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にんじん色の瓦屋根、その先でマリンブルーのクレーン群が曇天を突く。南仏トゥーロンは、フランス海軍の顔シャルル・ドゴールの母港である。この原子力空母はいま、ペルシャ湾から「イスラム国」に対応している。
近くで開かれた右翼政党、国民戦線(FN)の集会をのぞいた。きょう決選投票を迎える県議選の運動だ。スローガンは「マリンブルーの希望」。党のシンボル色と、ルペン党首(46)の名マリーヌをかけたという。
その人と、パリからの飛行機に乗り合わせた。AFP通信などの記者が同行し、空港では警官3人が出迎えた。主要メディアが「ルペン番」を置くほど、彼女の言動は注目されている。
「与党の社会党に感謝します。彼らに批判されるほど票が増える」「投票で政府を罰しましょう」。左右の大政党や欧州連合(EU)をあざけり、移民や異教に険しい言葉を投げる。フランスの資産が中国、カタールの資本に買われる現実を嘆くのも忘れない。
こちらの女性では珍しく、指輪をしていない。そもそも女で売る気はないらしい。それでも、創設者の父親とは違うソフト路線で党勢を拡大した。
海軍基地で働くパトリックさん(56)。サルコジ前大統領の中道右派に投票してきたが、前回の大統領選でFN支持に転じた。「我々の価値観を守れる唯一の党。目が覚めました」。看護師のフロランさん(26)は去年の統一地方選から運動員。その選挙でFNの市長を誕生させた。「街の治安が心配で応援を決めました。市の借金も順調に減っている」と誇らしげだ。
集会の終わり、ルペン氏は自ら国歌斉唱の音頭をとり、こう叫んだ。
「愛国の一票、お願いね!」
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取材後の22日にあった初回投票で、FNは全国規模の選挙では最高の25%を得た。中道右派(30%)には及ばないが、21%台の社会党を上回る。トゥーロンを中心としたバール県では実に4割を占めて首位だった。
大統領選でのFNの得票率をおさらいしておこう。まず2002年、ルペン氏の父が17%を得て現職シラク氏との決選に進んだ。07年こそ10%に落ちたが、三女のルペン氏を立てた12年は18%に回復している。14年の欧州議会選では25%に迫り、国内最多の議席を獲得した。彼らがことあるごとに「第1党」を自慢する根拠である。
今回も4人に1人が、しばしば極右と分類されるFNを支持し、風が衰えていないことを裏づけた。この国の政治はどうやら、左右の大政党とFNの3党時代に入ったようだ。メディアは「フランス3分割」と報じた。
三つどもえの下で、ルペン氏は17年の大統領選を見すえる。いまの人気が続けば、上位2人の決選投票には進むだろう。相手が中道右派なら、02年のように左派が「鼻をつまんで」加勢するため苦しいが、社会党との勝負になれば「まさか」もゼロではない。
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フランスの政界が三つに割れ、最も勢いのある党が「反EU」だなんて、ひと昔前には考えられなかった。左右の大政党の間をスイングしてきた世論は何度も裏切られ、疲れ果てた。その耳目に、欧州よりフランスを大切にせよという愛国の主張は心地よい。
FNは言う。EUは国境を消して移民を呼び込み、田園や職人をグローバルの寒風にさらし、古き良き伝統を壊す。おめおめと従う大政党も悪いと。生活苦や社会不安を、移民、EUといった外部のせいにする論法である。
さまよう失望と不満を拾い集め、FNは一つの潮流になった。この国の知識層が、極右のバナリザシオン(大衆化、日常化)と警戒する現象だ。
政治文化が成熟した「大人の国」にしてこれである。失望と不満があふれるこの世界、弁舌巧みなカリスマ政治家が現れれば、どこでも起きうる話だろう。数年ごとに巡る投票機会は心して迎えたい。深く考えさせないポピュリズムは、走り出したら速い。
3月29日 朝日新聞朝刊より
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