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[けいざい解読]ASEAN、TPPに冷めた目 小さくなる日米の姿
通商政策をめぐる米オバマ政権と米議会の攻防が、なかなか袋小路から抜け出せない。大統領が交渉権限を議会から取りつけなければ、環太平洋経済連携協定(TPP)構想は完成を目前に水泡に帰すかもしれない。
狭いワシントンの内側で調整にもたつく米国の姿は小さく見える。超大国の迷走に鼻白むのは、巨大な経済圏の中心にある東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国だ。空気は微妙に変わった。
「日本は孤立して困るでしょうな……」。1990年代に貿易自由化を推し進めたシンガポール政界の重鎮は、意外にも涼しい顔をしていた。
貿易と投資に未来を託す同国だが、米国や欧州連合(EU)、中国、日本など主な市場国とは、個別に自由化協定を締結済み。先手必勝の戦略が奏功し、経常黒字額は13年に日本を抜き14年には588億ドルに達した。
今年末には域内10カ国が市場統合し、ASEAN経済共同体(AEC)が形になる。中国がつくるアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも参加し、対中関係への目配りも怠りない。
もしTPP交渉が流れても、来年の米大統領選の後には次の機会が巡ってくるだろう。自由貿易の旗手を自任する小国シンガポールに、焦りの色はない。大物政治家の表情は、むしろ米国に翻弄される日本を案じているようにも見えた。
他のASEAN諸国はどうか。日本の2倍の人口を擁する大国インドネシアには高水準の自由化は荷が重い。景気不振で政権発足から半年のジョコ政権は早くも人気が陰り始めている。内向きになる政権に、国有企業や労働市場の改革に挑む腕力は期待できない。
マレーシアはマレー系を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」を守るのに必死。TPPの理念とは逆に国営企業のテコ入れを図る。こうしたナジブ政権の路線を、政界の実力者マハティール元首相が露骨に批判するなど、国内政治は不安定になっている。
アジアの新興国が経済成長を続けるためには、国内の構造改革が欠かせない。国内の抵抗を乗り切る上で、政権を担う指導者が大国の外圧を改革のテコに使う政治戦術もありうる。だが、その手法の大前提は、大国が高い理念を唱え続け、ぶれない姿勢を貫くことだ。
学級委員長(米国)は態度がでかい。しかも背後の教師(議会)の意向で言うことが変わる。副委員長(日本)はなんだか頼りない。そんなクラスはまとまらない――。アジアの目に今のTPPはこんな風に映る。
一時は関心を示したフィリピンやタイから、TPPに前向きな声は聞こえなくなった。中国と関係が深いカンボジアのフン・セン首相は「ASEANを2つに分断するのがTPPの本当の狙いだろう」と公言する。
フン・セン首相は間違っている。日米両国は、地域の結束を邪魔しようとなどしていない。自分の国の中の政治調整に精いっぱいで、アジアの大きなキャンバスに絵を描けないだけである。
(シンガポール=編集委員 太田泰彦)
[日経新聞5月17日朝刊P.3]
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