http://www.asyura2.com/15/kokusai10/msg/791.html
Tweet |
EUの条約改定を求める英国に勝算がない理由
ユーロ圏とEUと英国、複雑に絡み合う事情
2015.6.2(火) Financial Times
(2015年6月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
EUに残るべきか去るべきか、2017年までに英国で国民投票へ
英国は2017年までにEU加盟継続の是非を問う国民投票を実施する〔AFPBB News〕
欧州連合(EU)にはなぜ条約の改定が必要なのか。これには非常に重要な理由が2つある。1つはユーロ圏の修繕であり、もう1つはEUと英国の関係修復だ。この2つで言うなら、ユーロ圏の修繕の方が難しい。しかし、どちらも単独で取り組むことはできない。EUが条約改定という大仕事を短期間に2件続けてやり抜くことはないからだ。
ユーロ圏で修繕が必要な部分は、世界金融危機のころから変わっていない。
ユーロ圏は次の銀行危機がやって来る前に、いざという時に銀行を財政資金で支える適切な仕組み(バックストップ)を構築しておかねばならないのだ。
現在の銀行同盟――そう呼びたければの話だが――には、一元的な銀行監督制度と、銀行破綻処理のための共通の法的枠組みが備わっている。しかし重要なことに、銀行はまだ母国の法の下で運営される国レベルの組織にとどまっている。
この銀行同盟を適切なものにするには、一元的な法的枠組み、一元的な財政コミットメント、そして特に一元的な破綻処理法が必要になるだろう。そしてこの銀行同盟は、財政同盟の核を構成することになるだろう。加盟国は恐らく、ほかの政策分野――例えば、共通の雇用保険基金など――もここに取り込みたいと考えるようになるだろう。
キャメロン首相の主張にも一理あるが・・・
ユーロ圏の統合が進めば進むほど、英国のようにユーロを導入していないEU加盟国にとってこの問題は大きなものとなる。この対立は、既存の条約では想定されていなかった。デビッド・キャメロン英首相の不満のリストに筆者は100%同意するわけではないが、今日の状況を考えると、首相の要求の中には完全に筋の通ったものもある。
まず、EU条約(リスボン条約)には、EUの通貨はユーロであると明記されている。しかも、何の留保条件もつけられていない。つまり、英国とデンマークのユーロ不参加が恒久的な事態になり得ることは想定されていなかったのだ。
現実をそのまま受け入れるのであれば、同じEU条約で謳われている「絶えず緊密化する連合」という理想に英国が与すると期待するのは非論理的だろう。英国は通貨ユーロを受け入れないことにより、絶えず緊密化する連合という考え方を自動的に拒否したのだ。
また金融規制など、ユーロ圏と英国の利害が自ずと衝突する分野もある。これもまた、事前には想定されていなかった。
技術的なレベルで言うなら、ユーロ圏にとっての一層の統合と英国にとっての一層の分裂を併存させる形でいろいろな条約を改定することは、恐らく可能なのだろう。しかし、よくあることだが、ここで政治がからんでくる。次の2つの理由により、条約はすぐには改定されないだろう。
フランスの反対とEU内の合意の欠如
第1の理由は、フランスの反対である。フランスはちょうど10年前、欧州憲法条約の批准を国民投票で否決した。この条約はその後取り下げられ、リスボン条約へと形を変えた。フランス政界の体制派、特に与党の社会党は、いまだにこの敗北がトラウマになっている。
フランソワ・オランド大統領は党内で古傷が開くのを避けたいと願っており、2017年春に行われる次の大統領選挙の前にこのテーマについて議論するつもりは全くない。少なくともそれまでは、条約改定の議論は行われないと見るべきだろう。
先月のこと。フランスの世論調査会社IFOPが大手新聞フィガロ紙の依頼を受け、条約改定の是非を問う国民投票が行われたらどちらに投票するかと尋ねるアンケート調査をフランス人に行ったところ、回答者の62%は改定に反対すると答えた。欧州軍と欧州大統領職の創設を過半数が望んでおり、その実現には条約の改定が必要であるにもかかわらず、だ。
この世論調査からは、間の抜けた質問には間の抜けた答えしか返ってこないという事実とは別に、欧州の国民投票では常に予想通りの結果が出ると考えてはいけないことが分かる。
条約の改定はないと考えられる第2の理由は、どこをどう変えるべきかについて合意ができていないことに求められる。
6月に開かれる欧州首脳会議では、ユーロ圏の統治改善に向けたさまざまな提案が議論されるが、これまでにリークされた関連文書で際立っているのは、そこに野心が感じられないことだ。
フランスとドイツが合同で作成した文書の目玉は、欧州委員会から権限を奪い取るというものである。あたかも、中央集権の行き過ぎがユーロ圏の問題だったかのようだ。
イタリアの提案に至っては、ユーロ共通債への言及を注意深く回避してフランスやドイツを動揺させないことだけが目的であるように思われる。
今の時期、この話題に触れたい国は存在しない。ドイツ経済がユーロ圏内部の不均衡から利益を得られる間は、意味のあるユーロ圏改革をボイコットする際にドイツを頼りにすることができるからだ。この状況はあと10年ぐらい変わらないかもしれない。
タイミングの問題
その瞬間がやって来るまで、条約改定の議論はいずれも失敗に終わる公算が大きいだろう。EU本部には「条約改定の機会を逃すな」という警句がある。何か難しいことをやるのであれば、成功するように万全を期す必要があるということだ。
キャメロン氏の問題は、主にタイミングにある。前回の条約改定には、発案から成就までほぼ8年の時間がかかった。今回はそれ以上の時間がかかるかもしれない。国民投票の数が多くなればなるほど、時間はその分長くかかるだろう。
そしてその時間が長くなればなるほど、英国が将来の条約改定に関連して得られるかもしれない約束の価値も小さくなってしまうのだ。
By Wolfgang Münchau
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43930
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。