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『ニューズウィーク日本版』2015−5・5/12
P.46〜47
「サウジが仕掛ける経済作戦
中東:新国王が次々狩り出す効率重視型経済改革はイエメンでの軍事作戦以上に世界に影響を与える
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)
ここ数カ月でたびたび国際ニュースのトップを飾った大規模な軍事作戦は、その名も「決意の嵐」。3月、サウジアラビアは隣国イエメンのシーア派武装勢力ホーシー派に対し、大規模な空爆に踏み切った。宿敵イランが後ろ盾とされる勢力に仕掛けたこの攻撃は、国内外のメディアによって盛んに報じられた。
4月下旬になってサウジアラビアは作戦の終了を発表したが、中東の大国イランとサウジアラビアの代理戦争の場と化したイエメンの今後は、いまだ不透明なままだ。
この空爆ほど報じられていないものの、負けず劣らず重要なニュースがある。サウジアラビアの今後だけでなく、世界経済にとっても極めて意味の大きいもの―サウジアラビアのサルマン新国王が主導する、迅速で決意に満ちた経済改革のことだ。
これを「もう1つの決意の嵐作戦」と名付けよう。国王肝煎りのこの改革には、もっと大きな注目が集まっていいはずだ。中東地域においても世界の石油市場においても世界経済においても、サウジアラビアの占める役割は非常に大きいのだから。
1月のアブドラ前国王死去を受けて即位したばかりのサルマン国王は改革を通じ、国民と外国の投資家に明確なメッセージを発している。遅々として進まず分かりにくかった「従来型」の経済政策とは決別した、と。
国王は腐敗の一掃を公約した(王族自らが甘い汁を吸うこの国にとってはかなりの難題だ)。さらには住宅事情を改善し、雇用を拡大させるための大規模な開発計画を推し進めることを約束。同時に、石油頼みだった収入源の多様化も図ると宣言した。
国王は新たに、30〜40代の若手で、欧米で博士号を取得した実務家肌の人材を多数、閣僚に起用。彼ら新内閣メンバーに向けても、経済開発構想において「いかなる妥協も許されない」との意思を示した。
どれほど「許されない」のかは、保健相を更迭されたばかりのアフマド・ハティーブに開けばよく分かる。最近ネット上で、ハティーブのある動画が出回った。父親の治療体制について病院への不満を訴えた国民を、ハティーブが頭ごなしに叱りつける様子を携帯電話で撮影した映像だ。すると国王は、即座にハティーブを解任。次いで国王の息子で国防相のムハンマド王子が、個人的にこの父親の治療体制改善に尽力しょうと申し出た。
さらに国王は、住宅相も更迭した。手頃な価格の住宅を国民に供給するための巨額プロジュクトが、一向に進まないためだ。次に国王は、未開発のまま土地を遊ばせている所有者にも狙いを定めている(その多くが王族メンバーだ)。国王は彼らに、土地を開発するか税を払うかを選ぶよう迫り、迅速に新税制を導入した。
「これまでのサウジアラビアには見られなかった断固たる動きだ」と、過去のサウジ政府で顧問を務めた人物は、最近首都リヤドを訪れた私に語った。「国民の受けはいいようだ。この国の経済問題は長引いているし、そろそろ腰を上げなければ」
株式市場も国外に開放
サウジアラビアは今も石油収入に大きく依存するが、「オランダ病(天然資源の輸出拡大によって他の産業が衰退する現象)」に陥ってはいない。昨年、石油産業以外の民間部門の成長率はGDP成長率を上回った。
ムハンマド・ジャーシル経済企画相は以前から、従来の経済政策から脱し、「効率重視型」に重点を置いた経済開発モデルヘと移行する必要があると主張してきた。医療保険や教育などに予算をつぎ込むモデルから、生産性と効率重視の民間主導へと向かうべきだという。
国王は鶴の一声で政府の意思決定プロセスを改革。雑多な評議会や組織を合理化し、省庁をまたいだ調整役を務める1つの組織「経済開発問題評議会」に統合した。経営コンサルティング会社が提案しそうな手法だ。
「従来型のシステムは放置され、多くの政策が時代遅れのまま手に負えない状態になっていた」と、元政府関係者は言う。その1つが、株式市場だ。金融規制当局である資本市場庁(CMA)はついに4月、国外の投資家に株式市場を開放すると発表した。同国史上初めてのことだ。
新興市場を狙う投資家にとっては画期的な決定だろう。サウジ株式市場の時価総額5280億jは、ロシアやメキシコを上回り、ブラジルに匹敵する。
なぜこうした経済改革が世界にとって重要なのか。サウジアラビアが中東地域を超えた重要な位置を占めているからだ。世界経済を大きく左右するマクロ的な問題は、全部で4つある。アメリカ経済、ユーロ圏、中国、そして石油価格だ。その石油価格において、サウジアラビアは今も支配的な立場にいる。
サウジアラビアの人口は若い。14歳以下は3分の1以上、29歳以下は3分の2に上る。この人口構成は今後、途方もない負担になるかもしれないし、生産的に活用すれば恩恵にもなり得る。
他の中東地域と違い、今のところサウジの若者に反政府の動きは見られない。それでも、彼らに雇用と希望に満ちた未来を約束することは、サウジの安定にとって必要不可欠だろう。そして、世界経済にとっても。」
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