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膨張する「中国の夢」に日本はどう向き合うか
「一つの世界」と「二つの世界」
中国国内にある路線対立
覇権を目指す中国はどこに向かうのか。日本はその中国と共存できるのか
東アジア地域で日本は中国と共存していかなければならない。覇権を求めていくような中国は困る。国内が混乱した中国も地域の安定を著しく損なうだろう。国際社会と協調していく中国が好ましい。
しかし、昨今の中国の行動を見ると、多くの疑問符が付く。急速に台頭してきた今日、どのような対外関係を営んでいくのが良いのか、何が現実的なのか、中国自身が判っているとも思えない。
習近平総書記が掲げるのは「中国の夢」という概念である。多分、「中国の夢」は世界のGDPの3割を占め、栄華を極めた19世紀以前の中国に戻りたいということなのだろう。アヘン戦争、日清戦争での敗北から始まった屈辱を晴らし、失った権益を取り返したいということなのだろうか。
「中国の夢」は、2010年に日本をGDPで追い越し自信をつけた中国にとって、ケ小平の「力をためるまで低姿勢で」という教えに変わる概念として登場しているかのようである。ただ、中国の国内でも「中国の夢」をどのような方法で実現するのかについては路線の対立があるように見受けられる。
一方では、中国が高い経済成長を実現し、急速に台頭し得たのは、WTOに代表される国際貿易体制など西側先進国が作ったシステムに依拠したからであり、これを離れて中国の一層の発展は望めず、中国は引き続き国際社会の中で諸国と協調しつつ影響力を増していくべきという、いわゆる「一つの世界」観がある。
他方、米国を中心とする西側先進国の既得権益を壊すことは可能ではなく、従って中国独自の価値観に基づく世界を構築しようとする「二つの世界」論も頭をもたげている。
米国との「新型大国関係」と
東アジアでの攻撃的な行動の意味
中国がこのどちらの路線を追求するのかをまだ決めている訳ではないと思う。むしろ二つの路線を同時に走らせつつ、現実的な落としどころを見ているということなのだろう。そのようなアプローチの中で、まず習近平政権が目指したのは米国との「新型の大国関係」の構築である。
もし米国が中国の「核心的利益」を尊重すれば、お互いウィン・ウィンの協力関係が構築できる、太平洋は広く、米国と中国で二分できる、という考え方である。これでは日本は困るし、米国も合意することはできないだろう。仮に台湾が中国の核心的利益とすれば、これに軍事的な統一を試みるのを黙認することを我々はできまい。従って米国は「協力できる分野を拡大し、利益の相反する分野について管理をしていこう」というアプローチをとっている。
中国は米国と安定的関係を目指しつつ、東シナ海や南シナ海において一方的で攻撃的な行動をとってきた。まず尖閣諸島についての攻撃的な行動は日本の強い反発、および米国による「尖閣は日米安保条約の対象である」との発言を招き、焦点を南シナ海に移した。
同国は、ベトナムなど東南アジア諸国との間は、二千年続いた中国の圧倒的な優位の延長であり、大国と小国との関係と見る。近年は、ベトナムやフィリピンの排他的経済水域内に入り込んでの石油掘削や広範な範囲の岩礁の埋め立て、恒久的建設物の設置など、一方的な行動をすさまじいスピードでとってきた。
これはASEANが一枚岩でないことを見越しつつ、米国の反応をテストするという意味合いを持つものと見ることができる。米国が引けばここぞとばかりに中国は出る。
「中国の夢」を実現していくためのもう一つの方策として、同国は米国の介入があまり想定されない「西」に向かった。「一帯一路」の構想、すなわち陸と海のシルクロードを整備しようという壮大なプロジェクトを打ち出した。
西に向かう中国の「一体一路構想」と
一石三鳥を狙うAIIB
本来であればロシアと利益が相反したはずの構想であったが、ロシアはウクライナ問題で孤立し、中国との連携に活路を見出さざるを得ず、情勢はこの構想を推進するにあたり中国にとってまことに好都合である。先月8日のプーチン大統領と習近平国家主席の首脳会談では、ロシアが主導する「ユーラシア経済連盟」と中国の「シルクロード経済ベルト」の連携で協力するという共同声明を発表した。
そして「一帯一路」構想の資金手当てを担当するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、中国にとって一石三鳥の構想となった。
まず中国の経済的要請に応える構想という意味を持つ。同国にとって引き続き高い経済成長が国内の安定的統治の必須要件である。リーマンショック後の2008年10月に4兆元の内需拡大策を打って以降、中国には膨大な過剰設備と地方財政の疲弊がもたらされた。経済成長目標も従来の2桁成長から7%前後へと下方修正されている。AIIBはインフラの拡充と過剰施設及び有休労働力の活用という意味で、中国経済の成長の底上げ材料となる。
次に、中国の地域での影響力の拡大効果である。東シナ海・南シナ海での一方的攻撃的行動は近隣諸国に強い対中警戒心と不信感を植え付けた。インフラ投資は東アジア諸国の経済成長のために膨大な需要がある。インドのモディ首相やインドネシアのジョコウィ大統領にとってインフラの拡充は最優先政策である。中国のソフトな影響力の強化に繋がっていくのは間違いがなかろう。
