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さて、ユーロ圏脱退に関する法的な交渉にも増して泥沼化すると予想されるのが、債権国とギリシャの間の債務をめぐる交渉だ。
これまで欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)はギリシャを救うために、天文学的な額を同国に貸してきた。2010年5月と2012年3月の2回にわたった準備した救済パッケージの資金枠は2709億ユーロ(37兆9260億円)に達する。このうち2157億ユーロ(30兆1980億円)がすでに融資として支払われている。
債権交渉の泥沼
債権国は2157億ユーロのうちどれだけを回収できるかについて、ギリシャ政府と交渉することになる。過去の国家破綻の例を見ると、債権国はすでに貸した金の大半を失うことになりそうだ。
たとえば2001年にアルゼンチンが債務不履行(デフォルト)に陥った。この時は、2005年と2012年に債務の一部減免が行われた。しかし債務返還をめぐる訴訟は、デフォルトから14年経った今も続いている。アルゼンチンに対する債権の約70%は、回収不能となった。
ミュンヘンのIFO経済研究所で所長を務めるズィンは、「ギリシャがデフォルトしユーロ圏を離脱した場合、ドイツが失う債権の額は最大870億ユーロ(約12兆1800億円)に達する」と予測している。これは2014年のドイツ連邦政府の予算額(2965億ユーロ)の約29%に当たる。
2010年にEUは、ギリシャの財政状態を改善するために、1070億ユーロの債権を減免した。金融業界で「ヘアカット」と呼ばれるこの借金棒引きにより、銀行や保険会社など民間の投資家が日本円で14兆9800億円のカネを失った。これに対し、今回のギリシャのデフォルトによって損害を受けるのは各国政府、そして納税者である。ギリシャ危機の被害がいよいよ庶民にまで及ぶ。
(累積公的債務残高の対GDP比率)
●第1次支援プログラム(2010年〜2013年)
支払い同意額 | 実際に支払われた額 | 第2次支援プログラムに繰越 | |
---|---|---|---|
ユーロ圏諸国 | 77.3* | 52.9 | 24.4 |
IMF | 30 | 20.1 | 9.9 |
合計 | 107.3 | 73 | 34.3 |
支払い同意額 | 実際に支払われた額 | ||
---|---|---|---|
EFSF | 144.5 | 130.9 | |
IMF | 19.1 | 11.8 | |
合計 | 163.6 | 142.7 |
欧州の納税者たちは、リーマン・ショック後の金融危機の際に、銀行救済のための多額の血税を投じさせられた。今度は国家破綻の後始末のために、血税を投じさせられることになる。危機が民間経済で起きても、国家レベルで起きても、最後の請求書を受け取るのは常にわれわれ納税者である。
ギリシャ市民にとっても、苦難の日々が待っている。ユーロ圏脱退後にドラクマを導入した場合、ドラクマのユーロに対する交換レートは非常に低いものになる。このため、ギリシャは製品をユーロ圏へ輸出する際に、価格競争力が高まるという利点が生じる。
しかしギリシャの民間企業にお金を貸している民間企業は、借金の返還をユーロで請求する。ユーロ高、ドラクマ安のために、ユーロで借金をしているギリシャ企業は不利な状況に陥る。
またドラクマ安のために、製品の輸入価格が高くなるので、物価高が激しくなるかもしれない。さらに、ギリシャ政府はEUやECBからの融資や資金援助を受けられなくなるので、大量のドラクマ紙幣を印刷することによって流動性を確保しようとするだろう。これによって超インフレが発生し、市民の蓄えや年金の価値が急激に下がる危険もある。ドイツの経済学者の間では、ユーロ圏脱退がギリシャ市民の生活水準を下げるという意見が有力である。
第2のグローバル金融危機の可能性は低い?
