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橘玲の世界投資見聞録
2015年6月18日 橘玲
ミニスカートの売り子、演劇上演、高すぎる料金…。
中国の“仏教の聖地”普陀山にみる過度な商業主義
[橘玲の世界投資見聞録]
普陀山(ふださん)は五台山、九華山、峨眉山と並ぶ中国四大仏教名山のひとつだ。“山”となっているが実際は島で、浙江省・寧波(ニンポー)沖の舟山群島にある(上海から100キロほどの距離なので、フェリーや高速バスで日帰りも可能)。
今回は、中国の“仏教の聖地”がどんなことになっているか紹介しよう。
普陀山の開祖は日本人僧
飛鳥・奈良から平安時代初期までの操船技術では、九州の港から西に向けて船を出すと、海流の関係で寧波のあたりに到着した。遣唐使は838年を最後に中止されたが、その後も宋・元の時代(日本では鎌倉時代)まで道元など多くの仏僧がこの地に留学している。明代には寧波港が日明貿易の拠点になるなど日本とは縁の深い土地だ。
普陀山が観音霊場となった由来も日本と関係している。
916年、日本からの留学僧、慧萼(えがく)が五台山で観音像を手に入れ、それを持って寧波港から日本に帰国しようとしたが、沖に出たところで突然、海面に鉄の蓮華が現われて船が通れなくなってしまった。それを見て、観音像が日本に渡る機が熟していないと悟った慧萼は、近くの島に仏堂を建てて観音像を祀った。これが「不肯去観音院(行かずの観音院)」で、それ以来、この島は観音菩薩の浄土である補陀落(ふだらく)に擬せられ、中国有数の霊場となった。この故事により、普陀山の開祖は日本人僧・慧萼とされている。
上海から高速バスを使っても、寧派からタクシーに乗っても、普陀山へは舟山のフェリーターミナルを利用する。この日は5月の連休前の平日だったが、ご覧のように乗り場は朝から大変な混雑だ。フェリーは所要20分、往復1人50元(約1000円)。
平日でも込み合う舟山のフェリー乗り場 (Photo:©Alt Invest Com)
普陀山に到着するとチケット売り場があって、入山料1人160元(約3200円)を支払う。島内はマイクロバスを使って移動することになるが、これも行き先によって10〜20元(約200〜400円)かかる。
ずいぶん高いなあと思いながら、とりあえずいちばん有名な普済禅寺へ。
バスを降りると参堂に線香などを売る店が並んでいるが、なぜかミニスカート姿の若い女性が呼び込みをしている。おまけに店舗の隣には銀行のATMまである。
どの店も売り子は若い女性。ミニスカート姿も (Photo:©Alt Invest Com)
店の隣にはATMが置かれている (Photo:©Alt Invest Com)
普済禅寺でさらに入場料5元(約100円)を払って境内に入ると、火のついた線香を手にした観光客がたくさんいる。本堂前に置かれた香炉の周りを3回まわって線香を供え、煙を浴びるのだ。
この線香は、その寺で買ったものはそこで使い切らなくてはならない決まりだという。島内には主要寺院だけでも前寺(普済禅寺)、仏頂山寺(慧済禅寺)、後寺(法雨禅寺)の3つがあり、それ以外にも200を超える寺院があるというから、あちこちで線香を供えるとかなりの出費になるだろう。線香はものすごい勢いで売れているらしく、寺の出口に停められたトラックから大量の箱が運び込まれていた。
香炉に線香を供えるひとたち (Photo:©Alt Invest Com)
日本人僧・慧萼が祀ったとされる観音像 (Photo:©Alt Invest Com)
大量の線香が運び込まれる (Photo:©Alt Invest Com)
後日、中国人の知り合いに聞いたら、普済禅寺の観音は商売繁盛に霊験あらたかとされていて、それで人気があるのだという。「お寺なのに商業主義が過ぎるんじゃないのか」といったら、「商売繁盛の仏様のいる寺の商売が繁盛してなきゃ信心されないだろ」とのことだった。
普陀山は仏教版ディズニーランド
普陀山では毎夜、中国を代表する映画監督、張芸謀(チャン・イーモウ)制作の舞台劇「印象普陀」が上演されている。島内には多数の宿泊施設があり、ツアー客の多くは1泊して寺を回るのだという。さながら仏教版ディズニーランドだ。
普済禅寺でだいたいの様子がわかったので、徒歩で南海観音像へ向かう。普陀山が観音信仰の本山であることの象徴として1997年に建立された。ちなみに入場料は6元(約120円)。この島にただのものはない。
南海観音像 (Photo:©Alt Invest Com)
観音像に向かって礼拝するひとたち (Photo:©Alt Invest Com)
普陀山には3000人の僧侶がいるとされるが、勤行や托鉢などの修行姿を見ることはほとんどない。その代わり、iPhoneを見せながら若い女性観光客と談笑したりしている。日本の高野山などもずいぶん商業化されていると思うが、それに比べても規律はそうとうゆるそうだ。
iPhone片手に若い女性と談笑 (Photo:©Alt Invest Com)
iPadで記念撮影 (Photo:©Alt Invest Com)
午前中に普済禅寺と南海観音像を見て、じゅうぶん満足したので寧波に戻ることに。下は帰りのフェリー乗り場。平日だからこの程度の行列で済んでいるが、週末や連休の時期になれば左手にある広大な空間が観光客で埋まり、乗船まで3時間待ちになるという。
帰りのフェリー乗り場 (Photo:©Alt Invest Com)
平日で客が少ないといってもこの混雑 (Photo:©Alt Invest Com)
普陀山だけでなく、中国の観光地はどこも過度の商業主義が問題になっている(中国の名山のひとつ黄山などは株式会社化して上海市場に上場している)。
2002年から国内観光振興のため、国家遊旅局が格付制度を始め、各地の観光地を5Aから1Aにランキングした。普陀山や黄山はもちろん最高ランクの5Aだ。
ところが最近になって、山東省や江西省など44カ所で4Aから1Aのランクが取り消され、瀋陽植物園など5Aランクの10カ所がランク取消しの次に重い「厳重注意」の警告を受けた。今年1月から春節期間にかけ全国の観光地で、のべ7万8000人を動員した実態調査を行なった結果、違法経営や観光客への詐欺、押し売りなどが確認されたからだという(2015年6月15日「日経新聞」夕刊)。
中国から大勢の観光客が海外に向かい、“爆買い”が流行語になる一方、国内旅行は低調で、省をまたぐ旅行者数は14年まで3年連続マイナスとなっている。国内観光地への不満は交通の便の悪さと、入場料などの費用が高すぎることだ。
そんな新聞記事を読んで、妙に納得したのだった。
<橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、政治体制、経済、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ最新刊 『橘玲の中国私論』が絶賛発売中。
●DPM(ダイヤモンド・プレミアム・メールマガジン)にて
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http://diamond.jp/articles/-/73489
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