黒人教会乱射の容疑者、ネットに「マニフェスト」か 米国旗燃やす写真も

米南東部サウスカロライナ州チャールストン(Charleston)の黒人教会で銃を乱射し、9人を殺害したとされる白人のディラン・ルーフ容疑者(21)が米国旗を燃やす写真が掲載されたウエブサイト〔AFPBB News

 米国で、銃による悲劇が、また起きた。

 6月17日夜、南部サウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で銃が乱射され、9人が死亡。犠牲者はすべて黒人だった。隣接するノースカロライナ州で逮捕された容疑者は21歳の白人男性。人種差別によるヘイトクライムが強く疑われている。

 事件が起きた教会は、19世紀初めに建てられ、かつて、非暴力で人種差別撤廃に挑み続けたマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師も訪れた、歴史あるものだった。

先週末から劇場公開されている『グローリー 明日への行進』(2014)は、そんなキング牧師のノーベル平和賞受賞シーンから始まる。そして、受賞スピーチの声をバックに、少女たちが階段を駆け下り、爆発、という衝撃的映像。1963年9月、アラバマ州バーミングハムの教会が爆破され、黒人少女4人が死亡した事件である。

 そこから、1965年、アラバマ州の小都市セルマから州都モンゴメリーへと向かう行進でのキング牧師の姿が描かれていく。

行進は公民権運動を大きく前進させた。キング牧師と言えば公民権運動を象徴する人物である。しかし、この映画はその伝記でもなく、描かれる時期も限定的。映画の出来は秀逸だが、公民権運動の流れを感じ取ることは難しいかもしれない。

 そこで参考になるのが、『大統領の執事の涙』(2013)。実話にインスパイアされたという7人の大統領に仕えた黒人執事の物語は、公民権運動大河ドラマでもあるからだ。

 映画は、主人公たる年老いた執事セシルの回想から始まる。

奴隷解放後も続いた奴隷的労働

 1926年、ジョージア州の綿花農園で重労働に従事する両親。しかし、農園主に父は殺され、母は精神を病んでしまう。セシルは家の下働きとなった。

 奴隷解放宣言、『リンカーン』(2012)で描かれたエイブラハム・リンカーン悲願の合衆国憲法修正第13条も成立、自由の身となったはずの解放奴隷の多くは苦境にあった。

 何の生産手段も持たず、知識にも乏しい彼らが、差別意識の残る社会で自立した仕事を得ることは難しく、「シェアクロッパー」と呼ばれる奴隷的労働に従事する者も少なくなかったのである。

 それでも、セシルは、農園を去った。しかし、生活は苦しく、パンを盗もうとホテルに侵入、捕まってしまう。

 ところが、そこで執事の職を得るという運命の逆転劇があり、「本当の顔と白人に見せる顔、2つの顔を持て」「北部の白人は気の利いた黒人が好み」などの教えを受けたセシルは、ついには、ホワイトハウスの執事にスカウトされる。

『大統領の執事の涙』

 時は1957年。初めて仕える大統領、ドワイト・D・アイゼンハワーは、アーカンソー州都リトルロックへの連邦軍派遣を協議している。

 1954年、すでに公立学校での人種隔離を違憲とするブラウン対教育委員会裁判の最高裁判決が出ていたにもかかわらず、黒人学生が拒絶され、騒ぎが大きくなるなか、連邦軍は投入されることになる。

 家族の間では、1955年のエメット・ティル事件が話題となっている。

 ミシシッピの親戚を訪ねた少年が、因縁をつけられたあげく惨殺され、その惨状を示す写真が雑誌などに掲載されたことから、南部の黒人の置かれた現実を世に知らしめた事件である。

 この映画には描かれていないが、同じ1955年、公民権運動に関わるもう1つの重大事が隣州アラバマで起きている。

座席の前後で人種隔離していたバス

 座席の前後で人種を隔離していたモンゴメリーのバスで、白人に席を譲らなかった黒人女性ローザ・パークスが投獄され、5万人の黒人がバスをボイコットする抗議行動に出たのである。

