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イスラム原理主義者とテロリストは同一ではない
イスラム世界とのビジネスをする前に知っておくべきこと
2015.5.18(月) 茂木 寿
加と仏、テロ対策で情報当局の権限強化 人権侵害の懸念も
カナダの首都オタワでイスラム教徒の男が連邦議会議事堂に侵入、銃を乱射した事件後に市内を歩く警官ら(2014年10月22日撮影、資料写真)。(c)AFP/Lars Hagberg〔AFPBB News〕
2014年から今年にかけて、カナダ連邦議会議事堂銃乱射事件(2014年10月22日)、シドニー人質立てこもり事件(2014年12月15日)、フランス紙襲撃テロ事件(2015年1月7日)、チュニス外国人観光客襲撃事件(2015年3月18日)など、過激なイスラム原理主義に傾倒したテロリストまたはテロ組織が関与しているとされている事件が立て続けに発生した。
また、日本人の人質2人がISIL(いわゆる「イスラム国」)に殺害されたこともあり、日本においてもイスラム原理主義に関する関心が高まっている。
一方で「イスラム原理主義者=テロリスト」という間違ったイメージが広がる兆候も見受けられる。そこで今回はイスラム原理主義とはどのような思想、運動なのか改めて整理してみたい。
宗教としてのイスラム教の特徴
イスラム教はムハンマド・イブン・アブドゥッラーフ・イブン・アブドゥルムッタリブ(Muhammad ibn `abdullah ibn `abd al-MuTTalib:570頃〜632)によって、610年頃にアラビア半島の商業都市メッカ(現サウジアラビア)で創設された宗教であり、ユダヤ教およびキリスト教の影響を色濃く受けている。
ちなみに、旧約聖書に記されている預言者エイブラハム(Abraham)は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教を信じる「啓典の民」の始祖とされており、この3つの宗教は同じ根源に発しているとされている。
イスラム教はユダヤ教、キリスト教と共に一神教であることから、偶像崇拝を禁止しているが、ユダヤ教、キリスト教よりもさらに厳格に禁止している点が特徴の1つとなっている。なお、ムハンマドは、イスラム教ではモーセ(Moses)、イエス・キリスト(Jesus Christ)に続く最後にして最高の預言者とされている。
イスラム教の宗教としての最大の特徴は、厳格な「終末意識」を中心に信者に「現世」だけでなく「来世」を常に意識させていることである。この終末意識はユダヤ教、キリスト教と共通する点も多く、近い将来に世界が終焉し、神の裁きによって信仰者と不信仰者が選り分けられ、天国と地獄にそれぞれ分かれていくという観念に基づいている。
また、イスラム教においては、政治に関して一定の倫理規範を有している点も特筆される。この倫理規範も終末意識の強さと密接に結びついている。例えば、最後の審判において報償を授かり、天国で永遠の至福を味わうためには、政治秩序に関しても一定の倫理規範を保持しなければならないとされている。
「神の前の平等」という考え方も、他の宗教より厳格に重んじられている。例えば、イスラム教で宗教儀礼・施設の管理、イスラム教教育、イスラム法解釈を司るイスラム教徒はウラマー(Ulama)と呼ばれる。一部では「聖職者」と呼ばれることも多いが、神の前の平等が最も確立しているイスラム教では原則として聖職者は存在しないことになっている。そこで、一般的にウラマーは「イスラム法学者」と呼ばれることが多い。
全世界のイスラム教徒人口は約16億人と言われており、全世界の人口の約23.2%を占めている。教徒の増加率は他の宗教と比べても高く、今後も増加が見込まれている。
宗派としては大きく分けてスンニ派(Sunni)とシーア派(Shia)の2つの宗派がある。その割合はスンニ派が87〜90%、シーア派が10〜13%とされている。なお、イスラム教徒が全人口の過半数を占める国は49カ国に達するとされている(Pew Research Center, “Future of World Religions: Population Growth Projections, 2010-2050”)。
宗教には「原理主義」運動が発生する
宗教においては、長い歴史の中で、原理的な変革運動が発生することがある。例えば、キリスト教における宗教改革運動(16世紀に欧州において発生)は、教会のあり方、信仰のよりどころとしての聖書等、教会活動全般にわたる変革運動に発展した。