さてドイツでは、ギリシャがユーロ圏を脱退しても、グローバルな金融危機につながる危険は低いという意見が有力だ。
ドルに対するユーロの為替レートは6月29日に一時下落したが、夕方には持ち直した。イタリア、スペインなどほかの南欧諸国の国債の利回り(リスク・プレミアム)は、2010年のギリシャ危機の時と異なり、急上昇することはなかった。
ドイツ保険協会(GDV)会長のA・エルトラントは、6月末にドイツの日刊紙とのインタビューの中で「万一ギリシャがユーロ圏を脱退しても、リーマン・ショックの時のようなグローバルな金融危機を引き起こす危険は少ない」という見方を打ち出した。
エルトラントは、「2008年のリーマン・ショック以降、銀行や保険会社の安定性を高めるための様々な対策が取られた。ドイツの保険業界は2012年には約40億ユーロ(約5600億円)相当のギリシャ国債を保有していたが、今ではほとんど持っていない」と述べ、保険業界がギリシャ脱落のリスクを最小限に抑える体制にあることを明らかにした。
さらにエルトラントは「リーマン・ショックの時に主として損害を受けたのは、企業や個人投資家だった。今回のギリシャ危機の影響が主に及ぶのは、投資家ではなくユーロ圏の納税者だ。GDVは金融市場の安定を強く望んでいるが、ギリシャが経済改革を拒み、通貨同盟のルールを守らない場合には、ユーロを拒否していると見られても仕方がない」と指摘した。
欧州諸国は、ギリシャの債務問題が表面化した翌年の2010年にEFSF(欧州金融安定化ファシリティー)を創設し、国家破綻の危機に陥った国に対して巨額の流動性を提供する態勢を整えた。EFSFが準備している資金枠は4400億ユーロ(約61兆6000億円)にのぼる。
2010年の時には、過重債務を抱えるポルトガルとアイルランド、スペインも危険な状態に陥った。けれども緊縮策や経済改革を断行した結果、現在はEUなどの支援プログラムを必要としなくなっている。このため、ギリシャがユーロ圏から脱退しても、債務危機が他の国へ飛び火する危険は当時に比べて格段に低くなっている。
EUやドイツ財務省の実務者レベルでは、ギリシャのデフォルトやユーロ圏脱退を想定した「プランB」が今年に入ってから秘密裏に検討されてきた。今年5月にはドイツ財務大臣のショイブレが、「ギリシャの国家破綻はあり得ない」としていたこれまでの姿勢を撤回して、「あらゆる事態が起こり得る」と述べ、何が何でもギリシャを破綻から救うわけではないという見方を初めて公にした。
歴史をひもとくと、ギリシャは過去にも国家破綻を経験している。同国は1829年にオスマン・トルコから独立して以降、外国から借金できない状態を長年にわたり経験した。19世紀のギリシャはぶどうの木の株を主な輸出商品としていた。ある時フランスぶどうの木が疫病の被害を受けたため、ギリシャのぶどうの木の株の価格が高騰。同国は、ぶどうの株の貿易によって、フランスや英国に負っていた多額の借金を利息とともに返済することができた。
しかしぶどうの株の価格が暴落すると、ギリシャは債務を返済することができなくなり、1893年に支払い不能状態に陥った。つまり今回、歴史は繰り返されたのである。
EUが犯した重大な政策ミス
さて今回の危機の敗者は、ギリシャだけではない。EU、そしてその事実上のリーダーであるドイツも敗者である。
私は2009年末にギリシャ政府の過重債務が表に出た時から、ユーロ危機をフォローしている。2010年にドイツ首相のメルケルは、「ユーロが失敗に終わったら、欧州が失敗に終わる。一国たりとも脱落者を出さない」と宣言した。しかしギリシャが事実上の支払い不能状態に陥ったことで、メルケルの「公約」は実現しない可能性が強まった。つまりEUとドイツも、ギリシャが支払い不能に陥ることを避けるという目標の達成に失敗した。
ユーロ危機は、欧州の南北問題の象徴。EUとドイツは南北問題に有効な解決策を見つけることができなかった。
EUそしてドイツの最大の失策は、厳しい緊縮策をギリシャに押しつけた結果、言うことを聞かない「モンスター政権」をアテネに誕生させたことである。緊縮策は、ポルトガルやアイルランド、スペインにとっては受け入れられる薬だった。しかし欧州の最貧国の1つ、ギリシャという患者にとっては副作用が強すぎる劇薬だった。
