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動き出す米・キューバ
<上> オバマ氏対話路線へ 中南米での復権狙う
米国とキューバの54年ぶりの国交回復で、対話路線に転換したオバマ米大統領がキューバの民主化を実現できるかどうかが課題となる。オバマ氏は中国の台頭が著しい中南米で米国の影響力回復につなげたい考えだが、キューバとの接近を警戒する米議会や、体制維持をもくろむカストロ政権との隔たりは大きい。
ワシントンでは20日早朝、米国務省の玄関ロビーに並ぶ米と国交のある約190カ国の国旗にキューバ国旗を追加。キューバ利益代表部では、同国のロドリゲス外相が記念式典に参加。キューバ国旗を掲げ、歌手や科学者、スポーツ選手らが加わる代表団とともに大使館の再開を祝った。
制裁解除が転機
米フロリダ半島とキューバとの直線距離は140キロメートルにすぎないが、渡航や商取引は禁じられていた。キューバのカストロ兄弟は1959年、親米バティスタ政権を倒して政権を奪取。同政権が米企業の資産を接収し国営化したことから、61年1月に米国が断交を決定。米は同年4月に反政府軍を支援して武力で侵攻するなど、何度も政権打倒を目指してきた。
オバマ氏はこうした過去の政策と違い、対話路線に転換した。制裁解除で経済や文化などの面で米国の影響が強まれば、キューバ政府に対する国民の反発は増すとみた。
他国も米に接近
米国はほかの中南米諸国での影響力も回復する構え。中国が鉄鉱石や銅を大量購入し、インフラ整備でも存在感を高めている事態を憂慮する。
中南米諸国が米国との距離を縮める動きも相次ぐ。ブラジルのルセフ大統領は6月、訪米時の会見で「今後10年以内で米国との貿易を2倍に伸ばしたい」と期待した。
ルセフ氏は13年に米国家安全保障局(NSA)による傍受に反発し訪米を取りやめた。ここにきて米国との関係改善に動き始めた背景には米国とキューバの接近がある。
反米姿勢のベネズエラも対話に動く。同国政府は4月、シャノン米国務長官顧問を招き、マドゥロ大統領やロドリゲス外相が会談。主力輸出品の原油の下落でベネズエラの財政は余裕がない。
同じ反米左派政権のボリビアでも、チョケワンカ外相が6月、モラレス大統領とオバマ米大統領の首脳会談を要請したと表明した。反米の思想的な柱だったキューバの路線変更は、左派政権の結束を弱めている。
それでもオバマ氏の思惑が実現するか否かは不透明だ。ラウル・カストロ国家評議会議長は社会主義体制を維持する意向を示す。表現の自由や自由選挙などを受け入れさせたい米国に、キューバ外務省のビダル米国担当局長は「内政干渉」と反発する。米議会も野党・共和党を中心に制裁解除への反対論が強い。
(ワシントン=川合智之)
[日経新聞7月21日朝刊P.7]
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(下)特区に外資殺到 「カリブのベトナム」狙う
「資本主義の実験場」――。社会主義国家のキューバで今、こう呼ばれる場所がある。首都ハバナ郊外のマリエル開発特区。1980年、フィデル・カストロ国家評議会議長(当時)が「出て行きたい者は出て行け」と、12万5千人もの亡命希望者に港を開放した事件の舞台だ。この地が今は経済開放のシンボルだ。
進出計画300件
敷地面積は465平方キロメートル。キューバ政府は進出企業に対し無税での利益送金や機械設備の輸入にかかる税金の免除などの恩典を用意した。300件以上の進出計画の中で、すでにメキシコやスペインの企業7社の計画が許可された。
かつてベトナムや中国が、改革開放政策で経済特区を設置し外資呼び込みの拠点にした。目下、キューバ政府は「カリブのベトナムになる」(キューバ高官)ために動き出している。
「2015年上半期の成長率は4.7%だった」。ムリジョ閣僚評議会副議長は15日、国会で胸を張った。同国は08年にラウル・カストロ氏が国家評議会議長に就任後、市場原理の導入を進めてきたが、最近の実質経済成長率は2%程度にとどまっていた。過度の国際的緊張を強いられ経済建設に注力ができなかったキューバだが、対米関係の改善がすでに観光産業の成長や海外からの投資につながり始めているようだ。
キューバの強みはカリブの要衝にある地理的な利点と国民の教育水準の高さだ。ただ、現行の法制度では労働者を直接雇用できない。進出企業は政府の人材派遣公社に人件費を支払わなければならないからだ。
格差拡大懸念も
社会主義国のキューバでは国民の大半が公務員で平均月収は約3000円とされる。一部の政府高官を除けば国民は半世紀前に米国から接収した家やアパートをあてがわれる。食事は配給品が中心で大半の国民が決して豊かとはいえない暮らしをしている。
しかし、今後はさらにドルを「持つ者」と「持たざる者」の格差が広がる可能性が高い。外国に住む親族から送金を受けることができる人々や、外国人向け高級レストランなど自営業者の所得は増える。平等を掲げる革命の理念を維持するのはもはや不可能だ。
そして、何よりも国交回復により、米国という仮想敵の存在の希薄化に国内支持基盤が揺らぎ、政権交代につながる芽生えを育む。
「フィデルは尊敬するが好きかと言われればそれは別の話さ」。ある男性は記者の質問に声を潜めた。国民の大半は革命後に生まれた。格差の広がりは国民の不満に火をつけ、さらなる自由化を希求する強い原動力になるだろう。政治的安定と富の公正な配分を両立させ格差を縮める改革がキューバ政府に求められる。
ラウル・カストロ氏は2期目の任期が終わる18年に引退すると表明している。後継者と目されるのは若手のミゲル・ディアスカネル第1副議長だが、国内の不満分子を徹底的に弾圧してきた秘密警察の出身ともいわれている。
国交回復でキューバの人権状況が改善されると期待する米国と社会主義体制を捨てるつもりのないキューバ。54年ぶりに再び交わった両国の行方に世界が注目している。
(ハバナ=宮本英威)
[日経新聞7月22日朝刊P.7]
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