった。米国の影響力は低下する一方で、多くのイスラム過激派が米国に対する怒りや憎悪ゆえにその活動を活発化させ、残忍な活動を中東やアフリカを中心に展開しているのである。

 そして、中国やロシアなどの米国主導の秩序に反対する国々も自国の国益に沿った反米的な活動を活発化させた。その結果がロシアによるクリミア編入とウクライナ東部へのロシア軍の侵攻である。

 そして今や、オバマ政権にとっての最大の脅威は中国でもなく、ISでもなく、ロシアだというのである*5

 また、今回のギリシャ危機においても7月6日付けの英フィナンシャル・タイムズ(FT)が鋭く指摘しているように、米国の欧州における影響力の低下は明白で、米国がこの危機を解決する能力を有していないことが明らかになった。

 欧州各国はイラク戦争前後から米国の言うことを聞かない傾向にある。欧州の米国離れのその他の例としてNATO(北大西洋条約機構)各国の国防費の問題と中国が主導するAIIBへの参加問題がある。

*4=ポーランド生まれの著名な政治学者でカーター政権時代の国家安全保障問題担当大統領補佐官

*5=2015年版の国家軍事戦略における評価

 NATOの主要国は、ロシアによるクリミア併合やウクライナ東部での戦闘にもかかわらず、各国の国防費の基準であるGDP(国内総生産)2%を守ろうとしていない。

 ちなみに欧州の雄であるドイツの国防費はロシアによるクリミア併合にもかかわらずGDPの1.2%にまで低下し、米国の国防費増額要求に応えていない。

 そして、AIIBに至っては米国の反対にもかかわらず、大部分の欧州主要国がAIIBに参加を表明したのである。欧州はより一層、米国の影響力を離れ自律的に行動しているのである。

多国間主義で同盟国等の協力を重視するオバマ政権

 オバマ氏は、ブッシュ氏が無茶苦茶にした米国(前述のブレジンスキーの言)を立て直す使命を帯びて大統領に就任し、リーマンショックの痛手から経済を立て直し、イラク戦争を終結させ、アフガニスタンにおける戦闘任務も終結させた。単独主義を排除して、米国のさらなる国力の低下を防いだと評価できる。

 オバマ大統領は、米国のみで世界の諸問題を解決できるとは思っていないし、単独主義に基づく対外政策を努めて避けている。「米国はもはや世界の警察官ではない」と発言をしたオバマ大統領は、世界の覇権、米国による一極構造を追求しないことを公の場で宣言したことになる。

 この点が歴代の政権とは大きく違う点であり、米国の限界を認め、世界の多極構造を認め、世界の諸問題に対して米国の同盟国や友好国に協力を求めることになった。ブッシュ氏の姿勢とは正反対の姿勢であるが、影響力が低下する米国を取り巻く安全保障環境の中でオバマ氏の姿勢は適切で当然なものである。

 この「米国はもはや世界の警察官ではない」という発言は、2013年9月10日のテレビ演説でなされ、彼が内政でも外交でも八方ふさがりで自らに対する自信をやや喪失していた時期のものである。

 米国内外で批判されたのは、シリア政府の化学兵器の使用に対して一度は「レッドラインを越えるものであり、米国は軍事行動で対応する」と発言したにもかかわらず、議会や国民の反対を受け軍事行動を断念した点にある。

 オバマ大統領はこの時期、世論に対し敏感すぎるくらいに敏感で、この決断の際のギャロップ社の調査では武力行使賛成が36%に対し、反対は51%、CNNの調査では「米議会は武力行使を承認すべきでない」が59%であった。

 さらに、退役軍人や連邦議員から「米国は、世界の警察官でなければいけないのか」という書簡を受け取っていて、この米国内の世論が彼の決心変更につながったのである。

 ところが、オバマ大統領は、2014年11月の中間選挙で大敗するとかえって吹っ切れたかのように積極的な言動をするようになった。

 2015NSSで、「米国は、世界の様々な諸問題(ISなどの過激暴力集団、サイバー安全保障への脅威、ロシアのウクライナ侵略など)に対処するユニークな能力を保持し、米国が国際社会をリードしなければならない。強くて継続的な米国の指導力がルールに基づく国際秩序にとって不可欠であり、その秩序が全ての人々の尊厳、人権、グローバルな安全や繁栄を増進する。今問われているのは、米国がリードしなければいけないか否かではなくて、いかにリードするかである」と力強く宣言している。