 この非暴力抗議運動のリーダーとなったのがキング牧師。自宅を爆破され、逮捕されても屈しなかった。そして1年後、連邦最高裁がバス車内の人種隔離を違憲とするのである。

 『ロング・ウォーク・ホーム』(1990)は、そんなモンゴメリーの様子が伝わってくる黒人メイドと雇用主の妻の物語である。

 セシルの長男ルイスは、テネシー州ナッシュビルにある歴史的黒人大学フィスク大学に入学する。そして、仲間たちとともに、食堂の白人席への座りこみを敢行。白人は悪態と暴力でこたえ、最後は警察署へと連行した。

 この「シット・イン(Sit-in)運動」は、多くの南部の大学生が行った抗議法だった。続いて、ルイスは、白人と黒人が同じ「フリーダム・バス」に乗り南部を移動、人種隔離に挑戦する「フリーダム・ライド」運動にも参加する。

 ホワイトハウスでは、ジョン・F・ケネディ大統領が、平和的デモに警察が犬と放水で応じるアラバマ州バーミングハムの惨状に、不快感をあらわにする。そして、「公の場で誰もが平等にサービスを受ける権利を保障する新法案」提出を語る。

 そんな1963年のミシシッピ州都ジャクソンが舞台の『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』(2011)は、作家志望の白人女性が、メイドの語る体験をまとめた本を出版するまでの物語。

 これほどまでにひどい差別意識を「普通の」南部白人が持っていたのか、と考えさせられる作品である。

 劇中、キング牧師がワシントンでの行進を呼びかけていることが話題にのぼる会話がある。20万人以上が参加することになる、8月28日の「ワシントン大行進」のことである。

モンゴメリーへ90キロの行進

 「I have a dream」のフレーズを繰り返すキング牧師の名演説。ホワイトハウスでの公民権運動リーダーたちとケネディ大統領との会見。両者の距離はより近くなったはずだった。

 しかし、11月、ケネディ大統領は暗殺されてしまう。

 リンドン・ジョンソン副大統領が昇格、テキサス州出身であることから、先行きに不安を感じる公民権運動家もいたが、1964年7月、公民権法は成立する。

 マルコム]の暗殺、キング牧師のセルマでの行進支援チャリティ集会、と『大統領の執事の涙』の物語は続き、行進の結果へと話は進んでいくのだが、その行進について詳述しているのが『グローリー 明日への行進』。

 1964年12月のノーベル平和賞授賞式に始まり、ジョンソン大統領、ジョージ・ウォレス・アラバマ州知事、エドガー・フーバーFBI長官などが登場、平和的デモが惨劇の場となる「血の日曜日事件」を経て、州都モンゴメリーまで約90キロの行進を実現させるまでのキング牧師の物語である。

 行進は、1965年8月、投票妨害をなくし、黒人の投票権が保障される投票権法という成果を生んだ。しかし、68年4月、テネシー州メンフィスで、キング牧師は暗殺されてしまう。

 110もの都市で暴動が発生、死者は39人にも及んだ。

 そんな不穏な状況にあっても、中止を勧める周囲の反対を押し切りコンサートを決行、黒人たちをなだめるジェームス・ブラウン(JB)の姿が『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』(2014)にある。

 サウスカロライナ生まれのジョージア育ち、恵まれない幼少期を過ごした南部出身の黒人大物歌手JBの黒人社会での影響力は大きい。そして、音楽の力も絶大だ。

 時は流れ、ナンシー・レーガン大統領夫人に招待され、初めて客として晩餐会に参加したセシルは、仲間の執事の「白人向けの顔」に接することになる。そして、喪失感にとらわれ、これまでの自分と家族のことを思い返し、執事を辞職する。

決定的に異なる北部と南部

 2009年、セシルはホワイトハウスを訪れ、初の黒人大統領に会いにいくところで、映画は終わる。

 それから6年、そしてセルマの行進から半世紀たった今も、人種差別という言葉が報道の場から消えることはない。昨年のファーガソンのような黒人住民と白人警官の対峙という構図もしばしば目にする。その映像を見て、デジャヴにとらわれることも少なくない。

