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※ 関連参照投稿
「アメリカは中国に追い越されたか:AIIB参加問題」
http://www.asyura2.com/15/senkyo183/msg/250.html
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『ニューズウィーク日本版』2015−4・14
P.28〜30
「アメリカを裏切る欧州の代償
ヨーロッパ:経済的な動機から土壇場でAIIB参加を決める国が続出
だが欧州諸国が中国の戦術にはまつた可能性も
ミンシン・ベイ(クレアモント・マッケンナ大学教授)
アジアにおけるインフラ事業への投資に特化した新たな開発銀行を設立する。中国政府が13年にそう宣言したとき、西側諸国のほとんどは相手にしなかった。しかし、この壮大な構想に潜む中国の長期戦略に(ある程度まで)気付いていた国が1つだけある。アメリカだ。
一党独裁の中国政府は国民に対して責任を負わないから、その戦略目標を追求するためなら莫大な(民主主義の下では許されないほどの)金融リスクも引き受け、その損失をもみ消してしまえる。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の場合も、中国の真の狙いは経済的な利益よりも地政学的な利益にあるのではないか。アメリカ政府はそう懸念している。
しかも中国はAIIBを通じ、魅力的な融資条件を提示して近隣諸国を自国の経済圏に取り込み、彼らがアメリカよりも中国と密接な利害関係を築くように仕向けているのではないか―。そう判断したアメリカはヨーロッパやアジアの同盟諸国に対し、AIIBに参加しないよう水面下で圧力をかけた。しかし徒労に終わった。
ここ数週間で、イギリスやドイツ、フランス、オーストラリア、韓国など、アメリカの同盟国多数が参加を表明した。これは中国外交が珍しく勝利し、アメリカが手痛い敗北を喫したことを意味する。
アメリカの同盟国が雪崩を打って参加を決めた理由は2つ考えられる。
最も明らかな理由は経済的利益だ。創設メンバー入りの期限ぎりぎりに駆け込んだオーストラリアと韓国には、たぶん選択の余地がなかった。両国にとって中国は最大の輸出相手国。中国政府のメンツをつぶすのと、アメリカ政府を怒らせることをてんびんに掛け、後者のほうがマシと判断したのだろう。
対中貿易よりも欧州域内での貿易の割合が大きいヨーロッパの国々の場合は、これとは少し異なる計算が働いている。経済が停滞中で、景気回復のきっかけをつかみたいヨーロッパは、アメリカの懸念をよそに、AIIBで夢を見ようと考えたのだ。
外交的懸念より経済的利益
経済的な動機をうわべだけ見て、ヨーロッパ諸国が抱く期待を(甘いとはいえ)間違っていると非難することは難しい。AIIBは資本金500億ドルでスタートし、その後も巨額の資金を呼び込むことになるだろう。数十億ドル覿模の工事契約が舞い込むかもしれない。景気を浮揚させたいヨーロッパには、これだけでも魅力的だ。
もしアメリカの警告に耳を貸して参加を見送り、中国政府を怒らせたら、今後活況が期待されるアジア市場でのインフラ事業から締め出されるというしっぺ返しを食らうのではないかと、イギリスやドイツ、フランスの指導者が心配したのも当然だろう。アメリカとの良好な関係は大事だが、商機を逃さないことはそれ以上に重要だ。
アメリカの同盟国の中で最初にAIIBに走ったイギリスの場合、経済的利益が外交的懸念に勝ったのは明らかだ。英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、英外務省はAIIBに対する中国の意図や影響力を心配して参加に反対したという。しかし、参加に前向きなジョージ・オズボーン財務相が政治力を駆使して、デービッド・キャメロン首相を説き伏せたらしい。
ヨーロッパにおけるアメリカの同盟諸国がAIIB参加に踏み切った背景には、もう1つ、より懸念材料になりそうな理由がある。
それは彼らが、中国の台頭によって生じる地政学的な結果や、それがアメリカ主導の国際秩序に与える影響をよく理解していないという事実だ。
