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綱渡りのギリシャ(1)二枚舌に容赦なく(2)いかさま師か、救世主か(3)中ロに接近、米は警戒(4)ユーロ圏に残りたいのか
http://www.asyura2.com/15/kokusai11/msg/249.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 7 月 28 日 02:06:56: Mo7ApAlflbQ6s
 


[迫真]綱渡りのギリシャ

(1)二枚舌に容赦なく

 6月27日の夕、ブリュッセルの欧州連合(EU)本部は異様な熱気に包まれていた。閉め切った部屋にはユーロ圏の財務相が集まり、ギリシャへの金融支援を続けるかどうか、ぎりぎりの交渉が続く。交渉の席を蹴って出てきたのはギリシャの財務相ヤニス・バルファキス(54)だった。「この決定はユーロ圏の信頼を傷つけるだろう」。ワゴン車で立ち去った。

 ほどなく協議は終了し、記者団にA4の声明文が配られた。ギリシャへの融資を6月いっぱいで打ち切る内容だった。文末には「ギリシャを除くすべてのユーロ圏で承認された」と書かれていた。ギリシャのユーロ圏離脱は一気に現実に近づいた。EU官僚はギリシャ離脱を想定した「プランB」発動の準備に入った。
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 迷走の始まりは4月24日、ラトビアの首都リガで開かれたユーロ圏財務相会合だった。各国の財務相はギリシャの金融支援継続を決めるため集まっていた。ところがバルファキスは、提出を求められていた資料を持たず手ぶらで現れた。「君は政治の素人か」「時間の浪費だ」。ギリシャはここで信用を失った。

 1月に発足したギリシャの新政権は、反緊縮を掲げる急進左派だ。首相アレクシス・チプラス(40)は、EUの要求をのらりくらりとかわす作戦に出た。「ユーロはカードでつくった城。ギリシャのカードを抜けば全体が崩れる」(バルファキス)。各国がギリシャを見捨てることはないと高をくくっていた。だがEUは厳しかった。

 反緊縮の仲間を増やそうとチプラスはイタリア首相のマッテオ・レンツィ(40)を訪ね「EUの理不尽な緊縮策に抵抗する同志」と持ち上げた。あては外れた。レンツィは別れ際にイタリア製の黒ネクタイを差し出し「危機から抜け出したら締めてみてよ」とつれない返事だった。

 その後の外遊先はフランス、ベルギー、オーストリア。ギリシャに厳しいドイツを包囲しようと半円を描く。ドイツ首相のアンゲラ・メルケル(61)はこれを「希望があれば道は開けるかも」と軽くあしらった。ギリシャは孤立を深めていった。
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 ブリュッセルの交渉決裂から3日後の6月30日。ギリシャは同日が期限だった国際通貨基金(IMF)への借金15億ユーロ(約2千億円)を返済できなかった。チプラスはこの日、執務室にこもって極秘の書簡を書いた。「拝啓。欧州委員会委員長、欧州中央銀行総裁、IMF専務理事殿」。2枚の紙に、EUなどが要求する緊縮策をほぼ受け入れると記し、直筆サインを入れて債権団に送った。国民には一切知らせていない。ユーロ不足から銀行の窓口は前日から閉鎖され、窓の外では市民が右往左往していた。

 翌日、極秘書簡の扱いについてユーロ圏の財務相が集まり協議した。開始直後、参加者にメモが回った。そこにはチプラスが国民向けの演説でEUを中傷したニュースが書かれていた。チプラスは「ユーロ圏はギリシャを脅迫している」と語っていた。
 会合は一気に白け、その場で打ち切られた。国内と国外を使い分けるチプラスの二枚舌をEUは許さなかった。財務相会合議長のイェルン・デイセルブルム(49)は翌日、チプラスに「交渉の余地はない」と拒絶の返事を送った。

 7月12日。ギリシャ支援を巡る最後の交渉のためユーロ圏首脳がブリュッセルに集まった。ここで決裂すればギリシャのユーロ圏離脱はほぼ確実になる。チプラスは極秘書簡を上回る緊縮策を盛り込んだ改革案をEU側に伝え、頭を下げた。
 ギリシャが白旗を揚げてもメルケルは容赦なかった。首脳会議で「チプラス政権が成立させた法律を全部白紙に戻せ」とギリシャを追い立てた。独国内の保守支持層向けのアピールだ。さすがにやり過ぎとの意見が各国から出て議論は紛糾した。

