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グローバルな通商政策の多難な未来
米国主導のTPPとTTIP、その効果とリスクは?
2015.5.14(木) Financial Times
(2015年5月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
9月の米貿易赤字4.4%減、輸入が過去最大の落ち込み
オバマ政権は太平洋と大西洋の大貿易圏の中心に米国を位置づけようとしている〔AFPBB News〕
米国を中心とするプルリ(複数国間)の通商協定の提案は歓迎すべきものなのだろうか。これは大きな問題である。世界貿易の自由化は重要な成果になると考える人にとっては特にそうだ。そして、これについては異論も多く出ている。
2001年9月11日のテロ攻撃のすぐ後に始まった「ドーハ・ラウンド」と呼ばれるマルチ(多国間)の交渉が失敗に終わって以来、世界の通商政策の焦点はパートナーを数カ国に限定したプルリの協定に移っている。
最も重要なのは米国主導のもの、すなわち環太平洋経済連携協定(TPP)と環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)だ。
米大統領経済諮問委員会(CEA)の調査報告が記しているように、オバマ政権の通商政策は「世界経済の3分の2近く、および米国のモノの貿易のほぼ65%をカバーする統合された貿易圏の中心に」米国を位置づけることを目指している。
米国主導のTPPとTTIPの狙い
TPPは11カ国との交渉である。その中で最も重要なのは日本だ。米国とこの11カ国を足し合わせれば、世界全体の国内総生産(GDP)に占める割合は36%に達する。世界の人口に占める割合は11%で、世界のモノの貿易におけるシェアは約3分の1となる。
一方、TTIPの交渉は米国と欧州連合(EU)との間で行われている。米国とEUを足し合わせれば、世界全体のGDPに占める割合は46%、世界のモノの貿易におけるシェアは28%にそれぞれ達する。これらの交渉に含まれていない主要な貿易相手国と言えば、それはもちろん、中国だ。
TPP交渉に参加している国の中には、モノの輸入に高い障壁をまだ設けているところがある。CEAは、マレーシアとベトナムの関税が比較的高いことと、日本が農業を保護していることを指摘している。また、TPPのパートナーやEUはサービスの輸入に対し米国よりも高い障壁を設けていると論じている。
しかし、障壁を低くすることは米国の目標の一部に過ぎない。CEAの調査報告によれば、米国政府はTPPにおいて「労働保護と自然環境保護の強制力ある政策」を提案しているが、同時に「知的財産権の強力な執行」も求めている。
また、TTIPにおいては「双方が、規制のコヒーレンス(調和)と透明性に関する横断的な規律についての合意を目指している」という。
言い換えれば、双方のルールが一致する部分を増やし、企業から見た透明性も向上させるということだ。
このように、TPPとTTIPは国際的な商取引のルール策定の取り組みなのである。世界貿易機関(WTO)の前事務局長、パスカル・ラミー氏は「TPPは大体、それだけというわけではないが、伝統的な貿易保護に関係した市場アクセスの問題を扱うものであり・・・TTIPは大体、やはりそれだけではないが、規制の収斂を扱うものだ」と話している。
交渉成功は望ましいのか?
これらの交渉の成否は、オバマ政権が米議会から貿易促進権限を得られるか否かに左右されるだろう。しかし、我々はこれらの交渉の成功を望むべきなのだろうか。
成功を望む人の意見を簡単にまとめれば、次のようになるだろう。マルチ(多国間)の交渉が失敗に終わった以上、世界貿易自由化の最善の策はプルリ(複数国間)の協定である。それらの協定の新しいルールや手続きは将来にとって最善のモデルになる。さらには、大きな利益をもたらすだろう――。
説得力のある議論だが、これには反論も存在する。
まず、政治資本には限りがあるため、プルリの通商協定に力を入れるとWTOへの取り組みが疎かになる恐れがある。そうなれば、世界のルールの効力が低下してしまうかもしれない。コロンビア大学のジャグディシュ・バグワティ氏はそうしたリスクを強調している。
また、特定の貿易相手を優遇する通商協定は、世界を覆う複雑な生産チェーンを歪める恐れも秘めている。
米国がその影響力を利用して、パートナーにとっては最善とは言えない規制を押しつけているのではないかとの懸念もある。筆者は、労働と環境に関する基準についてはあまり心配していないが(どちらも不適切なものになるかもしれないが)、知的財産権の保護については心配している。
基準を厳しくすることが全員の利益にかなうとの考え方は正しくない。それどころか、もし米国の基準が課されることになったら、そのコストは非常に大きなものになるかもしれない。
さらに、経済的な利益は大きなものにはなりそうにない。世界貿易はすでにかなりの程度自由化されており、障壁を引き下げることで得られる利益は今後小さくなっていく。
経済効果はゼロではないが・・・
米ワシントンのピーターソン国際経済研究所がTPPについてまとめた研究によれば、米国の実質所得の増加は国民所得の0.4%相当額にも満たないという。また、ロンドンの経済政策研究センター(CEPR)が発表したTTIPに関する調査報告では、EUと米国についてこれよりも若干大きな数字が示されている。
従って、TPPとTTIPがともに成立した場合、米国の実質所得はGDPの1%相当額増える可能性がある。確かにゼロではないが、大きいとは言えない。
米国とEUの協定では、パートナーをいじめる力が米国にあることへの懸念は生じない。通商面では、双方は互角だからだ。ただ、TTIPにはさらに3つの懸念が出されている。
第1に、タフツ大学のイェロニム・カパルド氏は、TTIPで得られる利益の推計はマクロ経済のコストを無視していると主張している。同氏のケインズ経済学的アプローチによれば、EUでは貿易黒字が縮小するために需要が失われてしまうという。
この指摘はばかげている。マクロ経済の問題はマクロ経済政策で対処するべきであり、通商政策には通商政策の目標がある。
第2に、TTIPが取り除こうとしている障壁の中には、リスクに対する態度の違いを反映したものがある。従って交渉担当者は、例えば薬物検査などについて、同じ好みを押しつけることなく規制手続きを調整することを可能にする文書を作成しなければならないだろう。
もし欧州の人々が遺伝子組み換え生物を望まないのであれば、その好みを守ることができるようにしなければならない。そういった聖域に足を踏み入れた通商政策は、うまくいかない。
最後に、米国と欧州の間には投資家対国家の紛争解決(ISDS)という厄介な問題がある。
政治的選択――公的な費用で運営される医療制度や、薬の価格をコントロールする権利など――が、企業を優遇するシステムによってリスクにさらされるかもしれないと懸念する声は多い。交渉担当者はそんなことはないと強く否定している。本当にそうじゃなければ困る。
結局のところ、TPPとTTIPは恐らくプラスの利益をもたらすだろうが、大きな利益ではないだろう。しかし、リスクはある。
歩みは慎重に
TPPとTTIPはWTOの代わりになってはいけないし、中国を通商政策策定の片隅に追いやる試みになってもいけない。ダメージをもたらす規制を押しつけたり、正統な規制を破壊したりするのに利用するのも御法度だ。
歩みは慎重にしなければならない。行き過ぎた振る舞いは、世界貿易の自由化という大義にとっても逆効果になりかねない。
By Martin Wolf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43781
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