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[創論]世界の秩序づくり競う米中
次期政権もアジア重視
カーネギー国際平和財団理事長 ウィリアム・バーンズ氏
米国と中国が世界の秩序づくりを競っている。米国が貿易と投資の拡大を狙い環太平洋経済連携協定(TPP)の妥結に動けば、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を導き、金融面で対抗軸を示す。両国を代表する論客のウィリアム・バーンズ前国務副長官(現在はカーネギー国際平和財団理事長)と時殷弘・中国人民大学教授に聞いた。
――経済、外交、安全保障など様々な面で中国の台頭が目立ちます。米外交の豊富な経験をもとに、どのようにとらえていますか。
「アジア・太平洋地域は21世紀で大きな成長と機会に恵まれた地域であり、この時代で最も重大な地政学的なトレンド、すなわち中国の興隆という問題を抱えている。その現実に伴う課題は多いが、中国との紛争が運命づけられているわけでもない」
――中国との紛争を避けていくための知恵が米国にはありますか。
「我々に求められているのは、中国との協力と競争を安定的に混在させて、それを管理していくことだ。そのためには共通の土台や、違いを管理するための強固な姿勢に加えて、この地域での(多国間による)枠組みとパートナーシップを強化していかなければならない」
「我々(日米間)の同盟はそうした努力の中で、中心的な存在でなければならない。だからこそ(米国は)多くの同盟関係のうち、日米同盟を再び活性化させているのだ。同時に、同盟国同士の関係、とりわけ日韓関係もとても重要だと感じている」
――中国の習近平国家主席は「新しい大国関係」という考え方を提唱しました。これからの米国の対中姿勢にどう影響しますか。
「米中関係は、単に米国の外交政策にとどまらず、国際的なシステムの変化の中でも中心的な課題となるだろう。そのうえで言えることは米国による対中アプローチというものはかなりの部分、継続されていくということだ。それは米国による(アジアを重視していく)リバランス政策にも言える。オバマ政権の残る任期中に加えて、2016年の米大統領選挙で誰が選ばれたとしても、それ以降もずっと続くものだ」
――日米両国は中国が主導して新設するAIIBの第1陣の参加メンバーには入りませんでした。中国との神経戦は続きますね。
「AIIBのような案件を巡って最も重要なことは、国際通貨基金(IMF)やアジア開発銀行(ADB)といった既存の組織を補完するのであれば、新しい機関・機構にも(存在する)余地はあるということだ。問題は新しい組織が誕生するかどうかよりも、それがどのように構成されているのかという点にある」
「この点で米国と日本はともに前向きで、かつ建設的な利害を共有すべきだ。数々の基準を確かなものにすることで、有効に機能する機関へと(AIIBなどを)誘導することができるからだ」
――将来、日米両国がAIIBに参加するシナリオもあり得るとみているのですか。
「もちろん参加は可能だ。しかし多くの案件によって成り立つもので、多くの基準や機構がどう発展していくのかという問題でもある。きちんと発展していくのであれば、将来に日米両国が(AIIBへの参加を)検討しないという理由はないと私は思う」
――中国は南シナ海で埋め立てを広げるなど「力による一方的な現状変更」を強引に推し進めているように映ります。米国の対処方針は。
「南シナ海の領有権問題を巡っては、今後も国際法と外交の有益性について焦点を継続して絞っていくべきだと思う。そうすることがこの問題でとても重要なことだ」
――自信を深めている中国側では「『米国の世紀』はもう終わり、これからは中国の時代が来る」との声も出ているようです。
「国際社会で見える風景は以前にも増して非常に複雑であり、混然としており、競争関係も増している。それを否定するつもりはない。しかし私はある地域の、そして地球規模で秩序を形作り、守っていくという意味で、米国のリーダーシップや、同盟国たちとの連携について私はまだ楽観している」
――日本の安倍晋三首相は今年4月の訪米でオバマ大統領との首脳会談に臨み、日米同盟に対する日本の確固たる姿勢を表明しました。
「米国は強固な同盟相手と緊密な協力をする時、ベストな存在となれる。そのうえで私は日米同盟の重要性を長い間、高く評価してきた。実際、今の日米関係は(米外交政策における)要石のような存在となっている。それによって米国はアジアで今後、何年にもわたって戦略的に物事を進めることができるのだ」
(聞き手は編集委員 春原剛)
William J.Burns 英オックスフォード大で国際関係論を修める。駐ロシア大使、国務次官、国務副長官などを歴任した。59歳。
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南シナ海では譲れない
中国人民大教授 時殷弘氏
――米中両国は6月、閣僚級の「戦略・経済対話」をワシントンで開きました。成果は限定的だったとの評価も多いようです。
