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記事のなかに、「残念ながら、対中政策で確実にアメリカと歩調を合わせているのは日本だけだ。他のアジア諸国はほとんどが等距離外交を選び、アメリカにも中国にもいい顔をしようとしている」とあるが、日本政府だって、戦後70年の米国支配のなかで面従腹背の術を学習しているから、日本政府の言動をそのまま信じるのは短慮だといっておく。
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『ニューズウィーク日本版』2015−7・7
P.24〜27
「南シナ海を占拠する中国の野望と深謀
米中関係:人工島で領土拡大を狙う中国に対抗するアメリカ
必要なのは地域安定に貢献する決意を周辺国に信じさせることだ
ミンシン・ペイ(クリアモント・マッケンナ大学教授)
中国が南シナ海で行っている岩礁の埋め立て工事は2つの重要な疑問を提起した。1つは中国の思惑についてだ。周辺国の非難を浴びながらも人工島の建設を急ぐのはなぜか。
もう1つは、中国の挑戦的な動きがもたらす反応だ。アメリカとその同盟国はどう出るだろうか。
残念ながら、どちらも具体的に応えるのは困難だ。そもそも中国の戦略的な意図は、もっぱら推測するしかない。それでも南シナ海での動きには3つの重要な目的があり、巨大な利益につながる可能性があるのでリスクを冒してでも遂行していると、考えている。
埋め立て工事の第1の目的は、既成事実の積み重ねで領有権を認めさせることだ。長年にわかり中国は、地理上も国際法上もまったく根拠のない「九段線」という領海線にのみ基づいて南シナ海の領有権を主張してきた。
しかしスプラトリー(南沙)諸島のいくつかの岩礁を占拠した今、中国は国際法の曖昧さを利用することで、小さな岩礁を大きな人工島に変えられると考えている。その島が軍隊の駐留や経済活動を可能にするほどの広さになれば、もはや架空の九段線を持ち出す必要はない。目に見える土地を実効支配していると強く主張できる。
中国が国際法を自国に都合のいいように解釈しているのは間違いない。南シナ海の埋め立てでも、自ら批准した国際海洋法条約(UNCLOS)を軽視しているのは明らかだ。UNCLOSを遵守する気があるのなら、九段線を根拠にした領有権の主張など、とっくの昔に引っ込めていたはずだ。
しかし岩礁の埋め立て工事を法的に正当化しようと画策するなかで、中国はUNCLOSに「付け込める部分」を見つけたようだ。
厳密に言えば、UNCLOSは人工島の建設を禁じていないが、人工島から12カイリ(約22キロ)の領海とその上空の領有権を認めてもいない。このどっちつかずの曖昧さのために、中国政府は埋め立て工事が国際法に違反していないと主張することができる。
中国が得意な「サラミ戦術」
中国は今後もUNCLOSを都合よく解釈し続けるだろう。人工島に軍の基地を建設した暁には、UNCLOSの下で領有権と経済権が認められていると主張し始めるだろう。ただしUNCLOSは、そうしたケースで200カイリまでの排他的経済水域(EEZ)を認めてはいない。
埋め立ての第2の目的は、戦術的なものだ。南シナ海における中国の戦略は、じわじわと現状を変えていくこと。敵の勢力圏を少しずつそいでいくので「サラミ戦術」と呼ばれる。
その典型例として、日本と領有権を争う東シナ海の尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題で、この戦術を利用して大きな成果を手にしたことが挙げられる。日本が主張する領海内に最初は民間の漁船団を、次には非武装の艦艇を送り込んできた。
中国はそうやって領有権の既成事実化を狙い、尖閣諸島上空に防空識別圏(ADIZ)を設ける道を切り開いた。軍事的衝突に至らない程度の戦術的挑発を積み重ねて、いつのまにか現状を変更してしまい、周辺国にそれを追認させるわけだ。
人工島の存在は、2つの目的に役立つ。まずは現状変更の重要な一歩として。表向きは単なる埋め立てなので、軍事衝突が起こるリスクは低い。それで安心だと判断すれば、中国は第2の段階に進もうとするだろう。その時はADIZを設定してくる可能性が高い。
国際法はADIZの一方的な設定を禁じていないからだ。中国は13年11月に東シナ海にADIZを設けたように、南シナ海でも国際法の盲点を突いてくるだろう。
しかしADIZは、現実に適用されなければ存在意義を失う。たとえ現時点で南シナ海にADIZを設定しても、中国はそれを守らせるための空軍力を持ち合わせていない。大陸から飛び立つ戦闘機の航続距離では、南沙諸島の上空をパトロールできないからだ。そのためにこそ、人工島に軍用の滑走路や補給基地が必要だ。
