3. 2015年7月14日 15:59:30
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コラム:イラン核協議合意は原油安・円高を招くか=斉藤洋二氏 2015年 07月 14日 14:10 JST ・・http://jp.reuters.com/news/pictures/articleslideshow?articleId=JPKCN0PN0MW20150714&channelName=topNews#a=1 1 of 1[Full Size]斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表 [東京 14日] - 国連安保理常任理事国(米英仏中ロ)にドイツを加えた「P5プラス1」は4月2日、イランとの間で同国の核開発を制限する代わりに経済制裁を解除する「枠組み合意」に達した。それ以降、査察や制裁解除の詳細などに関する協議が続けられてきたが、いよいよ最終合意間近との報道が増えてきている。 仮に最終合意に至れば、イランの核開発を10年から15年にわたり制限することとなり、中東における核拡散に歯止めをかけることが期待される。また、制裁解除を受けて、石油輸出国機構(OPEC)3位の産油国であるイランの原油産出量が増大すると予測されている。すでにイランと石油メジャーが今後の増産計画について協議を行っていると伝えられるなど、最終合意後に向けてイランの資源をめぐる動きは活発化している。 では、イランに対する制裁が解除されれば、原油価格のさらなる下落はあるのだろうか。以下、今後の原油相場と円相場への影響について考えてみた。 <15ドル下落との予想も> 周知の通り、イランは石油・ガスのエネルギー資源大国であり、2013年末では石油埋蔵量は世界4位、天然ガスは世界1位と言われている。ただ、既存油田の老朽化が進んでおり、先進テクノロジー導入による生産拡充が課題となっている。したがって、制裁が解除されれば、ガス田の補修や新規開発、液化天然ガス(LNG)プロジェクトなどが一気に動き出すのではないかとの期待が高まっている。 主要な銀行や証券会社の石油アナリスト25人を対象にロイターが実施した調査(7月1日公表)によれば、制裁解除の場合、イランの原油輸出量は1年以内に最大60%増加する見通しだという。同国のザンギャネ石油相は制裁解除後に、失った市場を即座に取り戻すことは可能と豪語している。 もしこれが本当ならば、原油価格の下押し要因となるのは明白だ。米エネルギー情報局(EIA)の分析では、対イランの制裁解除は、同国の増産(2016年末までに日量70万バレル)と在庫(約3000万バレル)の販売を可能にすることから、2016年の原油価格を1バレルあたり5ドルから15ドル引き下げる効果があるという。 上記の予想を踏まえて、足元の原油相場を見ると、米ニューヨークの先物市場で代表的な油種であるWTIは、3月半ばの1バレル42ドル台を底に40ドル台後半から60ドル近辺のレンジでもみ合っている。夏場のドライブシーズンに向けた需要の増加見込みが油価を下支えする一方で、中東などの産油国の増産傾向や米国のシェールオイル生産の堅調な推移が相場の頭を押さえている格好だ。 OPECは6月5日の総会で、加盟国が米国のシェールオイルにシェアで対抗するため、生産目標の据え置きを決めた。しかし、そのシェールオイル企業は技術革新により損益分岐点を下げており、油価が下がっても依然高水準の生産を続けている。 実際、米国の原油生産量は今年4月時点で日量970万バレルとほぼ最高水準にあり、2014年には1975年以来39年ぶりにサウジアラビアを上回り世界最大となっている。このようにOPECの思惑と異なり米国のシェール生産が高止まりし、実はイラン要因がなくとも、世界市場の供給過剰感は長引く見通しだ。 需要面に目を移せば、最大の消費国である中国の成長鈍化が顕著だ。成長率は2014年の7.4%から2015年第1四半期は7.0%、第2四半期には7%割れが予想されている。さらに中国の代表的な株価指数である上海総合指数も6月12日の5100ポイント台の高値からわずか3週間余りで3300ポイント台へと約30%も下落した。中国経済のバブル破裂の可能性が現実味を帯びて語られるなど、原油需要が今後一段と落ち込む可能性も高まっている。 