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〔ウクライナ西部リビウにあるレストラン「ビール劇場」に、ウラジーミル・プーチン露大統領が一糸まとわぬ姿でドミトリー・メドベージェフ首相を膝に抱いている絵柄をラベルにしたビールがお目見えした。ビールの銘柄名「Putin Huilo」はプーチン氏を罵倒するスローガンで、「Huilo」は「ばか、間抜け」という意味の罵倒語AFPBB News〕
今のロシアについて何かを書くとなると、政治であろうと経済であろうと、ウクライナ問題とそれが及ぼす影響に触れないわけにもいかない。ロシアを動かす諸要因の元締めにこれが居座り続けている。もう、かれこれ1年半もだ。そして、いくら書けども先が一向に見えない。
こうまで続いて先が読めないとなれば、皆が疲れてしまうのだろう。最近はウクライナ問題についてのメディアを通じた諸々のコメントも、どことなく静かになってしまった。
あれだけ喧しい議論のネタだった世界経済や原油価格、それにロシア経済の行方についても同様で、状況への慣れが手伝ってか、いつエアポケットに転じぬとも限らないぬるま湯のように頼りない楽観に皆が何となく、である。
それでもウクライナについては、前回のこのコラムから現在までの2か月半で、以下の動きが伝えられている。
●ウクライナ東部での紛争は、ミンスク-2と呼ばれる2月12日の停戦協定以降も、なかなか落ち着かない。派手な銃撃戦こそ報道されなくなってきたものの、ウクライナ政府も、東部の独立派も、思い出したように互いに相手の協定違反を非難し合う。
●ウクライナの憲法改正をはじめとして、協定で決められた約束事が実行されるかには、多くが疑いの目を向ける。その理由は、ロシアの軍事介入による協定違反や、ウクライナ政府が今以上に東部の自治を認める協定を順守したら政権がもたなくなるから、など論者により様々。
●協定を巡る動向に気を取られている間に、ウクライナの経済は悪化の度を深めるばかり。西側が支えるキエフの政府は、次第に東部以外の国民の不満にも晒されるようになってきている。何せインフレは年率で40%を超える勢い。
資金供与の胴元・IMF(国際通貨基金)は、その供与の条件に国内のガス価格引き上げほかを据えているから、泣く子と地頭には勝てずで、ハイパーインフレの瀬戸際での公共料金引き上げというかなりの無茶に走る。
●他方では、過去の借金のヘアカットや支払延期の交渉を諸外国の貸し手と纏(まと)めねばならない。多くのウクライナ外債を保有する米国の投資ファンドがそれに応じず、米国の裁判所が関与などしてきたら、アルゼンチンと同じ運命をたどりかねない。
●国内の問題は経済だけではない。最近になって、ウクライナ軍の参謀総長顧問にウクライナ民族主義派・「右派セクター」党首のドミトロ・ヤロシュが任命され、他方ではウクライナ政府側についていた財閥とペトロ・ポロシェンコ大統領との内部確執が起こるなど、長らく西側のメディアが伝えなかった右派や財閥の動きがここへ来て表沙汰になってきている。
ロシアに言わせれば、ウクライナは経済も政治もカオス状態にある。だから、なのだが、そのロシアへの西側の経済制裁が解除に向かう気配もまだない。
とは言え、ロシア経済が思ったほど簡単には崩壊しそうにもないことへの苛立ちは西側のメディアにも溜りつつあるから、標的は「世紀の悪役」・ヴラジミール・プーチン大統領に向かう。
クリミア併合1周年に合わせた国営TVのインタビューに答え、核兵器を使用できる準備も考えていたとかの台詞を吐き、西側から大いに顰蹙を買う。物怖じもせずに西側に刃向かってくる。何たる厚顔無恥、と西側はただただ呆れるばかり・・・。
西側で彼が蛇蝎(だかつ)のごとくに嫌われているのは、ロシアが強くなることを周辺国と米国が恐れているからなのだが、なぜ恐れるのかと言えば、それに現実味があるからだ。
そう思わせるのも、近来のロシアでは稀なほどプーチン大統領が有能な為政者だからで、そのことを欧米も内心では認めざるを得ない。
以前にも書いたが、有能な国家元首とは、その存在そのものが他国にとっての脅威なのだ。バラク・オバマ米大統領が個人的にプーチン氏を嫌っていると言われるのも、自分より有能な相手と渡り合うのが愉快ではないからなのかもしれない。
そして、プーチン大統領の動きは先が読めない。予見不能だから何をしでかすか他国は不安になる。その彼の行動を行き当りばったりと評する向きもいる。行き当りばったりで核戦争などに踏み込まれたら堪ったものではない。
