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「御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」」
南アで実感したアフリカ経済のポテンシャル
見逃してはならないイノベーションの源泉としての価値
2015年6月1日(月) 御立 尚資
久方ぶりにアフリカを訪れる機会を得て、南アフリカのケープタウンで開かれた会議に出席してきた。ケープタウンは、インフラの整った近代都市であり、かつ観光地としても知られている。
ワインは、日本で手に入るものより状態が良かったせいもあろうが、いくつか大変質の高いものに巡り合った。レベルの高さを考えると、実に高コストパフォーマンスだった(個人的に特に気に入ったのは、どちらも赤ワインだが、VergelegenのStellenbosch 2008、VilafonteのSeries C 2010という銘柄)。
4億5000万年前の地層が頂上の平坦な部分を形成しているテーブルマウンテン、あるいはアフリカンペンギンの生息地など、見どころも多く、ほぼ会議漬けだったのが、悔やまれる。
途中で無理やり時間を作って、ペンギンだけは見に行ったが、至近距離かつ明るい時間に営巣中のペンギンを観察できるし、海をカヤックで進むと水面に浮かび上がってきたペンギンの群れを見ることもできるので、豪メルボルン近郊のフィリップ島よりも感激させられた。
6か国が1人当たりGDPでインドネシアを上回る
余談が長くなってしまったが、いわゆるサブ・サハラ(サハラ砂漠以南)の国々の中では、これまでケニアにしか行ったことがなかった。今回は、南アフリカの一部を垣間見たのだけれど、経済の活気も想像以上。さらにこの経済の元気さは、南アフリカだけではなく、どうやらアフリカの大部分の国で見られるようだ。
「21世紀後半は、アフリカの時代」。人口構成や経済成長余地から、こう言われてきたことは知っていた。一例を挙げれば、2040年には、若年人口の多いアフリカの労働人口は中国やインドを上回る、というのはよく知られた話だ。
しかし、そのポテンシャルが、かなりの実体を伴うようになってきているのは、現地を見て、現地でビジネスをしている人たちのお話を伺わないと、なかなかぴんと来ない。特に、アフリカについては、(少なくとも私の場合は)頭の中に、基本的な数字がきちんと入っていないので、余計にそう感じるところがあるし、さらに近年の経済成長が著しく、変化が大きいという一面もある。
少しだけ、数字を押さえておこう。
例えば、2009年から2014年までの世界全体の名目GDP(国内総生産)の伸びは、年平均3.7%。これに対し、アフリカは6.8%の伸びを示している。この伸びは、必ずしも1人当たりGDPが低い国の高成長だけに支えられたものではない。
PPP(購買力平価)ベースの1人当たりGDPを見てみよう。世界銀行の統計によれば、2013年の同数値は、ブラジルが約1万5000ドル、中国が1万2000ドル弱、インドネシアが約9600ドル、インドが約5400ドルだ。
これを頭に入れていただいた上で、ボストン コンサルティング グループ(BCG)が推計した2014年の数値を見ると、アフリカの上位国は以下のようになる。
国名 1人当たりGDP(ドル) 経済成長率(%)
ボツワナ 1万6034 6.5
アルジェリア 1万4259 5.7
南アフリカ 1万3046 3.0
チュニジア 1万1300 3.8
エジプト 1万877 3.7
ナミビア 1万763 6.8
インドネシアを上回る1人当たりGDPの国々がこれだけあり、さらに高い成長率を示しているわけだ。5000ドルから1万ドルの間、すなわちインド並み以上の国々として、上記の6カ国に、モロッコ、アンゴラ、ナイジェリアといったあたりが続く。
こう見ていくと、昨今の資源安や、一部の国での政情不安を乗り越えて、アフリカの国々は成長してきており、グローバル戦略を考える上で、「かなり遠い将来に伸びる地域として、つばつけを考える」という位置づけではとてもなく、「BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)、あるいはVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)といった新興国と同列に考えるべき戦略的市場」であることは間違いなかろう。
さて、日本の報道を見ていると、アフリカの将来的重要性と中国企業の積極的な進出について触れたものが多い。こういった中では、アフリカについて、従来の資源確保先だけではなく、港湾や電力といったインフラ輸出の対象として重要だとする見方が中心だ。
これはその通りなのだが、逆に、イノベーションのヒントを得る場としてのアフリカも見落としてはいけないと思う。
社会保障制度の改革、あるいは企業の情報システム改革などについてよく言われるが、「白地に絵を描く方が、今あるものを直すよりよほど容易だし、思い切った新機軸を打ち出せる」ということがある。
先進国よりはかなり遅れて、社会システムを整備し、それに応じて現地企業の戦略も構築されてきたアフリカには、「なるほど、そういう手があったか」というようなビジネスモデルが存在し、それが先進国企業にとってのイノベーションのヒントとなるわけだ。
アフリカで広がるモバイルと金融の融合モデル
一番分かりやすい例は、モバイルと金融の融合モデルだろう。ケニアの「M-Pesa」というサービスは、携帯電話を使った送金・受け取り・支払いのサービスだが、そのユーザーは1700万人、実に人口の4割に達する。
元々、政府が国民に対する様々な支払いや給付を小切手で行う事務コストを下げたいという意図から、銀行規制の外側で政府支払いにモバイルの口座を使うことを促進したこともあり、圧倒的なネットワークになっている。
国内には、何千人ものエージェントがいて、国から個人、あるいは友人や親戚間で、相手の口座にお金を振り込むだけでなく、エージェントの口座に振り込んだお金を現金で支払ってもらうこともできる。
これは言い換えれば、都市部以外でも、実質的に先進国のATMと同様の機能が(実際のATMネットワークへの投資を行わずに)構築されたということだ。
この成功を見たアフリカ各国が後追いしたため、アフリカはモバイルと金融の融合モデルの最先進地域になっている。
成人モバイルユーザーのうち、送金・受け取り・支払いにモバイルフォンを使う人の割合を見てみよう。
国名 割合
ケニア 68%
スーダン 52%
ガボン 50%
アルジェリア 44%
コンゴ 37%
先進国も含め、世界トップ10のうち、実に8カ国がアフリカの国々なのだ。
使い方はどんどん広がっており、ガーナやナイジェリアでは、保険商品の購入・保険料金の支払いに、ルワンダでは電気料金の前払いに、利用されている。ザンビアや南アフリカでは、モバイルのデビットカードサービスが登場している。
規制環境の違い、既存システムとの整合性など、考えるべきポイントは様々あるものの、先進国でモバイル金融を進めていく上では、アフリカ諸国の実状把握はイノベーション実行上の重要なステップだと思う。
アフリカ諸国の多くは、様々な問題やリスクを抱えている。しかし、将来の重要なマーケットとしても、そして、リバースイノベーションの源泉としても、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国やインドと同等以上に注意を払っていくべき国々であることは間違いないのではなかろうか。
このコラムについて
御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。
【「経営レンズ箱」】2006年6月29日〜2009年7月31日まで連載
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20150526/281609
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