これまで述べてきたように、イランの原油市場への本格的復帰は2016年以降と見られるものの、その思惑はすでに油価の上値を押さえている。ただでさえ昨今の供給過剰感を背景に当面は45―65ドル台での軟調推移が続くと予想されているところに、イランの市場再参入まであれば、2010年以降、昨秋の急落局面前まで続いた変動レンジである80―110ドル台への回帰はさらに遠のくだろう。逆に現在のレンジが下方向に抜ける波乱にも注意が必要だ。 <円安要因にもなり得る> 一方、油価の低位安定が続いた場合、2015年1月のコラム「原油安は逆張りのチャンスか」(記事はこちら)で論述したように、次の3点において日本経済への波及が予想され、同時に円相場に対して円高、円安両面でのかく乱要因となる点には留意しなければならない。 まず日本はエネルギー政策において、原発稼働が停止する環境のもと鉱物性燃料(原油、LNG、石炭など)への依存度を高めていた。それもあって、2014年の貿易赤字は12兆円台後半と過去最大を更新したものの、夏場以降の油価下落を受けて同年下半期の貿易収支の改善ぶりが際立った。エネルギー資源の輸入コスト激減は、日本経済にとって「天の恵み」であることを示した。 第2点として貿易収支改善は円相場の長期的下支え要因としてジワリと効いてくることになる。2014年の鉱物性燃料の輸入は27.7兆円に上り、そのうち原油(粗油を含む)は13.9兆円を占めている。その大半がドル建てであることから、仮に為替レートが2014年(税関長公示レート平均1ドル105.30円)に比べて15%円安(121.10円)、そして原油を同量だけ輸入し、入着価格を30%安と仮定して単純計算すれば、原油だけに着目しても貿易収支の改善効果は3兆円程度になり、それだけ為替需給は緩むこととなる。つまり、単純に考えれば、円高に作用することになる。 ただし第3の影響として、油価の下落はコア消費者物価指数(CPI)の押し下げ要因となる。直近5月のコアCPIは前年比0.1%上昇とゼロ近辺にあり、このまま原油安が続けば日銀の「2%」目標ははるかに霞(かす)む。さらにリスクオフ要因などで円高加速への動きが見える場面が出現すれば、追加緩和策が打ち出される可能性が高まる。その意味で、油価下落は円安方向へのかく乱要因になり得る点にも注意が必要だ。 最後にイラン問題について言い添えれば、今回どうにか最終合意に至ったとしても、長い目で見て、本当に地政学リスクの軽減につながるかは不透明だ。 イランの核問題が国際政治上の重要な問題として議論されてきたのは、イランが核保有国になれば、中東が不安定化する恐れがあるためだ。ところが、オバマ米大統領は、イランの核開発を限定的に容認することで交渉の妥結を図った。 現実主義とも言えようが、このような外交姿勢に厳しい評価も存在する。米国議会では、限定的とはいえウラン濃縮を認める枠組み合意に対して、共和党を中心に最終合意反対や見直し論が出ている。 また、イスラエルのネタニヤフ首相はオバマ政権の対イラン政策を弱腰と批判し、イラン核施設への軍事攻撃も辞さない姿勢を繰り返し示している。さらに、イランに脅威を感じるサウジアラビアは警戒心を強めていると報じられている。 一方、イランでも最高指導者ハメネイ師が10年以上にわたる核開発制限を容認できないと発言し強硬姿勢を示すなど、懸念材料は多い。双方歩み寄りの期待が強まっているだけに、合意が覆ったり、合意内容が履行されないような事態になれば、地政学リスクがかえって高まることは言うまでもない。 *斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら) *本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。 *このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。 ・・http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0PN0MW20150714?feedType=RSS&feedName=topNews&utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+reuters%2FJPTopNews+%28News+%2F+JP+%2F+Top+News%29&sp=true |