★阿修羅♪ > 国際10 > 713.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
戦後70年 悩める欧州
http://www.asyura2.com/15/kokusai10/msg/713.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 5 月 20 日 04:33:44: Mo7ApAlflbQ6s
 


※日経新聞連載

戦後70年 悩める欧州

(上) 独伊、終わらぬ戦争責任 独裁再発 防止に腐心

 1945年5月8日にドイツが無条件降伏し、欧州での戦いは終わった。激しい市街戦と大量殺りくが繰り返された反省から欧州は統合に踏み込み、戦勝国と敗戦国の和解が進んだ。だが戦後70年が過ぎ、欧州の南北経済格差は広がり東のロシアは牙をむく。世界秩序が大きく組み変わろうとするなか、欧州も調和と安定を失いつつある。


国民感情は複雑

 ベルリンからポーランド方面に車で1時間ほど走ったところに「ゼーロウ高地」と呼ばれる小高い丘がある。70年前の45年4月、首都ベルリンの攻略を目指す旧ソ連軍とドイツ軍がここで激しい戦いを繰り広げた。

 8日、近くにあるソ連兵の墓地を訪れたガウク独大統領はゆっくりと語りかけた。「ナチスからドイツを解放してくれたことに感謝したい」

 70年という節目の終戦記念日に国家元首が自国の犠牲者ではなく、占領軍の戦没者を慰霊するドイツ。国民の感情は複雑だ。

 ソ連の占領政策は過酷だった。多数の女性に暴行を加え、賠償金代わりに製造業の設備を持ち去った。ドイツ全土の共産化を何度も試みた。にもかかわらずなぜ感謝するのか。

 背景にあるのは、過去の失敗を繰り返すまいとするドイツ人の強い自省の念とともに、欧州のなかで経済的に一人勝ちを謳歌し政治的にも強大になりつつあるドイツに対する周辺国の警戒だ。

 戦後ドイツは「ナチスの再発防止」に力を注いできた。過去を直視し、語り継ぐことこそ正しいという考えが80年代以降、社会に浸透した。「そうしないとナチスが再び台頭してしまうという強迫観念がある」と戦後史の研究で第一人者のクラウス・シュレーダー・ベルリン自由大教授は指摘する。


無用な摩擦回避

 憲法(基本法)の見直しに柔軟だとされるドイツだが、根幹部分には容易に変えられない仕組みを埋め込んである。「永久条項」。ドイツは戦後、基本法に盛り込まれた民主主義や連邦制、福祉国家という「基本的な価値観」には一度も手を触れていない。これらは改正が禁止されているからだ。

 少数派の意見を抑圧したり、民主主義に疑問を投げかけたりするような報道や授業はタブー視される。過激な共産党は56年に非合法となった。ここ数年は極右政党に解散を命じるかどうかで悩む。ドイツにとっての戦争責任問題は、周辺国とのいらぬ摩擦を回避し、いまの欧州の安定と均衡を保つための手段でもある。

 一方、ドイツの戦時中の同盟国だったイタリア。4月25日の「解放記念日」の式典でマッタレッラ大統領は自国のレジスタンス運動を繰り返したたえた。戦争終盤の43年に独裁者ムッソリーニを更迭。自浄作用を発揮し、自らの手でファシストを追放したというのがイタリアの歴史認識だ。

 だが過去を直視していないとの批判はつきまとう。「ヒトラーはムッソリーニを手本に独裁体制を固めた。侵略戦争を推し進めたことも無視されがちだ」。チューリヒ大学のカルロ・モス教授は手厳しい。化学兵器を使ったエチオピアでの戦争犯罪を問う動きはある。欧州も「終わらぬ戦争責任」に、いまもなおもがいている。

(ベルリン=赤川省吾、ジュネーブ=原克彦)

[日経新聞5月11日朝刊P.7]
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
(中) 再びドイツ1強のジレンマ 真の統合へ模索続く

 「アンゲラ、欧州連合(EU)の改革案を仏独で提案しよう」。3月31日、訪独したフランスのオランド大統領はメルケル独首相に、ファーストネームで呼びかけた。

 「財政再建に及び腰」とフランスを批判し域外からは頑迷だと批判されるドイツ。そんな国にこびるように接するのはフランスなりのしたたかな計算がある。


仏、薄れる存在感

 欧州で突出する経済力を持つドイツは、すでにEUを切り盛りする政治力も手に入れた。しかも国力の差はさらに開きつつある。だからこそ先手を打って「ドイツ1強」ではなく、「仏独協力」が域内の政治秩序であることを再確認しようとしているのだ。

 危機感の背景には、ドイツ台頭に反比例するようにフランスの存在感が薄れていることがある。

 今年2月、関係者は東部ウクライナでの停戦で合意した。仲介者にはフランスも名を連ねて面目を保ったが、交渉のカギを握っていたのはウクライナのポロシェンコ大統領と60回にもわたって電話会談を繰り返したメルケル独首相だった。

 2008年のジョージア(グルジア)とロシアの戦争では、停戦交渉の主導権を握っていたのは当時のサルコジ仏大統領。フランスの独壇場だった外交・安全保障政策でもドイツに重心が傾いているのは明らかだ。

 宿敵ドイツが壊滅した1945年には想像できなかった地殻変動。独仏は対等の立場だがドイツは沈黙する巨人であってほしい。そんな思惑を前提にした戦後秩序が揺らぎ、フランスは戸惑う。

