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[中外時評]スパイ疑惑に揺れるドイツ 情報機関設置の難しさ
論説委員 玉利伸吾
対外情報の収集には様々な困難が伴う。扱いを誤ると、機密漏洩や二重スパイが横行してしまう。紀元前に書かれた兵書「孫子」もこう指摘している。よほどの知恵者でなければ、スパイは使いこなせない。情報も生かせない。配慮が行き届かないと、報告から真実を引き出せない。実に微妙である――。
一体どんな微妙な配慮が欠けていたのか。ドイツがスパイ疑惑に揺れている。欧州連合(EU)の首脳や企業を対象にした米国のスパイ活動に、長年、ドイツ政府が協力してきた疑惑が浮上し、メルケル政権の責任を問う動きが広がっている。
問題になっているのはドイツの情報機関、連邦情報局(BND)と米国家安全保障局(NSA)との協力関係だ。様々なメディアの報道によると、米同時多発テロの直後から、対テロ活動の一環としてNSAが監視相手の電話番号など膨大なデータを提供、BNDが通信傍受などで情報を収集していたという。
ところが、テロとの戦いにとどまらず、監視対象にフランスの大統領府や外務省、欧州委員会の高官も含まれていたことが判明。さらに、航空宇宙産業大手のエアバス・グループの企業やドイツの電機・金融大手シーメンスに関する情報の入手も依頼していたとされる。
近年、米独間では、情報収集活動をめぐるトラブルが頻発していた。2013年10月には、NSAによるメルケル首相の携帯電話への盗聴疑惑が発覚、さらに、14年7月には、米国に機密文書を売った「二重スパイ」の疑いで、BNDの職員が捜査当局に逮捕されている。
メルケル首相は、いずれの問題でも被害者として、米国の情報収集活動を非難してきた。しかし、今回、ドイツの情報機関の関与が明らかになり、当事者として責任を問われている。
しかも、政権がこうした活動を早くから知っていた疑いも指摘されたことで、野党だけでなく、政権内からも批判が噴出している。BNDの活動内容についての詳細な開示、監督強化を求める声が強まっている。
なぜ、同盟国である米独間でトラブルが相次ぐのか。虚々実々のスパイ活動の実態はつかみにくいが、歴史を遡ると、背景も見えてくる。BNDの前身はゲーレン機関と呼ばれた。第2次大戦中、対ソ戦のために、ドイツ陸軍参謀本部のゲーレン将軍が組織した秘密情報機関がもとになっている。
ゲーレンはナチスドイツが無条件降伏した後もアルプス山中に潜み、ソ連軍の編成、経済データ、スパイ網に関する膨大な機密書類を隠していた。戦後、米ソ対立が激化する中で、この地域に自前の情報網をほとんど持たなかった米国にとって、どうしても欲しい情報だった。米軍はこの組織を温存、資金を提供して対ソ情報機関に育て上げて情報収集、工作活動などに利用した。資金援助の見返りに、同機関はあらゆる情報を米側に提供していた。
同機関は米軍から米中央情報局(CIA)の管轄に移り、西ドイツが1955年に主権を回復、国際社会に復帰した後、56年4月に西独連邦政府に移管され、BNDとして発足した。その後も、ソ連や東ドイツも含めた東欧での情報収集、工作など冷戦の最前線で活動し、米国への情報提供も続けてきた。
情報機関は独立性と継続性を重視する。機関同士の協力関係も、国家間の外交関係の影響を受けにくいといわれる。冷戦終結後、米同時テロや中ロの軍事的動きなどで国際情勢も大きく変化したが、米独の機関は依然として冷戦時の関係を保ったままで、現政権が望まない活動を続けてきた可能性がある。
その結果が相次ぐトラブルや疑惑なのではないか。
日本では海外で活動する情報機関の創設に向けた議論が始まっている。イスラム過激派によるテロなどで日本人が被害にあう事件が相次いでおり、安保法制の整備後は、情報機関設置の動きが加速しそうだ。
財源や人材養成など課題も多いが、価値ある情報がとれるかどうかは、CIAなど外国の機関との協力関係を築けるかどうかにかかっている。
その際、米英などの対外情報機関の輪に入り、信用を得て活動できる組織を作れるのか。米独のような摩擦、疑惑を防ぐ工夫ができるのか。行きすぎた活動に歯止めをかける監視の仕組みをどう築くのか。周到な準備が必要になるが、それには、よほどの知恵が要りそうだ。
[日経新聞5月17日朝刊P.10]
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