ギリシャでは徴税や脱税摘発のためのインフラが未整備で、土地登記簿すらなかった。同国政府は2010年まで、自国の公務員の数すら把握していなかった。そのような国にトロイカ(欧州委員会、ECB、IMFの代表が構成した監視委員会)の要求を100%実行しろと迫るのは、どだい無理な注文だった。
私はこれまで仕事のために約10回ギリシャを訪れており、知人も多い。1990年代に初めてこの国へ行ったときの第一印象は、「ここは欧州ではない。中東世界に近い」というものだった。この背景には、ギリシャが約400年にわたってオスマン・トルコに支配されていた事実がある。6月以降のドタバタによって、私の第1印象がそれほど的外れではなかったことがわかった。
ギリシャの有権者たちは、2010年以来行われてきた歳出削減や公務員の削減などに堪忍袋の緒を切って、左派勢力に属する若い政治家に政権を与えた。
今年2月、ギリシャにチプラス政権が誕生して以来、ギリシャ危機の質が変わった。2010年から2014年まで、ギリシャ政府はユーロ・グループとIMFが要求する緊縮策と経済改革を真正面から拒絶することはせず、実行を約束した。実際には、労働組合や国営企業の抵抗にあい、改革は遅々として進まなかったが。
これに対し今年の選挙で誕生した反EU色の濃い極左と右派の連立政権は、「欧州を支配しているヨーロッパ北部の諸国に対抗し、緊縮策を実行しない」ことを有権者に約束した。
過度な要求が「異形の政権」を生んだ
ギリシャ首相のチプラスと財務大臣のヴァルファキスは、これまでの政権と異なり、ユーロ・グループやIMFと対決する姿勢を隠さなかった。彼らは首脳会議や財務相会合が行われる直前にしばしば「新しい提案」を打ち出して議事を混乱させたが、提案はほとんど新しい内容を含んでいなかった。EUとIMFが絶対に受け入れない、一部の債務の減免(通称ヘアカット)に最後まで固執した。西欧と対立しているロシアへの接近もちらつかせた(大統領のプーチンは結局アテネに資金を供与しなかった)。
チプラスは、IMFを「犯罪的な組織」とまで呼んだ。これに対しIMF専務理事のC・ラガルドは、「ギリシャの交渉担当者は、いい加減に大人らしく振舞ってほしい」と批判。こうしたやりとりは、対話ではなく非難の応酬と呼んだ方がふさわしいものだった。今年2月以降、債権者とギリシャ政府の間はまともな対話や交渉ができない状態が続いた。
チプラス政権には、EUやIMFと譲歩し合うことによってユーロ圏に残留するための解決策を見つけようという姿勢が最初から感じられなかった。彼が自国民に向けて発信したメッセージを読むと、徹底抗戦を誓うことによって、EU・IMFという巨人ゴリアテと戦うダビデのような存在として自分をアピールしようとしている印象を受けた。ダビデでなければ、欧州版チェ・ゲバラと言ってもよい。
EUとドイツにとって、緊縮策によってギリシャの有権者を過激勢力の方へと押しやり、協調姿勢を取らない「異形の政権」を生んでしまったことは、重大な蹉跌(さてつ)であり政策ミスである。第一次世界大戦に勝った英仏が、ベルサイユ条約によって過重な賠償金をドイツに要求したことを思い起こさせる。この時は、1930年代のドイツに「異形の政権」を生み出した。
天文学的な額の金を吸い込み、EU内の協調をずたずたにしたギリシャ危機が我々に教訓を与えるとすれば、「緊縮策や経済改革を要求する時には、その国が要求を実行できるだけの基盤を持っているかどうかをまず確認するべきだ」ということである。こうした基盤を持たない国に、機械的に緊縮策を要求しても、チプラス政権のようなモンスターを誕生させるだけだ。
富の再分配を求めたチプラス政権
現代は、個人の所得だけでなく、国家の間の貧富の差も拡大しつつある。ギリシャ危機は、欧州内の南北格差から生まれた。チプラス政権が目指したのは、欧州内の富の再分配だった。彼らが緊縮策を拒否する一方で、債務減免を要求したのは、「ドイツなどヨーロッパ北部の国々は、ユーロ圏創設によって利益を得ているのだから、蓄えた富を我々に還元するのは当然だ」という思想の表れである。つまりチプラス政権は、ドイツなど北部の国々がギリシャを融資によって支援するのは当然と考えているのだ。
今後欧州諸国は、ギリシャ危機を教訓として、域内の格差是正に真剣に取り組まざるを得ないだろう。スペインやフランス、イタリアの左翼勢力はドイツなど北部の国々に楯突いたチプラス政権に喝采を送っている。