 オバマ政権の多国間主義を明瞭にしたのが2015NMSである。NMSでは「同盟国及びパートナー国とのグローバルなネットワークの強化」の項目を設け、その重要性について記述している。

 「同盟国及びパートナー国とのグローバルなネットワークの強化」を重視するという表現は最近頻繁に使われていて、その具体的な例がISに対応するために60か国以上の国々と有志連合を結成している事実である。

 NMSの記述における同盟国及びパートナー国の順番が興味深い。地域別ではアジア太平洋がトップで次いで欧州、中東、ラテンアメリカの順番であるが、米国がアジア太平洋を重視するのはオバマ政権がQDRで宣言したリバランス政策からして当然である。

 また、アジア太平洋地域の中での順番であるが、同盟国としてはオーストラリア、日本、韓国、フィリピン、タイの順であり、その他の国家としてはインド、ニュージーランド、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ベトナム、バングラデシュである。

 この順番は米国における重要度から判断しているとみていいだろうが、日本の前にオーストラリアが来るのである。冷戦時代であれば間違いなく日本が米国にとっての要(linchpinまたはcorner stone)として1番目に来たであろうが、オーストラリア1番、日本は2番が米国の現在の評価なのである。

 米国が中国とのバランシングを考えた場合、日本やオーストラリアなどの同盟国とインドなどの友好国を活用して中国の台頭を牽制することになろう。

オフショア・バランシング(遠隔地からの勢力均衡)的な要素

 「同盟国及びパートナー国とのグローバルなネットワークの強化」を強調するオバマ政権の対外政策にはオフショア・バランシング(OB: Offshore Ballancing)的な要素がある。先に述べたにおける多国間主義のリアリズムがOBに相当する。

 OBは、18世紀から19世紀の英国が採用してきた典型的な対外戦略である。英国は、欧州の潜在的な覇権国を封じ込める際、欧州大陸の大国にバランシング(勢力均衡)を担当させ、自らは可能な限り大陸から離れた島国で外交中心のバランシングをする。自国への直接的な脅威に対してのみ軍事力を使用したバランシングを行うという対外政策である。

 ブッシュ政権の過剰な対外干渉主義が失敗し、その反省によりOBが注目されるようになった。OBの論者にはシカゴ大学教授ジョン・ミアシャイマーやクリストファー・レインがいて、その主な主張を列挙すると以下のようになる。

(1)覇権国米国の究極の目標はユーラシア大陸における覇権国の台頭を防ぐこと。現在の状況に当てはめると中国の覇権的な台頭をいかに防ぐかが目標になる。

(2)ユーラシア大陸から新たな覇権国になる大国が台頭すると、同じ地域に所在する他の大国にバランシングさせ、米国自らは「オフショア・バランサー」(遠隔地から勢力均衡を図る国家)として行動し、その地域の大国に責任転嫁(バックパッシング)する。

 このことは、アジア太平洋地域で中国に対するバランシングを日本、インド、オーストラリアなどに任せるということになる。

(3)OBは「孤立主義」ではなく、限定的な介入は必要に応じ実施する。例えば、南シナ海における中国の人工島建設に対し政府要人による批判声明や偵察機や艦艇を派遣し牽制するなど。

(4)責任転嫁した国々のバランシングが失敗すると、米国自らが新たな覇権国に対して直接バランシングする。

 OBについては、ロバート・ゲイツ元国防長官が、陸軍士官学校でのスピーチ(2011年2月25日)で「OBは米国の次の大戦略である」と述べているが、オバマ政権下で長年国防長官として勤務したゲーツ氏の言葉だけに注目される。

 オバマ政権は、自らの対外政策がOBであると宣言はしていないが、日米ガイドラインにおける日本のグローバルな役割分担要求、ISに対する有志連合での対応、ロシアのクリミア編入とウクライナ東部への侵攻への対処などを観察するとOBの要素を見出すことができる。