ヨーロッパはアジアから遠く離れているため、中国の経済的な台頭が安全保障に及ぼす影響をアジアの国々ほど強く感じていない。中国がいくら最新兵器を購入しようが、海洋権益を強く主張しようが痛くもかゆくもない。
中国が、恐らくAIIBの資金を投じて各国の港湾や道路、鉄道などの輸送インフラ網を整備し、アジアとヨーロッパを結ぶことに成功した場合、その先に何が待っているかを理解する指導者は、今のヨーロッパにはいない。
「一帯一路」と名付けられたこの構想が実現した暁には、中国はグローバル経済の新たな中心地になるだろう。輸送コストが低下すれば、ヨーロッパ経済の中国依存度が増すだけでなく、中国製品の国際襲争力も高まり、衰退するヨーロッパの製造部門から雇用が今以上に逃げていく恐れもある。
ヨーロッパは域内貿易と短期的な利益にこだわり、中国に対する姿勢がばらばらだ。政策を共有しようとせず、各国が契約にこぎ着けようと、われ先に中国に擦り寄っている。立場が不一致であるために、中国の戦術に対抗できない。ヨーロッパを分断し、自国の意向に沿わせようとする中国の外交姿勢は、このところ際立っている。
いい例が、チベットの精神的指導者でノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ14世を孤立させたことだ。10年前のダライ・ラマはヨーロッパを頻繁に訪れ、歓迎されていた。しかし今では、彼を招待しょうとする国はない。
なぜか? 過去10年間、中国が巧みな戦術でヨーロッパ各国の「欲」に火を付け、競争心をあおったからだ。チベット問題で盾突けば嫌がらせをし、従えばご褒美を与える―中国はこの方法によって、ヨーロッパの国々に人権よりも経済的利益を優先させるという目標を達成した。
参加の代償も見返りも大きい
AIIBにヨーロッパ各国が続々と参加したのも、この力学によるものだった。それどころか、中国の戦略が間違っていないことを証明した。欲をかき立てることが、資本主義民主国家に対する最高の武器になることを。
「何でもありの資本主義」にたけた中国の指導層は、資本主義の基本である「競争原理」が民主主義を傷つけるのを承知している。主義を捨てても競争に勝ちたくなるからだ。
市場原理によって資本主義民主国家が競い合う限り、中国など第三国からの特別な便宜を利用することで他国の先を行ける。たとえ厳しい代償(アメリカとの関係を損なうとか、人権軽視を非難されるなど)を伴うとしても、中国と手を組んだ結果の利益は十分に割が合う。
もちろん「欲」を外交の武器に利用するのには限界がある。相手が中国の軍事的脅威を強く感じている国ならば話は違う。恐怖は欲に勝る。日本やアメリカと、ヨーロッパ各国との違いは、ここからくる。
AIIBは日本経済にとって魅力的だろうが、国家安全保障の脅威である中国には最大の警戒が必要だ。AIIBに参加したなら、日本企業には有利な契約を勝ち取るチャンスが生まれる。しかしその代償は、最大の同盟国アメリカの信頼を失うこと。そんな事態は、とてもカネに換えられない。
同様にアメリカ政府も、資金力にものをいわせた中国の外交攻勢の戦略的帰結を危惧し、AIIB参加がもたらす短期的・商業的利益に背を向けた。アジアにおける平和と安全保障の保証人を自任するアメリカは、増大する中国の軍事力からアジア諸国を守る最前線に立つ。AIIBに参加したら、アメリカを頼りとする国々に誤ったシグナルを送ることになる。
アメリカがAIIBに参加すれば、安全保障の約束よりも利益追求を重視していると受け取られたはずだ。しかしアメリカは、少なくとも今回は、経済的利益と安全保障のどちらを選ぶべきかを正しく理解していた。
中国の不遜だが巧みな新しい金満外交は、今後何年も西側諸国を悩ませるだろう。もちろん、そんな外交戦略は失敗するに決まっている、そんなにうまい話じゃないと高をくくることもできるだろう。しかし、そんなものは期待であって、政策ではない。
西側の資本主義民主主義陣営は、自分たちの経済を中国よりも魅力的にする機会をつくり出さねばならない。それこそが最良の道だ。」
- 中国にふさわしい役割を与える時:ハビエル・ソラナ(元EU上級代表) あっしら 2015/4/15 05:08:27
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