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※日経新聞連載記事:中国絡みになると“反発”や“憎悪”が先立つ論調が多々見られるが、この連載記事は偏りが少なく冷静に書かれていると思う。
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アジアのインフラ金融
(1)新興国主導で新銀行 米の影響力に陰り
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備が進む。インフラ需要の増大に応える狙い。米国が主導してきた戦後の国際金融体制は転機を迎えている。
国際金融は復興・開発を促す世界銀行と、通貨安定を担う国際通貨基金(IMF)が支えてきた。地域別にはアジア開発銀行(ADB)などが設けられ、米国など先進国が中心に運営してきた。
これに対し、AIIBに先立ち、中国、ロシアなどが昨年、BRICS開発銀行を設立。世銀、ADBに相当する新興国主導の新しい枠組みだ。英国やドイツなど一部先進国はAIIBにも加わり、国際金融の複線化を容認した格好だ。
中国は経済力をつけたが、従来の枠組みでは十分な発言権が与えられていなかった。世銀などの支援では民主化推進などの条件が付けられ、新興国からは内政干渉だとの批判も出ていた。
通貨体制にも響く可能性がある。AIIBは米ドル建てで資金を集めるが、中国共産党機関紙の人民日報は「長期的には人民元を投資通貨として選択することが可能だ。人民元が国際化すれば貿易決済通貨から外貨準備ニーズに応える次のステップに進める」としている。
米国のルー財務長官は「AIIBを含む新しい枠組みがこれまでの枠組みを補完し、汚職や環境破壊防止といった基準を守るなら歓迎する」と指摘。一方で米外交評議会のスチュワート・パトリック氏は「国際金融を支えてきた西側の連帯が綻びた。米主導の国際金融秩序にボディーブローになる」と強調している。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞4月20日朝刊P.21]
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(2)中国、基金でも攻勢 輸出拡大など狙う
中国は早くから、アジアをはじめとする新興国のインフラに目をつけてきた。
2009年に東南アジア諸国連合(ASEAN)向け、12年には東欧向けとアフリカ向けに信用供与枠を設定。25年までに政策銀行である中国輸出入銀行などがアフリカ向けに数千億ドルの支援をするとみられている。
ファンド形態での資金供与も積極化している。07年にアフリカ投資ファンド、09年にASEAN投資ファンドを設けた。
今回、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)と並行して400億ドルのシルクロード・インフラ基金を設け、輸送と発電インフラなどに投資する。中国の資金に加え、国外のファンドなどの参加を募る方向だ。
中国の狙いは周辺国との関係強化だ。習近平国家主席は「発展加速という各国の願望に順応し、中国経済とシルクロード沿線国の利益を結びつける」と強調している。
中国製品の輸出強化にもつなげる構え。中国は過剰生産が深刻で、周辺国への輸出拡大が課題。米ゴールドマン・サックスのティアン・ルー氏は「(AIIBなどで)中国の建設・エンジニアリング会社が年450億ドルの収入を増やせる」とみている。
3兆8千億ドルと世界最大規模の外貨準備活用の側面もある。ファンド投資などによる運用益の拡大が求められている。
かつて日本は自らが先頭に立ち、それをアジアが追随する雁行(がんこう)型発展を目指していた。いまは中国が先頭に立って、それにアジアが追随する新しい枠組みが形成されつつある。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞4月21日朝刊P.25]
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(3)1兆ドルが不足 都市化で需要拡大
アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設けられる背景には、アジア地域の膨大なインフラ需要がある。
国連によると、アジアでは2030年までに都市人口が6億5千万人増える。英HSBCのロナルド・マン氏は「必要となる道路、電力などインフラ投資需要は11兆5千億ドルに及ぶ。フィリピン、インドネシア、インドなどを中心に1兆ドルが不足する」と推定する。
