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AIIB参加でも、中国への警戒を怠らないロシア
早々に加入した中央アジアの国々へ複雑な思いも
2015.4.23(木) 杉浦 史和
「卑劣な殺人」、米大統領がネムツォフ氏射殺を非難
野党指導者ボリス・ネムツォフ氏の遺体が入れられた袋が置かれたロシア・モスクワ中心部のボリショイ・モスクボレツキー橋〔AFPBB News〕
日本が参加すべきかどうかで話題となっているアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、ロシアは3月30日に参加申請をして4月14日に加入し、創設メンバーの一員となった。
ウクライナ危機勃発の後のロシアと中国の「蜜月」関係から見ると、3月31日という締め切りを前にして3月30日というタイミングは納得のいく早さではなく、むしろ逡巡した挙げ句に渋々参加を決定したのではないかと考えられるものである。
そこで本稿では、このタイミングでの参加が決まったのはなぜか、背景を探ることにしよう。
周知の通り、ウクライナ危機の発生後、西側諸国と厳しく対立し外交的に窮地に陥っているロシアは、西側諸国とは距離を置く中国をいろいろな形で頼みとしている節がある。
典型的なのは、ロシア産のエネルギー資源を中国市場に安定的に供給することを確約し、それによりエネルギー資源の欧州部での販路が断たれても、ロシア経済が生き残っていけるようにしたことであろうか。
クリミアの独立を承認していない中国
供給の条件は中国に著しく有利なものとなったとも言われており、ロシアの中国頼みは明らかである。しかしながら、中国の側はウクライナ問題で、ロシアの立場に理解を示しこそすれ、これを積極的に支持すると言うことはこれまで一度もなかった。
さらに言えば、クリミアの独立、並びにロシアへの併合を公式に承認していない。ウクライナとの関係、さらにその後ろ盾となっている欧米との関係を意識しつつ、外交的な解決を促すといった形で中立の立場を堅持しているのが実態だ。
ロシア・中国関係はどちらかと言えば、ロシアの片思いという傾向が強いという印象だ。
一方、AIIBは中国が旧来の国際金融秩序に飽き足らず、自ら積極的なイニシアティブのもと、新興国を中心として設立を目指したものであり、英国やドイツ、フランス、イタリアといったG7の国々も参加を表明し、日米に衝撃を与えた。
米国がAIIBへの参加を思いとどまるよう、同盟国をはじめ近しい国々に働きかけていたことから、AIIBへの参加の是非は、激しくしのぎを削る米国と中国のどちらの陣営に与するのかを示す一種のバロメーターとなってしまった。
事実、我が国は米国の陣営であることを誇示するかのように、米国と足並みを揃え、そのガバナンスの不透明さの改善を求めている。
他方、英国のAIIB参加表明が、他の欧州諸国の参加表明の契機となったことから、中国と英国との間には何か特別な関係があったのではないかと考える向きもある。
とすれば、AIIBに参加した国々のうち、いつ参加を表明したかは、おそらく、これら参加国の中国との距離の近さを示すものと見なして差し支えない。
中国近隣国が第1陣で続々参加
例えば、2014年10月24日には、第1陣の創立メンバーが発表されている。ここには、シンガポール、ベトナム、マレーシアなど、中国の近隣の国々が参加表明をしている。BRICSで中国などと歩調を合わせているインドも、この第1陣のメンバーとなっている。
従ってロシアがこの時点で参加表明をしていても、特に不思議ではなかっただろう。ちなみに、BRICSの他の2国、ブラジルは3月28日申請、4月12日加入。一方南アフリカは、申請時期が不明で4月15日に加入している。
このように、参加表明の時期だけを見れば、3月30日という締め切り直前のタイミングは、ロシアが参加を巡って長く逡巡した挙げ句、中国を外交上の頼りにする以上、断ることもできなかったということを示しているのではないだろうか。
この背景には何があったのか。これに関しては3つの説が流布している。
1つ目は、現在のロシア政府は、経済制裁の影響もあって悪化する一方の国内経済政策をどのように運営するかにかかり切りであり、また野党指導者ボリス・ネムツォフ氏の暗殺、ウラジーミル・プーチン大統領の10日あまりの不在など、政治的にも緊張が高まっていた時期でもあり、AIIBに参加すべきかどうかという意思決定にはどうしても低い優先順位しか与えられず、決定が後回しになっていたとする説である。
