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米国はEU諸国に対し、ギリシャ問題で妥協案を打ち出すよう要請してきたが、聞き入れられなかった (c) Can Stock Photo
超大国・米国、ギリシャ問題では無力な傍観者 EUに債務減免を要請しても聞き入れられない理由
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44232
2015.7.7 Financial Times
(2015年7月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
左派の悪魔学では、米国は力と権利を同一視する尊大な超大国だ。米国は他人の問題に立ち入り、自分の思うままにする。ギリシャ以上にこの見方が間違っている場所はない。ギリシャの急進左派連合(SYRIZA)の陰謀論者はすべての木の後ろに新帝国主義者の策略を見て取るかもしれないが、現実は大きく異なる。
オバマ政権も国際通貨基金(IMF)――米国の世界的な財力の手段――も、欧州の債権者を相手にギリシャを擁護する用意があった。
だが、SYRIZA政権のふざけた態度は、ギリシャの友人をにっちもさっちもいかない立場に立たせた。
米国は長らく欧州に対し、構造改革と引き換えにギリシャの債務の一部を減免するよう要請してきた。だが、努力は無駄だった。欧州については、米国は強くもなければ間違ってもおらず、弱くて正しかったのだ。
■ギリシャの運命に対して米国が持つ利害
米国はもっと大きな影響力を駆使することができるだろうか。その答えはイエスであるべきだ。米国はグレグジット(ギリシャのユーロ圏離脱)を阻止することに2つの重大な利害を持つ。
1つ目は経済的な利害だ。ギリシャ経済の規模はオレゴン州程度しかなく、人口はオハイオ州と同じだが、全面的なデフォルト(債務不履行)は米国の主要貿易相手国の成長を弱める。グレグジットは米国の輸出の伸びを鈍らせるうえに、世界市場に波及する恐れもある。
どのように、どの程度波及するかは誰も予想できない。だが、グレグジットの伝染のリスクは米連邦準備理事会(FRB)に重くのしかかる。FRBの正常な金利への回帰を巡る最大の疑問は、エーゲ海にあるのだ。
2つ目の利害は地政学的なものだ。米国は先月、欧州連合(EU)を説得し、ロシアに対する制裁を半年延長することができた。だが、それは以前より困難な仕事だった。
欧州の世論はロシアの脅威について安穏としている。
エネルギー外交や虚偽情報、その他の手段の組み合わせを通じて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は分裂の種をまこうとしている。
今のところ、プーチン氏は中欧諸国を中心に限定的な成功しか収めていない。グレグジットが起きれば、その仕事は楽になるだろう。バルカン諸国は自然な標的だ。ギリシャの未熟な政権はロシアに親近感を抱いており、プーチン氏はそれを利用しようとするだろう。
英国のように、ギリシャがユーロから離脱しながらEU加盟国のままでいることはあり得る。それが最もましな結果かもしれない。
一方で、グレグジットはギリシャがEUと北大西洋条約機構(NATO)の双方から脱退する結果に終わる連鎖反応を引き起こす可能性もある。不安定になったギリシャがどんな道をたどるのかは誰にも分からない。米国は知らずに済む方が望ましいと思っている。
■米国にできることは限られている?
もしかしたら、大抵は無視されるとはいえ、欧州の「信頼されるアドバイザー」であり続けるくらいしか、米国にできることはないのかもしれない。ギリシャはEUの債権者に対して莫大な借金を抱えている。
欧州と米国では、ギリシャに対するエクスポージャーが大きく異なる(写真はアテネ)〔AFPBB News〕
それと比べると、米国の直接的なエクスポージャー(投融資残高)は微々たるもので、IMFによる240億ドルの対ギリシャ融資の負担分を大きく上回ることはない。
また、米国はより大規模なIMFの救済パッケージを支持して影響力を強めようとすることもないだろう。万一、ギリシャがIMFの救済を交渉する立場に立ったとしても、米議会が承認するとは思えない。
さらに言えば、ギリシャ危機は、欧州統合の一義的な手段であるユーロに対して存続にかかわる脅威を突き付けている。
対照的に、グレグジット後の米国の生活は以前とほぼ変わらずに続く。
米国が自らの資金をほんのわずかしか賭けていない以上、なぜ欧州は米国の言い分にもっと耳を傾けなければならないのか。
■過去と未来に目を向けよ
その答えは過去と未来にある。欧州統合プロジェクトの起点は通常、1957年のローマ条約だとされる。実際には、その10年前に始まった。疲弊した英国が米国にバトンを渡した時のことだ。
「トルーマン・ドクトリン」がなければ、また、このドクトリンでギリシャ国内のソ連の支援を受けた共産主義運動が倒されなければ、近代欧州が生まれたとは考えにくい。そして、米国の「マーシャル・プラン」の援助計画なしで近代欧州が生き延びたとも思えない。
米国が欧州の安全保障を引き受ける体制は、ベルリンの壁の崩壊で終わったわけではない。1990年代にバルカン半島の破壊的な戦争を終わらせたのは米国だった。米国政府が欧州の主要国を味方につけるのに3年の歳月がかかった。米国の介入がなかったら、バルカン諸国が今、ロシアの勢力圏内に入っていた可能性もある。
過去は別の国かもしれない。だが、未来は気まずいほど馴染みのあるものになる可能性がある。
米国のジャック・ルー財務長官が欧州諸国の財務長官に電話し、ギリシャ問題で妥協策を打ち出すよう要請することに数え切れないほどの時間を費やしているように、米国のアシュトン・カーター国防長官は各国の首都から首都へと飛び、失地回復主義のロシアに対する懸念を喚起しようとしている。国防長官はルー氏よりも辛うじて多くの成功を収めているだけだ。
再び疲弊している英国を含め、大半のNATO加盟国は国内総生産(GDP)比2%というNATOの定めた国防費の目標を平気で割り込んでいる。
警句にあるように、NATOの創設の目的は「ロシアを締め出し、米国を引き込み、ドイツを抑え込む」ことだった。
以来、変わったのはドイツの論理だけだ。だが、外交政策の点では、ドイツは自国を抑えておくことを好む。昨年のロシアによるクリミア併合にもかかわらず、ドイツの防衛予算はGDP比わずか1.2%にとどまっている。
■ニクソンが鳴らした警鐘
一連の出来事がより幸せな展開を迎える可能性はある。ギリシャが事態を一変させるかもしれない。また、ロシアは中欧諸国への侵略から手を引くことにするかもしれない。
しかし、事態が悪化し続けるようであれば、米国の声はもっと大きくなる必要がある。リチャード・ニクソンはかつて、米国が「惨めで無力な巨人」になってしまうことに警鐘を鳴らした。
今日の欧州ほどニクソンの言葉がぴったり当てはまる場所はほとんどない。かつて米国は欠くことのできない国だった。現在はあまりに簡単に無視することができる。
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