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『ニューズウィーク日本版』2015−6・30
P.36〜37
「ギリシャ「茶番劇」はもうたくさんだ
欧州経済:「支援延長」と「改革の演技」の悲惨な応酬
改革を取捨選択して創造的破壊の力を解き放て
ルクレツィア・ライクリン(ロンドン・ビジネススクール経済学教授)
リチャード・ポルテス(同教授)、エリアス・パパイオアヌ(同准教授)
もう待ったなしだ。ギリシャ政府と、IMF(国際通貨基金)、EU(欧州連合)、ECB(欧州中央銀行)のトロイカから成るその債権者団は今すぐ、まともな合意を結ぶ必要がある。なのにどちらも「(支援の)延長と(改革の)演技」の悲惨な戦略を採用し、細かい数字にこだわっている。現に今も、とっくに期限切れの支援プログラムのさらなる延長を画策しているらしい。
ギリシャ危機の核心は構造的な問題にある。機能不全の行政や寡占状態の製品市場、弊害だらけの各種規制や官僚主義、非効率な司法制度―これらを変えていく明確な戦略がない限り、どんな合意も空手形に終わるだろう。
つまり「延長と演技」の戦略は既に破綻している。包括的な構造改革の実行には緊縮の緩和が不可欠だし、期限延長の繰り返しは先の見えない不安感を募らせ、ギリシャ経済復活の足かせとなっているからだ。
ギリシャ政府に健全なマクロ経済政策を取らせるには、まず債権者団の求める数値目標を現実的なレベルに落とす必要がある。ギリシャの基礎的財政収支(プライマリーバランス) の黒字率は、今年度については対GDP比0・8%ないし1%あたりの攻防となっているようだ。しかし今年は少しでも黒字ならよしとして、来年以降に徐々に黒字幅を拡大する、というのが最も現実的な線だろう。
流動性の縮小、少数の大企業による製品市場の支配、輸出部門の未成熟という現状では、緊縮策の延長はさらなる景気悪化を招くだけだ。逆に、プライマリーバランスの目標値を低く設定すれば、政府には構造改革に取り組む余裕ができる。庶民レベルでもヨーロッパを見る目が変わるだろう。
年金問題にも現実的な対応が必要だ。早過ぎる定年(公務員の3人に1人が55歳前に退職)はすぐに見直すべきだ。政府は新規雇用者を対象に定年を徐々に引き上げ、社会保険料の負担逃れを取り締まり、付加年金基金の赤字ゼロを月指さないといけない
。
しかし、年金支給額の削減は景気に悪影響を与えるので、一定の移行期問が求められるだろう。ここ数年で大幅に自由化され、実質貸金が急激に下がっている労働市場の改革についても同様だ。
いま必要なのは、こうした改革志向の合意だろう。改革の順序も大事で、景気の足を引っ張りかねない改革は後回しにする。とにかくビジネス環境を整備し、創造的破壊の力を解き放ち、持続可能な景気回復の基礎を築かねばならない。
輸出企業や技術集約的な産業への資本と労働力の再配分が必要だ。政府は民問企業や起業家を敵視せず、場当たり的な課税で企業活動を妨害することも慎むべきだ。
成長を取り戻す処方箋
持続可能な成長を取り戻すための処方箋は以下のとおりだ。
第1は、製品市場の改革を遅滞なく進めること。議会は国内外の投資意欲に水を差すような障壁をなくし、価格統制の撤廃を進めるべきだ。時代錯誤な数々の許認可手続きを簡素化し、企業の参入・拡大を容易にする必要もある。
第2は、国の行政能力を改善すること。少なくとも、公務員の雇用に政治家が口出しする慣習は排除すべきだ。IT化などを推進し、行政の透明性と説明責任の仕組みを強化する必要もある。
第3は、健全で予測可能な法制度を確立すること。現状では所有権や投資家の保護、企業統治に関する規定がお粗末過ぎる。最近も企業と株主の関係について法律が制定されたが、株主にとって不利な内容だった。
第4は、司法手続きの抜本的な見直し。審理が滞るから、結果として既得権が守られ、新たな起業が妨げられる。これでは不公平感が増し、司法への不信感が高まるだけだ。司法改革は段階的にではなく、一気に進めるべきだ。
大量にたまった未処理の案件を処理するためにパートの裁判官を雇い、週末や夏季にも開廷することを検討すべきだろう。中期的には専門法廷の開設や法廷以外の紛争解決機関の設置もあっていい。
新政権は「新たな出発」を約束した。だが実際にはほとんど何もしていない。中央銀行と国家統計局の独立性を守るべきなのに、政府も与党系の議員も介入を強めている。透明性を高めるどころか、政府決定のすべてを公開するウェブサイトの開設を邪魔している。港湾施設や地方空港の民営化を進めるという政府方針には、閣僚の聞から異論が続出している。
それにしても現在の債務返済交渉には、いずれの側にも過去5年間の失敗を解消しようという意思が見えない。債権者団は緊縮財政一点張りの近視眼に陥っている。
ギリシャは依然として改革のふり(演技)をしているだけ。その陰でギリシャ経済は縮小を続けるのみ。このまま「延長と演技」を続けていくことが不可能なのは、双方共に分かっているはずだ。
ギリシャ政府は率先して包括的な改革の舵を取り、国民にしつかり説明し、親欧州派の諸政党を巻き込んで実行していくべきだ。全員が、少なくとも親欧州派の全勢力が一致団結して行動しなければならない。一方でEUやIMFは、ギリシャの行政機構や司法の改革、カルテルの解体や製品市場の改革に協力すべきだ。これらの改革にギリシャ政府が踏み出すなら、見返りに債務削減(返済期限の延長と金利の引き下げ)に応じてやるべきだ。」
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