http://www.asyura2.com/15/kokusai10/msg/741.html
Tweet |
ロヒンギャ族ボート難民:東南アジア全体の不名誉
2015.5.26(火) The Economist
(英エコノミスト誌 2015年5月23日号)
東南アジアのボート難民は、地域全体の名誉を傷つけている。
東南アジアで横行するロヒンギャ人らの人身売買
船に乗ってタイのリペ島沖を漂流していたロヒンギャ人の難民(2015年5月14日撮影)〔AFPBB News〕
緑色の小さな1艘の釣り船が、3カ月近く、東南アジアの広大な青い海を漂い続けていた。船に詰め込まれていたのは、どこの国も受け入れたがらない人たちだ。
当初、船に乗った300人ほどの難民――その大半は、ミャンマーで迫害されているイスラム教徒の少数民族、ロヒンギャ族の人々だ――は、密航業者に案内されていた。
だが、逮捕を恐れた密航業者が逃亡してからは、はっきりとした目的地もないまま難民たちだけで海を漂い、タイやマレーシアの岸に近づくたびに、海上警備隊に接岸を阻まれた。
BBCとニューヨーク・タイムズ紙のジャーナリストを乗せた小型船が近づき、難民船の甲板に水の入ったペットボトルを投げると、難民の1人は、すでに10人が死んだと訴えた。彼らの航海は、インドネシアの漁師たちに救出された5月20日にようやく終わった。
漂流難民に対する場当たり的な対応
この船だけではない。ここ数週間、マラッカ海峡やアンダマン海を多くの船が漂っている。漂流者の数は、合わせて数千人に達する。一部は、母国――主にミャンマーとバングラデシュ――での貧困や抑圧から逃れてきた人たちだ。中には、身代金目的でさらわれた誘拐の被害者もいる。
タイ警察は5月の初めに、以前から違法な業者の手引きによりロヒンギャ族やそのほかの人々が密入国に利用していた陸上ルートを遮断し始めた。それ以降、3000人を超える人々が、マレーシアやインドネシアの海岸からの上陸を試みるようになった。
だが、タイ、マレーシア、インドネシアの3カ国は、岸に近づいた小船を追い返し、時には隣国の海岸へ向かわせようとすることもあった。5月20日、マレーシアとインドネシアは上陸拒否をやめることに合意したが、国際社会からの圧力をさんざん受けてようやく動いた格好だった。
結束の深さを自慢し、世界での立場を強めたいと願う地域にしては、無神経で場当たり的な対応だ。
東南アジア諸国は、この問題の原因と唯一の恒久的解決策はミャンマーにあると主張している。その点は間違っていない。
ミャンマーは長年、国内に住む少数民族のロヒンギャ族を迫害してきた。ミャンマー政府は――判断できるかぎりでは、国民のほぼ全員も――ロヒンギャ族をベンガル人の不法移民と見なしている。
政府は、彼らがほかの民族から暴力を受けていることを言い訳に、およそ14万人のロヒンギャ族を悪臭のする難民キャンプに押しこめている。
最近では、そうした恐ろしい境遇からロヒンギャ族を逃がすために生まれた不法移民ネットワークが、隣国のバングラデシュの沿岸部に住む、ロヒンギャ族よりはましな暮らしを送る人々にも狙いをつけ、彼らの密出国も手助けするようになっている。
ミャンマーだけの責任ではない
とはいえ、ミャンマーに隣接する国々にも、この緊急事態に対する相当の責任がある。この地域で、「受け入れ拒否」を禁じる国連の難民条約に署名しているのは、カンボジア、フィリピン、東ティモールだけだ。
隣接国の政治家たちも、倫理上、難民船に物資を補給し、船が転覆した場合に救助する義務を自分たち負っていることは認めている。だが、彼らは5月下旬になるまで、航行できる状態の難民船の接岸を認めれば、さらなる渡航の試みを助長するだけだと主張していた。
その論法は、それぞれの国の有権者には概ね受け入れられた。ただし、その主張には欠陥がある。地中海で移民が命を落とすケースが増えても、アフリカから欧州へ渡ろうとする人の数は減っていないのだ。