 ギリシャの当面の資金繰りのための金融支援再開方針が決まったのは、首脳会議の開始から17時間後だった。メルケルは記者会見で開口一番「これでドイツ連邦議会に説明できる」と述べた。ギリシャやユーロの未来よりもまず独国内向けのメッセージだった。

 翌日、チプラスの顔は過労のため腫れ物ができていた。レンツィから贈られたネクタイは締めておらず、いつものノーネクタイ姿だった。(敬称略)

 小国ギリシャが世界を揺さぶった。各国はどう動いたのか。

[日経新聞7月22日朝刊P.2]
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(2)いかさま師か、救世主か

 資金不足からギリシャ国内の銀行窓口が閉鎖された6月29日。アテネの地下鉄駅では券売機の電源が切られていた。「地下鉄もバスも市電も全部ただ、乗り放題にせよ」。ギリシャ首相のアレクシス・チプラス(40)が命令したからだ。携帯電話の通話料金も一定時間は無料になった。

 アテネの喫茶店を回り観光客相手に1本50セント(約70円)のボールペンを売り歩くニッキー・セオハリ(42)はこの無料政策を大歓迎している。「1日の売り上げは5ユーロ(670円)しかない」。勤めていた食堂は閉鎖され定職には5年間就いていない。食事は教会が頼りだ。チプラスの大盤振る舞いを断然支持する。

 6月11日午後9時、ギリシャ国営テレビ(ERT)の再開を祝う番組が始まった。「帰ってきました。民主主義の勝利です」。2年ぶりに声を張り上げたリポーターのエマニュエラ・アルゲイティ(38)もチプラス支持者だ。

 財政赤字削減のため前首相のサマラス(64)がERTを閉鎖したのが2013年6月。エマニュエラは同僚の夫とともに解雇された。途方に暮れていたところに、当時は野党だったチプラスがERT再開を公約に掲げた。夫婦は1月の総選挙でチプラス率いる急進左派連合(SYRIZA)に迷わず投票した。

 5月7日、チプラスは前政権で解雇された財務省清掃職員の女性約50人を官邸に招き入れ、再雇用を約束した。復職を求めて抗議を続けてきた女性を「公正な闘いだった」とねぎらい記念写真に納まった。貧困層から公務員まで、チプラスは国民の歓心を買い支持層を広げるためには政策手段を選ばない。

 7月5日の国民投票はチプラスの訴え通り欧州連合(EU)が強いる緊縮策への反対票が賛成票を上回った。しかし現実をみれば、無料の電車を運行した公共交通機関や、清掃員を増員した財務省の経費はきょうも拡大している。

 消防士を退いて年金で暮らすニコス・ミヘラキス(55)は13日、チプラスが国民投票に反して緊縮策を全面的に受け入れたというニュースを聞いたとき、かつてSYRIZA党員の友達がこう話していたのを思い出した。「結果は決まっている。最後はEUの要求をのんで交渉を終える」――。チプラスは国民をだますいかさま師か、あるいは救世主か。ニコスも答えを出せていない。

(敬称略)

[日経新聞7月23日朝刊P.2]
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(3)中ロに接近、米は警戒

 ギリシャ最大のピレウス港を抱えるペラマ市長のヤニス・ラゴダキス(54)は4月14日、アテネ近郊のエレフシナで、近隣市長との昼食会に出席していた。そこにひとりアジア人の紳士が同席していた。中国大使の鄒肖力だ。テーブルを挟んで大使はこう切り出した。「我々はみなさんの街にもっと投資したい」。市長たちは一斉に身を乗り出した。

 ピレウス港の真新しい埠頭には中国の五星紅旗がはためいていた。管理事務所の玄関にはヘルメット姿の中国首相、李克強(60)の写真が飾られている。この港のコンテナターミナルの権益は、中国の海運大手、中国遠洋運輸集団(コスコ・グループ)が2009年、35年契約で取得した。コスコはアジア全域からここに荷を集めている。10年からの5年間でコンテナ取扱個数は4.4倍に増えた。

 ギリシャは今後、財政再建のため500億ユーロ(約6兆7千億円)相当の公有資産を売却する計画だ。中国にとって地中海に面するギリシャは「海のシルクロード」の終着点。「大量買い」の予感も高まっている。

