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『ニューズウィーク日本版』2015−4・14
P.40〜41
「オバマは中東をどうしたい
米外交:スンニ派とシーア派の一方に肩入れせず局面ごとに国益を優先する「現実政治」は有効なのか
フレツド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
オバマ米政権の中東政策は支離滅裂だ―そう感じている人もいるかもしれない。
何しろアメリカは、イラクでイスラム教スンニ派の武装勢力を爆撃し、イエメンではシーア派の武装勢力に対するサウジアラビアの爆撃を支援している。前者はシーア派の武装勢力を助ける結果になる行動で、後者はスンニ派の政権を助けることを目的とした行動である。
しかし、バラク・オバマ大統領の外交方針が混乱しているわけではない。オバマの中東政策は「リアルポリティツク(現実政治)」の実践と位置付けることができる。冷徹に自国の国益だけを考えて、局面ごとに最善の行動を取ろうとしてきたのだ。問題は、それが本当に有効な外交なのか、それとも現実離れした机上の空論にすぎないのかだ。
近年の中東情勢はもっぱら、イスラム教のスンニ派とシーア派の対立という構図で展開している。アメリカの味方の多くは、サウジアラビア、エジプト、ヨルダン、ペルシャ湾岸諸国などのスンニ派。敵はシリア、イラン、武装勢力のヒズボラなど、たいていシーア派、もしくはシーア派寄りだ。
もっとも、話は単純でない。いま中東で最大の敵と位置付けられているようにみえるテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)はスンニ派で、アメリカが手を結んでいるイラク政府はシーア派だ。
アメリカは、ISIS壊滅など、シーア派と利害が共通している面もあるし、シリアのバシャル・アサド大統領の打倒やイランの核開発の封じ込めなど、スンニ派と利害が共通している面もあるのだ。
ISIS壊滅が最重要
90年代初めに冷戦が終わると、昔からのスンニ派とシーア派の対立が中東の国際政治を動かすようになった。両陣営ともアメリカを戦いに引き入れようとしてきたが、オバマはおおむね、宗派対立に引きずり込まれることを避けつつ、自国の国益を追求しようとしてきた。
アメリカの国益にとって、ISISを壊滅させることは極めて重要だ。オバマは、ISISをたたくことが結果としてイランを利することになってもやむを得ないと計算したらしい。ISISの拠点であるイラク北部のティクリートへの空爆は、そういう判断の下で行われた。
一方、イエメンの秩序回復もアメリカの国益にとって重要だ。そこでオバマは、シーア派武装勢力のホーシー派の拠点を空爆するサウジアラビアを補給面と情報面で支援している。
イランを封じ込めることより、ISISをたたくことを優先させるという判断に対しては、批判もある。中東地域を管轄する米中央軍の司令官を務め、オバマ政権下でCIA長官を務めたデービッド・ペトレアスは最近イランを封じ込めるほうが重要だと述べている。
この主張には賛成できない。イランよりISISのほうがはるかに残忍だし、ISISの勢力拡大を許せば、イランの台頭以上に中東を不安定化させる。
イランが勢力を拡大させても問題がないというのではない。だが現実の政治では、時に難しい選択をしなくてはならない。
第二次大戦時、アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領とイギリスのウィンストン・チャーチル首相は、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツを倒すために、共産主義者のヤシフ・スターリンと手を結んだ。ISISを倒すためにも、同じような同床異夢の連携が必要なのかもしれない。
それよりも問われるべきなのは、そのようなリアルポリティックを本当に実践できるのかだ。自国の国益に基づいてケースバイケースでスンニ派とシーア派のいずれかを支援し、どちらからも不信感を持たれない―そんなことは可能なのか。
中東からは手を引けない
13年夏、シリアの化学兵器使用をめぐり、オバマ政権はいったんシリア空爆の方針を決めたが、その後に撤回した。このとき、スンニ派のエジプトとサウジアラビアの指導者たちは激怒し、オバマに裏切られたと非難した。
オバマの対応がお粗末だったことは否定できない。シリア政府による化学兵器の使用を「レッドライン(越えてはならない一線)」と明言しておきながら、実際にその「一線」が越えられたときに武力行使を躊躇したのは賢明ではない。
とはいえ、この問題におけるオバマの最大の関心事は、あくまでもシリアに化学兵器を放棄させることだった。その点では、ロシアの働き掛けによりシリアが化学兵器を手放したことで、目的は達せられたことになる。オバマとしては、それで任務完了だったのである。
スンニ派の指導者たちは、アメリカとイランが核開発問題で協議を始めたことにも衝撃を受けた。アメリカが自分たちを見捨て、イランに接近しているように思えたからだ。もっともオバマにしてみれば、アメリカの国益に従い、戦争を起こさずにイランの核兵器開発を後退させるという目標を追求しているにすぎない。
そもそも中東の指導者たちの目には、オバマが中東から手を引こうとしていると映っている。アメリカにとっては、古い火種をいつまでも抱え続ける中東と関わるのではなく、経済成長著しいアジアに重心を移せればどんなにいいだろう。
現実には、たとえアメリカが強く望んでもそれは不可能だ。これまでも何らかの危機が起きるたびに、オバマは中東に引き戻されてきた。石油、イスラエル、国際テロ、東西の輸送・交通の要地などの面で、中東はアメリカの国益にとって無視できない地域なのだ。中東が大混乱に陥れば、アメリカにとって途方もない惨事になる。
中東から手を引けないとすれば、今後もこの地域に関わり続けつつ、スンニ派対シーア派の構図に絡め取られることを避け、自国の国益に沿ってその都度最善の行動を取るしかない。しかし、それができなければ……。
その場合、中東で紛争の暴発を抑え込もうとしてもいずれは破綻するだろうが、そうかと言って、一方に肩入れしてもアメリカにとって極めて悪い結果を招く。どっちにせよ、アメリカを待つ未来は明るくない。」
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