「ここ1、2年の米中関係はサイバー攻撃や南シナ海での岩礁の埋め立てなど戦略的に重要な問題を巡り、かつてないほど緊張している。イランの核開発やアフガニスタン情勢の安定などの国際問題では協力が進んでいるものの、激しくなっている2国間の競争や疑念を和らげることはできていない」
「中国は対話を通じ、米大統領選で民主、共和両党が中国に厳しい政策や態度をとるのを防ぐことを狙った。このため100件を超す協定を結んだが、南シナ海など戦略的な問題で意見が一致しなかった。米軍が南シナ海にP8対潜哨戒機を送った5月下旬に比べ緊張は和らいだものの、近い将来にこれらの問題で重要な進展があると思えない」
――習近平国家主席は9月に訪米します。中国側の狙いは何でしょうか。
「『習主席は世界の指導者である』というイメージづくりを狙っているのは当然だが、米中関係がこれ以上は緊張しないことも望んでいる。経済界が期待する投資協定の締結で合意できれば、訪米は成功したと言えるだろう」
「ただし、投資協定の締結には『中国は自国市場で自国の国有企業を優遇している』と不満を抱く米国に譲歩せねばならない。対外的に強気に出る習主席の政治スタイルからすると、この譲歩は現時点で難しそうだ」
――2016年の大統領選以降の米国の出方をどう予想しますか。
「民主、共和両党ともに中国に融和的とは言えない。民主党はヒラリー・クリントン前国務長官が本命候補だが、中国の政府や国民は彼女のことが好きではない。オバマ大統領の姿勢に比べ、ヒラリー氏は長官在任中に中東問題であれ中国問題であれ、とても直接的に処理していた」
「共和党の候補は一般に自由貿易を好むので、米中の経済関係は現在より少し良くなるかもしれない。ただオバマ政権がここ数年進めてきた軍事予算の削減ペースは鈍る。大統領の就任から少なくとも2年間は中国に厳しく接するだろう」
――中国が米国の反対を押し切って南シナ海で岩礁を埋め立てた理由は何ですか。
「3つある。まず米国が最終的に偵察活動を行えなくなるような条件を徐々に整えること。次に中国が主権を主張している南沙(英語名スプラトリー)諸島からフィリピンとベトナムを追い出すこと。そしてエネルギーの調達ルートとなるシーレーンの安全を確保することだ」
――日本や東南アジア諸国とも摩擦が絶えません。
「『平和』と『台頭』のどちらを強調するかは指導者によって異なる。中国は東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定したが、日米は認めていない。習主席は時に強く出た方が、中国は台頭できると考えているのだろう」
――中国は米国中心の世界秩序に挑戦しているとの見方があります。
「海外メディアが中国政府に質問すれば『そんなことはない』と答えるだろう。政府の行動や習主席の対外戦略からすると、中国は西太平洋の西部、つまり(九州・沖縄から台湾、フィリピンと連なる)第一列島線の西側では少なくとも一定の主導権を握りたいと考えている」
――そうなると、日本との摩擦は避けられません。
「沖縄の近くまでは進出することになる。中国と日本の戦略的な利益の衝突はかなり大きい」
――現在の日中関係をみると、首脳会談が開かれるなど改善に向かっています。
「明らかに改善している。しかし一方で習主席と安倍晋三首相はともに『複線戦略』をとっている。習主席は対日関係を改善する措置と並行して、日本が最も心配する軍事力の強化を加速し、日本が集団的自衛権を解禁することに警告を発している」
「安倍首相も中国との対話を再開すると同時に、集団的自衛権の解禁に動いている。つまり中日関係は当面、部分的に改善へと向かうが、対立は続く。中国にとっては、日本が南シナ海と(将来の統一を目指す)台湾の有事に介入しないことが最低ラインとなる。日本がこれを越えれば戦争になる」
(聞き手は 中国総局長 山田周平)
Shi Yinhong 南京大卒。中国の国際戦略の専門家で、中国人民大米国研究センター主任や国務院(政府)参事も務める。64歳。
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<聞き手から>「関与とけん制」ともに拡大
その知見と人脈から「米外交の秘密兵器」とも称されるバーンズ氏は、南シナ海での中国による埋め立てなどで波乱含みの米中関係について「安定的混在(Stable Mix)」という言葉を何度も使った。中国を国際社会と世界の秩序に取り込む関与政策と、軍事的な膨張をけん制する抑止政策を随時使い分けるという考え方である。
中国の外交政策を巡り率直に発言する時教授が使った「複線戦略」という表現も似たような意味だろう。専門家の2人に共通しているのは、21世紀の米中・日中関係が「まだら模様」の色彩を一層、強めていくという認識だ。米中間では海洋権益から金融、サイバー攻撃などまで隔たりの大きい課題が山積している。
国会で論戦中の集団的自衛権を巡る問題も、中国の勃興をにらみ日本が「安定的混在」と呼ぶべき状況に向き合うための重要な要素の一つととらえられる。これまでの審議を聞く限り内向き傾向の強い国会だが、米中を軸に激動する国際情勢を見渡す視点も忘れないでほしい。
(春原剛)
[日経新聞7月12日朝刊P.11]
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