フランスのT・ピケティや米国のJ・スティグリッツら26人の経済学者は英国の日刊紙「ファイナンシャル・タイムズ」(6月5日付)に「ギリシャ危機をめぐる交渉に経済的な理性と、人間性を求める」という公開書簡を掲載した。
「偶発的な事態を防ぐために、双方は妥協するべきだ。EU・IMFに対しては、チプラス政権が経済改革を実行できるように、時間の猶予と資金の提供を求める。これまでの緊縮策は、ギリシャ政府の税収を減らすことになるので効果的ではなかった」
「EU・IMFの従来の緊縮・改革要求はギリシャ経済の再建に失敗した。同国の有権者が受け入れられる新しい長期的な合意が必要だ」
ピケティらは「チプラス政権が崩壊した場合、さらに過激な政権が生まれるかもしれない」と警告し、緊縮よりも経済成長に主眼を置いた救済策を開始するよう訴えた。EUが将来、弱小国に対して機械的に緊縮策を強制した場合、再び「異形の政権」が生まれる危険がある。
当面の焦点は7月5日の国民投票だ。銀行の前に長蛇の列を作るギリシャ市民の間では、不満と不安感が高まっている。その怒りの矛先がユーロ・グループとチプラス政権のどちらに対して向けられるのか。有権者の過半数がEUとIMFの緊縮策を受け入れてユーロ圏脱退に「ノー」を示した場合、チプラス政権が追い落とされ、ユーロ・グループとの間で交渉が再開される可能性もゼロではない。
巨額の財政赤字に苦しむギリシャに対して、EU(欧州連合)やIMF(国際通貨基金)、ECB(欧州中央銀行)は6月30日で金融支援を延長しなかった。ギリシャはIMFへの返済を延滞させ、先進国では初のデフォルトに近い衝撃を世界に広げた。その原因は実は、ギリシャの手厚い年金にあった。高齢者に飴を配り、国民の意を迎えようとする政治の連続が、国を破綻の縁に追い込んだ。
ギリシャ神話は、世界誕生の物語である「創世神話」、ゼウスを主神としたオリンポスの神々が活躍する「神々の物語」、そして英雄や半神など人間が主役の「英雄の物語」からなる。
このうちの「神々の物語」は、神々の出生から恋愛、冒険談、悲話にまで及び、神々は嫉妬に諍い、意地悪も平気でする。そして「英雄の物語」では、神々が英雄たちをある時は手助けしながら、またある時には苦難を与え、気紛れに翻弄する。
神は人のようであり、人でありながら超越的な力を持つ英雄は神のようでもある。この壮大な叙事詩は、現(うつつ)と夢はどこかで溶け合っているのではないか、という錯覚をも抱かせる。
今、世界を揺るがすギリシャ危機には、「現実」を司るはずのギリシャの政治家達が夢の迷宮に迷い込みすぎたのでは、と思わせるものがある。例えば年金である。
現役世代の所得の8割を得られる年金
巨額債務を抱え、欧州通貨危機の震源地となってきたギリシャが6月30日、IMFからの借り入れの返済を延滞。同時にIMF、EU、ECBから金融支援の延長を打ち切られた。先進国では初と言われるデフォルト(債務不履行)にも相当しそうなギリシャ問題は世界経済に衝撃を与えたが、同国の巨額財政赤字の原因は、実は大きすぎる年金にあった。
順を追って説明してみよう。ギリシャ問題の発端は2009年秋、ギリシャの名目GDP(国内総生産)比の財政赤字が、それまで公表していた3.7%ではなく、12.5%(その後13.6%に修正)であると発覚した事にある。ユーロに加盟するには、財政赤字を3%以内、公的債務残高を同じくGDP比で60%以内に抑える必要があるが、それをごまかしていたのである。
一国の政府が最重要な財政の数字を偽装すること自体、「それは現実か」と思わせるものだが、「現実離れ」は、それだけではない。
公的年金の赤字が大きすぎるのである。2000年代には「年金の赤字がGDPの9%に達したこともある」(前田俊之・ニッセイ基礎研究所常務)というから想像を超える。GDPの9%といえば、日本なら約45兆円。ほぼ税収に匹敵する規模の赤字といえばわかりやすいだろうか。
この公的年金を構成するのは3つ。1つは、中核の「プライマリーペンション」で年金額の約8割を占める。2つ目が、1980年代に給付額を押し上げるために設けられた「サプリメンタリーペンション」と呼ばれるもの。基本的には、この2つだが、年金額が低い人に対しては「ミニマムペンション」として、国が定めた最低額が支給される事になっている。
