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欧州移民危機の冷たい現実
地中海で相次ぐ難民船転覆、EUの対応に期待できない理由
2015.4.22(水) Financial Times
(2015年4月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
難民船転覆で9人死亡、3日間で5600人救助 イタリア沖
命がけで地中海を渡り、欧州へ向かう人が後を絶たない(写真は4月13日、イタリア沿岸警備隊がシチリア島沖で行った難民救助活動をとらえた映像からの一こま)〔AFPBB News〕
今年の初め、パリの週刊紙シャルリエブドに対するテロリストの襲撃で12人が殺害された時には、200万人を超える人々がフランスの街頭に繰り出し、追悼と抗議のデモ行進を行った。
先週末には、欧州に移住しようとした数百人の人々が地中海で溺れて亡くなったが、同様な心情の発露が見られることはなさそうだ。
しかし、この悲劇が大規模で、その数字の背後にある人々の事情も注目されていることから、欧州の政治家たちは、これまで無視したいと思っていたこの問題にいよいよ向き合わざるを得ないかもしれない。
欧州連合(EU)の外相たちは20日、ブリュッセルに集まって話し合い、緊急のEU首脳会議を開催せよというイタリアの要請に応じることを決めた。
人道的には許されない悲劇、いざ行動となると・・・
それでも、実際に行動を起こすのは難しいかもしれない。EU首脳には3つの選択肢があるが、いずれも魅力的ではなく、政治家はこれを自分の問題として受け止めるのに消極的になっているからだ。
このような悲劇にはとても耐えられない、何とか防がなければいけない――これが人として自然な反応だろう。従って第1の選択肢は、海上パトロールを強化して移住者をより多く救助するというものになる。
イタリアは昨年、EUからの圧力を受けて同国海軍による救助活動の縮小を決断したが、これが公海での死者数の増加につながっている。この方針を転換せよという圧力が今後生まれることは明らかだ。しかし、EUが方針転換の決断を下すかどうか、筆者は現時点においても確信を持てずにいる。
カトリック教会などは、弱者の保護は欧州の道義的義務であり、海を渡ろうとする人々はそれほど多くないのだから裕福な大陸なら簡単に受け入れられるという人道主義的な主張を展開している。
例えば、昨年海を渡った難民の数は約21万9000人で、対するEUの総人口は5億人だ。
EUの指導者層は以前から、海上パトロールを強化すれば、危険を冒してでも海を渡ろうとする人の増加につながるとの懸念を抱いている。
また、合法であれ非合法であれ移民が増えたことを背景に、反移民を志向するポピュリスト政党が欧州各地に台頭してきたことも認識している。
反移民志向のポピュリスト政党の台頭
例えば、伝統的にリベラルなスウェーデンは移民をとりわけ多く受け入れてきたが、そのことも手伝って、前回の総選挙ではネオナチのルーツを持つ反移民の政党――スウェーデン民主党――が13%近い票を獲得した。
フランス政界に激震、欧州議会選で極右政党が首位
反移民を掲げるフランス国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首〔AFPBB News〕
また昨年の欧州議会選挙では、反移民を主張する国民戦線(FN)がフランスの第1党になった。
英国は総選挙の真っ最中だが、反移民を掲げる英国独立党(UKIP)に現政権は戦々恐々としている。
ドイツでは今月、亡命申請者の収容施設が放火される事件があった。欧州では今、同様な問題やポピュリスト政党があちこちで姿を現しているのが実情だ。
これは欧州に限った話ではない。オーストラリアではトニー・アボット首相が、同国に渡ろうとする不法移民の「ボートを止める」と約束した。先週には、ほかのアフリカ諸国から南アフリカ共和国にやって来た数百万の不法移民の一部が襲撃され、死者も出たことから非難の声が上がっている。
また米国では、バラク・オバマ大統領を含む歴代の政権がメキシコとの国境の警備強化を約束せざるを得ない状況が続いている。
寛大な政策が取られた例もある。ヨルダン、レバノン、トルコの3カ国はいずれも、シリアからの戦争難民を何十万人も受け入れている。しかし、それらの国々から欧州への移住が許された人は、そのごく一部だ。
第2の選択肢は、欧州の内部で負担を分かち合うというものだ。
欧州では特に、命からがらシリアを脱出してきた人々に対する寛大さが国によって異なっている。
ドイツやスウェーデンが数万人を受け入れている一方で、英国は数百人だ(少なくとも、公式プログラムによる受け入れはこの水準にとどまっている)。
今後は恐らく、この分かち合いをさらに進めて難民がより公平に配分されるようにし、EUの28カ国がそれぞれ適正な割合の難民を受け入れるべきであるとの主張が出てくるだろう。しかし、そうした内容の合意がなされることさえ定かではない。
EU内での責任分担、「適正な割合」が読めない不確実性
まず、難民の数がどこまで増える可能性があるのか政治家には分からないため、「適正な割合」を受け入れるという合意が最終的に何を約束することになるのか知りようがない。
EU、難民問題で行動計画発表 23日に緊急首脳会議
4月20日、ギリシャ・ロードス島で、転覆した船に乗っていた難民の女性を救助する地元住民と救助隊員ら〔AFPBB News〕
また、EU域内の往来は自由であるため、仮に難民がブルガリアやポーランドに落ち着くとしても、彼らがその後バスに乗ってドイツやフランスに向かうことは防ぎようがない。
独自の出入国管理を行っている英国には、確実に入り込めるとは言えない。
だが、移住希望者がフランスの港に何万人も集まったことから、再び海を越える努力することになっても構わないという人は多いと考えられる。
リビアへの軍事介入の可能性と限界
第3の選択肢は、リビアに着目することだ。この国は、北大西洋条約機構(NATO)が支援したカダフィ体制打倒の後、統治が崩壊しており、人身売買を行う者にとってはうってつけの基地になっている。
イタリア政府はこの地に軍事介入する可能性を示唆している。恐らく、港を支配下に置いて人身売買のネットワークを遮断するのが狙いなのだろう。
だが、西側諸国が中東に介入した近年の歴史を受けて、各国政府はこの選択肢の検討に極端なほど消極的になっている。リビアは人身売買だけでなく、残酷なジハード(聖戦)戦士の基地にもなっているからだ。
もし西側の部隊が状況を安定させようとリビアに上陸すれば、遠からず殺害されたり人質に取られたりすることになるだろう。
また、リビアはこの問題の終点にすぎないとの認識もある。地中海を渡る難民のほとんどはもっと遠いところから、例えばエリトリア、ナイジェリア、スーダン、南アジア、さらには戦争で破壊されたシリアやイエメンなどからもやって来ている。
リビアのルートを塞げば、しばらくは成果が上がるかもしれないが、問題がよそに移るだけで終わってしまう恐れもあるのだ。
By Gideon Rachman
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43605
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