(英エコノミスト誌 2015年7月4日号)

米国の自治領は債務を再編したがっているが、どうすればいいのか分からない。

カリブ海に浮かぶ米自治領プエルトリコ (c) Can Stock Photo

 プエルトリコのアレハンドロ・ガルシア・パディヤ知事は2年以上の間、島の債権者たちに向かって、彼らが聞きたがっていることを話していた。この米国自治領には720億ドルの債務を返済する「道義的義務」があると知事は言っていた。

 また、プエルトリコの憲法は「一般財源保証債(GO)」の支払いは他のどの費用よりも優先されると規定しているため、GOでデフォルトすることはできないと付け加えた。

 知事はさらに、増税と歳出削減を行ってきた自身の実績をアピールした。

 ところが、30カ月にわたって債権者を安心させてきた後、知事は先日方針を転換し、プエルトリコの債務を再編するよう努めると述べた。「公的債務は・・・支払うことができない」。知事は6月29日、こう宣言した。「これは政治の問題ではない。数学の問題だ」

 ガルシア・パディヤ氏は、債務返済について数年間のモラトリアム(支払猶予)を要求した。「別の選択肢は、一方的かつ計画外の債務の不払いになる」と言う。プエルトリコの債券利回りは、当然ながら急騰し、多くの債券を保有するこの島の銀行の株価は急落した。

ギリシャとの類似点

 ガルシア・パディヤ氏の発表のタイミングは、プエルトリコ経済の暗い見通しを描いた、元国際通貨基金(IMF)高官のアン・クルーガー氏の報告書の公表と重なった。

 プエルトリコ経済は、2006年から実質ベース(インフレ調整後)で縮小し続けており、現在は10年前より14%小さくなっている。名目ベースでは、2012年以降、横ばいで推移している(図参照)。

 経済が縮小している1つの理由は、米国本土企業のプエルトリコ事業に対する連邦税の免除措置が2006年に終了したことだ。

 だが、クルーガー氏は多くの問題を列挙しており、そこには、この週にやはり苦難に直面していたもう1つの債務国ギリシャと著しい類似点がある。

 どちらも、大きな通貨同盟の南端に位置しており、豊かな地域からの多額の財政移転の恩恵を享受してきた。どちらも、そうした通貨の強さと柔軟性のない労働市場とが相まった結果、競争力を失った。

 米国の最低賃金はプエルトリコにも適用されるが、現地の労働者は米国本土の労働者ほど生産的ではない(最低賃金はプエルトリコの平均収入の77%に相当する)。さらに悪いことに、連邦生活保護の支給額は最低賃金を50%上回ることもある。

 採用や労働の意欲がそがれることで、プエルトリコの労働参加率は40%という散々な水準にとどまっている。高い労働コストというただでさえ悪い状況は、非効率な電力会社が請求する途方もない料金によってさらに悪化している。

 ギリシャと同様、プエルトリコも、気前のいい公的部門の給与を賄うために、人為的に低く抑えられた金利で気ままに借り入れを行うことで問題を大きくした。金利が低かったのは、ギリシャの場合は、金融機関が欧州連合(EU)が債務を保証してくれると想定したため、プエルトリコの場合は、その債券からの収入が米国本土の投資家に非課税になっているためだ。

 どちらも、若年労働者が国外へ移住するにつれ、税基盤が縮小した。プエルトリコでは人口が過去10年間で10%減少した。

 また、どちらも、官僚制度の茂みの中で債務を隠蔽した。クルーガー氏は、国営企業の損失や積立不足の年金などの理由で、プエルトリコの公的部門は政府が認めているより多額の赤字――恐らく島の経済生産の5%程度――を抱えていると見ている。

 どちらも、急上昇する債券利回りに緊縮策で対応し、それが景気後退を深刻化させ、税収の減少に伴い債務の返済がさらに難しくなった。プエルトリコの最新の財政報告書は、新たな借り入れがなければ、10月までに現金が底を突くと述べている。

債務減免は必要だが、その手段がない

 クルーガー氏の報告書は、債務減免が必要だというコンセンサスを強めている。だが、プエルトリコの債務を減らす仕組みを見つけるのは容易ではない。プエルトリコは独立国家ではないため、債務の支払いを拒否して通貨を切り下げることができない。

 だが、プエルトリコは米国50州の1つでもないため、連邦破産法の地方債の条項を適用することもできない。プエルトリコの議会は、国営企業の債務再編を認める法案を可決したが、米国の裁判所はこれを退けた。

 プエルトリコの地方自治体型の債務契約には、多くの主権国政府がデフォルトする場合に、頑固に抵抗する少数投資家に損失を受け入れさせることを認める「集団行動条項」がない。その結果、全額支払いを受けていない債権者は、誰でも訴訟を起こすことができる。

 プエルトリコが一部の債権者に与えた法的保護――GOに対する憲法上の保証や、別の種類の債券保有者向けの売上税収に対する特別償還請求権――のために、債券保有者には柔軟になる動機がほとんどない。

 最後まで諦めない債権者は、アルゼンチンの債券に関する最近の前例を利用して、自分たちに全額が支払われるまで、比較的融和的な債権者が1ペニーでも受け取るのを阻むことさえできるかもしれない。