米国のライバルは脱落していった

 米国の外交アナリストであるマイケル・リンド(Michael Lind)の著書“American Way of Strategy”は米国の覇権戦略について本音を語り、大きな反響を読んだ著作であるが、次のような一節がある。

 「米国の政治家たちはリベラルな国際主義を世界秩序の基本とした。米国が19世紀に大国として台頭して以来、二つの目標を堅持してきた。北米における米国の覇権を維持することと、欧州、アジア及び中東において敵対的な大国の覇権を予防することである」

 「二つの世界大戦において多極世界における大国の協力により北米以外の地域における覇権国の強大化を妨害してきた。ソ連の崩壊以降、1990年代と2000年代の米国指導者は、冷戦時代に構築した覇権的な同盟システムを米国による半永久的なグローバル覇権に転換した」

 「歴代の大統領がいかなる政策や戦略を宣言しようと、米国の実際の戦略は卓越(primacy)戦略である。卓越戦略の二つの目的は、米国が他国に安全を提供することにより、リベラルな世界秩序を構築することとソ連のような新たな潜在的ライバルの出現を妨害することである」

 「それを覇権と呼ぼうと卓越と呼ぼうと、この全ての地域を力で支配しようという冷戦終了後の米国の計画は、他の裕福で軍事力のある大国と協調し平和維持を分担しあうという冷戦終了以前の政策からのラディカルな転換なのである」

 リンドが記述しているように、米国は自らのグローバル覇権を確立するために他の覇権国の台頭を妨害してきたのである。具体的には冷戦期のソ連、日本、ドイツである。

 第2次世界大戦後、世界は東西両陣営に分かれ厳しい冷戦時代を経験したが、1991年のソ連崩壊によりあっけなく勝負はついてしまった。これほど早く簡単にソ連が崩壊するとはだれが予想したであろうか。

 1978年に陸上自衛隊に入隊以来、ソ連の侵攻にいかに対処するかを考え続けていた私は驚きを禁じ得なかった。いずれにしろ、米国は西側諸国とともに最大のライバルであるソ連との冷戦に勝利し、ソ連は崩壊したのである。

 米国にとって冷戦間における最大のライバルはソ連ではあったが、第2次世界大戦で敵として戦った日本とドイツに対しても警戒心を持ち続け、両国に対しても様々な方策を駆使しその勢力増大を抑えてきた。

 例えば、ドイツを封じ込めるためにNATOを活用してきた。NATOは「米国を引き込み、ロシアを締め出し、ドイツを押さえ込む」ための組織であると言われる。ドイツをNATOに閉じ込め、米国が核の傘を提供するという構図の中でドイツの核武装を許さなかったし、ドイツが米国の影響力を離れ独自の行動をとることを牽制してきた。

 日米関係について言えば、1970年代〜90年代における米国の経済面での最大のライバルは日本であった。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授が1979年に書いた“Japan as Number One: Lessons for America”は特に有名だが、多くの米国人が日本に脅威を感じていた。

 特に日本経済の黄金期であった1980年代の米国人は日本を最大の経済的脅威として認識し、日本に対し様々な戦いを仕かけてきた。典型例は日米半導体戦争であり、半導体分野で首位を転落した米国のなりふり構わぬ日本たたきと熾烈な巻き返しは米国の真骨頂であった。

 当時の米国は、「米国の盛衰は半導体にかかっている」、「半導体で日本に敗北すると米国の基幹産業であるコンピューター分野も危うくなる」という危機感に満ちた認識であった。

 「日本にはNumber Oneを許さない」という気迫に日本は敗北してしまった。この雰囲気は今年の女子サッカー世界大会の決勝において米国女子チームが序盤で示した凄まじいまでの気迫と相通じるものがある。日本にはNumber Oneを許さないという気迫である。

 様々な米国の仕かけは成功するとともに日本の自滅(バブルを発生させてしまった諸施策とバブル崩壊後の不適切な対処)も重なり、日本のバブル崩壊後の失われた20年を経て日本は米国のはるか後方に置いて行かれたのである。

次は覇権国中国に対していかに対処するか?

