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英国総選挙:引き裂かれる連合王国
2015.5.7(木) The Economist
(英エコノミスト誌 2015年5月2日号)
今回の選挙は英国にとって破滅的だ。英国は破滅する運命にあるのかもしれない。
テムズ川岸で居眠り、川に落ちた男性救助される 英ロンドン
きょう5月7日に実施される英国総選挙は、英国の未来を大きく左右することになるかもしれない〔AFPBB News〕
この荒れた、焦点がばらばらの選挙は本来、経済が争点になるべきだ――そして、もし保守党が経済問題に関する支持率が保証しているように見える勝利をつかんだ場合には、結局、経済が争点だったということになるかもしれない。
だが、未来の歴史家はむしろ、今回の選挙戦の過程でイルカの肝臓の中の有害水銀のようにほとんど気付かれないまま蓄積していった実存的な問題を思い起こすかもしれない。
誰が英国人になることを望んでいるのか。英国は何のために存在するのか、という問題である。
未来の歴史家は間違いなく、分離独立派のスコットランド民族党(SNP)のせいで、スコットランドの連合支持派が大敗したことに驚愕するだろう。世論調査が半分でも正しいと仮定すれば、その結果、300年続く、かつて大いに成功した英国の国家連合が極度に弱体化したように見えるようになる。
台風の目となるスコットランド民族党
あらゆる立場の政治家がこのテーマについて話しているが、総選挙まであと1週間に迫った時点で、あまりに偏向的な議論を繰り広げているために、英国の将来に関する本当の問題は、歪められているか、無視されている。
保守党は心中、他人の不幸を喜びながら、労働党は英国をバラバラにすることに専念している政党の支持を得なければ政権を樹立できないと警告している。それは恐らく事実だろう。SNPは40議席以上押さえ、英国の第3党になる可能性が高そうだ。
SNPが第3党になった場合、それは労働党の一部が不可解にも示唆するように、スコットランド問題について激しい非難の声を上げ、結果としてスコットランド人をSNP陣営に追いやった保守党の責任ではない。
だが、労働党が反論するように、それにより、スコットランドが英国から離脱する可能性が昨年9月よりぐっと高まるわけでもない(9月の住民投票では、スコットランド人は55%対45%で連合にとどまることを選んだ)。
また、労働党が政権を維持するためにSNPの支持を利用することは、保守党の古参議員テレサ・メイ氏が先日主張したような「正当性を欠く」行為ではない。
世論調査によると、実際、住民投票後にスコットランド独立に対する支持が急上昇した事実はない。
SNPが今回、2010年から得票率を2倍に伸ばすかもしれないのは、9月に独立を支持したスコットランド労働党支持者の大半が、独立を約束しているSNPを支持しているからだ。
これがSNPの運命をバカらしいほど好転させる――国全体のたった4%の得票率で議会の8%の議席を押さえる可能性がある――のは、労働党と保守党がどちらも大好きな小選挙区制の不公正な仕組みを反映している。労働党がこれをうまく利用したとしても、それは違法ではなく、単なる英国の民主主義の反映にすぎない。
政権に参画するか、政権に近い立場に就いたSNPでさえ、保守党の首相デビッド・キャメロン氏が予測するような極めて破壊的な仕事を実行することはできないだろう。スコットランドから保守党を取り除くというのが、独立キャンペーンの主なスローガンだったし、今もSNPの鬨(とき)の声になっている。
不満だらけの連合王国
スコットランド独立、反対がやや優勢か 最新世論調査
昨年9月のスコットランド住民投票では、55%対45%で英国残留が決まった(写真は英国旗とスコットランドの旗)〔AFPBB News〕
「Nats(SNPの通称)」は労働党政権に大混乱を引き起こす可能性があるが、政権を転覆させることはまずないだろう。
彼らが前回1979年にそれをやった時、左派の自党支持者を激怒させた。
それでもやはり、英国という連合はひどくお粗末な状態にある。すでに、SNPは来年のスコットランド議会選挙に最大の関心を寄せている。特に、マニフェストで独立の是非を問う2度目の住民投票を約束するかどうかが議論になっている。
SNPは再投票を約束しないかもしれない。というのも、たとえ2度目の住民投票を実施できたとしても、結果が恐らく同じになることを世論調査が示しているからだ。
