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コラム:原発外交でロシアが広げる「核の傘」
2015年 05月 1日 14:12 JST
Hannah Thoburn
[30日 ロイター] - ロシアは、国有エネルギー企業を国家戦略に利用することで有名だ。プーチン大統領は天然ガス供給を武器にベラルーシやウクライナに圧力をかけ、欧州の広範囲に「暖房なしの冬」を強いたこともある。
一方、他のエネルギー関連分野の「国策」は、天然ガスほどには注目を集めず進められてきた。ただ、世界中でウランを買い占めようというロシアの組織的な動きが最近明らかになったことで、それは変わるかもしれない。国営原子力企業ロスアトムは世界各地で原子炉を建設している。
現在、世界で最も多くの原発を建設しているのは、仏アレバでも米ウェスチングハウスでもなく、ロスアトムだ。同社が10カ国以上で建設中もしくは建設計画中の原子炉は29基に上る。対照的に、フランス政府が株式のほとんどを保有するアレバは、2007年以降に1基の原子炉も売っていない。
ロスアトムの躍進の多くは、ロシア政府の強力な援護によるものといっていいだろう。ロシア政府は10─15年前、ロスアトムの事業が世界で長期的な政治的影響力を拡大するための武器になると気づいた。石油やガスのプロジェクトとは違い、原発プロジェクトは、ロシアの周辺国や周辺地域に限定されず、投資の機会が広がるからだ。
<世界中で契約>
実際、ロシア政府ならびにロスアトムが過去1年間で契約を結んだ相手国は、世界中に散らばっている。一番最近の相手は、石油資源を持たない中東のヨルダンで、ロスアトムは同国で2022年までに原子炉2基を建設することで今年3月に合意した。
ヨルダンとの協定合意の約1カ月前には、プーチン大統領はハンガリーとの間で、同国のパクシュ原発にロスアトムが原子炉2基を増設する契約をまとめた。この契約は欧州連合(EU)が問題視したが、プロジェクトは開始されるとみられる。
ハンガリーとの契約の数日前には、プーチン大統領はエジプトを訪問してシシ大統領と会談し、同国初の原発稼働に向けてロシアが協力する方針を表明した。
昨年11月にはイランとの間で、ロシアが建設した軽水炉1基がすでに稼働中のブシェール原発に2基増設する契約に調印。同契約により、ロスアトムが同原発で4基を新設する可能性が生まれた。
インド政府はここ数年、発電容量の拡大に尽力しているが、ロスアトムとはすでに長い関係を持っている。同国南部のクダンクラム原発では、2013年にロシア製の原子炉1基が稼働を開始。今年中には別の1基も動き出し、さらに2基の増設が計画されている。昨年12月にプーチン大統領がインドを訪問した際には、両国首脳は原子力での協力継続を確認し、向こう数年で少なくとも10基を新たに建設する計画を明らかにした。
フィンランド北部では、2024年の稼働開始が計画されている原発建設予定地でロスアトムが作業を開始した。トルコでもロスアトムが建設する同国初の原発が今春に着工した。
同社はまた、中南米にも視野を広げている。2014年7月のプーチン大統領の南米歴訪時には、ロシアとアルゼンチンは原子力協定に調印。2015年4月にはロスアトムがブエノスアイレス郊外のアトーチャ原発に原子炉を建設することで合意した。
ロスアトムはブラジル原子力委員会との間では、今年2月に放射性物質モリブデン99を供給する契約を結んだ。
<ロシア政府の支援>
ロスアトムはなぜ、西側の原子力企業以上の成功を収め、各国と次々と契約を結べているのだろうか。それには4つの理由がある。
まず、有利な条件での資金調達が挙げられる。ロシアは西側による経済制裁を受けて資金繰りに苦労しているかもしれないが、長期的に有望なプロジェクトには依然として積極的だ。そこでは、経済的な利益以上の見返りが期待できる。プーチン政権はこれらのプロジェクトを国家戦略の一部と考えており、ロスアトムに多額の補助金を出すだけでなく、取引相手の国に資金が不足していれば融資も提供する。こうしてロスアトムは、競合他社に比べて大幅に有利な条件で原子炉を売ることができる。
2つ目は、同社の建設・所有・運営のスキームだ。多くの発展途上国は、相対的に安価なエネルギー源として原発を望んでいるが、原子炉建設に十分な資金は自分たちでは調達できない。また、たとえ建設できたとしても、原発の運営に十分な専門知識も持ち合わせていない。建設・所有・運営の包括的契約は、こうした問題を取り除き、責任はロシア側が持つようになる。それはつまり、原発がロシアに人質として取られることも意味する。
3つ目は、政府機関の監視から比較的自由であることが挙げられる。仏アレバや米ウェスチングハウス、日本の東京電力などの原子力に携わる世界の大企業に比べ、ロスアトムは特定の国での原子炉建設に制限がない。対照的に、米国の原子力企業は原子力供給国グループに属していない国とは取引できない。ロスアトムが原子炉を建設しているベトナムやバングラデシュは同グループに属していないため、こうした国では米企業は競争から事実上排除されている。
4つ目は、原発以外のロシアとの取引が有利に働いていることだ。ロシアとの原子力協定は、より大きな包括的契約の一部でしかない場合もある。例えばベトナムは、ロシアから潜水艦を含む武器の調達でも合意している。
<西側対ロスアトム>
以上のような理由から、西側企業にとってロスアトムとの競争はますます厳しいものとなっている。
ロスアトムはプーチン政権の全面的な支援を追い風に、活動範囲を世界中に広げており、それに伴ってロシアの影響力も拡大している。欧州と米国はメディアや金融で始めたように、エネルギーの分野でもロシアの影響力を見極め、それに対抗しなくてはならない。
欧米当局がこうした課題に向き合わなければ、西側の原子力ビジネスが弱体化するだけでなく、遅かれ早かれ、国際的影響力の面でもロシアに道を譲ることになるだろう。
*筆者は米シンクタンク「フォーリン・ポリシー・イニシアチブ(FPI)」のユーラシア問題アナリスト。
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0NM34R20150501
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