だが、ロシア人一般が、相手の出方を見て自分の動きを決めることを基本にしていることが分かっていれば、これは何の不思議もないはずなのだ。
プーチン大統領やロシアが「悪」で、その「悪」が練りに練った攻撃計画の下で周辺国をなぎ倒して帝国の拡大を図っている――。
こうしたストーリーを作ってしまうと、ロシアのやっていることはそのストーリーからはみ出る矛盾だらけで、恐らく何が何だか分からなくなるだろう。
なぜなら、ロシア側の意図とは、概して西側の動きの反射鏡に過ぎないからだ。
プーチン大統領の動きは他国に理解できるものではない(他の惑星に住んでいる!)、と主張するなら、それが鏡の反射角の大小について言及した時にのみ正論となり得る。反射角がどうなっているかは、さすがに誰にでも簡単に分かるといった代物ではない。
ロシアの著名な評論家であるフョードル・ルキヤーノフ氏は、「ロシアは、今日、おそらくペレストロイカ以前のソ連以上に周囲の世界に対して警戒感を抱いている」と指摘する。核兵器も持つあれだけの大国が、何を警戒すると言うのか。それは誇大妄想、被害妄想の類に過ぎないのではないか。
しかし、ロシア・ロシア人がこうした警戒感なるものを抱いているという事実は否めない。そうでなければ80%を超えるプーチン大統領への支持率など説明がつかなくなる。
上述の核兵器使用云々の発言についても、すでに何人かのウォッチャーが報じているように、インタビューする側がプーチン大統領に「核兵器を使う準備をしていたか」と質問し、「その用意はあった」と返答。
さらに「クリミアに住むロシア人が危険な状態に置かれていることを無視はできない、と周りに伝えた」、「だが、それは最悪のシナリオになった場合の話だ」と続けている。
西側では、この発言は核による自分たちへの恫喝だと受け止められた。だが、恐らくこれは、こうした質問があらかじめ大統領の側から設定されていたであろうことも併せて考えれば、外に対してではなくロシア国民に対して向けられたものだった。
ロシア人――それが人種か、市民か、国民かを問わず、外敵からはどんな犠牲を払ってでも守る、という国家のリーダーの意思表示である。それだけ国民の間に西側への警戒心が高まっていたということでもあり、その安堵を図る必要性にプーチン大統領は迫られていた。
ロシア人のこうした警戒心の由来は、これまでにもこのコラムでその幾つかに触れてきたが、改めて彼らの説くところのソ連崩壊後の歴史の流れを見てみよう。
●1999年に無名の新人・プーチン氏が登場した時には、ロシアなどこの先どうなるか分からない国として扱われていた。有体に言えば、西側の視界には入っていない国だった。
●プーチン氏が2001年の9.11事件で真っ先に米国に連帯を示しても、多分当時の米政権は、小国の1つが擦り寄って来たとしか受け止めていなかった。
●それどころか、ロシアが弱体の間にユーラシア大陸での強国再興という将来の芽を摘んでしまえ、とばかりに、旧ソ連諸国でのカラー革命を先導し、「ロシア圏」の崩壊・解体へと歩を進めていった(9.11は他国が皆敵に見えるほど、米国の安全保障政策を神経過敏なものにしてしまった)。
●ところが、2003年のイラク問題に始まり、プーチン氏は米国の一極支配=強者の権利に抵抗するようになる。そして、原油の国際価格上昇とともに、ロシア復活の兆しが見え始めてきた。
●プーチン氏に比べれば、2008年に大統領職を継いだドミトリー・メドベージェフ氏はまだ御しやすいと見られた。しかし、その就任早々にロシアの拡大を恐れたグルジアのミハイル・サーカシビリ大統領が、拙い手の出し方をしてロシアにコテンパンにやられる。
●これでまず米国は面子を失ったが、続いて登場したオバマ大統領は「リセット」を唱える。その政策の中でロシアをうまく抑え込む道を探し出そうとしたのだろう。核兵器廃絶を宣言しながら、他方で核大国のロシアと最初から睨み合うわけにも行かない。
●だが、2012年にプーチン氏が再度大統領に復帰したことで、米国はロシアを危険な存在として捉え始める。逆に、その年の末から始まったロシアの大都市での市民による抗議行動は、プーチン氏から見ればカラー革命のロシア版焼き直しであり、米国が裏で操った結果との疑念が深まる(後のウクライナの騒動でこれは確信に変わる)。
●双方の間が冷え込んでいる中で、2013年にスノーデン事件やシリア問題が生じ、そしてその年の11月からのウクライナのマイダン騒動が始まる。それから後は、冷戦思考への一直線。