一方、イスラムにおける原理主義とは、イスラム的な政治・国家・社会のあり方の実現を目指すイスラム主義運動の総称である。
具体的にはコーラン(Quran)の無謬を信じて厳密に字義どおり解釈し、預言者ムハンマドの時代のイスラム共同体を復興させようとするものであり、社会体制の腐敗、文明社会の問題等を補うためのイスラム的社会理念である。
なお、近年におけるイスラム原理主義運動における最終的な目的は、預言者ムハンマドの代理人(カリフ=Caliphate)によって、イスラム法(Sharia)を厳格に遵守するイスラム国家を建設することとなっている。
エジプト国民から高い支持を得たムスリム同胞団
イスラム原理主義運動が大きく拡大したのは20世紀前半にエジプトで「ムスリム同胞団」(Muslim Brotherhood)が誕生したことに始まる。
1928年に創設されたムスリム同胞団は、エジプトが英国から実質的に独立することを目指した。同時に、それまでの伝統的で世俗化したイスラム社会を批判して、現代の状況にあわせイスラムを復興させることを謳っており、単なる復古主義とは異なったものであった。
例えば、個人レベルでは世俗化した生活を反省し、礼拝、断食等、イスラムを敬虔に実践しようとする一方、社会的にはモスク建設、コーラン学校建設、喜捨(ザカート:イスラム教徒の5つの義務の1つで困窮者の救済に使われる)を通じて、福祉活動等の社会的運動が広がっていった。
その後のエジプトにおける軍事政権下では、ムスリム同胞団は非合法化され、弾圧される期間も長期にわたった。だが、国民からの支持率は非常に高く、実質的な政党別支持率で常にトップであったと言われている。
その最大の理由は、ムスリム同胞団が事業に成功したメンバーの財をもとにして、財政難の政府に代わり、貧しい民衆に対する教育・医療・福祉活動等を行っていたことや、利子を認めないイスラム社会で、無利子銀行(イスラム銀行)の運営を試みていたこと等が挙げられる(現在でもムスリム同胞団はこれらの活動を継続している。このようなイスラム原理主義組織は世界中にあり、そのほとんどは極めて穏健で平和的な活動を行っている)。
90年代に過激なイスラム原理主義グループが台頭
一方で、このような社会的運動は「政治のイスラム化」を求める動きにもつながることとなった。
特にイスラム圏において、社会的格差是正のためには、強力な政権下における富の配分システムを確立する必要があった。この要求が、次第に各国が専制的な王政化、軍政を背景した独裁化を助長することとなり、社会的な不満、不公平感を背景に、直接的(武力的)な手段を重視する急進的勢力が台頭する余地を拡大させることとなった。
例えば、世俗化したイスラム社会での民族主義・社会主義等を“非イスラム”として批判し、武力によりイスラムに依拠した社会建設を目指す傾向が次第に高まることとなった。1979年のイラン革命、1996年のアフガニスタンにおけるタリバーン(Taliban)政権等がその典型である。
イスラム原理主義運動は、1990年代に入り湾岸戦争による米軍等の欧米諸国の湾岸地域への介入、欧米諸国に対する経済格差の拡大等を背景に急速に拡大した。それに伴い、武力等でこれを打開することの妥当性を唱える一部の過激な思想を持ったイスラム原理主義グループが台頭し、現状においてテロ等を頻発させている。
日本企業とイスラム教との関わりはますます拡大する
昨今の過激なイスラム原理主義テロ組織・テロリストによるテロが頻発し、メディアで数多く取り上げられることが多いため、「イスラム原理主義者=テロリスト」という認識が広がる傾向があるが、イスラム教全体から見れば、極めて少数であることに留意する必要がある。
繰り返しになるが、ほとんどのイスラム原理主義組織は、穏健かつ平和的・社会貢献的な活動を行っていることは明白な事実である。このことを再度強調しておきたい。
近年、日本企業の海外進出が拡大しているが、インドネシア、マレーシア、バングラデシュ、トルコ等のイスラム圏への進出も拡大している。また、現在の全世界の人口に占めるイスラム教徒の割合は既述の通り約23.2%であるが、宗教別では最も人口増加率が高い宗教の1つとなっている。そのため、今後日本企業が海外進出をする上では、イスラム教との関わりが拡大するのは必定である。よって、日本企業がイスラム教に関する知識、認識を正しく持つことの意味は大きいと言える。
(本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43777
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