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ドイツのアンゲラ・メルケル首相とギリシャのアレクシス・チプラス首相は22日のユーロ圏首脳会議で顔を合わせる。果たして政治的合意にこぎ着けることはできるのか〔AFPBB News〕
メルケル首相がギリシャを手放さない大きな理由 ユーロ圏緊急サミットきょう開催、側近は「離脱容認の用意あり」と言うが・・・
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44100
2015.6.22 Financial Times JBpress
(2015年6月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
欧州各地の首都と同じように、ベルリンでも政治家や政策立案者が、ことが起きた翌日について考え始めた。もしかしたら翌週か翌月、あるいは翌年と言うべきなのかもしれない。
いずれにせよ、第1段階は、ギリシャ政府がデフォルト(債務不履行)することを決めた場合の責任のなすり合いに備えることだ。
第2段階は、次に何が起きるのか問うことだ。ユーロからの離脱、そしてもしかしたら欧州連合(EU)からの離脱だろうか。
破綻しかけた国家が破綻国家と化すのか。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとってのバルカン半島の足場となるのか。
筆者はこの混乱の渦の中で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とその仲間のユーロ圏の指導者たち――3つ例を挙げるだけでも、スペイン政府、ポルトガル政府、アイルランド政府は、ギリシャに対してドイツ以上に強硬な路線を取っている――が、ギリシャにやれるものならやってみろと挑むべきだという妥当な理由を半ダースは聞いた。
それは独り善がりの感覚からでも罰や報いの精神からでもなく、交渉がより良い代替案を生み出していないからだ。
■無駄になったチャンス
今年1月の選挙で勝利した後、ギリシャのアレクシス・チプラス首相には、語るに値しないでもない物語があった。ギリシャは債務減免を必要としていた。そして、急進左派連合(SYRIZA)率いる政府は、国の政治と経済を毒する恩顧主義を打ち砕くと有権者に約束していた。
客観的な観察者なら、良い取引を見いだしただろう。債務減免の約束と引き換えに、国家機関の抜本的な改革と、オリガルヒ(新興財閥)の抑制、ギリシャ国民を貧しくするカルテルやクローズドショップ制度の撃退、そして汚職に対する継続的な攻撃を遂行するのだ。
そんな善意は浪費されてしまった。SYRIZAの約束は無に帰した。排他的な派閥やカルテル、オリガルヒは、以前と同じように繁栄している。そして、ユーロ圏の債権団との協議で、ギリシャ政府は、尊大さとアマチュアリズム、露骨な欲得が入り混じったひどい態度を示してきた。
ギリシャのプライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)の黒字の正確な大きさや持続可能な年金制度を生み出すために必要な歳出削減に関する実務家たちの重箱の隅をつつくような議論はこの際忘れよう。
他国の指導者との対話の中で、チプラス氏は原理主義的な路線を取ってきた。
同氏は債権団と合意した現在のプログラムのすべての債務、責務からギリシャを解放できるだけの債務減免を望んでいる。そして、SYRIZAが自由な市場原理を否定しているため、これらのプログラムから抜け出したいと思っている。
■不満を募らせるドイツ
そのため、近頃ではベルリンの廊下を歩くことが不満の高まりを感じることを意味するのは驚くには当たらない。首相府から財務省、外務省に至るまで、メッセージは、ギリシャの運命はギリシャ政府の手中にあるというものだ。
メルケル氏のキリスト教民主同盟(CDU)が最も大きな声を出しているとしても、連立パートナーであるドイツ社会民主党(SPD)もSYRIZAに対して抱いていた初期の共感は捨て去っている。
首相に近い人たちは、メルケル氏は断固、ギリシャがユーロから転がり出るの見届ける覚悟ができていると言う。
確かに財務省との間には違いがある。ヴォルフガング・ショイブレ財務相が、ドイツの第1の責務は、ルールをきちんと施行することでユーロ圏の長期的な未来を保証することだと主張しているのに対し、メルケル氏はもっと幅広い、政治的な視点に立っている。
その一方で、メルケル氏は、自らが財務相の路線から大きく逸れすぎた場合に起き得る党内の波乱を警戒している。首相が保身の技に習熟した指導者であることは、時々忘れられる。
ところが、だ。SYRIZAが堂々と崖っぷちから転げ落ちる決意を固めているように見え、パートナー諸国がユーロ圏はギリシャの転落のショックを乗り越えられると自信を持っているにもかかわらず、ギリシャにしがみつく1つの正当な理由は、他のどの指導者よりもメルケル氏が痛切に感じている。
メルケル氏の意見を変えさせるかもしれない理由は、経済以外にもたくさんある。
ギリシャがユーロから離脱すれば、欧州大陸の最も燃えやすい地域の1つがさらに不安定になる。
バルカン半島ですでに不安定化と政権転覆を図っているプーチン氏は、この機会を逃さないだろう。ロシアの失地回復主義に立ち向かう欧州の立場は、深刻なまでに弱まる恐れがある。
地中海を渡ってくる移民を制限することは、さらに難しくなるだろう。キプロスにおける和解に向けた努力も行き詰まるだろう。ユーロ圏の長期的な未来に対する市場の信頼への影響に話が及ぶ前から、これだけの懸念が生じるのだ。
だが、筆者自身の推測では、夜中にメルケル氏の安眠を妨げているのは、そうした冷徹な計算よりもはるかに実体のないものであると同時に、計り知れないほど強力なものだ。
■2つの信念の間で板挟み
メルケル氏はむしろ、ルールを守ることの重要性に対する強い信念――プーチン氏がルールを踏みにじったことが、ロシアのウクライナ東部侵攻に対するメルケル氏の強硬な対応を説明している――と、ドイツの欧州の使命というメルケル氏が大事にする強烈な感覚との間で板挟みになっているのだ。
欧州統合は戦後ドイツにとって特別な意味を持っている〔AFPBB News〕
メルケル氏は自らを欧州統合の守護者と見なしている。
フランソワ・オランド大統領率いるフランス政府が、かつて独仏エンジンという比喩を連想させた共通の指導的役割から退いてからは、なおのことだ。
ギリシャの離脱は歴史的な失敗になる。欧州共同体の脆弱さを認めることになり、統合プロセスがいずれ破綻し得るというシグナルを世界に発信することになるからだ。
上述のことはどれも、欧州統合に懐疑的な傾向を持つアングロサクソンにとってはそれほど意味はない。
だが、再統合された新しいドイツは、自国の未来がより一層緊密な欧州統合に根差しているという前提の上に成り立っている。
ベルリンを訪れる人は、これがヘルムート・コールの偉大な遺産だったことを思い出させられる。
あるイタリアの友人は先日、欧州はギリシャのことを、多くのイタリア人が長年、メッツォジョルノ(南イタリア)地域を見てきたように見ているのかもしれないと言った。
救いようがなく、非常にカネがかかるが、最終的には対価を支払うだけの価値がある、というのだ。
■どう転んでもメルケル首相は敗者
メルケル氏はそこまではやらないと筆者は確信しているが、ギリシャを易々と手放すこともないだろう。
だが、ここに皮肉がある。どんな結果になろうと――それがグレグジットであれ、また別の救済のごまかしであれ――、ドイツの首相は恐らく大きな痛手を被るのだ。
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