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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43742
ギリシャ情勢:SYRIZAのお粗末な大言壮語
2015.5.12(火) The Economist
(英エコノミスト誌 2015年5月8日号)
政権の座に就いてから100日、ギリシャの新政府は悲惨な失敗を重ねるばかりだ。危機は間近に迫っている。
ギリシャ政府、改革案の提出を延期 支援延長の条件
ギリシャのSYRIZA政権を率いるアレクシス・チプラス首相〔AFPBB News〕
ここ数カ月、アテネにあるB&Mテオカラキス財団の展示室には、かつて自由を求めるギリシャに欧州が示した支援を思い出させる作品の数々が飾られている。「親ギリシャ主義(フィルヘレニズム)」と題されたこの展覧会は、ギリシャが独立をかけてオスマン帝国と戦った際に、英国の詩人バイロンに代表されるロマン派の人々が示した物心両面の支援を物語っている。
この展示の現代に通じる意義は明らかだ。展示作品を夫のミハリスさんと共に所有しているディミトラ・バルカラキスさんが、子供たちを案内して回る中で1枚のドイツ絵画を指さすと、ある女の子が立ち止まってこう言った。
「私たちはドイツとケンカしているんじゃないの?」「そんなことはないわ。私たちはみんな友達よ」と、ディミトラさんは答えたという。
このエピソードを振り返りながら、彼女は真顔で筆者を見つめた。「ヨーロッパ人は、愛し合わなくてはならないわ」
SYRIZA政権に期待することが、そもそも無理だった?
一部のヨーロッパ人が、最近では話し合いをすることすら難しくなっていることを考えると、ディミトラさんの掲げる理想は実に崇高だ。
ギリシャのヤニス・バルファキス財務相は、大荒れとなった4月24日のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)の後、ユーロ圏で自らに向けられている敵意はむしろ望むところだと言い放った。
バルファキス財務相との実りなき交渉も3カ月を越え、ギリシャの支援国の間では親ギリシャ主義的な感情の蓄えもとうに干上がってしまっている。欧州連合(EU)のある高官はギリシャを評して、「彼らは夢の国に住んでいる」と述べたほどだ。
恐らくは、今のような事態を避けられたと期待すること自体が、楽観的すぎたのだろう。
今のギリシャ政府の首脳の多くは、数年前にはコーヒーを飲み、タバコをふかしながら資本主義の矛盾について議論を繰り広げることに時間を費やしていた者たちなのだ。
政府の舵取りはおろか、そもそも何かを運営した経験がある者はほとんどいない。欧州での人脈も限られている。現在の政権与党、急進左派連合(SYRIZA)の得票率は3〜4%にとどまるのが常だった。
しかし、ギリシャを襲った経済危機により同党の命運は一転する。2012年には政権奪取まであと少しに迫った。そして2015年1月の総選挙ではさらに一歩進み、連立政権を樹立するに至った。
SYRIZAは、新たに首相に就任したアレクシス・チプラス党首のもと、景気後退に打ちのめされ、数年にわたってよその国の官僚の監督のもとに置かれる屈辱を味わった国に、魅力的な公約を提示した。チプラス党首は、既存の救済策を破棄し、ギリシャの尊厳を取り戻しつつ、(大半のギリシャ国民の望み通りに)ユーロ圏にとどまると約束した。
さらに同党の首脳たちは、あらゆるヨーロッパ人の利益になるよう、ギリシャがユーロ圏の統治ルールそのものを変えることもできると考えていた。
政権交代から3カ月で破綻する公約
ギリシャ支援、ユーロ圏財務相が4か月延長で合意
ギリシャのヤニス・バルファキス財務相〔AFPBB News〕
政権交代から3カ月が過ぎ、これらの公約のうち最初の2つはボロボロになり、3つ目も雲行きが怪しく、4つ目に至っては悪い冗談でしかない。
総選挙から1カ月足らずのうちに、72億ユーロに上る残りの支援資金を確保しようと、ギリシャは第2次救済策を6月末まで延長することで合意した。
これ以降、チブラス首相とバルファキス財務相が見せた強硬姿勢は、ギリシャ国内での受けはよかったかもしれないが、国外では不信と軽蔑を招くだけに終わった。
こうした経緯は、これまでに2つの帰結を招いた。第1に、今後ギリシャが必要とする借り入れに付帯する条件は、さらに重い負担を伴うものとなるはずだ。
第2に、救済策の設計図を描いた者たちは、景気が後退している国の経済に断固として緊縮財政を強いるという過ちを犯したにもかかわらず、自らの主張の正しさにこれまで以上に自信を深めたようだ。
