05. 2015年4月02日 01:06:35
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いずれにせよ、あまり過剰に反応すべきではないなhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150331/279419/?ST=print 「LCCだから危ない」は本当か 2014年の航空事故は史上最も少なかった 2015年4月1日(水) 吉川 忠行 ジャーマンウイングスは、欧州の人々にとっては欠かせないLCCの一つ(撮影:吉川忠行、ほかも同じ) ルフトハンザ ドイツ航空系のLCC(格安航空会社)、ジャーマンウイングスのエアバスA320型機が、現地時間3月24日に墜落した。捜査当局は副操縦士が故意に墜落させたとの見方を示しており、人的要因で起きた事故となった。
乗客144人と副操縦士を含む乗員6人の命を奪った今回の事故で、世論はLCCや飛行機そのものの安全性に疑問を持ったはずだ。確かにこのところ、航空業界では大きな事故が相次いでいる。 2014年3月には、マレーシア航空のクアラルンプール発北京行きMH370便が、乗客乗員239人を乗せたまま消息を絶った。さらに同年7月には、同じくマレーシア航空のアムステルダム発クアラルンプール行きMH17便がウクライナ上空で撃墜され、乗員乗客298人全員が亡くなった。 年末の12月28日には、エアアジア・インドネシアのスラバヤ発シンガポール行きQZ8501便が墜落し、乗員乗客162人が死亡した。そして年が明けた2月には、台湾でトランスアジア航空(復興航空)の小型機が台北の松山空港を離陸直後、周辺に墜落して31人が亡くなった。 3月に入ると、国連の専門機関であるICAO(国際民間航空機関)は、タイ航空当局に対して、安全審査体制が基準を満たしておらず「重大な安全上の懸念(SSC)」があるとして改善を求めていることが発覚した。 タイ当局がSSCを指摘されたことで、タイの航空会社は、日本をはじめとするICAO加盟国への新規就航や増便などのスケジュール変更、機材変更などができなくなる。SSCの指摘を受ける前に認可された変更などは対象外なので、現在就航している便については、今後も問題なく運航を継続できる。 これを受けて、タイのLCCのノックスクート・エアラインは、3月末までに予定していた成田〜バンコク(ドンムアン)線の定期便就航を延期した。今後、日本路線を拡大するタイのタイ・エアアジアXも、5月1日から運航する札幌〜バンコク線の1日1往復の路線開設は認められたが、7月以降の運航は未定だという。 タイでは、4月13日〜15日が旧正月「ソンクラーン(水掛祭り)」に当たる。旅行需要が伸びる時期を前に、タイの中所得者層などの利用が期待できるLCCが日本に就航できなくなることで、盛り上がりつつあるタイ人の訪日需要にも深刻な影響が出るはずだ。 今年は日本航空123便墜落事故から30年の節目を迎える。改めてこのタイミングで、「飛行機は果たして安全なのか」というテーマについて考えたい。 2014年は、航空機史上最も事故が少なった 冒頭に書いたように、ここ最近、目立つ航空機事故が相次いでいる。だが「最近航空機事故が多い」という認識自体、果たして正しいのだろうか。 全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)をはじめ、世界各国の航空会社が加盟するIATA(国際航空運送協会)がまとめた数字を調べてみた。すると、2014年の1年間に起きたジェット旅客機の事故率は、史上最も低いことが分かった。 100万便当たりの事故率を調べると、2014年の事故率は、440万便中の1便に当たる0.23。これに対して、2009年から2013年までの過去5年間の平均事故率は0.58。2014年よりも前の5年間と比べると半分以下である。 また2014年、IATAが「致命的な事故」と認定した航空事故は12件。これも2012年の15件、2013年の16件、2009年から2013年までの過去5年間の平均19件と比べると下回っている。 ただし、別の数字を調べると、また見方が変わってくる。 2014年の航空事故による死者は641人(撃墜されたMH17便の298人除く)。これは、2013年の210人や、2009年〜2013年までの平均である517人と比べると上回っている。MH370便事故のように大型機の死亡事故が起きたことで、事故件数そのものは少なくなっているが、犠牲者は増えたのだ。 もちろん、IATAの数字だけをもってして、飛行機の安全性を裏付けることはできない。だが事故率が減っていることは明らかだ。それも、2014年に起きた大きな事故の多くは人為的なもので、機体の構造に起因するものではない。つまり近年は、機体の安全性よりも、パイロットや整備士が置かれた状況に依存する事故が増えているということだ。 今回のジャーマンウイングスの事故では、機長がコックピットから離席している間に、一人になった副操縦士が故意に墜落させたと言われている。こちらも機体の問題ではなく、人為的な事故と言えるだろう。 コックピットに常時2人いれば安全なのか A320のシミュレーターの様子。通常はコックピットに2人座る 2001年9月11日に起きた米国同時多発テロを契機に、FAA(米国連邦航空局)は最低2人の乗員がコックピット内に常駐することを定めている。