アジアのボート難民の中には、陸地が見えた途端に海へ飛びこむ人もいた。命にかかわる切迫した危険にさらされている人を見れば、沿岸警備隊も普通は岸へ引き上げてくれるものだと信じているからだ(そう信じるのは正しい)。
東南アジア諸国の中には、そうした密入国を非難しながらも、大目に見ていた――さらにはそこから利益を得ていた――国もある。
タイの役人は長年、マレーシアへ向かう難民を国内で発見しても、黙認しているとされてきた。
そうした対応は、密入国ネットワークが繁栄する余地を生み、一部の腐敗した地元民を富ませてきた(タイの漁業やシーフード関連の企業の多くは、難民を利用し、奴隷同然の立場に追いこんでいる)。
一方のマレーシアも、時として難民の流入を見逃すことがあった。安価な非熟練労働力の不足を埋め合わせるのに、ロヒンギャ族が役に立ったからだ。
ASEANの悲惨なまでの力不足
今回の難民危機により露呈したのは、東南アジアの地域統治と、その主な実行機関である東南アジア諸国連合(ASEAN)の悲惨なほどの力不足だ。財源や人材が乏しく、「不干渉」という真意の曖昧な信条を共有するASEANは、議論だけで行動を伴わない組織になっている。
この地域の指導者たちは、互いの国内問題には口を挟まないと約束している。そうした姿勢は、ミャンマー(昨年ASEANの議長国を務めた)がロヒンギャ族の扱いに対する全面的な非難を免れるのに役立ち、ASEAN加盟国の指導者たちが、隣国に実際の責任を追及される心配をせずに、2012年のASEAN人権宣言などの華々しい宣言に署名するのを許してきた。
ASEANの指導者たちは、声高には言わないものの、静かな外交の方がおおっぴらに怒鳴りつけるよりも改革につながる可能性が高いのだと言い訳をする。それは時に正しいが、多くの場合は間違っている。
今年の初めから、ASEANの指導者たちは、ASEAN経済共同体(AEC)の発足により、この地域の結びつきがどれほど強固なものになるかをしきりに口にしている。AECは一群の地域貿易協定からなる共同体で、2015年末までに発足する予定だ。
その一方で、扱いの難しい社会問題や安全保障問題に関する協力の試みは、はるかに後れを取っている。2013年に台風ハイエン(30号)がフィリピンを襲い、甚大な被害をもたらした際も、ASEANの反応は鈍かった。今回の難民問題でも、これまでのところASEANは対応をしくじっている。
今こそ竜になれ
先進諸国が自分たちの難民問題の対応で高い基準を設定できていたなら、もっと批判もしやすかっただろう。先進諸国は、ボート難民を海に押し戻したりはしていない。だが、地中海で欧州が問ったアプローチは、明らかに不適切だ。海難救助予算を維持していれば、4月に相次いだ難破事故で失われた多くの命を救えたかもしれない。
オーストラリアは、難民船が自国海域に入る前に針路を変えさせている。5月17日には、オーストラリアのトニー・アボット首相が近隣の東南アジア諸国を非難するのを拒んだ。
ASEAN諸国は、こうした他国のまずい対応を理由に、自分たちの失敗も許されると考えたくなるだろう。だが、救出した難民を迅速に受け入れ、ミャンマーにうまく対応すれば、欧米の倫理的なお説教にうんざりしている東南アジア地域は、主導権を握るチャンスを手に入れられるだろう。
東南アジアの多くの人は、ASEANをひどい不正や苦難に対する防波堤ではなく、エリート層を富ませる道具と見なしている。今こそ、そうした考え方を覆すチャンスだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43869
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。