 そして今や中国が米国にとって最も手強い覇権国家になっている。しかし、2015NMSにおける脅威認識では、ロシア、イラン、北朝鮮の順番に批判して、最後に中国について記述している。この順番には現在のオバマ政権の対中国脅威認識が如実に出ている。

 中国に対しては次のように記述している。

 「我々は中国の台頭を支持し、国際安全保障の偉大なるパートナーとなることを奨励する。しかし、中国の行動はアジア太平洋地域に緊張をもたらしている。例えば、南シナ海のほとんど全域に対する中国の領土要求は国際法に沿っていない」

 「国際社会は、引き続き中国に対して当該事項を強圧的にではなく協力的に解決することを要求する。中国は、死活的に重要な国際的シーレーンに影響を与える地域における軍事力の駐屯を可能にする攻撃的な埋め立て工事で我々の要求に答えた」

 この中国に対する評価は抑制的になされている。

 米国の対外政策の基本は、欧州、アジアおよび中東において敵対的な大国の覇権を予防することであるが、オバマ政権の対中政策はこの点で伝統的なものではない。

 オバマ政権の対中政策は、「関与(engagement)とヘッジ(hedging)」という表現がよく使われ、中国とは関与を続けていき国際社会のルールに従う国家に誘導していくが、関与が失敗した場合に備え警戒と抑止を怠らないということである。

 オバマ政権の初期の段階には協調や関与が色濃かったと思う。中国を脅威とする見方を採用せず、「中国の平和的台頭を歓迎する」という言葉を連発し、大国中国と折り合いをつけながら付き合っていこうとする発言、行動が随所に見られた。

 米国の歴史においてこれほど台頭するライバルに寛容である政権は珍しい。中国は米国にとって今までのソ連、日本、ドイツなどとは違う最も強力な軍事力と経済力を兼備するライバル国家である。

 オバマ政権は、覇権戦略ではなく多国間主義を採用しているが、強大化する中国に対しては甘すぎる対応が目立つ。関与と協調に重心を置くのではなく、ヘッジと対処に重心を置くべき段階に来ていると主張する共和党の議員は多い。

 中国の米国に対する行為を観察すると、米国が中国による挑発的行為をどこまで我慢するか試しているように思える。過去の米国政権であればこのような国を許しはしなかったであろうが、オバマ大統領は忍耐強い。

 一方で、かつての日本がバブルの崩壊後にその国力と影響力を低下させていったように、上海株式市場の大暴落やその他の分野における中国経済の不振は中国のバブルの崩壊を予感させ、日本が歩んだのと同じ自滅の道を歩むことになるのか否かが注目される。

 現在の中国政府の不適切な政策を見ていると日本と同じく米国に対する敗北の道を歩む可能性もあろう。つい最近まで中国が米国のGDPを抜き、習近平国家主席の「中華民族の偉大なる復興」が実現するのではないかという予測があっただけに、状況は変化している。中国の今後の動向が注目される。

大国間の戦争はあるか?

 面白味に欠ける2015NMSの中で「今日、米国が主要な大国と国家間戦争に巻き込まれる可能性は低いが、増大している(Today, the probability of U.S. involvement in interstate war with a major power is assessed to be low but growing.)」という記述は注目に値する。

 この記述は特にロシアのクリミア併合やウクライナ東部でのロシア軍の介入を受けての記述だと思われるが、NATO対ロシアの構図だけではなく、大国家間戦争の本命は米中の軍事的衝突だと多くの専門家が指摘する。

 例えば、2015NMSを注意深く読むと、次のような興味深い記述がある。

 「(過去10年間、米軍の作戦は、主として過激暴力ネットワークに対する作戦であったが)、現在及び予見しうる将来、国家主体による挑戦により多くの注意を払わなければいけない」として、「それらの国家主体が地域的な移動の自由に挑戦したり、米国本土に脅威を与える能力を高めている。弾道ミサイルの拡散、精密打撃技術、無人機システム、宇宙及びサイバー戦能力、大量破壊兵器、米軍の軍事的優位性に対抗し、グローバル・コモンズに対するアクセスを削ぐ技術などが特に注目される」

 これらの記述は接近阻止/領域拒否(A2/AD)について述べていて、中国を名指ししていないが、明らかに中国を意識した表現である。NMSが統合参謀本部の文書であり、米中対決という最悪の事態に備える任務を有することから当然の記述である。