まず、これが高い。年金額は約11万円(月額)だが、現役世代の所得の何%に当たるかを見る所得代替率では79.6%にも達する。ドイツの55.3%、スウェーデン55.3%、米国44.8%を遙かに凌ぎ、フランスの71.4%をも超えている。ちなみに日本は40.8%だが、これは2004年の年金改革が完全実施された後の水準で、それが済んでいない今は約48%程度と見られる。
いずれにしても現役時代の約80%もの所得が得られるというギリシャの水準は国の経済力から見て極めて高い。グラフは、ギリシャの年代別貧困率の推移である。一見して分かるように2010年に財政危機が発覚して以後、若い世代ほど、貧困率が高くなっているが、高齢者には変化がない。もちろん、高齢者の中にも20%は貧困層がいるから、一概には言えないが、手厚い年金がこの「豊かさ」を支えているのは間違いないだろう。
ギリシャの年代別貧困率の推移
60歳までに次々早期退職して働かなくなる
しかも、ギリシャの場合は早期退職者が多い。51〜55歳で公務員の23.6%、民間の12.8%が退職し、56〜61歳では同じく公務員が43.5%、民間は58.6%が引退するという。
財政危機の表面化以後、公務員の勧奨退職が増えたことも押し上げ要因にはなっているが、早期退職の多い構造は以前からのもの。現役世代の減少は、保険料負担力の縮小だから年金財政はますます悪化する。当然、経済の支え手が減ることになるから景気もさらに低迷する。
年金がここまで肥大化した背景には、1960年代後半から70年代前半の軍事政権から文民政権に戻った後、国民の支持をつなぎ止めるために、歴代政権がばらまきを続けたことがあるといわれる。為政者達が、夢と現(うつつ)を取り違えたような政策を採り続けた結果、財政は限界に達したのである。
立ちゆかない財政を破綻させないために、IMF、EU、ECBは2度に渡って支援をしてきた。その第1次が2010年5月の約700億ユーロ(9兆5200億円)、次いで2012年2月からの第2次が約1700億ユーロ(23兆1200億円)だった。この第2次支援の期限が6月末で、それが延長されなかった。だから、ギリシャは第2次支援の残り72億ユーロ(9792億円)の融資を受けられず、デフォルトにも等しいような債務延滞となったのである。
それでもギリシャ政府は迷走を続けた。第2次支援の際、EU側はギリシャに対し、2013年に基礎的財政収支(PB=プライマリー・バランス)を黒字化するなど、厳しい緊縮財政を求めた。PBは、税収でその年の政策的経費を賄えるかどうかをみるもの。つまり、借金に頼らないで、行政運営をできるように要求したのである。
ところがギリシャでは今年1月、反緊縮を掲げたアレクシス・チプラス首相が当選。支援延長のために、さらなる緊縮策を求めるEU側に対して、最悪の場合ユーロ離脱さえあり得る、と感じさせるチプラス首相との交渉は、ほとんどチキンレースの様相を呈した。
一転、EU側案受け入れ?に動くギリシャ
下の表は、交渉の最終段階であらわになった主な対立点である。これを見ても分かるように、ギリシャ側が「年金の縮小をできるだけ先に送りたい」(伊藤さゆり・ニッセイ基礎研上席研究員)のに対してEU側は「早期に実施」。その分、税制ではギリシャ側は「企業にできるだけ税負担をさせたいのが本音」(同)。しかし、EU側は「経済立て直しのために企業に主な負担を負わせることに反対」する姿勢を強めた。
ギリシャとEU側の緊縮策の主な違い
それでも、最終的にギリシャがユーロ離脱にまで突き進むと見る専門家はほとんどいない。ユーロより遙かに弱い自国通貨に戻っても、待っているのは輸入物価高によるハイパーインフレしかないのが誰の目にも明らかだからだ。
しかし、EU側案に抵抗し続けるチプラス首相の真意がどこにあるのかはなお不明だ。EU側案を受け入れるかどうかを問う国民投票を7月5日に行うと決め、なおも緊縮策に反対するように呼びかける一方で、6月30日付で欧州委員長らに、EUが求めてきた緊縮策に歩み寄る内容の書簡を送付してもいるからだ。
英雄を気取るかのようなギリシャ人政治家はこの危機を、いつかは覚める、現と溶け合った夢のように感じているのではないか。だが、これは夢でも何でもない。現実である。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/070200016
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