そして英国の先導により欧州諸国が加わった。ここに来て中国は国際社会においてのリーダーとしての「正当性」を高めたいと思うに至っているのだろう。
国際社会の構造変化で新興国の力が増してきた1990年代後半から、新興国にもっと発言権を与えなければいけない、G7・G8からG20に国際協調の場を移そう、世銀・IMF・アジア開発銀行等の改革を行い新興国の出資比率を上げ、新興国の発言権を強化しなければならない、などの声があり、それが試みられてきた。しかし多くについて西側諸国の既得権益の大きさや米国議会の反対により実現は途上である。
そのような状況の中で、中国は、自らが主体となるAIIB構想について、アジアには膨大なインフラ需要があり、既存機関を損ねるものではないと主張する。そして欧州諸国の加入により多分、当初考えられていた構想とは多少異なる方向に動き出しているようである。当初は中国が牛耳る銀行の構想で始まったが、現在は国際的なスタンダードを意識し、かつこれまでの国際開発金融機関の官僚主義や高い管理コストを削減するという改革の方向性も打ち出している。
中国の出資比率は当初想定された50%から30%程度に下げられ、調達について加盟国に限られない公開入札制、理事の常駐はせず管理コストを最小限にすることなどが、考えられているようである。確かに中国は最重要事項の決定に拒否権を持ち得るし、理事を本部に常駐させないのも中国の意向を通しやすくする工夫かもしれない。しかし建前は「正当性」を維持できる工夫がほどこされているようである。
中国をこちらの世界に引き込む努力を
AIIB参加はその手段の一つ
さて、このような「中国の夢」に日本はどう向き合っていくべきなのだろうか。日本は価値観の大きく異なる中国の世界に入っていくわけにはいかない。中国を孤立させることも同国をめぐる相互依存関係の大きさからすれば現実的ではあるまい。むしろ中国をこちらの世界に引き込む努力を続けなければならない。このために幾つかの施策は重要な意味を持つのだろう。
中国は「力には力」と捉えがちであり、日本が日米安保条約の下、万全の安保体制を構築するのは正しい。その意味で日米防衛協力の新ガイドラインや集団的自衛権の限定的行使を容認する安保新法制は正しい方向である。米国が内向きとなり、一方的行動よりもパートナーとの協調を求めるとき、日本は日本の役割を増やさなければならない。
その上で、日本は将来の対中関係のビジョンを語る時が来ているのではなかろうか。安全保障能力を上げることと、安全保障環境を良くする外交努力を表裏一体で進めなければならない。例えば、偶発的衝突を避け、この地域の軍事的透明性を上げるため地域信頼醸成枠組みを語る時ではないか。今こそ中国を巻き込む環境やエネルギー協力の未来図を示す時ではないか。そして今こそAIIBへの参加を語る時ではないだろうか。
日中の戦略的将来ビジョンを示せ
70年談話は大きな機会
AIIBへの参加については幾つかの点について十分な考慮を払う必要がある。
第一に、アジアで質の高いインフラ構築を実現していくのは日本政府の方針であろうし、これを実現するために日本もAIIBに入って中から影響力を行使していくべきである。欧州諸国の出資比率は域外の諸国に割り当てられる25%の枠内での話となり大きな発言力を担保するのは難しい。日本が入れば75%の枠の中で相当高い出資比率と発言力を担保できる。アジアの諸国は日本が参加し、一定の発言力を担保することで安心をし、歓迎をするであろう。頑なに突っ張る日本より柔軟で能動的な日本が求められている。
第二に、アジア開発銀行(ADB)とAIIBの協力関係を確立することである。ADBは質の高いプロジェクトへの融資を実行してきた訳で、その知見を役に立てるべきである。ただアジア開発銀行自身も融資枠の拡大や新興国の発言権の拡大など、改革を加速していかねばならない。
第三に、他方、日本は唐突に参加を打ち出すわけにはいかないだろう。何故この時期に参加表明をするのか理屈がいる。その意味でも日中関係の将来ビジョンを首脳が語るときに、その一部としてAIIBへの参加を打ち出すべきなのだろう。
本年8月15日は終戦後70年であり、首相談話が想定されている。過去に対する真摯な総括(筆者は侵略・植民地支配・心よりのお詫びという村山談話のキーワードを外してはならないという立場である)と共に、未来へのビジョンを打ち出す好機となるだろうし、その際AIIBへの参加も語るべきである。このような首相談話は世界に歓迎されるだろうし、日本の地域および国際的な地位は上がる。
第四に、対米関係である。対米関係は先の首相訪米により極めて良好な関係にあると考えられる。米国は日本が戦略的将来ビジョンを示し、AIIBへの参加をその中に位置づけることができれば納得をするはずである。米国が参加できなくとも日本の参加が米国にとっても利益である世界をつくることこそが、同盟関係の役割分担なのだと思う。
http://diamond.jp/articles/-/73361
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