 6月19日、欧州連合(EU)各国がブリュッセルでギリシャ支援問題に頭を悩ませているとき、ギリシャ首相のアレクシス・チプラス(40)はロシアのサンクトペテルブルクで拍手を浴びていた。「我々は嵐の中にいるが、新しい安全な港にたどり着くため海にこぎ出すことを恐れない」。ロシア政府の経済フォーラムに予告なしに登壇し、10分にわたってEUへの批判をまくしたてると、さっそうと会場を後にした。

 「新しい港」とは欧米と対抗する立場からギリシャの取り込みを目指すロシアと中国だ。チプラスは会場近くで会ったロシア大統領ウラジーミル・プーチン(62)や中国副首相の張高麗(68)にそれぞれ「貴国はギリシャの最も重要なパートナーだ」などと持ち上げて見せた。

 米国はこれを見過ごせない。「ギリシャがユーロ圏にとどまることは死活的に重要だ」。大統領のバラク・オバマ(53)は6月28日、ギリシャに強硬な独首相アンゲラ・メルケル(61)に電話をし、交渉妥結を強く迫った。地中海の軍事的な要衝に位置するギリシャがユーロ圏から離脱し、中ロへ接近すれば周辺地域での米国の影響力は低下する。ギリシャの際どい交渉術はEUを悩ませている。

(敬称略)

[日経新聞7月24日朝刊P.2]
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(4)ユーロ圏に残りたいのか

 欧州連合(EU)の緊縮要求にギリシャ国民が投票で「ノー」を突きつけた7月5日夜。首相アレクシス・チプラス(40)に電話をかけてきたのはフランス大統領フランソワ・オランド(60)だった。「ギリシャの立場は悪くなった。君がユーロ圏に残りたいなら仏は支援しよう」


 チプラスはその場でユーロ圏残留の意思を伝えた。電話を切ったオランドは、仏の財務官僚10人に秘密裏にアテネに赴くよう指示した。この後、ギリシャが金融支援を受けるためにEUに提出した財政改革案は、仏官僚が下書きしたものだった。

 ギリシャがユーロ圏を離脱すれば財政状態の悪いポルトガルやスペイン、イタリアなど南欧の周辺国に波及する。仏もひとごとではない。だがドイツ首相アンゲラ・メルケル(61)は強硬だ。ギリシャがユーロ圏に残れるかどうかは五分五分だ。

 オランドはスペイン首相のマリアノ・ラホイ(60)に電話をかけた。「ギリシャの離脱は避けなければならない」。ラホイは「ユーロの団結は重要」と応じた。イタリア首相のマッテオ・レンツィ(40)には援護射撃を頼んだ。レンツィは10日の記者会見で「楽観的だ」と述べた。

 12日、ギリシャの運命を決める最終交渉がブリュッセルで始まった。午後8時すぎに開かれた夕食会の席順はさしずめ南北会談だった。チプラスを挟みレンツィとラホイ。オランドはラホイの横に座った。メルケルの両脇には国際通貨基金(IMF)専務理事のクリスティーヌ・ラガルド(59)と、オランダ首相のマルク・ルッテ(48)が陣取った。

 独は妥協しない。協議は深夜にもつれ込む。13日午前3時、会場の廊下ではオランドがチプラスを必死に諭していた。「冷静になるんだ」。チプラスはメルケルやEU大統領ドナルド・トゥスク(58)らの執拗な要求に嫌気がさし、交渉の席を蹴って退出したところだった。説得に応じたチプラスが部屋に戻り、合意が実ったのはその6時間後だった。

 17時間の交渉を経て欧州委員長のジャンクロード・ユンケル(60)は疲れた表情で言った。「勝者も敗者もいない」。各国首脳は欧州の未来に不吉なものを感じながらブリュッセルを後にした。

(敬称略)

 赤川省吾、田中孝幸、森本学、竹内康雄、佐野彰洋、白石透冴、鳳山太成が担当しました。

[日経新聞7月25日朝刊P.2]

 

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コメント
 
1. 2015年7月28日 15:30:01 : MaTWXQE1nc
ヤニスの説明(追記=Read more)
http://songcatcher.blog.fc2.com/blog-entry-1147.html

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