ギリシャのシンクタンク、ELIAMEP(ギリシャ欧州外交政策財団)のルカス・ツカリス所長は、「欧州における議論の流れを変えようと努力していた我々全員に対し、SYRIZAはひどい仕打ちをした」と憤る。
それでも、ギリシャのユーロ離脱(いわゆる「Grexit=グレグジット」)の可能性はまだ低い。だが今となっては、その計画が練られていられたとしてもさほど不思議ではない。
危うい綱渡り
2014年8月から救済資金を受け取っていないギリシャ政府は、地方政府の資金を強制的に国に移管し、納入業者への支払いを繰り延べして、何とか破綻を逃れてきた。
しかし政府は、国際通貨基金(IMF)への返済や年金支払いの期限が近づくたびに、心臓の鼓動が高鳴るような危うい綱渡りを続けていくわけにはいかない。
ユーロ圏財務相会合、ギリシャ改革案を承認 支援延長に近づく
EUなどの債権国・機関とギリシャの交渉が続いている〔AFPBB News〕
EUおよびギリシャ政府の高官の間では、支援なしではギリシャが5月より先を乗り切れないということで意見が一致している。
続く7月と8月には、欧州中央銀行(ECB)への巨額の返済が迫っており、これを乗り切るには第3次の救済策が必要になるかもしれない。
こうした情勢を受けて、関係者の意識は高まった。高飛車な姿勢でユーログループの財務相らを激怒させたバルファキス財務相は、交渉の中心から外された。ブリュッセルでの交渉は具体的な項目の詰めに入りつつある。(5月11日に予定されているユーログループの会合以前ではないとしても)早期の合意を期待する向きもある。
しかし、SYRIZAは2つの生命線については絶対に譲歩しないとの考えを変えていない。
1つは年金の削減、もう1つは従業員の解雇に関する規則だ(後者については、同党の主張にもある程度の理がある)。
チプラス首相に残された選択肢は、どれも苦しい手だ。IMFへの返済を遅らせて時間を稼ぐ方法もあるだろう。ギリシャの銀行に資本規制を課すなどして、チキンレースを続けることもできる。
あるいは、コロトゥンバ(ギリシャ語で宙返りのこと)に出て、ギリシャのユーロ圏残留と引き換えに、債権者の要求に譲歩する手もある。
最後のケースでは国民投票が必要になるかもしれない。また、同首相が率いるSYRIZAが分裂する可能性もある。起き得る事柄は無数にあるが、いずれにせよ、ツケの支払いは差し迫っている。
ギリシャがいまだに自由だという夢想
SYRIZAが妥協を許さない態度を取り続ける理由はどこにあるのだろうか。ギリシャ問題の専門家が挙げる理由は、能力不足、イデオロギーに起因する判断停止、強硬な態度をよしとする国民の要求を満たすためなど、さまざまだ。また、自らの優位性を過大評価している可能性もある。
理由が何であれ、この不確実な状況はギリシャにとって高くついている。2014年には経済が成長に転じたギリシャだが、欧州委員会は5月5日、2015年のギリシャの予想成長率をわずか0.5%へと下方修正した。しかもこれは、救済交渉が妥結した場合という条件付きだ。
政府には全くカネがなく、国外からの投資は干上がり、わずかばかりのプライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)の黒字も帳消しになった。この状況では、ギリシャが嫌う緊縮財政がさらに強化される可能性が増すばかりだ。
加えて、SYRIZAがギリシャを蝕む慢性的な病理に立ち向かうとの望みも、もはやほとんど持てなくなった。現政権はギリシャのオリガルヒ(新興財閥)の牙を抜くことに失敗し、近年実施されたいくつかの価値ある改革も逆行させようとしている。
ギリシャの古くからの病である恩顧主義(クライエンテリズム)も、かつてないほどに蔓延しているようだ。
リベラル政党、ポタミの調査によると、地域の教育委員会の長13人のうち、実に11人がSYRIZAの党員だったという(残り2人のうち1人も、同党と連立を組む政党に所属していた)。
SYRIZAがもたらしたのは、ほぼあらゆる意味で、公約とは真逆のものばかりだ。同党はギリシャの景気後退に終止符を打つと約束した。しかし逆に、成長は停滞している。
欧州の緊縮政策を終わらせると誓ったが、実際は、どんなドイツ人も望めなかったほどに緊縮推進派を勢いづかせている。既存政党の悪習を一掃するとうたったものの、逆にその悪習に染まってしまったようだ。
冒頭のアテネの展示室に戻ると、親ギリシャ主義の作品を集めた自らのコレクションを眺めながら、ミハリス・バルカラキスさんは浮かない顔だった。「200年前は、誰もがギリシャを愛してくれた。でも今は・・・」と、彼は声を途切らせた。
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