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映画「疾風の9日間」がほのめかす中国の意図
習近平の政治的トークを、あの権力者の口を借りて語る
2015年5月29日(金) The Economist
中国共産党が米国の最強ヒーローと相まみえることはまずない。だがこの5月、コミックスの中で活躍するスーパーヒーローたちが登場する米国映画「アベンジャーズ」シリーズの最新作が中国の映画館を“襲った”。中国製の記録映画「疾風の9日間」(原題「疾風九日」)の上映開始から数日後のことである。
「疾風の9日間」のテーマは超大国の関係だ。1979年 に米中が国交を回復した直後にケ小平氏が米国を訪問した。この9日間を描いたドキュメンタリーである。アベンジャーたちは人類を滅亡の危機から救うために戦うが、ケ小平氏は中国の国民を飢餓から救わねばならない。
現政権の主張をケ小平の口を借りて訴える
この伝記映画には外交上の目論みもある。今年9月に習近平氏が国家主席として初訪米するのに先立ち、中米関係のイメージをアップさせたいのだ。
この伝記映画は、1978〜1992年まで中国の指導者だったケ小平氏の印象を利用することで、自分自身の地位を強化しようとする習近平氏の政策の一環だ。例えば昨年、国営テレビがケ氏を扱った全48話のドラマを放映した。今回封切られた「疾風の9日間」は中国政府が直接出資したものではないが、作者でもある傳紅星監督は以前、国が支援する中国電影資料館の館長を務めていた。
米中以外が関わる地政学的内容の一部は編集の段階で割愛されたようだ。当時生じつつあった中国・ベトナム間の紛争については、英語による描写はあるものの、中国語には翻訳されていない。
この映画は国内外の観客向けに製作されていて(米国での公開日は今後決定する)、「中国は服従しない」との警告を確固たる態度で発している。ケ小平氏は米国側スタッフに対し、「我々は相手がしかけてこない限り戦争を望んではいない」と宣言する――これは習近平氏自身の外交政策を総括すると言葉と言えるだろう。
習氏は美辞麗句を並べて中国の「平和的台頭」を謳う一方で、南シナ海の一部を埋め立てたり、その他の地域で挑発的な行動を取ったりして好戦的な態度を強めている。だがこの映画は、中国が後に経済成長を実現するに当たって、米国との関係がいかに重要だったかを繰り返し強調している。
外交について隠し立てしない
普段、中国の報道から見えてくるのはきっちりと原稿が用意された会議や取引決定の様子だが、この映画からは、中国が外交関係の限界とリスクを隠し立てしなくなってきた状況がうかがえる。中国製の映画には珍しく、ケ氏の訪問が米国でどれほど物議を醸したか、そして政治家や世論からいかに反対されたかについて、包み隠さず描き出している。中国のソーシャルメディアユーザーの多くは今回初めて明かされた「ケ氏がクー・クラックス・クラン(KKK)のメンバーに襲われかけた」という話に多大な関心を寄せている。襲撃者が所持していたのはスプレー式塗料の缶だったが、映画はこの人物を暗殺者の可能性があった人物として描いている。
ケ小平氏の聖人伝になっている観はあるものの、「疾風の9日間」は他の多くの共産党プロパガンダに比べてずっと出来がいい。90分の間に過去の映像と現代の映像を巧みに織り込み、一部にはアニメーションすら用いている。
興行収入だけで見ると、「アベンジャーズ」は「疾風の9日間」に圧勝した。「疾風の9日間」の公開初日の収入は100万元(約1900万円)で、およそ2万8000人が映画館に足を運んだ計算。一方、「アベンジャー/エイジ・オブ・ウルトロン」の初日の収入は2億2400万元(約43憶円)で、中国における歴代2位を記録した。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150527/281674/
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