権威主義的な政治体制において、トップに権限が集中すれば集中するほど、トップが不在で意思決定が滞るというのは、ロシアの現在の政治体制の大きなマイナス点と言えよう。さらに、ロシアの置かれている苦しい台所事情も反映されており、納得できる解説だ。
2つ目の説は、ロシアがAIIBをどのように取り扱えばいいか、はっきり理解できていないというものである。
中国は、ロシアの他、BRICSの合計5カ国で、新経済開発銀行の設立を行っている。これは5カ国の資金力を生かしながらインフラへの投資を行っていこうというものであり、AIIBと極めてよく似た目的を持っている。
勢力圏に確執抱えるロシアと中国
57カ国もの大所帯の1メンバーである場合よりも、5カ国の中で、着実な発言力を確保しておくことの方がロシアとしては望ましいはずである。ならば、AIIBにはお付き合いで入るが、ほどほどの付き合いとすると考えるのも、なるほど理解できる考え方であろう。
中国はこのほかにも、400億ドル規模でシルクロード基金なるものを創設しており、これだけの組織をいかに有機的かつ効果的に運営していくのか、中国自身も十分にビジョンがあるようには思えない。ロシアが慎重になるのも理解できよう。
3つ目の説は、ロシアは中国との間で勢力圏に関する確執を抱えており、勢力圏の線引きを求めていたとするものである。
AIIBの参加国はアジアを中心に57カ国にまで膨れあがったが、このうちロシアがその勢力圏と見なしている旧ソ連からも中央アジアの4カ国、グルジア、アゼルバイジャンが参加表明をした。
このうち、中央アジアの4カ国、キルギス、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタンは中国と国境を隣接している。このことは当然、AIIBの融資対象がこれらの国に及ぶことになり、ロシアとしては中国主導のこの機関がどの程度の脅威になるかを大いに警戒せざるを得ないわけだ。
中国は、現在、AIIB設立の背景として「一帯一路」構想を公表している。これはかつての「陸のシルクロード」、「海のシルクロード」を現代に再現しようとする試みであり、「陸のシルクロード」は旧ソ連の領域、とりわけ中央アジア諸国を通過する地帯である。
交通インフラの分野が中心だが、鉄路、自動車道路を考えており、既に一部では中国からヨーロッパへの直接の貨物輸送が始まっている。
このように、中国はその拡大しつつある経済力を十二分に生かしながら、旧ソ連地域を対象として影響力を拡大しつつあるのだ。もちろん、先述のシルクロード基金も同地域のインフラ建設に投入される見込みである。
温度差が明らかとなった中央アジアの国々
このような状況が、ロシアにとって望ましいとは当然ながら言えない。しかし国内的に経済が苦境にある中、中国のイニシアティブに対抗する措置をとるわけにもいかないのである。
このことから現在のロシア・中国関係の中にあって、中国にあからさまに対抗するわけにはいかないが、現状に対して間接的にであれ異議申し立てする必要を示した結果が3月30日というタイミングになったのではないか。
実のところ、AIIBに参加する中央アジアの4カ国のうち、カザフスタン、ウズベキスタンが第1陣の創立メンバーとして2014年10月に参加しており、タジキスタンが2015年1月13日、キルギスが2015年4月9日に加盟した。
このタイミングの違いは、米国と中国の間の距離ではなく、ロシアと中国の間の影響力の違いを一定程度反映している可能性があり興味深い。
なお、これら4カ国は、ロシア、中国と並んで上海協力機構の参加国でもある。
同機構は、中国と国境を接する旧ソ連の国々の集まりで、テロ対策など国境管理を出発点に安全保障面の協力強化を謳ってきたが、近年では、経済面での協力も課題としており、上海協力機構開発銀行、同発展基金の設立という構想もあるという。
これらの機関が屋上屋ではないがうまく機能するのか、中国の意欲のあまりの強さに驚くしかない。
このように見てくると、AIIB加盟騒動は、ことロシアに関してみると、ロシアと中国の間の微妙な関係が中央アジア諸国を舞台に繰り広げられていると見られる。ますます影響力を増す中国に、ロシアはどう対処していくのか。ロシアの悩みは尽きない。
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