 統合参謀本部をはじめとする米軍は、最悪の事態に備えるという任務の本質上、将来の主要な大国との国家間戦争への備えを実施していくことになる。そのためのオバマ政権の戦略が「同盟国及びパートナー国とのグローバルなネットワークの強化」による対処なのである。だからこそ、大国間の戦争を抑止する観点からも日米同盟は今後とも非常に重要である。

 我が国としても、米国の戦略をよく理解し、自らの国益を中心として、いかに自国に対する攻撃を抑止するのか、抑止が破たんした場合にいかにして我が国を防衛するのか、地域や世界の平和と安定にいかに貢献していくかを真剣に考えなければならない時なのである。

 その意味で今回の安全保障関連法案は非常に重要である。変化してやまない厳しい安全保障環境の中で我が国がいかに生き抜くのかを真剣に考えその方策を法案として提出する政党は立派である。その反対に、対案を提出することなくただ非論理的に批判のための批判を繰り返すのみの政党には未来はない。

結言に代えて:エズラ・ヴォーゲル先生の助言

 先日、エズラ・ヴォーゲル先生のお宅で50分にわたり面談する機会に恵まれた。その際に、「非常にいい時に米国に来た。大統領選挙を巡る動きの中で様々な主張を聞くことになろうが、それは良き勉強の機会になる。米国は民主主義国家でありたくさんの異なる意見がある。それは良いことでもあるし、困ったことでもある。多様な意見を聞くことにより自らの考えを確立してもらいたい」という助言をいただいた。

 また、中国について様々な質問をしたのに対して、「見ていてごらん。いかなる人が大統領になろうとも、中国に対しては関与とヘッジにならざるを得ない」と確信をもって発言されていた。85歳になってもかくしゃくとして、穏やかに、柔らかく持論を展開されるヴォーゲル先生にはただただ頭が下がる思いであった。

 米国の安全保障政策や戦略を構築してきたのは米国社会の中でも一握りのエリートたちである。しかし、その政策や戦略も時として極端に不適切に振れる時があった。政権が代わると大きく変わる部分と変わらない部分がある。何が変化し何が不変なのかを冷静に観察し、その観察に基づき自らの考えを確立していこうと決意した次第である。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44404

 

コメント
 
1. 2015年7月30日 01:40:25 : jXbiWWJBCA
中国が書き換え狙うインターネットのルール、米の影響避ける
By JAMES T. AREDDY
2015 年 7 月 29 日 12:36 JST

 【上海】ソーシャルメディアが中東や北アフリカの政権崩壊を後押しした時、中国人民解放軍の上級大佐は、米国に支配されているインターネットが中国共産党政権を転覆させかねないと公然と警告した。

 この上級大佐ともう1人の中国人研究者は、中国共産主義青年団の機関紙「中国青年報」の共同論文で、インターネットが世界支配の新たな形だと指摘した。そして、中東や北アフリカの民衆蜂起の背後に米国の「影」があったケースもあると述べ、中国当局はもっと注意を払った方がよいと主張した。

 それから4年が経過した現在、中国は大いに注意を払っている。それどころか世界のインターネットのルールを書き換えようとしている。狙いは、世界最大のインターネット人口を持つ中国のユーザーを、相互につながり合った世界共通のネットから引き離すことと、ネットの一部を中国のやり方で運営することだ。

 中国政府が描く未来は、各国政府が国境警備隊のようにネット上のやりとりを監視するというものだ。長年デジタル界を率いてきた米国にルールを決めさせるものではない。

 習近平国家主席は、政府内の保守派、学者、軍部やハイテク業界の支援を得て、中国デジタル界の事実上全ての分野に影響力を及ぼそうとしている。半導体からソーシャルメディアまでだ。基本的にどこでも同じインターネットを提供する国際的なシステムを破壊しようとしており、外国企業にも手を貸すよう圧力をかけている。

 中国の立法府は7月1日、新たなセキュリティー法案を可決した。国の主権をサイバー空間にまで拡大し、ネットワーク技術を「制御可能」にすることを求める法案だ。その1週間後、政府は国内インターネットの取り締まりを強化する法案を発表した。これには、治安上の緊急事態の際にインターネットへのアクセスを遮断する権限が盛り込まれた。