 そして、今回のサウスカロライナでの惨事。

 事件から2日後、法廷で武装警備員に囲まれ別室にいる容疑者とカメラを通じ対面した犠牲者の家族は、大切な人を失った直後だというのに、犯人を「ゆるす(forgive)」と語った。

 こうして公民権運動に身を捧げた人たちの物語を見て感じるのは、南部は北部と決定的に違うということ。そして、犠牲となった人々の無念に報いるには、同じ過ちを繰り返してはならないということ。

 しかし、人間は、既得権の上に胡坐をかき、嫌な思いは記憶から消し去り、いつのまにか、同じ過ちを繰り返す。被害者から加害者へと立場を転じることさえある。

 そんな危険を感じた時、助けとなるのが、過去の蛮行を描いた映画や小説。共感を呼ぶような秀作なら効果も大きい。

 『大統領の執事の涙』は、「闇では闇を追い出せない。光だけが闇を払いのける」というキング牧師の言葉から始まる。歴史の闇に光を当てる秀作の登場に期待したい。

(本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号)

(1035) グローリー (1036) 大統領の執事の涙 (1037)ロング・ウォーク・ホーム
(712) (再)リンカーン (1038) ヘルプ (1039) ジェームス・ブラウン
グローリー 明日への行進 Selma

1035.グローリー 明日への行進 Selma 2014年英国・米国映画

(監督)エヴァ・デュヴルネ
(出演)デイヴィッド・オイェロウォ、トム・ウィルキンソン、ティム・ロス

 1965年3月。人種隔離政策がとられているアラバマ州セルマでは、公民権法が成立しても、選挙人登録が妨害されていた。

 そんな現実に、州都モンゴメリーまでのデモ行進を企画するマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師。しかし、力による阻止に遭い、「血の日曜日」と呼ばれる惨劇の場と化してしまう。世界中に伝えられるその映像。

 新たに応援にかけつけた白人も含めた人々とともに、2度目の行進が実行に移されるが・・・。

 公民権運動が大きく前進することになるセルマからの行進を、リンドン・ジョンソン大統領、ジョージ・ウォレス知事、JエドガーFBI長官、ジム・クラーク保安官、マルコム]、ゴスペルシンガーのマヘリア・ジャクソンといった登場人物を交え描く。

 俳優として出演もしているラッパー、コモンとジョン・レジェンドによる「Glory」がアカデミー主題歌賞を受賞している。

大統領の執事の涙

1036.大統領の執事の涙 The Butler 2013年米国映画

(監督)リー・ダニエルズ
(出演)フォレスト・ウィテカー、デイヴィッド・オイェロウォ、オプラ・ウィンフリー

 元ホワイトハウスの執事セシルが自らの人生を回想する。

 ジョージアの農園で育ったセシルは、過酷な環境を逃げ出し、ホテルでの職を得た。そして、ついには、ホワイトハウスの執事にスカウトされる。

 アイゼンハワー大統領に始まり、7代の大統領に仕え、歴史の重大局面を垣間見る日々。しかし、世をよりよくする白人に仕えていると自負するセシルを理解しない長男ルイスは、公民権運動に没頭し・・・。

 『プレシャス』(2010)でサンダンス映画祭グランプリなどを受賞したリー・ダニエルズ監督作。ルイス役のデイヴィッド・オイェロウォは、のちに『グローリー』(2014)でマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師を演じることになる。

