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三つの新体制 W・シヴェルブシュ著 危機時の米独伊、意外な類似
「世論を動員しての画一化は、ボリシェヴィズムとナチズムのプロパガンダ・キャンペーンを想起させる」――本書で引用されるこの論評は、1930年代当時のアメリカのローズヴェルト政権についてのものだ。かくして、稀代(きだい)の歴史家シヴェルブシュがこの本で描くのは、資本主義の「根本的危機」に直面したドイツ・ナチズム、アメリカ・ニューディール体制、イタリア・ファシズムの「驚くべき類似性」についてである。
普通は、アメリカの自由民主主義と独伊のファシズムは対極と考える。しかし、この三つの体制が対立するものであり、前者が後者を駆逐したのが第2次世界大戦だとすることほど、イデオロギー的な歴史観もない。それでは、共通の時代精神を見失うことになってしまうからだ。著者は、当時の米独伊の政治経済体制が相容(あいい)れないとするのは戦後の後知恵であり29年の大恐慌に際して大衆動員と軍需景気、そして戦争を必要とした点では、同根だったという。
このテーゼを実証するのは、モノや言葉を通じて見出(みいだ)される、文化史家としての顔を持つ著者による、何時(いつ)にも増して豊かなディティールと具体的なエピソードである。部分的には当時のボリシェヴィズムをも比較参照しながら、建築や都市計画、文化プロパガンダ、ローズヴェルトとヒトラーの指導スタイルなど、体制間の共通項が列記されていく。もちろん、細部や帰結での差異にシヴェルブシュは敏感だ。それでもなお、記念碑的な建築物による共同体シンボルの構築、電化や国民車の普及などの科学技術の普及、農村と都市の融合など「新天地」を創造し、これらを政治が絶え間なく暗示することで社会の救済を約束していたという点で、三つの体制は質を同じくしていた。
確かに、自由民主主義とファシズム勢力は互いに戦うに至った。しかしその結果生まれることになった戦後は、ドイツの福祉国家を導入しようとしたアメリカと、アメリカの階級なき豊かな社会を目指すヨーロッパの「交換」から成り立つ時代だった、と著者は結論付ける。
日本では、アメリカとヨーロッパが「欧米」と一緒くたにされる一方、その異なる性格がことさら強調される向きもある。そんな通俗的で平面的な観方(みかた)を、本書は塗り替える。それ以上に、戦後の終わりと資本主義の危機を迎えている日本を含む先進各国が、これからどのような体制を並行して創りあげていくのか、想像力を激しく刺激してくれるのである。
(小野清美・原田一美訳、名古屋大学出版会・4500円)
▼著者は41年ベルリン生まれ。文化史家。70年代から米国に在住。著書に『敗北の文化』など。
《評》北海道大学准教授
吉田 徹
[日経新聞6月28日朝刊P.25]
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