 ほかに検討中の法案には、外国から購入したハイテク機器に代わる国産品を探すよう中国企業に促すものや、機器の制御を可能にする暗号鍵を中国当局に譲り渡すことを外国メーカーなど売り手に義務付けるものがある。

 中国当局にインターネット政策に関する取材を試みたところ、最近創設された国家インターネット情報弁公室(CAC)を紹介された。しかし当のCACは、コメントできる担当者を出さなかった。

 このような国家戦略は、欧米企業がインターネットを支配していた数年前なら不可能だっただろう。だが電子商取引大手のアリババ集団、ネット複合企業の騰訊控股(テンセント)や情報アグリゲーターの新浪といった中国企業の台頭によって状況が変わり始めた。中国の市民はグーグルやフェイスブックがなくても、西側諸国の人々の使う大半のサービスに加えて中国独自のサービスを使えるようになった。中国企業は当局にとって管理がしやすく、要求に応じてユーザーを検閲してきた。

 中国政府は、西側製品に替わる半導体やサーバーを開発する国内企業を対象に資金的・政策的な支援を行っている。李克強首相は今年、インターネット・プラスという戦略を発表した。モバイル、クラウドやその他のコンピューティング分野を製造業や産業と統合する中国企業を育てる狙いがある。

 中国政府に譲歩してそのルールを受け入れる欧米企業は少なくない。インターネット人口が7億人に迫る中国で足掛かりを構築したいためだ。

 例えばビジネス専門交流サイト(SNS)の米リンクトインは、中国事業を国内企業として展開しており、顧客が閲覧するコンテンツの検閲に同意している。同社は、表現の自由を尊重しているが、中国のルールには従わなければならないと述べた。

 パソコン大手の米ヒューレット・パッカード(HP)は最近、中国のサーバー、ストレージ、技術サービス事業の過半数株式を中国企業に売却した。米国政府が米国企業製のインフラを使って国外で情報を収集していることが発覚し、中国で政治的な圧力にさらされたからだ。HPの広報担当者は売却について、中国のさらなるイノベーションのために構築したパートナーシップだと説明した。

 米アップルは2014年8月、中国の主要なインターネットプラットフォーム(中国電信が運営)を使って中国人ユーザーのデータを保存していることを明らかにした。データは暗号によって保護されているという。

 中国は自らの取り組みが国際的に認められることを望んでいる。今年はロシアや中央アジアの一部の国にも呼びかけて、国連にインターネットの「行動規範」を採択するよう提案した。この行動規範は事実上、世界のインターネットを結ぶ技術的プロトコルに関する拒否権をすべての政府に与えるものだった。

 中国は、国家安全保障の観点からこのような権利が必要だと主張した。特に、米国家安全保障局(NSA)のエドワード・スノーデン元契約職員が米国によるサイバースパイについて暴露したことがきっかけとなった。だが、行動規範は採択されなかった。

 インターネットに関して中国と同じ未来を描いている国は他にもある。トルコは動画投稿サイトのユーチューブや短文投稿サイトのツイッターを一時的に遮断してきた。ロシアは米国のソーシャルメディア企業にコンテンツの削除を要求している。欧州連合(EU)の最高裁にあたる欧州司法裁判所は昨年、グーグルなどの検索エンジンについて、多くのケースにおいて要求があった場合、個人名の検索結果から個人情報を含むリンクを消去しなければならないという判断を下した。

 ワシントンのシンクタンク、ニュー・アメリカ財団の「ランキング・デジタル・ライツ(RDR)プロジェクト」代表を務めるレベッカ・マッキノン氏は「独自の条件を付ける国は増えている。国々が独自にインターネットに制限を設けていることは、国家の利益を追求したいが、グローバルな市場にも参加したいという国々の葛藤をうかがわせる」と述べる。
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&uact=8&ved=0CB4QFjAAahUKEwirz_Kly__GAhVoF6YKHbirAwE&url=http%3A%2F%2Fjp.wsj.com%2Farticles%2FSB10412567118926353716304581137302391687640&ei=9WG4VeuAIOiumAW4144I&usg=AFQjCNE7v4wGPYn4RY0tkhuVJUrP2czshA&bvm=bv.98717601,d.dGY


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