だが、SNPはスコットランドから連合派のライバルを追い出す一方、50歳未満のスコットランド人の大半が独立を望んでいると見られていることから、同党には辛抱する余裕がある。
本誌(英エコノミスト)のためにYouGovが先日行った世論調査によれば、英国人の半数近くがスコットランドは20年以内に独立すると考えている。
スコットランド人の意見を示す証拠は、その見方が正しいかもしれないことを示唆している。
しかも不満を抱いているのはスコットランドだけではない。本コラム執筆者が今回の選挙運動期間中に英国中を回って遭遇したのは、うんざりするような民族主義派、地域主義派の不満の声だ。
ベルファストでは、中産階級のカトリック教徒たち――「トラブルズ(北アイルランド紛争の呼称)」当時にアイルランド統一主義者の暴力を見ていたら後ずさりしたであろう人たち――が、そのテロ部隊「アイルランド共和軍(IRA)」がトラブルズで殺害を実行したアイルランド民族主義政党、シン・フェイン党への支持を宣言するのを聞いた。
カーディフでは、ウェールズの民族主義政党プライド・カムリの指導者で今回の選挙運動のちょっとしたスターであるリアーン・ウッド氏が、長らく同党をウェールズ語圏の一握りの郡に限定していた文化的民族主義を捨て、SNPの原動力になった左派のユートピアニズムを受け入れることでSNPの成功を真似るという、妥当に思える野心について説明していた。
陽の降り注ぐケントでは、本コラム執筆者は、聖ジョージ旗が並ぶパブに座って、英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首が、ケルト人を喜ばせるために書かれたわけではない「愛国的」な政策の概要を説明するのを聞いた。
UKIPは、これ以上「イングランドの納税者のカネがハドリアヌスの長城*1の向こう側につぎ込まれることは望まない・・・イングランド人はもっと公正な取引を必要としている」と話していた。
古き良きメリーイングランドかグレートブリテンか
英国がこのようにあちこちで不平たらたらの状態だったことはこれまで一度もなかった。そして、この格闘の一部がSNPに刺激されたのだとすれば、そこには共通の原因がある。
英国人のアイデンティティーは、英国を構成する各地域のアイデンティティーの古さには到底及ばず、歴史上、各地域のアイデンティティーより強かったことは一度もない。
イングランドは、スコットランドをイングランドとウェールズに結び付けた連合法より1000年近く前から存在している。「聖ジョージの日」を国民の祝日にするというファラージ氏の要求が人気を博すのも無理はない。
*1=イングランド北部とスコットランドの境界近くにあるローマ帝国時代の城壁跡
対照的に、英国人のアイデンティティーというものは、大抵、英国人が世界と向き合う時に身にまとう装いだ。共同防衛で結束し、帝国を築き、自分たちが共有する価値観を貫くことが目的だった。
英国の力が衰退するとともに、そのアイデンティティーがしおれつつあるのも、やはり無理ないだろう。
だが、正しく理解され、きちんと主張されれば、英国は過去と変わらない価値を持っている。
イングランド、スコットランド、その他地域が、文化的、商業的、そして程度は劣るが仮に軍事的に世界で発言権を持つという野心を持ち続けるのであれば、英国は素晴らしい装備を備えた道具だ。英国は、安全保障やその他のリスクを共同でプールする出来合いの手段だ。
そして英国は、過去もずっとそうだったように、これからも、抑制を欠く国家主義から身を守る毛布であり続ける。英国人はこの理由ゆえに、他の欧州諸国の中でほぼ唯一、そうした国家主義の影響を受けずにきた。
英国が繁栄したのは偶然ではない。構成地域すべてが英国から利益を得ており、どの地域も単独ではもっと貧しくなるからだ。
そして、連合派の政治家が、ポピュリストたちや不満を抱いている人たちに対してこの議論を展開し、勝つことができなければ、脇に退き、別の人に挑戦させた方がいい。目前に迫ったスコットランドの連合派の敗北は、少なくともその機会を提供することになる。だが、それは、どんよりした嵐の空の薄暗い光にすぎない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43712
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