 もっともドイツを抑え込めないのは独仏の経済格差だけが原因ではない。戦後70年を迎え「戦勝国」と「敗戦国」という区分は崩れている。

 英国では7日の議会選で保守党が勝利し、17年にEUからの離脱を問う国民投票を行う公算が大きくなった。「栄光ある孤立」と呼ばれた19世紀の英国の外交政策に重なる。

 これでは欧州への影響力は衰えるばかりだ。「英仏が協力してドイツに立ち向かうべきだ」。サッチャー元首相は90年のドイツ再統一に反対したが、いまは夢物語だ。

 その一方で、冷戦終結後に枢軸国の一部だったフィンランドやオーストリアがEUに相次ぎ加盟。旧共産圏のポーランドなども発言力を増した。


ヤルタ体制崩壊

 戦後欧州の枠組みはドイツ分割などを固めた45年のヤルタ会談で決まった。冷戦終結から四半世紀が過ぎ、「ヤルタ体制」が名実ともに消えたのがいまの欧州。ようやく「ポスト戦後」の時代に入ったと言える。

 自信をつけたドイツは、もはや沈黙する巨人ではないが、ナチスの反省から単独で欧州を仕切ることには及び腰。かといって域内にはドイツに対抗できる国はない。

 新しい秩序づくりに向けた解はひとつしかない。「個性を失うことなく融合する日が訪れるだろう」。フランスの文豪ユーゴーは1849年の平和会議で欧州統合への夢を口にした。国境という垣根を溶かす。2度の大戦が残した重い教訓に、欧州はいままた向き合わざるを得ない。

(パリ=竹内康雄、ベルリン=赤川省吾)

[日経新聞5月12日朝刊P.7]
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
(下) ウクライナ 歴史見直し進む 欧ロに翻弄、悲劇今も

 ロシアのプーチン大統領が大規模な軍事パレードを実施し、力を誇示した対独戦勝記念日の9日、ウクライナのポロシェンコ大統領が表明した。「帝国再興のために戦勝記念を利用するロシアのようにこの日を祝うことはもうない」

複雑に絡む敵意

 代わりに欧州の終戦日である8日を「追悼の日」と定め、欧州諸国と痛みを共有した。ロシアの軍事介入を受けるウクライナで歴史の見直しが急速に進む。

 議会は4月、共産主義とナチスのシンボルを違法とし、旧ソ連時代からの呼び名「大祖国戦争」を「第2次世界大戦」と改める法案を可決した。ソ連に「ファシストの手先」とレッテルを貼られたウクライナ蜂起軍(UPA)など独立戦士の名誉回復も盛り込んだ。

 異論もある。西部リビウの歴史家バシリ・ラセビッチ氏はロシアにつけいる理由を与え、国内の分裂も広げかねないと危惧する。「ウクライナの歴史は敵意が複雑に絡み過ぎている」

 リビウ旧市街の外れに歴史論争の的になる人物の銅像が立つ。ウクライナ解放運動の指導者ステパーン・バンデーラだ。

 独立を目指して一時期ナチスドイツと協力した。ドイツ占領下で独立を宣言して投獄され、最後は旧ソ連国家保安委員会(KGB)に暗殺された。支持者らが組織したUPAは独ソの双方と戦い、ポーランド人を虐殺した暗い歴史もある。

 「ナチスの手先バンデーラを信奉するファシスト」。プーチン政権はウクライナの親欧米政権をそう呼び、「ロシア人を守る」との口実でウクライナ領クリミア半島を武力で編入、同国東部の親ロ派を軍事支援する。

 ウクライナ国内でも西部で英雄視される一方、東部ではナチスと同一視されてきたバンデーラは欧州とロシアのはざまで翻弄され続けるウクライナの苦難を象徴する。

 リビウに住むイワン・ゴブダさん(89)が語る。故郷は14歳までポーランドの支配下にあった。1939年、ドイツと勢力圏分割の密約を結んだソ連が進軍、独ソが開戦すると今度はドイツの占領を受けた。44年に同地を奪還したソ連軍に動員され、対独戦の最前線に立たされた。


同国人同士戦う

 激しい戦闘の中でゴブダさんを支えたのは「戦争を終わらせ、故郷に帰る」との一念だった。ところが終戦から2年後、KGBに反ソ分子と疑われ家族ともどもシベリアに送られた。「ウクライナ人も勝者だったのに」。悔しさは消えない。

 ソ連軍が動員したウクライナ人は350万人、大戦の犠牲者は800万人とされる。対独戦勝はソ連とロシアのプロパガンダに使われ、ウクライナ人の歴史はかき消された。

 ソ連軍に徴兵され、独立を目指してドイツ側に付いたウクライナ人部隊と戦った経験を持つイーゴリ・ユフノフスキー元第1副首相はいう。「それぞれ置かれた状況下で戦わざるを得なかったウクライナ人にとって大戦はまさに悲劇だった」

 東部の親ロ派との戦闘による犠牲者は6000人を超える。大国の圧力により、ウクライナ人同士が殺し合う悲劇が繰り返されている。欧州はこの危機を克服できるだろうか。

(リビウで、古川英治)

[日経新聞5月14日朝刊P.7]

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法

▲上へ      ★阿修羅♪ > 国際10掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
国際10掲示板  
次へ