人工島建設の第3の目的は、東アジアの秩序と安定を守ろうとするアメリカの決意を試し、それを揺るがすことだ。東アジアにおけるアメリカの戦略的目標は、同地域で覇権を主張する国の出現を阻むことにある。この点はオバマ政権の下でも変わっていない。
米中間で行われている地政学的ゲームにはいくつかの次元がある。軍事面の競争は目につきやすいが、もっと重要なのは、「アメリカはアジアにおける力の均衡を守る」という約束の信憑性を維持することだ。
しかし今の時代、アメリカ単独で中国を抑えるのは難しい。莫大な費用が掛かるし、中国が急速に軍事力を拡大しているからだ。従ってアメリカには、軍事面でも外交面でも頼りになるアジアの同盟国が必要となる。
アメリカの信用を切り崩す
残念ながら、対中政策で確実にアメリカと歩調を合わせているのは日本だけだ。他のアジア諸国はほとんどが等距離外交を選び、アメリカにも中国にもいい顔をしようとしている。
こうした国々は、アメリカが中国に対抗してくれることを望んでいるが、報復を恐れて表向きは中国に歯向かわない。なぜか。アジアにおける力の均衡を守るというアメリカの約束を信用していないからだ。こうした諸国が恐れているのは、いずれアメリカが出て行って、アジア地域の覇権を中国に譲るという事態だ。
中国政府は彼らの懸念に気付いている。だから、長期の安全保障となるとアメリカは当てにならないと、アジア諸国の指導者に説いて回っている。
金敵や貿易の面では、既に東南アジアに対するアメリカの影響力は低下している。とりわけ97〜98年の金融危機の際に、アメリカは積極的な支援を拒んだ。そうした経緯があればこそ、中国側の議論が説得力を持つ。
安全保障に関しても、中国側はアジアにおけるアメリカの役割を否定する論調を強めている。いい例が、上海で昨年5月に開かれたアジア信頼醸成措置会議(CICA)だろう。
習近平国家主席は席上、「アジアの物事を運営し、問題を解決し、安全を守るのはアジアの人民であるべきだ」と言い放った。そして今のアメリカにはアジアにおける力の均衡を維持する覚悟がないことを示すために、中国はささやかな挑発行為を繰り返しているわけだ。
アメリカが何もせず、あるいは効果的な対応を取れないようであれば、中国はアジア諸国に対し、アメリカは「牙を抜かれた虎」にすぎないと言いふらすだろう。結果、アメリカの戦略的信用は大きく損なわれる。
しかしアメリカは最近、南シナ海における中国の進出拡大にきっぱりと対応した。これは中国側にとって想定外だったかもしれない。もちろん、南シナ海における中国の戦略と戦術に対抗するアメリカ側の包括的な戦略は、まだできていない。しかし、その主要な要素はある程度まで見えてきた。
不透明な米中対決の行方
1つは外交的な圧力だ。6月7〜8日にドイツで開催されたG7サミットの首脳宣言に見られるように、アメリカは世界の同盟国を説得して、東シナ海と南シナ海における中国の行動を非難することに成功した。
同宣言には、事実上中国を名指しし、「大規模な埋め立てに強く反対する」という趣旨の厳しい文言が採用された。6月16日に中国外務省が南シナ海における埋め立ては「近く完了」と発表したのは、アメリカの圧力に対する中国側の答えなのだろう。
しかし中国が本気で緊張緩和に舵を切るのか、それとも先週ワシントンで開催された米中戦略・経済対話に向けた環境づくりの戦術的な行動だったのかは不明だ。
心配なのは、中国外務省の声明に人工島での軍事施設建設を示す内容が含まれており、これが島の軍事化の第一歩と解釈できることだ。
そうなれば、アメリカはより厳しい軍事的対応を取らざるを得ないだろう。米軍は現在、人工島の上空に海軍の偵察機を飛ばし、中国の領有権がないことをアピールしている。米国防総省が強気の路線を選ぶなら、次には人工島の12カイリ内に軍艦を派遣するだろう。
アメリカはこれらの島で制空海権を主張する中国に直接対決するだけでなく、ASEAN(東南アジア諸国連合)、特にベトナムやフィリピン、シンガポール、インドネシアとの軍事協力を強化するだろう。中国に盾突くことを恐れないベトナムとの安全保障関係の強化は、中国にとって特に目障りなはずだ。
短期的には、こうした方法でアメリカは中国を押し返すことができる。問題は、それを持続できるかどうかだ。中国は地理的に有利で、地域の覇権確立に専心できる。反対に、アメリカはアジアと距離があり、世界の警察官として中東など他地域の危機にも対応しなければならない点で不利だ。だから南シナ海における米中対決の行方は不透明で、この状況はどこかで行き詰まる可能性が高い。
だが、そうした膠着状態が中国を利すると考えるのは間違いだ。むしろ最近の南シナ海における中国の強引な活動によって、アメリカの政界に「中国の台頭は脅威だ」という認識ができたことが大きい。人工島の建設にゴーサインを出したとき、果たして中国の指導者たちはこうした展開まで読み切っていただろうか。」
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