スコルテック卒業式で祝辞を述べるメドベージェフ首相。 人が多過ぎてステージの実物は見えなかった

 好天に恵まれた6月2〜3日の2日間、モスクワ郊外のスコルコボ(Skolkovo)で3回目となるベンチャーイベント「スタートアップ・ビレッジ(StartupVillage)」が開催された。

 ご記憶の読者も多いかと思うが、スコルコボとはクレムリンから小一時間ほどのモスクワ郊外の村の地名である。今やそこで展開されているロシア版シリコンバレー計画の代名詞となっている。

 スタートアップ・ビレッジはここで毎年開催される大規模なイベントで、フィンランドのスタートアップイベントであるスラッシュ(SLUSH)をモデルに(実際、アドバイザーにはフィンランド人がついている)、ロシア人好みにさらに派手に味づけされたイベントである。

 プログラムは1年かけて全ロシアを周回して開催されたピッチコンテストを勝ち上がったスタートアップがロシア・ナンバーワンの座をかけて競うピッチコンテストをはじめ、世界中から集まったベンチャー関係者によるパネルディスカッションや実践的なセミナーがマルチトラックで開催されている。

 参加者は今年は1万人を超える見込みだ。

若者に交じってシニアがボランティア

 今年の会場は、スコルコボのテクノパーク周辺である。そこには研究機関が入居する5階建てのビルが4つ、新たに造成された「ノーベル通り」に沿ってほぼ完成していた。

 筆者はスコルコボにはこのイベントの時にしか足を運ぶ機会はないのだが、ロシアにしては着実に計画が進捗していることに感心した。

 さて、スタートアップ・ビレッジの会場には例年通り、屋外に大小7つのステージをしつらえ、このほかにスコルコボの支援を受けているベンチャー企業が自社製品や技術を展示するブースが5か所ほど設けられていた。

 小さなセミナーは建物内の会議室などでも行われていたが、主なイベントは屋外で開催される。さらにフードコートや生バンド、ロシアらしく弦楽四重奏のコーナーも設けられるなど、会場全体の雰囲気は(厳しいセキュリティチェックを除けば)大きな大学の学園祭のようである。

スタートアップ・ビレッジ会場の様子。 後方の建物がテクノスパーク

 運営には多くの大学生らしき若者がボランティアとして当たっていた。今回、驚いたのは若者に混じってかなりシニアな方々がボランティアとして活躍されていたことである。

 もしかすると自分の子供や孫が急に都合が悪くなって無理やり押しつけられたのかもしれない。来年はこのあたりの事情も聞いてみようと思う。ともかくロシアにおいて若者からシニアまで起業家精神が根づくことは大いに歓迎すべきことだろう。

 スタートアップ・ビレッジの開会式にはイノベーション担当のアルカジー・ドボルコビッチ副首相が駆けつけたが、2日目にはドミトリー・メドベージェフ首相、セルゲイ・ソビャーニンモスクワ市長も視察に訪れた。

 スコルコボはメドベージェフ首相が大統領だった当時に提唱して始まったプロジェクトで思い入れも強いのだろう。スタートアップ・ビレッジには毎年訪れている。

 メドベージェフ首相はスコルテック(Skoltech=スコルコボに設立された科学技術系大学院)の初めての卒業式の祝辞のために登壇し、最後はステージ上で卒業生たちとスマホで自分撮りに応じるなど、大いに満足の様子だった。

防犯センサーがグランプリ受賞

 イベントの目玉のピッチコンテストは、ウラル地方から選出されたグラビトン(Graviton)社がグランプリを受賞した。 同社は磁気・加速度・音波センサーをコンパクトにまとめた高性能の防犯センサーを開発、既に商品化している。

 センサーそのものの性能に加え、組込みプログラムによる機能改善が可能であること、アップデートによる取つけが容易であること、何よりも市場ニーズにマッチした製品であることが高く評価されたようだ。 同社には賞金300万ルーブル(約700万円)が授与された。

 第2位、3位はバイオ医療関連の会社だった。そして特別賞を受賞した会社の名前を聞いて筆者は驚いた。Q-モジュール(Q-module)社という、ピエゾ素子を利用したアプリケーションを開発する会社である。

 筆者はこの会社に10年ほど前に出会っている。当時は電池不要の子供向け玩具、電源不要のカード式ドアノブ(ホテル等に装備されているもの)などを提案していたが、最近は「エネルギー・ハーベスティング(=収穫)」をキャッチフレーズにバッテリー不要のリモコン、スイッチなどを開発している。

