(2015年5月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
時折、問いが変わる。しばらく前まで西側の政策立案者は、台頭する中国が「責任あるステークホルダー(利害関係者)」として戦後の国際制度に参加するかどうか問うていた。今では、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)を巡る物議の中で、新たな国際構造を築こうとする台頭した中国の計画が1945年に確立された米国主導の秩序と難なく併存できるのかどうか尋ねている。
中国では、すべての人が習近平国家主席の「一帯一路」構想について話している。
それが正確に何を意味するのかは誰も知らないようだ。
ジャーマン・マーシャル・ファンドと上海国際問題研究所(SIIS)が主催する年次会議「ストックホルム・チャイナ・フォーラム」のために5月末に広州に集まった専門家と政策立案者は6通りほどの描写と解釈を検討した。
とはいえ全員が、西方への前進が習氏の大きな戦略だということを理解しているようだ。世界的な大国としての中国の地位を紛れもないものにするユーラシア大戦略である。
他人のクラブへの加盟で満足しないのが「大国」
かつて中国の台頭の特徴だった自信のなさの形跡は、すべて消え去った。中国は近隣地域で過度に強引になったかもしれないと言うことは、「20世紀の思考」にはまっていることを意味する。
中国政府に言わせると、21世紀の人間は中国の国力を地政学の単純な事実として受け入れる。ステークホルダーになるかどうかについては、そう、大国は他人のクラブに加盟することで満足しない。自分のクラブを始めるものだ。
習近平国家主席の「一帯一路」構想
紛らわしいことに、習氏のプロジェクトの「路」の部分は、古代のシルクロードをたどるものではなく、中東と欧州への海上航路を拡大し、守ることを目的としている。中国政府はかねてマラッカ海峡を危険な難所と見なしてきた。そのため、インド洋へと手を伸ばしている。
この青写真には、パキスタンの深水港における海軍基地と、ミャンマーとバングラデシュを経由して海に出る別のルートが含まれる。
北極の氷が解けつつあるため、中国は欧州に至る北の航路を切り開いている。
中国の最新の軍事戦略白書によれば、中国海軍は沿岸水域の防衛の枠を超え、「公海防衛」に乗り出したという。
「帯」について言えば、中国の野心は単なる道路と鉄道を超えるものだ。もっとも、中国当局者は目に見えて、鄭州から陸路でロシアを経由しハンブルクへと中国製品を運ぶ新しい鉄道輸送経路を誇りに思っている。
習氏が発表したパキスタンに対する420億ドルの支援パッケージは、中国を西方へシフトさせるための合意と協定の寄せ集めの一部だ。
中央アジアの旧ソ連構成共和国はガス供給契約と引き換えに、発電所や製造工場、パイプラインを手に入れることになる。
鉄道と高速道路が中国をアラビア海と結ぶ。アフリカの角と欧州につながる新たな経路はユーラシア経済統合のプロセスを加速させることになる。
実は多様な目的、動機をまとめた便利なビジョン?
ここには「全員が何かを得る」というような性質がある。ストックホルム・チャイナ・フォーラムでは、一帯一路は壮大な戦略であるのと同じくらいプレゼンテーションなのではないかと見る人もいた。
つまり、全く異なる目的や動機、プロジェクトを系統立てる考えとして編み出された総括的なビジョンだ、ということだ。
そう考えると、パキスタンへの支援は、新疆ウイグル自治区のウイグル分離主義者に対するパキスタンのイスラム過激派からの支援を制限する願望が原動力になっている。地域における無数のインフラプロジェクトは、中国の過剰生産能力を吸収するために必要なものだ。
中央アジアのいわゆる「スタンズ(国名にスタンが付く国々)」への進出は、ウクライナでのウラジーミル・プーチン大統領の軍事的冒険主義に続くロシアの弱さを見て、チャンスとばかりに飛びついた反応だ。
ロシア政府との大型ガス契約も同様に機を見るに敏な動きだった。
そして、これらすべての裏には、言うまでもなく、天然資源とエネルギーの供給を確保するという急務がある。
だが、どれほど不規則なところがあろうとも、こうした構想を一緒にすると、部分の総和よりかなり大きなものになる。もし大国が自分のクラブを始めることを好むのであれば、自国の経済力を地政学的な影響力に変えることにも取り組む。
中国は、一帯一路の事業には、西側からであれ東アジアからであれ、全員が参加する余地があると主張する。中国は新たなAIIBへの参加は誰でも歓迎だと述べた。以来、米国政府は新銀行のボイコットを企てたこと、そして結局失敗したことで、自国を愚かに見せる羽目になった。
ユーラシア統合で一大勢力圏を形成
だが、すべての構想について重要なことは、中国がパラメーターを設定するつもりだということだ。
ロンドンのコンサルティング会社トラステッド・ソーシスの言葉を借りれば、中国政府は経済力、財力、外交力をすべて用い、自国の国境から中東、アフリカ、欧州に至るユーラシア統合プロセスを推進しようとしている。合計すると、これはかなり大きな勢力圏になる。
もちろん、このプロセスは円滑には進まない。ロシア政府はすでに、中ロ関係のジュニアパートナーの役割に不満を感じている。妥当な理由があって、中国が旧ソ連構成共和国に入り込むことに神経を尖らせている。西側からの孤立により、プーチン氏はロシアを安売りせざるを得なくなったのだ。
中国の古いライバルであるインドはインド洋で自国海軍のプレゼンスを高めている。
中国政府からの多額の小切手は、中央アジアにつきまとう資源を巡る対立と競争を取り除くことにはならない。
そして米国は中国に対して、パキスタンにお金をつぎ込んでも安全保障を買うことはできないと教えてやれたはずだ。
決断を迫られる西側諸国
中国は既存の世界秩序を覆そうとしているわけではない。いずれにせよ、今はまだ違う。だが、戦略地政学的なメッセージは、これ以上ないほどはっきりしている。中国はルールを受け入れる国になるだけでなく、それと同じくらいルールを作る国になるつもりでいるのだ。
中国は東アジアで米国と競争しながらも、ユーラシアで傑出した存在になろうとしているようだ。西側は、ほかの誰かのプロジェクトのステークホルダーになるかどうかを決めなければならない。
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