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ロシアの指導者たちは、自由民主主義は悪で、プーチンの下での生活こそが善であると国民に説得しようと必死だ(写真:Sasha Mordovets/Getty Images)
横暴すぎるロシアに欧州はどう対抗すべきか 今度はデンマークを「核の標的に」と"脅迫"
http://toyokeizai.net/articles/-/69266
2015年05月17日 アナス・フォー・ラスムセン :元NATO(北大西洋条約機構)事務総長 週刊東洋経済
ロシアは、デンマークがNATO(北大西洋条約機構)のミサイル防衛に参加する場合、デンマークの海軍艦船が核ミサイルの標的になるという脅迫を行った。これは、ロシアを攻撃する意図のない国に対する明らかに常軌を逸した威嚇である。国家権力に対してこれまでになく課題が突き付けられている時期に、戦略上の影響力を維持しようという焦燥感をロシアは抱えている。
ロシアの指導者たちは、NATOのミサイル防衛が同国を標的としたものでないことを十分認識している。2009〜2014年に私がNATO事務総長を務めていた際、私たちはミサイル防衛の目的が欧州大西洋エリア外で生じる脅威から同盟国を守ることだ、と繰り返し強調した。
■「核の脅迫」はロシアが弱体化している証拠
デンマークなどに対する核の脅迫は、ロシアの経済、人口、政治が減退して国が弱体化している証拠である。ロシアが偽って主張しているように、NATOが同国に積極的に攻撃を行ってきたわけではない。ウクライナ危機を中心としたロシアと欧米諸国との間の近年の対立は、価値の衝突だといえる。
ウクライナ衝突がどのように始まったかを思い出してみよう。あらゆる社会階層を含む何万人ものウクライナ市民が、平和的なデモで欧州連合との協定締結を要求した。同国内にいるロシア語を話す人々を虐殺せよと唱えた者は1人もいなかったが、ロシア政府は虚偽の主張をした。ウクライナのNATO加盟(意思)はこの事件とまったく関係がなかった。
しかし、ロシアは迅速かつ粗暴なやり方でこれに対処した。抗議が暴力に巻き込まれるずいぶん前から、ロシア政府関係者たちはデモ参加者たちがネオナチや過激派、扇動家であると非難を始めた。ウクライナのヤヌコーヴィチ元首相がキエフを去るやいなや、プーチン大統領はクリミア併合に着手した。
これは、国際法に対する目に余る侵害にとどまらない。ロシアが繰り返し述べている「他国の費用で安全を保障する権利を持つ国はない」という主張にも真っ向から反しているのだ。ウクライナのデモ参加者たちは、ウクライナ政府に抗議していた。ウクライナがロシアにとって軍事的脅威になるとの考えはばかげている。仮にウクライナがNATO加盟国だったとしても、ロシアへ侵攻するのは不合理なシナリオだっただろう。
ロシアにとって、ウクライナの抗議者たちによる脅威は、自国の存在を揺るがしかねないものだった。変革と自由と民主主義を要求したことで、抗議者たちはプーチンの唱える「主権民主主義モデル」に異議を申し立てたのだ。ウクライナ市民が要求を満たした場合、ロシア市民も影響を受けるかもしれない、とロシア政府は危惧したのである。
そのため、ロシアの指導者たちは、ウクライナの指導者たちをロシア嫌悪者やファシストに仕立て上げようと躍起になった。自由民主主義は悪で、プーチンの下での生活こそが善である、とロシアの人々を必死に説得しようとしている。
■ロシアには民主主義で対抗せよ
ロシアのプロパガンダ攻撃に対抗して、欧米諸国はウクライナやバルト3国などのNATO加盟国のために、今後も立ち上がらなければならない。
欧米諸国の最大の強みは民主主義である。これによりわれわれは2世代にわたり平和を守ることができたし、兵器の力にほとんど頼ることなく欧州から共産主義による支配を除外したのだ。自由民主主義は完璧から程遠いながら、過激主義や偏狭さに対する最大の盾であり、人類の前進を促す最も強力な存在である。
近隣国の影響により、ロシアの人々が改革を求めるかもしれないというだけの理由で、ロシアが近隣国を攻撃することを欧米諸国が認めてしまったら、民主主義の価値は守るに値しないというメッセージを発することになるだろう。
ロシアのメディア担当顧問にだまされてはならない。ウクライナの紛争は、民主主義に関する問題なのだ。
(週刊東洋経済2015年5月16日号)
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