ジャパンセッションの様子。人が少ないように見えるが手前側には大勢いた

 10年間スタートアップを続けている熱意に感心するばかりである。さて、今回のイベントの講演で一番印象に残った言葉をお伝えしたい。

 IASP(International Association of Science Parks)というサイエンス・パークの世界的な団体の代表者の講演で述べられたもので、mMNE(Micro multinationals=マイクロ・マルチナショナルズ)という概念である。

 マルチナショナルズは多国籍企業の意味で、日本ではトヨタ自動車やパナソニックに代表される世界各地で活躍する大企業である。

 他方、マイクロ・マルチナショナルズとは、ベンチャー(あるいは中小企業)でありながら創業当初から世界をターゲットに事業展開する企業である。当然、従業員も世界中から集まる。

 mMNEは経営学では既に確立された概念だが、スコルコボのスタートアップ・ビレッジのオープン・ステージで改めてその言葉を聞かされると、時代が変化しつつあることを改めて認識した次第である。何より、我が国のベンチャー企業あるいはベンチャー育成関係者に大いなるアドバイスとなろ

スコルボに日本企業が初進出

 ところで、今年のスタートアップ・ビレッジは日本にとっても記念すべきイベントとなった。まずは、パナソニック・ロシア(現地法人)がスコルコボにリサーチセンターを開設したことである。

 スコルコボ関係者によれば、現在も複数の日本企業とスコルコボへの進出について交渉中とのことであるが、具体的な形となったのはパナソニックが最初の例である。

 同社は2005年にシベリアの研究都市トムスクにテクニカル・リサーチセンターを開設していたこともあり、ロシアにおける研究開発に土地勘があったことが日本企業として先陣を切ることにつながったと言えよう。

 また、スコルコボは日本のスタートアップ支援組織との提携も進行中である。日本とロシアのスタートアップ企業が様々な形で連携また競争することで両国の起業環境が改善していくなら、これは積極的に後押しするべきであろう。

ロボット会場で言語認識ロボットと会話を楽しむ少年

 こうした日本企業・関係組織とスコルコボとの関係が深まりつつあることに鑑み、今年のスタートアップ・ビレッジでは「ロシアと日本のスタートアップ交流=Startup collaboration between Japan and Russia」と題したパネルトークを開催した。

 モデレーターをスコルコボ財団から迎え、日本とロシアで活躍するベンチャー関係者5人がスピーカーとなり、ロシア側の日本に対する興味・関心事項を中心に討論を行った。

 具体的には日本におけるハイテク系スタートアップの現状、ロシアのハイテク企業の日本進出状況、日本における企業内R&D、スタートアップに対するファイナンス、行政のサポート、IPOの現状などである。

 時間が限られていたこともあって、会場からの質問を受けることができなかったが、それでもセッション終了後には多くの聴講者が質問、あるいは名刺交換に詰めかけ、主催者側から「次のプログラムの支障になるので続きは会場の外でやってください」と注意されるほどだった。ロシアのスタートアップの日本に対する関心はそれなりに高いと感じた。

若さが目立った韓国の会場

 私たちのセッションの会場となったのは、新しく建設されたテクノパークの建物の中庭にテントを張って四方にすり鉢状にスタンドをしつらえたステージで、ボクシングの試合会場を思わせる。

 我々の前にはフランスが同じ会場で同じような趣旨のセッションを開催していたのだが、客の入りはほぼ互角であった(100人には届かない程度か)。

 ほかにも韓国が二国間協力のセッションを開催していたが、観客数こそ日仏よりは少ないものの、その多くが若い韓国人であったことが印象的だった。ロシアには韓国系ロシア人も数多いため、彼らの多くがロシア国籍である可能性もあるが、いずれにしても両国間をつなぐ若い人材が豊富であることは羨ましい限りである。

 日本でも安倍晋三首相が先日の米西海岸訪問以来、我が国におけるベンチャー育成に力を入れ始めたと報じられている。

 ベンチャービジネスの聖地が米シリコンバレーであることは疑う余地はないが、他方、世界中で様々なベンチャービジネスが立ち上がっていることも事実である。

 マイクロ・マルチナショナルズの時代がやって来るとするなら、多国籍地から選択肢の1つにロシアが加わることを切に願いながら祭りの余韻が残るスコルコボを後にした。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43957?  

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