こうした解釈に加えて、ソ連末期にソ連共産党書記長だったミハイル・ゴルバチョフ氏が旧東西両ドイツの統一を認めるに際して、当時のジェイムズ・ベーカー米国務長官がNATO(北大西洋条約機構)の東進はあり得ないと彼に約束したにもかかわらず、その後その約束が反故にされたことも強調される。
それは今に至る西側に対するロシアの不信感の源流でもある。
米側関係者は、この約束には法的拘束力はなかったとして、米国の意思にかかわらずロシアの周辺国がそれを強く望んだから、と今では説明しているが、これはスカイツリーから飛び降りるに等しい気持で決断を行ったゴルバチョフ自身にとっても、大変な裏切りであることに変わりはない。
国際政治では裏切られた方が悪いということになりがちである。そのために彼はロシア国内で、バカをやった昔の元首、という目で見られてしまう。その彼は、悔悟の念を込めて自分の本意・意思を正確には継げなかった世界の次世代リーダーたちを批判するしかなくなる。
プーチン氏やロシア人一般の反射角を支えるこうした流れへの解釈を、今の米政権はどうにも理解できていない、あるいはあえてしようとはしていない、としか考えられない。
ロシアに対してのみならず、外交の相手国の状況や、その歴史・文化から引き出される行動形態への知見が大きく欠けてしまっていることは、中東問題を現在の状態にまでこじらせてしまったことを見ても分かる。
これに、オバマ大統領の外交への関心が薄いこと(だから、その下のネオコン一派がやりたい放題)が加わるから、米露関係は彼や彼のスタッフがホワイトハウスから引き上げる時までは、少なくとも改善しないと見るしかない。
他国を見る目が欠けてしまったのは、冷戦終結後の超大国・一極支配の気分の中で、米国がその節度を忘れてしまったことに大きな理由があるのだろう。
「民主主義、人権、法の支配」という理想が理想である限り、イスラムの法律観はさて措くとして、世界の多くでそれには誰も反対はしていない。
だが、それが自らの正当性を主張するためのスローガンに使われたり、他人に説教を垂れる際の優越意識を担保するために語られたり、であったなら、恐らく他の国や人々がそのやり方に疑問を感じ始める。
一極支配から多極化へ世界がこれから向かうのなら、その理由は米国の軍事・経済での圧倒的な存在が相対的に低下してきているということだけではない。民主主義という言葉によって自国が世界最良で特別な国と思い込んで自己規定するそのイデオロギーが、他国の嫌悪感の中で色褪せてきていることにも求められる。
やや極端に言ってしまえば、近代民主主義を声高に叫んでも、叫び方次第では「神(アッラー )は偉大なり」という信条とどこかに同根が見えてきてしまう。
それを鋭敏に感じ取っていたロシアでは、米国も、それに追随する欧州も、もはや話し合える相手ではないとの諦めが根づきつつある(その諦めが、冷戦時代に西側が共産主義国家に対して持ったそれと同じものであることには、まだロシアも気づいていないようなのだが)。
ロシアだけではない。他国もウンザリしてきている。最近大いに話題になっている中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立で、米日を除く主要国が雪崩を打って参加に走ったことが、その表れの一つかもしれない。
しかも、米国の最も強固な同盟国のはずであった英国がその雪崩の引き金を引いたのだから、何とも皮肉としか言いようがない。ウクライナへの武器供与には賛成する英国でも、AIIBではそれなりの算盤勘定があったのだろう。そのことを米国は理解していなかった。
そして、この英国の動きが他の欧州各国の米国に対する見方に影響を与えたことは間違いない。同盟国ですら抑え切れていない。「欧州の米国に対する独立宣言の時期が来た」などとの評まで出てくる始末である。
ちなみに、ロシアはこのAIIBへの参加への返事をすぐには出さなかったようだ。それはこれから拡大して行かねばならないユーラシア同盟との整合性をどう確保するかで、水面下で中国と交渉を行っていたからだろう。
その結果が、7月8〜9日にロシアのウファで開催されるBRICS首脳会談と上海機構首脳会談ということのようだ。ここにはベラルーシ以外のユーラシア同盟参加国も上海機構のメンバーとして顔を揃えることになる。
これらの組織で従来検討されてきた経済・金融での協力構想とAIIBとをどううまく繋ぎ合せるか、その中にあってロシアが自国の地位をどう確保して行くのか、がロシアの関心事になる。そして、それは欧州と手を切るという可能性すらも視野に入れた東進策へのプーチンの決断とも、整合性を保って行かねばならない。
