(2015年5月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ポーランドの国旗を振りながら自分の名前を連呼する大勢の支持者の前に立ったアンジェィ・ドゥダ氏は、大統領選挙での素晴らしい勝利はポーランドの政界に劇的な変化をもたらすと断言した。
「私に投票してくれた人は皆、変化に一票を投じた」
右派政党「法と正義」にとって10年ぶりとなる国政選挙での勝利を決めた後、ドゥダ氏はこう語り、「今日から、私たちはポーランドを変えることができる」と付け加えた。
社会的保守主義を掲げる欧州懐疑派でナショナリストでもある同党から立候補したドゥダ氏が、政府の支持を得た現職のブロニスワフ・コモロフスキ大統領を大統領官邸から追い出したことは、ポーランドの政治が大きく右傾化したことを示している。
ポーランド政界の体制派には衝撃が走っており、今年10月に予定されている議会選挙では8年ぶりの政権交代が起こる可能性もある。
体制派の若者と保守派の年金生活者の支持獲得
不安を感じている反体制派の若者と保守派の年金生活者の両方から支持を得てドゥダ氏が勝利するという展開は、つい2〜3カ月前までは考えられないことだった。国内に与党「市民プラットフォーム」を拒絶する動きが強く、かつ大きく広がっている格好だ。
経済的繁栄と政治的安定を何年も実現してきたにもかかわらず、市民プラットフォームはわずか5カ月後の議会選挙で与党の座を追われる恐れに直面している。そしてこの変動は、欧州連合(EU)に対するポーランドの態度、ポーランド政府とドイツ政府との関係、そしてポーランドの財政改革という3点で大きな変化につながる可能性を秘めている。
「私たちは団結できるし、一緒に国を立て直すことができると確信している」。今回の選挙に出るまで政治関係者以外の人にはあまり名前が知られていなかったドゥダ氏は24日遅く、支持者たちにこう語った。ドゥダ氏は現在43歳で、欧州議会の議員を務めている。今回の大統領選での得票率は51.5%だった。
ポーランドの大統領は主に儀礼的な役目を担うポストだが、法案を議会に提出したり法案に拒否権を発動したりすることができる。ドゥダ氏は8月前半に就任する予定だ。
ドゥダ氏が勝利したこと、そして穏健で親欧州派の市民プラットフォームが年内に下野する可能性が出てきたことは、域内で6番目の経済規模を誇るポーランドがEUやその他の西側諸国政府との関係を冷やすかもしれないとの懸念をEU全域にもたらすことになるだろう。
市民プラットフォームはドイツと強い関係を構築してきており、ポーランドをEUに自ら進んで協力する、そして遠慮なくモノを言う熱心な加盟国だというイメージを示してきた。一方、ドゥダ氏の法と正義はEUの活動に懐疑的だ。
ドゥダ氏は、EUから個々の加盟国にもっと権限を戻すことを求めている。英国と欧州との関係について再交渉を試みているデビッド・キャメロン英首相と同じ主張だ。
ポーランド社会の深い亀裂が浮き彫りに
コモロフスキ氏は選挙戦で、ドゥダ氏の党はポーランドの欧州における経済的利益や重要な役割を台無しにしかねないと警告を発していた。
同党が最後に政権を握っていた2005年から2007年にかけてはドイツとの関係が良くなかったこと、非常に保守的な社会政策が取られたこと、官僚が政治的な理由でパージ(追放)されたことなどを有権者に説いていた。
法と正義の上級幹部らは25日、同党が前回与党だった時の首相、ヤロスワフ・カチンスキ氏は10月の議会選挙で再度首相の座を目指すことになるだろうと語った。アナリストらによれば、ドゥダ氏の勝利で政界が激震に見舞われていることから、市民プラットフォームは議会選挙で苦戦する見通しだという。
「世間の人々の気持ちが与党から離れてしまっている」。シンクタンク「ポリティカ・インサイト」の政治アナリスト、ヴォイチェフ・シャツキ氏はこう語る。「政治の変化を求める声と若者たちの怒りが、コモロフスキ大統領の時代を終わらせた。今年の秋にはそれらが(市民プラットフォームを)直撃することになる」という。
今回の選挙の投票行動では、ポーランド社会に深い亀裂が走っていることが浮き彫りになった。
2008年以降の経済成長率はほかのEU加盟国のほぼ2倍であるものの、好景気の果実は公平に分配されていない。
特に目を引いたのは、東部の比較的貧しい地域がすべてドゥダ氏に軍配を上げたのに対し、東部よりも繁栄している西部の地域が例外なくコモロフスキ氏を支持したことだ。ある出口調査によれば、農村部では有権者の62%がドゥダ氏に投票しており、コモロフスキ氏は都市部の票の59%を獲得していた。
不確かな政治的将来に直面するコモロフスキ氏は、選挙での敗北宣言を利用し、権力の座を求めて戦うよう党に促した。「我々はもっとひどい試練を経験してきたし、もっとひどい戦いを繰り広げてきた」と同氏は述べた。「この失敗を成功に変えるのは、ひとえに我々の肩にかかっている。我々は勝つ」
中期的に政治的リスクと不確実性が増大
一方、大統領に選出されたドゥダ氏は、前任者の下で実施されたポーランドの年金支給開始年齢の引き上げを撤回し、国の所得税の課税最低額を引き上げ、高いスイスフラン建ての住宅ローンをポーランド通貨建てに交換することを銀行に強いることも約束した。こうした対策は610億ユーロ以上の費用がかかると推計されている。
25日午前、市場が選挙結果の意味を消化するにつれ、銀行株とポーランド通貨は軒並み下落した。
「秋の議会選挙後、政治の舞台で重大な変化が同時に起きる高い確率は、政治的リスクと中期的な財政、金融政策の形に関する不確実性の増大を示唆している」と金融機関のクレディ・アグリコルは書いている。
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