 マライア・キャリー、レニー・クラヴィッツといった大物ミュージシャンも俳優として出演している。

ロング・ウォーク・ホーム

1037.ロング・ウォーク・ホーム The long walk home 1990年米国映画

(監督)リチャード・ピアース
(出演)シシー・スペイセク、ウーピー・ゴールドバーグ
(音楽)ジョージ・フェントン

 1955年.アラバマ州モンゴメリー。

 人種隔離されているバスで、白人に席を譲らなかった黒人女性が、投獄された。黒人たちは、バスをボイコット。車の相乗りなどをして抵抗した。

 メイドのオデッサも、9マイルの道のりを歩き、仕事に通うことを決意するが、見かねた雇い主の妻ミリアムは、車で送り迎えするようになる。

 そのことを知った夫は激怒。

 やがて、ミリアムは相乗りの車を出すようになり・・・。

 公民権運動の大きな一歩となったローザ・パークス事件を背景として、人種を超えた友情、醜い差別主義の姿などを描く。

 この時、抗議運動のリーダーとなったマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師は、「後方座席に座れば誤った劣等感が育つ。白人に前方座席を譲れば優越感を与えることになる」と語っている。

リンカーン

(再)712.リンカーン Lincoln 2012年米国映画

(監督)スティーブン・スピルバーグ
(出演)ダニエル・デイ・ルイス、サリー・フィールド、トミー・リー・ジョーンズ
(音楽)ジョン・ウィリアムス

 1865年1月。国土を荒廃させる南北戦争が勃発して4年目。もうこれ以上、若者たちの命を散らすわけにはいかない。

 そのためには、戦争の大義でもある奴隷制廃止をあきらめるべきでは、との意見が民主党のみならず、共和党内部からも出る状況となっていた。

 和平を先んずれば、奴隷制廃止の道はまた遠くなるという現実を知るリンカーンは、合衆国憲法修正第13条を早急に可決し、奴隷解放を盤石なものとしたかった。

 しかし、必要なだけの支持者はなかなか集まらず・・・。

 歴代大統領人気トップの座をジョージ・ワシントンやフランクリン・D・ルーズベルトと争うリンカーンだが、その妻メアリー・トッドは歴代ワースト・ファーストレディの座を争う存在。そんなメアリー・トッドや息子たちとの葛藤も織り込みながら、リンカーン最後の4か月を描く力作である。

ヘルプ

1038.ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜 The help 2011年米国映画

(監督)テイト・テイラー
(出演)エマ・ストーン、ヴィオラ・デイヴィス、オクタヴィア・スペンサー、ジェシカ・チャステイン、シシー・スペイセク

 1963年、ミシシッピ州ジャクソン。

 大学を卒業し、故郷に帰ってきたスキーターは、新聞社で家事コラムを書くことになり、黒人メイド、エイビリーンの助けを借りることになった。

 作家志望のスキーターは、編集者の「違和感を覚えるものを書け」との言葉に、自分の子供を預けながら、白人の子供を育てる生活を送る黒人メイドに焦点を当てることにする。

 しかし、その証言を取ることは、差別社会のこの地では、身の危険をも意味する。

 それでも、エイビリーンが、そして、ある事件を契機として、多くのメイドが話をするようになり・・・。

 厳しい人種隔離政策がとられていた1960年代のミシシッピ州を舞台に、黒人メイドと白人女性の心の交流と歪んだ差別社会をユーモラスに描いている。

ジェームズ・ブラウン

1039.ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男 Get on up 2014年米国・英国映画

(監督)テイト・テイラー
(出演)チャドウィック・ボーズマン、ネルサン・エリス、ダン・エイクロイド

 ジェームスは、幼い頃、両親に捨てられ、親類の家で育った。

 やがて、スーツの窃盗で捕まり、刑務所生活。

 しかし、慰問に訪れたゴスペルグループのメンバー、ボビーに才能を見込まれ、保証人となったその一家と生活、音楽活動をともにするようになる。やがて、そのとびぬけた才能を認めたレコード会社が・・・。

 『ブルース・ブラザース』(1980)でジェームス・ブラウン本人と共演したダン・エイクロイド演じるユダヤ人マネージャーやボビー・バードとの友情、母親との複雑な関係などをからめ、『42〜世界を変えた男〜』(2013)で初の黒人メジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを演じたチャドウィック・ボーズマンがブラウンを演じる音楽満載のJB一代記。