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“あちら側”にいるひとのなかでその分析力を最も高く評価しているイアン・ブレマー氏の講演と対談なので紹介させていただく。
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日興アセットマネジメント主催講演会より:
主催者挨拶:日興アセットマネジメント代表取締役社長兼CEO 柴田 拓美氏
運用の中核に地政学最適な組み合わせ
本日は、ユーラシア・グループの創設者であるイアン・ブレマー氏を招いている。彼は24歳でスタンフォードの博士号を取得し、国際的に有名な政治関係のシンクタンクである、フーバー研究所の最年少ナショナルフェローになった天才だ。
ブレマー氏は著作を通じて、「Jカーブ理論」「国家資本主義」「Gゼロ(リーダーなき世界)」といった概念を世の中に先駆けて問うてきたことでも知られる。同時に、彼は地政学者として実にユニークなアプローチをとっている。
大学の先生は普通、過去のこと、現在のことを分析し考察する。マスコミも同様だ。これに対してブレマー氏のアプローチは、確率論ではあるが将来を予測する。短期・中期・長期に将来を見通すことは、私たちのように資産運用に携わるものには一番ありがたいことだ。
今、世界がこれほど地政学的に不安定で、また危険である時期も珍しいのではないか。だからこそ、私たちはブレマー氏が率いるユーラシア・グループとパートナーシップを結ぶ決断をした。
世界の資産運用の商品で、地政学を参考にする商品はある。しかし、運用の中心に地政学を置く商品はない。日本の投資商品の多くは、海外からその概念を持ってきているが、たまには私たちが世界初の商品を作ってもいいのではないか。
新興国市場のポートフォリオを考えた場合、リターンを得つつリスクを極小化するためには、運用の中核に地政学を入れることが最適だ。その意味で、当社とユーラシア・グループとのパートナーシップも、最適な組み合わせだと考えている。
世界のどこかで何かが起きたとき、テレビニュースのキャスターは、何とかブレマー氏から話を聞こうとする。本日は日本にいながら、世界で一番ホットな地政学の権威の話を直接伺えるまたとない機会だ。
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基調講演:ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏
Gゼロ時代の世界10大リスク
米国化停止と中国の台頭
当社諮問委員会のメンバーであり友人でもある柴田さんとは、かれこれ12年ほど懇意にしている。地政学のアプローチを資産運用とどう融合させるかを2人でさんざん話し合ってきたが、それが今回実現した。地政学にとっても画期的なことであり、私自身とても興奮している。
過去数十年間、グローバル化がうたわれ、世界中で米国化が起こった。今後もグローバル化が鈍化することはないだろうが、米国化はこれ以上進まない。
世界銀行、国際通貨基金(IMF)、国連、世界貿易機関(WTO)など、第二次世界大戦後にできた組織は米国が主導してきたが、それがどんどん分断されてきている。
中国がBRICS開発銀行、シルクロード構想、国家開発銀行、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などを立ち上げるとき、そこには米国的にならないようにという条件が付く。そして、通信やインターネット、金融やインフラ構築において、中国スタンダードを適用しようとする。
10年後も中国は政治的に安定し、崩壊せずに世界最大の経済大国になると予想しているが、依然として国家資本主義者であり、中国がリードする組織はどんどん強固になる。
各国の中央銀行総裁が市場を左右するのではなく、政府の行動が市場を左右する。各国がお互いにどうやって足並みをそろえるのか、どのようにヘッジをかけ合うのかが問題となる。
相互関係の分析が重要
例えば、原油価格がこの1年間に一変したあと、何が起きているか。産油国のベネズエラ経済が破綻し、ベネズエラの支援を受けてきたキューバが、米国に対して開国する決断をした。
中東ではエジプト、ヨルダン、レバノンなどを支えてきたサウジアラビアの支援が今後減少する。その結果、支援を受けてきた国々が不安定になり、緊張が高まる。相互のつながりを地政学的に分析しなければ先は見通せない。
リーダーなき欧州
現在、経済危機は欧州では起きていない。ギリシャは困難の中にあるが、市場ではほかの国には波及しないと見ている。欧州にはリーダーシップがなく、ポピュリズムが台頭し、既存政党に対する嫌悪感、中間層の空洞化が広がっている。欧州問題は経済的なものではなく、政治の不安定さにこそある。
英国の総選挙で労働党が勝っても、政権中は欧州連合(EU)からの離脱が無いというだけで、不透明な時期が長引くだけだ。フランスは右傾化を強めており、サルコジ氏が大統領に返り咲けば、EUからの離脱について投票を行う確率が高まる。ドイツのメルケル首相も、ギリシャの離脱を望む有権者のポピュリズムに苦しんでいる。
欧州はロシアからガスの供給を受けており、ウクライナ問題でのロシア制裁は、欧州経済にも打撃となる。このため、制裁は欧米間に亀裂をもたらしている。
単独主義的に傾く米国
また、米国は依然、世界の超大国ではあるが、世界の警察にはなりたがっていない。介入主義的な政策は続けているが、単独主義的な側面が濃くなっている。
資金は米国に潤沢に流れ込んできており、米国自体は今後も比較的安定した状態を保つが、世界各国の課題にチャレンジする意欲は限定的になる。