最低1人のパイロットに加えて、パイロットか客室乗務員が、もう1人コックピットにいなければならないとしたのだ。この頃、FAAは機体メーカーに対しても新たな規定を定めている。それがコックピットのドアの構造を強化するというものだ。運用面でも対策を取るほか、物理的に外部からテロリストなどが侵入しにくいドアに改修したのだ。 日本や欧州では、航空会社が自主的に規定するケースを除くと、コックピットに常駐するのは、パイロット1人で問題ないとしている。 国土交通省の運航規程審査要領では、最低1人のパイロットがコックピットに残り、酸素マスクを装着することなどを定めている。ANAやJALなど、日本の航空各社はこれに基づいてオペレーションマニュアルを作成し、航空局の承認を得て運航している。 日本の航空会社でコックピットに2人残るよう規定を定めている会社もある。スカイマークの場合、パイロットが1人離席する場合は、客室乗務員がコックピットに入って2人体制を維持している。 今回の事故を契機に、海外の航空会社では、これまでの規定を見直す動きが出ている。ジャーマンウイングスの親会社であるルフトハンザ ドイツ航空は、コックピットの常駐人数を2人に増やすなど、運用方針を見直すという。ドイツ連邦航空局などと協議して、早期導入を目指している。 こうした安全対策の強化については、時代や環境の変化に柔軟に対応していくべきだろう。だがコックピットに常駐する乗員が増えたからと言って、それが100%の安全性を担保するものではないということも、忘れてはならない。 今回の事故については、確かにコックピットにもう一人パイロットか客室乗務員がいれば防げた可能性は高いだろう。 けれどもこの先、今までコックピットに入ることのなかった客室乗務員が常駐するとどうなるのか。一見すれば安全性は強化されたように見えるかもしれない。だが、その客室乗務員がテロリストであるという可能性も生じるはずだ。コックピットに入る人数が増えるほど、リスクが増すという考え方もあるだろう。 可能性を探ればきりがない。今回の事件を受けて、むやみにコックピットの人数を増やすだけでは別の新たな問題を招く可能性がある。 人数を増やすなら、これまでとは違った角度から検証したうえで、新たな運用を実現しなくてはならないだろう。 「LCCだから危ない」のウソ 今回のような事件が起こると、メディアは時に、情報の伝え方を誤ってしまう。例えばある航空評論家は今回、墜落原因が明らかにならない段階で、「LCCだから落ちた」と断言した。 今回のような事故が起きると、日本では大手航空会社OBなどの評論家が、事故原因を解説することが多い。もちろん大半の評論家はまっとうな指摘をし、仮にメディアが用意した仮説があったとしても、それとは十分に距離を取った専門家らしい分析をする。 だがこの評論家は、科学的な根拠もなく「LCCだから落ちた」と言い切った。果たして今回の事件は「LCCだから」発生したのか。 確かにLCCは、通常の運航でも遅延などが生じる。フルサービス航空会社と比べると使い勝手に劣ることは否定できない。 だがそれは、フルサービス航空会社が遅延発生に備えて予備機を置くなどして、コストのかかる対策を取っているからだ。 対してLCCは保有する機材をフル稼働させる。当然、どこかで遅延が発生すれば、玉突きで次々と遅れが出てしまう。フルサービス航空会社とLCCの間に運航品質の差があることは確かだろう。だが、それをもってして「LCCは安全ではない」ということはできないはずだ。 LCCとは「ローコストな航空会社」であり、安全をないがしろにしている航空会社というわけではない。それにも関わらず、先の評論家は「LCCだから落ちた」と語った。だが「LCCは安全をないがしろにしてコストを削減している」と考えるのは間違いだ。 冒頭で紹介したICAOによるタイ航空当局への安全懸念も、メディアによっては、「LCCだから安全性に疑義が生じた」と報じていたりする。フルサービス航空会社のタイ国際航空なども対象なのに、である。 タイ航空当局の問題はLCCかフルサービス航空会社かという議論以前に、タイ航空当局の安全審査体制そのものにICAOが疑念を持ったというのが真相だ。ICAOが公にしていないこともあり、タイ当局は事態の収拾に躍起になっている。 今回の事件に限らず、先入観を持たずに事実関係をしっかり精査していくこと。「飛行機だから危ない」「LCCだから危ない」という短絡的な議論は終わりにし、建設的な安全策を模索すべき時に来ている。 このコラムについて 吉川忠行の天空万華鏡 誰もが憧れる「空の旅」。「吉川忠行の天空万華鏡」では、航空ジャーナリストの吉川忠行が、「空」の裏側を様々な形でリポートする。国内大手2社(全日本空輸・ANAや日本航空・JAL)からLCC(格安航空会社)、海外航空会社の動きを取材。安倍政権の経済政策「アベノミクス」では、その一環として、2013年の訪日外国人観光客を過去最高の1000万人まで増やすと掲げている。彼らを運んでくるのは航空会社にほかならない。あまたの規制が残る日本の航空産業がその壁を打ち破って、一層の飛躍を遂げられるのか。コラム内では、乗客の視点から、快適なシート、機内サービス、ラウンジの活用方法も紹介。「空」で活躍する女性たちの姿にも迫る。
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