つれない連邦政府

 このような行き詰まりを打開するためには、米国連邦政府の介入が必要になる。連邦議会は、委員会を設置してプエルトリコの財政を管理したり、プエルトリコの国営企業に破産を宣言することを認めたり、プエルトリコを直接救済したりすることができる。

 子会社がプエルトリコで物品税を支払っている企業に連邦税控除を請求するのを認める暫定措置を恒久措置にすることも助けになるだろう。外国の船舶が米国の港の間で物品を輸送するのを禁じている法律や最低賃金制度からプエルトリコを免除するといった、成長を回復するために必要な多くの改革は、ワシントンから命令されなければならない。

 ガルシア・パディヤ氏はもう「問題を先送り」しないと言っているが、残念ながら、連邦政府は同じような切迫感を示していない。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44267  

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コメント
 
1. 2015年7月10日 10:15:46 : nJF6kGWndY

愚民政治にありがちな結末だな

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO88993110X00C15A7000000/
[FT]プエルトリコ債務問題、勝者は弁護士だけ
2015/7/7 14:40日本経済新聞 電子版
 プエルトリコの知事が720億ドルの債務の返済にどう取り組むつもりなのか知るために資産運用会社がウェブキャストにログインしたとき、冒頭の数分間で流れたのは「Quien Sabe Mas」というクイズ番組だった。

ガルシア知事のテレビ演説に見入るレストラン利用者ら。同知事は債務問題について説明した(6月29日、サンフアン)=ロイター

 この先何年も不透明な見通しに直面している債権者とプエルトリコの人々は、政府が再編策ではその発表自体――最初の発表は公式声明ではなく新聞のインタビューで行い配慮を欠いていた――よりも良い仕事を行ってくれることを望むだろう。

 債務の再編は特に不履行となったのが公共団体である場合には大変でまとまりにくい。関係者や観測筋のほぼ全員が実際に最も起こりうるのは混沌だと考え、心の準備をしている。唯一の勝者はこの先何年も手数料を回収できる法律事務所だろう。

■見込まれる混乱と長い法廷争い

 米債券運用大手ピムコの地方債チームの責任者であるヨセフ・ディーン氏はプエルトリコのエクスポージャーをほぼすべて減らしたが、最も想定されるシナリオとして混乱や法廷での争いの長期化を挙げる。「今はビールとホットドッグを片手に当事者たちから離れた観客席で傍観するのがいいことは確かだ」

 180度の方針転換にもかかわらず、同自治領は慎重なアプローチを取りたがっているようだ。ガルシア知事は米紙ニューヨーク・タイムズに、債務は「返済不可能」と語ったにもかかわらず、1日には電力公社による4億1500万ドルという多額の分割払いを行い、かろうじて90億ドルの債務不履行(デフォルト)を免れた。作業部会は8月末までに5年の精査計画を立案しなければならない。この返済はプエルトリコがそれまでは混乱を招くデフォルトを避けたがっていることを示唆している。

 先月29日にガルシア知事は、債権者に対して「犠牲を共有する話し合いの場」に参加するよう呼びかけたが、この際、「数年間」の返済期限の延長を債権者と「交渉により合意」したい旨を強調した。現時点では名目の債務減免を求めているのではないということだ。

 この戦略から、プエルトリコと多額の債務を抱えるその多くの公共団体に米連邦破産法第9条を適用できるようにし、広範囲にわたる裁判所の指導の下での再編を行いたい狙いがうかがえる。にもかかわらず、同自治領は新たな融資が全く見込めず、次の財政年度の予算収支は債務返済前でもかろうじてトントンであり、近い将来の返済義務でさえ満たしていくのは大変困難だろう。

 米運用会社アライアンス・バーンスタインで地方債の調査を統括するジョセフ・ローゼンブルム氏は、先週分割払いはしたものの、今後2カ月間でまとまった金額の返済期限が数件訪れる予定だと言う。政府開発銀行の3億ドルの返済期限は7月10日、パブリック・ファイナンス・コーポレーションの9400万ドルは7月15日、売上税で担保された債券1億6000万ドルは8月1日に期限が迫る。

 債権者についても、特に、プエルトリコ憲法で保証される一般財源債や、売上税で支払いが担保されるCOFINA債の保有者はいかなる債務の減免にも進んで応じようとはしないだろう。

 投資するヘッジファンドの多くはディストレス債を運用しており、長期の裁判には慣れている。ヘッジファンドの債権者委員会は法律事務所を雇った。ヘッジファンドの運用会社は個々の多くの運用会社が法的選択肢を模索していると見込んでいる。

 プエルトリコが法廷で孤立することはないだろう。一般財源債に及ぶまでの広範囲な債務再編を行う構えであるなら、最終的には投資家同士が訴訟を起こすだろう。政府債の債権者はCOFINA債の債権者に対し、迂回された売上税を請求する可能性もある。

 戦線は引かれた。COFINA債の債権者は自らの利益を守るために債権団を結成し、先週クイン・エマニュエル・アークハート・サリバンを雇った。「アメリカン・ロイヤー」誌による同事務所の描写「他より優れ、迅速で、厳しく、恐ろしい」を満足げに引用する法律事務所だ。

 リオ−グ・リサーチの創業者、ケント・コリアー氏は「債権者同士の訴訟は必ずある。その結果が出るには何年も何年もかかる。多くの利益と利益のぶつかり合いだ」と述べている。

By Robin Wigglesworth

(2015年7月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


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