私たちは、これまで経験したことがない地政学的に不安定な時代に突入しようとしている。そこから今後も目をそらすことはできない。
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対談:ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏&日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山 直樹氏
地政学的リスクを踏まえた資産運用のあり方
ギリシャのEU離脱はない
神山: 私たちがこれまで経済を分析するときには、消費と投資と政府支出と輸出を合わせて国の経済と捉える中で金利を予想したり、マンデル=フレミング・モデルで為替を考えたりしてきた。「Gゼロ」時代にはこうした考え方の有効性が低下しており、一方で地政学の重要性が増してきている。
今朝のニュースでは、ギリシャの首相とプーチン大統領が握手をしたと報じられた。EU内部のギリシャ問題が、EUとロシアという外部の問題と連なってしまった。始めに、ギリシャがEUから離脱するかどうか、ロシアとの握手が何を意味するかを聞きたい。
ブレマー: ギリシャの離脱はない。ギリシャ国民の8割以上が、EUにとどまりたいと思っているからだ。シリザ党が政権についても、これは変わらない。
チプラス首相はなぜモスクワに行ったのか。その理由を言わなかったことも重要だ。彼はロシアというカードを今すぐ使う必要はなく、資本規制が敷かれた場合に備えてヘッジをしに行っただけだ。ただし、EUからの離脱はなくとも、北大西洋条約機構(NATO)から離脱する可能性は残る。ギリシャに軍事基地を設けることができれば、ロシアにとっては最高だろう。
また、彼はモスクワに向かう道中、対ロシア制裁は袋小路だと言い、ロシアのクリミア併合を認めた。これはEUの政策とは反対のもので、EU制度の弱体化を意味している。ユーロ圏の巻き戻しや内部崩壊の始まりではなく、欧州の分散化を意味している。
紛争リスク高めるロシア
神山: プーチン大統領率いるロシアは、今後どのような戦略をとるだろうか。
ブレマー: ロシアは考え方を以前とは変えてきている。1年前のロシア議会でプーチン氏は、これ以上米国の言うことは聞き入れないと宣言した。ロシア国民も、それを圧倒的に支持した。ウクライナ侵略に対する米国の制裁に対しても、ロシア人たちは怒りを覚えている。
ロシアは単にウクライナだけではなく、NATO同盟国にも軍事攻勢をかける可能性がある。また、バルト海沿岸諸国に対しても覇権を覆そうとするだろう。いきなり戦車を送ることはなくとも、デモの支持や支援、グルジアやエストニアで行ったようなサイバー攻撃を仕掛けるかもしれない。
米国のロシア制裁の基本は体制変更を促すことにあり、プーチン氏個人にプレッシャーをかけている。これが続けば、プーチン氏は絶対に反発する。米国の資産に対するサイバー攻撃も否定できない。
プーチン氏は恐らく今後、中国との関係を強化し、新興国との連携を強める。米国とは全く異なる戦略をとる。それが非常に重要なポイントだ。
20年後が見通せない中国
神山: 石油価格の低下はロシア経済を直撃した。石油価格と地政学的リスクはどのように考えるべきか。
ブレマー: 権力国家を中心とする石油輸出国機構(OPEC)が生産調整で価格を決定できた時代は終わっている。シェールガス革命以後、現在の石油価格の決定メカニズムは、市場に委ねられている。個別には地政学的要因が生産量に影響を与えることもあるが、石油に関しては、地政学的問題は市場価格の後にやってくる。
神山: 中国は石油価格低下の恩恵を受けているが、成長スピードは鈍化している。それにもかかわらず、途上国に巨額の投資を続けている。中国をどのようにみているか。
ブレマー: 中国が国内で抱えるリスクは長期的なものだ。就労者人口の減少と高齢化、未整備の年金制度や医療制度、環境問題など問題は山積しているが、政府は長期的な視点から投資をおこなっている。
指摘されたように、中国は国内以上に国外に多額の投資をしている。これは米国が第二次世界大戦後に実施したマーシャルプランと似ており、長期的には巨額のリターンをもたらす可能性がある。
ただし、それは中国の安定が担保となる。中国が世界最大の経済大国になるとしても、20年後も安定しているかどうかは見通せない。
問題は、20年後の世界最大の経済圏が、実は一番不安定であり、軌道が不明確だということだ。
ブラジルには底がある
神山: ブラジルは現在、政治的にも経済的にも困難に直面している。この困難な状況から脱却できるのか。
ブレマー: BRICSという言葉にはすでに共通項がなく死語にすべきだが、ブラジルはその中では一番の先進国だ。一番回復力があり、先進国の仲間入りをする確率が一番高い。
ジルマ大統領の政権中、ブラジルはインフレが高騰しマイナス成長になるだろうが、長期的には楽観できる。5年、10年後を考えれば、現在の不動産価格などは割安かもしれない。米国では、ブラジル経済はいつ底入れするのかが話題になっている。底入れしたら、間違いなく投資を始める。ロシアには底がないが、ブラジルには底がある。
神山: 最後に、日本について伺いたい。
ブレマー: 私が日本に対して一番感心しているのは、原発事故直後の状況だ。震災後、日本人はボランティアと省エネに励んだ。米国では考えられないことだ。
不安定化する世界の中で、この回復力、困難への適応力はブランドになる。世界中の企業が学びたいと思えるような国に、日本にはなってほしい。
http://ps.nikkei.co.jp/nikkoam2015/index.html
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