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[この一冊]ドル消滅 ジェームズ・リカーズ著 金融緩和策の行き着く先を予測
本書は前作『通貨戦争』の続編と位置づけられる。『通貨戦争』では、金本位制から変動相場制へという国際通貨制度の変遷を振り返りつつ、各国とも景気刺激を図るべく金融緩和と自国通貨の下落誘導に駆られる結果、異常なまでのマネーゲームが現出することが述べられる。
そうした異常事態のなかで、ごく小さなドルの受け取り拒否が生じると、ドルの価値を瞬く間に暴落させ、これを契機に金融システムは一挙に崩壊し、世界経済は大混乱に陥る。ドル暴落の根源的な原因は金融の暴走にあるため、巨大銀行の分割、銀行による自己勘定取引の禁止などを通じて、暴走を抑止すべきだとされた。
『通貨戦争』が執筆されたのは2011年。米国が量的緩和という超金融緩和策を実施していた時期であった。その後、英国、日本やユーロ圏諸国も量的緩和策を実施するなど、金融緩和競争あるいは著者のいう通貨戦争の戦線がさらに拡大している。本書はこうした新たな動きを踏まえ通貨戦争の実相を浮かび上がらせるとともに、ドル崩壊のありようを議論する。
本書では崩壊や消滅という言葉が多用されるが、それは世界の終わりを意味しない。ドルが国際通貨としての信認を喪失するという意味だ。著者の見立てによると、ドル崩壊は大量のドル売りから始まり、ドル金利の上昇やインフレの高進、さらには資本形成の停滞が続く。それに伴うコストは米国の人々や企業が負担せざるを得ない。
ドルへの信認がなくなったとき、世界の準備通貨という地位を代替できる通貨はなく、ドル崩壊とともに国際通貨体制も崩壊する。新しい国際通貨体制は金、SDR(特別引き出し権)、地域準備通貨のネットワークのいずれかであろうとされる。ロシアや中国は近年、金の蓄積を進めている。ドル崩壊への対応や金本位制復帰への動きを示しているのかもしれない。
中国の将来、米・英・日の金融緩和に対する著者の見解も興味深い。例えば、中国の成長物語は衰退に向かっており、不況は全世界に広がるとされる。また、量的金融緩和という前例のない金融実験を行っている米・英・日は債務返済のためのインフレと名目成長を究極の狙いとしていると説かれる。
本書では、主要国が採用している超金融緩和策の帰結が国際的な観点から論じられており、この点、類書にない特徴といえる。金融政策や国際通貨体制に興味がある方々に一読をお勧めしたい。
原題=THE DEATH OF MONEY
(藤井清美訳、朝日新聞出版・2500円)
▼著者は30年以上の実務経験を持つ米国の投資銀行家、リスク管理の専門家。著書に『通貨戦争』など。
《評》同志社大学教授 鹿野 嘉昭
[日経新聞7月19日朝刊P.19]
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