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旧ソ連を歩いて:(19)愛国バイク集団がえぐる欧露の溝
2015年05月17日
記者会見で欧州批判を繰り広げた後、仲間と談笑するロシアのバイク愛好家集団「夜のオオカミ」リーダーのアレクサンドル・ザルドスタノフ氏(中央)=モスクワで2015年5月13日午後、真野森作撮影
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首筋にのぞく入れ墨、がっちりした体格に不敵なひげ面、黒革のベストの右胸にはオオカミをかたどった金属製の記章が鈍く光る。ロシアで有数のバイク愛好家集団「ナチヌイエ・ボルキ(夜のオオカミ)」のリーダー、アレクサンドル・ザルドスタノフ氏(52)は憤まんやるかたないといった表情で口を開いた。「我々の敵は攻撃の矛先を『勝利』にまで向けてきた」−−。5月9日のロシアの対ドイツ戦勝記念日を巡る愛国主義的なバイク集団の言動から、ウクライナ危機後のロシアと欧州の深い溝が垣間見えた。【モスクワ真野森作】
夜のオオカミは4月下旬から5月上旬にかけて、対独戦勝70年を記念するモスクワ−ベルリン間のバイク走行「勝利の道」を企画した。メンバー十数人で第二次世界大戦時の旧ソ連兵の戦没者慰霊碑をたどり、戦勝記念日の9日、ベルリン解放を顕彰した現地のモニュメントで献花するというものだ。
だが、これが欧州とロシア間の外交問題に発展した。ポーランドとドイツでメンバーが入国拒否され、露外務省は抗議の声明を発表。欧州側の両国は共に「ビザ申請書類に不備があった」などとして、あくまで手続き上の問題だったと主張した。
夜のオオカミのメンバーは、黒い革ジャケットや入れ墨、金属製装身具など「自由」や「反権力」をイメージさせる無頼な装いをしているが、実際には政権と極めて近いグループとして知られる。イベントにプーチン大統領が参加したこともある。ロシアが軍事介入を続けるウクライナ情勢を背景に、欧州連合(EU)加盟国の多くが「ベルリン行きは挑発的」と不快感を示していた。入国拒否が政治判断だった可能性も低くはない。
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ザルドスタノフ氏は13日、モスクワでの記者会見で怒りをぶちまけた。戦勝70年の祝賀ムードに水を差された、との思いが背景にある。「欧州は我々に要求する寛容さを自らは持ち合わせていない」。入国拒否を決めたドイツの司法当局に損害賠償を求めて現地で提訴したと明かし、「自分たちの経験を通じて、(ドイツの)司法制度をチェックしたい」とうそぶいた。
背中に長髪を垂らした、こわもてのリーダー。医師の資格を持ち、「ヒルルク(外科医)」のあだ名で呼ばれている。ベストの左胸には双頭のワシの「栄誉勲章」が揺れる。2年前、「愛国的な青少年の育成に貢献した」としてプーチン氏から直接授与されたものだ。ウクライナ危機後、政権支持集会の発起人にも名を連ね、昨年12月、自らが1989年に創設したバイク集団ともども米国の制裁対象リストに加えられた。
実際、夜のオオカミはウクライナ情勢に関しても、プーチン政権の意向に沿った「愛国的行動」をとっている。昨年3月のロシアによるクリミア半島の強行編入前には、現地入りしたメンバーが地元の親露派勢力による行政庁舎の占拠などに加わった。現在は、ウクライナ東部の親露派支配地域に支援物資を送るなどの形で関与している。
今回の戦勝記念走行に参加したメンバーは結局、車や飛行機などでベルリン入りし、9日に目的の献花をやり遂げた。ザルドスタノフ氏らの説明では、道中の東欧諸国やドイツの市民から多くの声援を受け、ベルリンでは支持者約3000人が集まったという。自分たちをナチス・ドイツから欧州を解放したソ連軍に重ね、「欧州諸国の親米政府は敵だが、市民は味方」との持論を展開した。
欧米やウクライナでは権威主義的なプーチン政権をヒトラーが率いたナチス・ドイツになぞらえる見方も珍しくない。だが、ソ連を継承したロシアでは逆に「我々こそ反ファシズムのとりで」との思いが強い。
昨年のウクライナでの政変後、ロシアは「ナチズムに親和的な民族主義勢力がキエフで台頭している」と繰り返し主張してきた。プーチン氏自身も最近の演説で「1930年代、欧州はナチズムの脅威を直ちには理解しなかった。歴史は再び我々の理性に呼びかけている」と訴え、ウクライナ政府とこれを支援する欧米をけん制した。両者の認識の溝と相互不信は深まる一方だ。
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夜のオオカミのリーダー、ザルドスタノフ氏は記者会見で興味深い発言をした。
「5月9日の記念日は我々にとって『キリストの復活』に近い。時間を巻き戻して、(対独戦終盤にベルリンへ攻め込んだソ連軍によって)ドイツ国会の屋根に掲げられた赤旗を眺めたとしたら、まるでキリスト到来のしるしに見えたことだろう」
共産主義のソ連と伝統的なロシア正教を合体させて神聖視するような、奇妙な言説だ。だが、2012年の大統領再任以来、愛国主義的な政策を強化するプーチン政権下のロシアでは、これも「あり」なのだ。ロシア正教もかつての強大国・ソ連も共に愛国心の鼓舞に役立つからだ。
歴史を振り返れば、ソ連の独裁者スターリンも第二次大戦中、国民から全面的な支持を得るため、それまでの反宗教から教会容認に転じた経緯がある。
ロシアにとって自らの「歴史的正義」をアピールする重要な意味を持った今月9日、プーチン氏や招待客のザルドスタノフ氏らはモスクワ・赤の広場で戦勝記念の軍事パレードを見つめた。その先頭には、儀仗(ぎじょう)兵の掲げる赤旗が翻っていた。
http://mainichi.jp/feature/news/20150517mog00m030006000c.html
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