国際的な開発金融機関は長期の低利融資で支援している。世界銀行のアジア向け融資残高は740億ドルを超える。アジア開発銀行(ADB)の融資残高は500億ドル。こうした機関の融資が民間投融資の呼び水になる可能性はあるが、不足額を埋めるには不十分だ。
これを補おうとするのがAIIBだ。朱光耀・財政部副部長は設立の目的について「インフラ発展と資金供給面に存在する大きな不足を解決することだ」と述べている。出資金は1千億ドルと、世銀の4割強に達する。低利融資だけでなく、リターンを求める融資も手掛けるとみられている。
国際経済界では、増大が見込まれるインフラ獲得競争が激しくなっている。今回欧州各国がAIIBに参加したのは関連ビジネスを確保しやすくなるとの思惑があったためだ。
かつて日本は新興国支援で日本企業の受注を求め、英国などから批判された。新興国の開発を真剣に考える国際機関ならば、使途をひも付きではなく、入札で公正な競争をした方が効果は高い。AIIBがどういう姿勢で新興国融資をするのか、その姿勢が問われる。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞4月22日朝刊P.35]
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(4)中国の支援に懸念も 投資銀の統治カギ
アジアインフラ投資銀行(AIIB)に慎重な見方がある背景には、中国の従来の新興国支援に対する批判がある。
世界銀行の融資は、貧困撲滅などあくまでも新興国援助だ。融資の見返りに原油を得ることは認めていない。
これに対し、中国は2004年に中国輸出入銀行がアンゴラに支援融資する見返りに、長期の原油輸入契約を結んだ。援助に似ているが、実質的には資源獲得ビジネスに近く、国際経済学会では「アンゴラ・モデル」と呼ばれている。
近年では、政府系金融機関の中国国家開発銀行が主導して、ベネズエラやスーダン向けに資源獲得を狙った融資を実施した。受け入れ国には中国が融資だけでなく、インフラ建設工事、労働者派遣までするため、開発が進むとの見方もある。
ただ受け入れ国が非民主的政権の場合、腐敗や独裁体制の温存につながるとの批判もある。
AIIBが世銀型の支援融資をする国際機関になるならば、アンゴラ・モデルとは一線を画するはずだ。武田真彦・一橋大教授は「世銀の代替機関ができるのは健全だ。ただ、開発融資をするのであれば機関の運営のガバナンス(統治)、借り入れ国側の腐敗防止など一定の規律が必要になる」と指摘する。
焦点になるのは融資の意思決定を透明化する理事会設置だ。中国は当初理事会をつくる方針を示していなかっただけに、資源獲得ビジネスへと傾斜する懸念がくすぶっている。形だけでなく、規律を確保できる常設の理事会設置が欠かせない。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞4月23日朝刊P.28]
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(5)民間融資でも中国伸長 官との連携生かす
アジアのインフラ金融の民間部門の担い手が激変している。アジア向け融資に占める欧州銀のシェアは2005年9月末に50%だったが、14年9月末には34%に低下。アジア向け協調融資市場では05年に上位10行中5行が欧州勢だったが、14年は2行にとどまる。
エディ・ユエ香港金融管理局副長官は「主な貸し手だった欧州の銀行がレバレッジ(過剰債務)解消の圧力にさらされ融資を圧縮した」と指摘する。
欧州の穴を埋めたのはアジアの銀行だ。台湾の銀行はこの5年間でアジア向け融資を5倍近く増やした。協調融資でも14年のトップは中国工商銀行で、以下はインドステイト銀行、中国銀行、中国国家開発銀行が続く。
アジアには大きな外貨準備と民間貯蓄がある。官民パートナーシップ(PPP)の枠組みなどを活用して、インフラ投資に結びつけるのが課題だ。アジアインフラ投資銀行はそうした面でも力を入れるとみられており、中国の銀行の存在感が高まる公算が大きい。
アジアでの拡大を受け中国勢が国際的な力をつけている。株式時価総額をみると、中国の四大銀行が世界の銀行上位10位に入っている。中国の5、6位銀行やインドのHDFC銀行も一部日本のメガバンクを上回る。
邦銀のアジア向け融資は05年の約5倍に膨らんだが、市場全体も拡大しており、日本のシェアは10.7%から11.7%に上がっただけだ。メガバンクは「アジア屈指の金融グループを目指す」と強調するが、競争環境は厳しくなる一方だ。
(経済解説部 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞4月24日朝刊P.30]
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