対欧ガス輸出でのサウス・ストリーム計画に絡むプーチン大統領の決定については前回触れたが、それはもう欧州にどう嫌われようと、どう対立しようと構わない、という姿勢でもあり、欧米の批評家があれこれ忖度している範囲をはるかに超えて、ピョートル大帝以来のロシアのベクトルが大転換を迎えているのかのようだ。
ロシアが欧州一家への夢を捨て、東進政策に本気で向かい出したのは、ロシアが欧米に愛想を尽かしてしまったから、とも言える。米露であろうと、露欧であろうと、一方が他方をアホ(loopy)だとみなして匙を投げてしまったなら、相互間にもう信頼関係は生まれようがない。
ロシアの東進が進むかどうかは、国内での反対の度合いや中国のこれからに左右される。AIIBとて、もし世界から50カ国近くも参加することになれば、金融版中華冊封体制を目指した中国にとって大きな誤算にもなりかねない。先進国が大挙しての参加は、トロイの木馬にもなり得るからだ。
大体、中国自身がこれほど参加国が増えるとは予想していなかっただろう。中国は米国ほかの先進国に対して、市場経済と経済援助という根本では矛盾する2つの概念の狭間を衝いてきた。理念で見れば、この切り込み方は今の先進国側を慌てさせるに十分なものである。
だが、その理念とは裏腹に、設立の動機が多くの論者が指摘するように、大中華圏構築の夢や国内の余剰生産力の捌け口を求めて、であるなら、先進国からの参加目的は、それを見透かした上でしょせんは「オレたちにもビジネスの分け前を寄越せ、カネはお前が出せ」である。
その参加者数が増えてしまえば、米国に対する現時点での勝利感は得られても、資金分担とAIIBの経営ノウハウ(特に、貸した資金の回収をどう円滑に行うか)を彼らから頂いて後は終わり、の筋書きで済ませるわけにもいかなくなる。
米国にはまだこうした事態の推移を見る時間の余裕が残されている。中国への切り札は、自国も参加に手を挙げることだからだ。そうなると、対中牽制を念頭に置いて、米露の信頼関係の回復に向けて米国側から一歩を踏み出す契機は、この一件であまり期待もできまい。
とは言え、米国もキューバに対してのごとく、これから半世紀以上もロシアと仲違いというわけにもいかないだろう。ならば、米国が次期政権の下で多少の時間がかかっても、自国の歴史を振り返ってみることだ。そうすれば、ロシアの主張点への理解も多少は進むのではないか。
外国人恐怖症はロシアの専売特許ではない。建国以来、米国も対外警戒感の中で国力増大を実現してきた国なのだ。
それが喚起されると、9.11以降のように他国への先制攻撃も辞さないと言い出すほどだ。だから、他国から襲われずにすむという思いを求めるし、外敵に対して国民を纏めるために、信仰と紙一重の思想も必要とする。
であるなら、それは今のロシアそのものでもある。その点に理解が回り、相手が異質でも何でもなく、実は自分と大して変わらない存在だと分かれば、多少でも余裕を持った忠告もできるようになるだろう。
例えば、米国がロシアに対して持っているこれまでの見方は、侮蔑や軽視ではなくむしろ失望だった、という具合に。
最初からロシアをバカになどしてはいない。だが、ソ連崩壊後の1990年代に生じた社会・経済変革の過程で、ロシアはあまりにだらしのないところを外へ見せつけてしまった。
ゴルバチョフの改革以来のロシアへの期待が(それがロシアへの無知に依拠していたと今では批判されようと)、裏切られたという失望感を米国が味わったことは間違いない。
ウクライナ問題では、クリミアやウクライナ東部への限りなくクロに近い軍事介入を議論する前に、これまでロシアがウクライナを甘やかし過ぎてきた・・・ロシア人の、よく言えば相互扶助の精神、だが実際にはなァなァベースと変わらないつき合い方が、結果的に凶と出てしまった ・・・という点で責任の一端がロシアにもある、と指摘できるだろう。
こうした切り口での批判から始めるならば、ロシアも耳を傾けてくる可能性がある。ロシア人も自己観察の面で、自分とロシアがすべて正しいなどとは思っていないようだから・・・。
ルキヤーノフは言う、「ロシア社会に欠けているのは、歩んできた道の気休め的な糊塗とも、そのマゾヒズム的な唾棄とも一切無縁な内省なのだ」。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43543