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戦闘で疲弊したウクライナ経済
遊休状態の炭鉱や工場、まだ見えない復興への道筋
2015.6.2(火) Financial Times
(2015年6月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米下院、ウクライナへの殺傷兵器供与促す決議案を可決
激しい戦闘によるインフラの損害が経済復興を妨げている(写真は今年3月、ウクライナ東部を流れるドネツ川で、破壊された橋に架けられたはしごを下りる女性)〔AFPBB News〕
もう使われていない小さな塹壕や解体されたバリケードが点在するウクライナ東部のヴフレヒルスクの町に入る道路の脇に、地元の炭鉱の立坑坑口が遊休状態で立っている。炭鉱は数カ月前、水浸しになった。ロシアの支援を受けた分離主義勢力がウクライナ政府軍を町から追い出した際の激しい戦闘の最中に、地下水ポンプへの電力供給が絶たれたからだ。
「今は仕事がない」。新たに樹立を宣言した町政のトップ、オレグ・ネレドバ氏はこう話す。
さらに「ポンプで水を吸い出し、再び炭鉱を動かす必要がある」と付け加えるが、いつそれが実現するか明言することができない。
ドネツク市の北東60キロに位置し、かつて8000人近くが住んでいたヴフレヒルスクのような町以上に、ウクライナの壊滅的な経済崩壊の深刻さが強烈な場所はない。近くにある鉄道の要衝、デバリツェボを制圧するための反政府勢力の軍事作戦の一環として3カ月前に繰り広げられた戦闘で「災禍を免れた建物は1つもない」とネレドバ氏は言う。
東部経済の深刻な荒廃
住民は生活を立て直すのに苦労しており、屋根のない小屋でスープを作っている。だが、以前は800人を雇用し、間接的にさらに数百人の住民に生計手段を与えていた炭鉱の沈黙は、疲弊したウクライナ東部経済の復興に向けた課題の大きさを象徴している。
車でドネツク市に戻ろうとすると、すぐにほかの象徴が見つかる。ヴフレヒルスクの先には広大なヒマワリ畑が視界いっぱいに開けてくる。昨年は収穫されず、今では日に焼けて茶色く枯れている。
市の郊外では、米カーギルが1990年代に建設した工場――かつてウクライナが有力生産国だったヒマワリ油を生産していた工場――も、昨年夏に砲撃を浴びた後、遊休状態で放置されている。
近くにあるドネツク・メタラージカル・プラントの警備員は、以前は世界43カ国に製品を輸出していた同製鋼所は今、「たとえ動いているにせよ、設備稼働率は10%だ」と言う。
ウクライナの鉄鋼業界にとって極めて重要なサプライヤーである巨大なアウディーイウカ・コーク・プラントは、散発的な砲撃によって頻繁に閉鎖に追い込まれる。この工場は――差し当たり――まだ、ドネツク州北西部のウクライナ政府の支配下にある。
2月半ばから停戦協定が部分的に順守されている中で、今ようやく、東部の被害の本当の度合いが明らかになってきた。これは第1四半期のウクライナの国内総生産(GDP)が17.6%減と予想よりはるかに悪い数字になり、停戦にもかかわらず事態が改善する兆しがほとんど見られない理由を説明する助けになる。
予想よりずっと悪かった第1四半期のGDP
ウクライナのアルセニー・ヤツェニュク首相は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に対し、第1四半期のGDP統計は「衝撃的だ」と述べた。アイヴァラス・アブロマヴィチュス経済相はこれを「恐るべき」数字と呼んだ。
今年1〜3月期に鉱工業生産は前年比で20%以上落ち込み、4月も一向に改善していない。一方、インフレ率は先月、61%に跳ね上がった。通貨フリブナが下落したうえ、国際通貨基金(IMF)による175億ドルのウクライナ救済策の一環として、政府により公共料金が5倍に値上げされたためだ。
ヤツェニュク首相は親ロ派の反政府勢力が支配する地域はウクライナ領土の4%だけだと主張するが、ここにはドンバス地方の重工業の中心地の大半が含まれる。「我々は実際、経済の20%を失った」と首相は言う。
戦闘と鉄道の被害は、双方向の供給を混乱させている。ドンバス産の石炭の他地域への供給と、反政府勢力の支配下にある東部の製鉄所に対するウクライナ中部の鉱石の供給だ。
たとえ東部の紛争が再燃することがなかったとしても、ウクライナの経済生産がどれほど速やかに回復するかは、部分的に産業とインフラの復旧にかかっている。
また、ドネツクおよびルガンスクの「人民共和国」で自治を確立しようとする反政府勢力の指導部の決意にもかかわらず、東部とウクライナその他地域との結び付きを修復できるかどうかにもかかっている。
ウクライナのエネルギー相によれば、国内に95ある炭鉱――発電や製鉄、輸出に欠かせない存在――のうち、キエフの政府側が今支配しているのは35だけで、残りは反政府勢力の支配地域にあるという。
キエフの中央政府が任命したドネツク州知事は、反政府勢力の手中にある炭鉱の6割が水浸しになっていると言う。
ヴフレヒルスクは典型例だ。この炭鉱は以前、10キロ北へ行ったスヴィトロダルスクにあるドネツク州最大の発電所に石炭を供給していた。スヴィトロダルスクは、ウクライナ政府の支配下にあるが、やはり戦闘の前線に位置する町である。
鉄道の損壊のために、ドンバス地方が何とか生産している石炭は、ディーゼルを大量に食うカマーズ製トラックで輸送されている。
高インフレと賃金・年金凍結のダブルパンチ
他の地域では、事態はそれほどひどくない。だが、ウクライナの人々は高いインフレ率と政府に課された賃金・年金凍結に挟まれて、生活を圧迫されている。小売売上高は過去2カ月間で30%落ち込み、自動車販売台数は1〜4月期に76%減少した。
「数字がすべてを物語っている。つまり、事態は絶対的に深刻だということだ。だが、東部での軍事紛争がエスカレートしなければ、最悪の局面はもう去った」とアブロマヴィチュス経済相は言う。
一部に希望の兆しも
同氏とヤツェニュク首相は、数週間続くフリブナの安定を含め、希望の兆しが見られると言う。
銀行ではこの4月、民間預金が流入した。民間預金の純流入は2014年1月以来初めてのことだ。
また首相は、生産の落ち込みにもかかわらず、政府の歳入が第1四半期に35%増加したと指摘する。通貨安のみならず、税制改革も反映した結果だという。
反政府勢力の支配地域には手が及ばないことから、キエフの中央政府はとうの昔にやるべきだった改革に集中している。だが、東部の状況が解決されない限り、改革にできることには限度があることは分かっている。
「戦闘状態にある国が大がかりな改革案を可決できた例は歴史上多くない」とアブロマヴィチュス経済相は言う。「我々は批判的な向きが間違っていることを証明すべく迅速に動いている。だが、あいにく、時間は我々の味方ではない」
By Roman Olearchyk in Donetsk
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43929
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